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インプラント治療は重度歯周病でも可能?症例や注意点などを解説

インプラント治療は重度歯周病でも可能?症例や注意点などを解説

歯を失った場合の治療法としてインプラントがあります。しかし、重度の歯周病で歯を失った方にとって、「自分でもインプラント治療ができるのか」という疑問は大きな悩みの一つではないでしょうか。

歯周病によって骨の状態が悪化している場合、通常のインプラント治療が難しいとされるケースもありますが、近年の医療技術の進歩によりさまざまな対応が可能になっています。

この記事では、重度歯周病の方がインプラント治療を受けられる可能性や具体的な症例、さらに治療を成功させるための注意点について詳しく解説していきます。

インプラント治療は重度歯周病でも可能?

口元に手を当てる女性

重度歯周病の方でも、可能な限り歯周病菌を減らすことでインプラント治療が受けられる場合もあります。歯周病菌が残ったままインプラント治療を行うと、インプラント周囲炎のリスクが高くなります。

そのため、適切な歯周病治療がされていない場合は、インプラント治療は推奨されていません。歯周病治療を行っていてもプラークコントロールの状態によっては変化することもあるため、定期的にインプラント周囲の歯肉、骨の状態の検査が必要です。

歯周病患者さんの場合、残存している骨の量や軟組織量が不足していることがあり、使用できるインプラントの大きさや長さが限定されることも少なくありません。このため、歯周病患者さんのインプラント治療は難しいといわれています。

重度歯周病とはどのようなものか

口元をおさえる高齢者女性と家族

重度の歯周病には以下の特徴があります。

  • 歯周ポケットが6ミリ以上になる
  • 歯茎が腫れて血・膿が出る
  • 歯がぐらぐらし食事に支障が出る
  • 口臭が強い
  • 全身の健康状態に悪影響のリスクがある

歯を支える顎の骨が溶けて歯がぐらぐらしてきて最悪の場合、歯が抜け落ちる可能性があります。

ぐらぐらした歯ではしっかりと噛むことができず、食事が困難です。

口臭も強くなり、コミュニケーションの際に相手に不快な思いをさせてしまう可能性があります。

重度の歯周病は全身の健康状態に影響を与える可能性もあると近年の研究で示唆されています。特に糖尿病と歯周病の関係に関するエビデンスは高いです。

ほかの病気にかかりやすくなる、合併症が悪化するなどのデメリットもあります。

重度の歯周病は日常生活に大きな支障をきたす可能性があるため、インプラント治療よりも早急に治療すべきでしょう。

歯周ポケットが6ミリ以上

歯

歯周ポケットは3ミリ以下が正常とされ、6ミリ以上となると出血や腫れなどの症状が出てきます。さらに深くまで進行している場合、歯槽骨が溶けて歯がぐらぐらします。

歯と歯茎の間にはすき間があり、このすき間が歯周ポケットです。このすき間に入った歯垢を放置すると歯茎が炎症を起こし、すき間が広がっていきます。

歯茎の炎症が広がると歯周病菌が歯周組織に入り、歯槽骨や歯根膜が破壊されます。重度の歯周病になると歯槽骨が半分以上破壊されるため、歯がぐらぐらとしてくるのです。

軽度の歯周病はセルフケアで改善を見込めますが、重度の歯周病の場合は歯周外科処置が行われます。外科手術を伴う治療で、歯茎を切開して外から届かない範囲をクリーニングします。

歯ぐきが腫れて血・膿が出る

虫歯の男性

歯周病の代表的な症状として、出血があげられます。歯茎が炎症を起こしているため、歯茎から血が出ます。

歯周病が進行すると膿が出てくるようになるでしょう。歯茎が腫れるのは、歯茎に入り込んだ細菌を退治するために身体の免疫細胞などが感染した場所に集まるためです。

歯茎が赤色や紫色に変色し、腫れがひどいと口の中に違和感を覚える方もいます。

膿は免疫細胞や歯周病菌などの死骸です。膿が出るのは、現在進行形で免疫細胞と歯周病菌が戦っているためで、組織破壊が進んでいる状態です。

腫れや出血などの症状は歯周病の初期段階にも現れるため、自覚症状のある方は早めに歯科医院を受診しましょう。

歯がぐらぐらし食事に支障が出る

歯周病によって歯周ポケットが深くなり、顎の骨が溶けると歯がぐらぐらして食事に支障が出ることもあります。歯がぐらぐらするため、食事のときに痛みを感じることもあるでしょう。

「溶かされた」と表現しますが、厳密には歯周病による炎症によって歯茎や歯槽骨が破壊され、再生されなくなった状態です。一度溶けた骨を元の骨の状態に回復するのは困難なため、進行させないようにに早めの治療が大切です。

口臭が強い

寝室で体調を崩す高齢者男性(口)

健康な方の主な口臭の原因は、舌苔と呼ばれる垢と同じようなものが舌にくっつくことによって起こります。舌苔を取り除くことによって口臭が改善されます。

しかし、歯周病の方の口臭の原因は舌苔ではなく、歯周病菌によるものが少なくないです。

歯周病菌が歯周ポケットなどで繁殖して炎症反応が起こると、匂いの元の物質を生成するため口臭がします。歯周病による口臭は健康な方の口臭とは匂いも異なり、生ゴミのような腐敗臭がします。

以前と口臭の匂いが違う、生ゴミのような匂いがすると感じた場合は歯周病を発症している可能性があるので歯科医院を受診しましょう。

全身の健康状態に悪影響のリスクがある

最近の研究で歯周病は全身の健康状態に悪影響のリスクがあるという報告があり、特に歯周病と糖尿病の関係には高いエビデンスがあると知られています。

糖尿病と歯周病は関係のないように思えますが、糖尿病に罹ると免疫機能が低下して歯周病に感染しやすい状態になります。

歯周病菌が引き起こした炎症物質によって、インスリンの働きを抑制してしまうため糖尿病を悪化させるという報告もあり、糖尿病と歯周病は相互に影響を与える関係です。

感染しやすい状態では免疫機能が低下していて、歯周病菌が繁殖して歯周病が悪化しやすいです。

歯周病菌はお口の中にあるため、唾液と一緒に体内に入り込んで全身に広がる可能性もあります。

ほかにも心臓の病気や骨粗鬆症、腎臓の病気、がんなどのさまざまな疾患と関係があると報告されているため、早期発見が重要です。

重度歯周病で抜歯が必要になる理由

歯医者のイメージ

重度の歯周病ではさまざまな症状があり、口腔内だけではなく全身の健康状態に影響を与えます。歯周病の治療では抜歯が必要になる場合があります。

歯周病の治療の目的は歯周病の原因となる病原体をなくして炎症を抑える、再感染しないようにして日常生活に支障のないようにすることが目的です。

抜歯することで歯を支える骨の破壊を防いでこれ以上骨が破壊されないようにする、全身状態への悪影響を防ぐことが可能です。

歯を支える骨の破壊を防ぐ

抜歯することで感染源を除去できます。感染源を除去することによって感染の広がりを抑え、骨の破壊を防ぐことができます。

抜歯することで炎症も軽減ができ、周囲の組織への影響も減らせて、インプラント治療の選択肢も視野に入れることが可能です。

回復が見込めず、歯周病が悪化するような場合には抜歯を提案する歯科医師も少なくないです。

全身の健康状態への悪影響を防ぐ

抜歯をして感染源を除去することで、歯周病による全身の健康状態への悪影響を防ぐことができます。

歯周病は全身の健康状態に影響を及ぼすと報告があるため、歯周病の治療は全身の健康状態の改善が可能です。

糖尿病と歯周病は相互間関係にあるため、歯周病の治療で糖尿病が改善されるという報告もあります。

全身の健康状態を改善するためにも抜歯に限らず歯周病は早めに治療しましょう。

重度歯周病でのインプラント治療の注意点

医師と男性患者

重度歯周病では歯周病の治療が優先されます。重度歯周病の方のインプラント治療は注意が必要です。

インプラント周囲が炎症を起こしたり、化膿したり、歯周病によって骨が溶けていてインプラント治療ができる程の骨がなかったりすることがあります。

重度歯周病の方は全身の健康状態にも影響があるため、全身の健康状態を考慮してインプラント治療を行うメリットがデメリットよりも上回るかを熟考しなければなりません。

その判断は歯科医師が行うものですので、歯科医師の指示や説明を十分に理解してインプラント治療を行うべきでしょう。

歯周病の治療が重要

患者を治療する医師と歯科衛生士

重度歯周病の方がインプラント治療を行うにはまず歯周病の治療を優先しなければなりません。

歯周病が改善されていないにも関わらずインプラント治療を行うことはリスクが大きいですし、全身の健康状態にも影響を与える可能性があります。

また、せっかくインプラント治療をしても歯周病が改善されていなければインプラント周囲が炎症を起こし、インプラントが抜け落ちる可能性もあります。

インプラント治療の前に歯周病を治療することが重要です。

インプラント周囲炎のリスク

インプラント治療をしても歯周病菌が残っている場合、インプラントの周囲が炎症を起こすリスクが高いです。

インプラントの周りの天然の歯が歯周病だった場合、天然の歯にある歯周病菌がインプラント周囲に感染してインプラント周囲炎を起こす可能性があります。

歯周病の治療をしていない状態でインプラント治療を行うと、インプラント周囲が炎症になる可能性が高く、インプラントを抜かなくてはならなくなります。

また、さらに感染が広がり歯周病が悪化する可能性が高いです。

インプラント周囲炎を予防するためにも、インプラント治療をする前に歯周病を治療しましょう。

インプラント術部が化膿するリスク

インプラント治療は顎の骨に土台を作ってその上に人工の歯を留置する手術です。

粘膜を切開する場合もあるため、歯周病菌が残存しているとその傷口から歯周病菌が入り込んで化膿する可能性もあります。

インプラント治療を行うためにはインプラント治療をする箇所だけではなく、口腔全体の状態を改善して長い期間歯茎や歯の周囲組織の健康状態を維持できなければなりません。

お口のなかの健康状態がよくないと、インプラント術部が化膿する可能性も高くなります。

インプラント術部が化膿してしまうとさらに感染が広まり、歯周病とインプラント周囲炎が悪化する可能性もあるため注意が必要です。

インプラント体挿入のための骨が足りない場合

インプラント治療では、顎の骨に土台を作ってその上に人工の歯を取り付ける治療法です。人工の歯を取り付けて十分に歯としての機能を果たすためには顎の骨に作る土台が重要な役割を果たします。

歯周病では顎の骨が溶けてしまうこともあるため、土台を取り付けられる程の骨がない場合もあります。

土台となる顎の骨が少ない場合、インプラント治療を選択できない可能性もあるため注意が必要です。

近年では顎の骨を補填する治療法も存在するため、インプラント治療ができる程の骨がなくても骨を補填してインプラント治療を可能とする方法もあります。

インプラント以外の選択肢

病院で働く医者と看護師(中高年)

インプラント以外での選択肢はいくつかあります。

  • ブリッジ
  • 義歯

ブリッジは抜けてしまった歯の両側にある健康な歯を削って土台にして、健康な歯と抜けた歯の範囲全体を覆うような人工の歯を被せる方法です。

歯から歯に橋渡ししているためブリッジと呼ばれます。

義歯は歯が抜け落ちた歯茎の部分に義歯を被せる方法です。周りの健康な歯には影響が少ないことがメリットですが、義歯をつけたときに違和感を覚える方もいるため注意が必要です。

重度歯周病でのインプラントの症例

歯科衛生士のブラッシング指導

重度歯周病の方がインプラント治療をするまでの流れを解説します。

まずはインプラント治療よりも先に重度歯周病の治療を行うことが重要です。

歯科医師が抜歯が必要なのか抜歯せずに歯周病菌を減らして炎症を抑えるのかなどの治療計画を考えて歯周病の治療を開始します。

抜歯した場合インプラント治療する予定の箇所の周囲の組織は健康的かどうか、土台を作るための骨が十分かどうかなどを診て、可能と判断されればインプラント治療を行います。

重度歯周病の方は治療が済んでいてもインプラント周囲炎のリスクを伴うため、経過観察が重要です。

定期的に歯科医院に通院してインプラントの周囲が感染していないか、炎症を起こしていないかなどの定期的な観察が必要です。

まとめ

歯磨き指導(前歯)

歯周病に罹患している状態はインプラント治療の長持ちを妨げます。しかし、重度歯周病の方でもしっかりと歯周病を治療し管理されている状態 であればインプラント治療ができます。

インプラント治療を行う前に残存歯の歯周病の状態を確認することは大変重要です。

まずは歯科医院に行って歯科医師の診察を受けて歯周病を治療してみてはいかがでしょうか。

歯は全身の健康状態にも影響を与えるため、早めの治療が大切です。

本記事を通して重度の歯周病の方のインプラント治療を知っていただけたら幸いです。

参考文献

この記事の監修歯科医師
大津 雄人歯科医師(医療法人社団GLANZ大津歯科医院 副院長 / 東京歯科大学インプラント科 臨床講師)

大津 雄人歯科医師(医療法人社団GLANZ大津歯科医院 副院長 / 東京歯科大学インプラント科 臨床講師)

東京歯科大学歯学部 卒業 / 東京歯科大学大学院歯学研究科(口腔インプラント学) 卒業 / 現在は大津歯科医院勤務 / 東京歯科大学インプラント科臨床講師 / 専門は口腔インプラント

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