インプラントに緩みやぐらつきが生じた際に必要となるのが、インプラントの締め直しです。しかし、突然のトラブルに対して費用はどのくらいかかるのか不安に感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事ではインプラントの締め直しにかかる費用について以下の点を中心にご紹介します。
- インプラントの緩みを放置するリスク
- インプラントの締め直しや再治療にかかる費用
- インプラントを長持ちさせるポイント
インプラントの締め直しにかかる費用について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
インプラントの基本的な構造
インプラントは、失った歯を補うために顎の骨にインプラント体を埋め込み、その上に上部構造を装着する治療法です。
基本構造は、次の三つの部分から成り立っています。
1.インプラント体
主にチタン製でできており、顎の骨に埋め込まれて歯根の役割を担います。骨としっかり結合することで、安定性が確保されます。
2.アバットメント
インプラント体と上部構造をつなぐ中間構造です。連結部分としての役割を果たし、上部構造の土台です。
3.上部構造
歯の見た目と噛む機能を回復する部分です。セラミックなどで作られた上部構造が装着され、天然歯に近い噛み心地と審美性が目指されます。
これら三つのパーツが一体となることで、機能的にも見た目にも自然な歯の状態が再現されます。
インプラントが緩む原因
そもそもなぜインプラントは緩んでしまうのでしょうか。
アバットメントの緩み
インプラントが緩む原因の1つ目に、アバットメントの緩みが挙げられます。 アバットメントとは、インプラント体と上部構造をつなぐ中間パーツで、その固定にはスクリュー(ネジ)が使用されています。
しかし、長期間の使用や強い噛みしめや歯ぎしりによって、スクリュー部分に微細な力が繰り返し加わることで、徐々に緩んでしまうことがあります。
また、初期の締結力が不十分だった場合や、嚙み合わせのバランスが崩れている場合にも、同様の緩みが生じる可能性があります。
アバットメントの緩みが進行すると、上部構造がぐらついたり、違和感や痛みを引き起こす原因にもなるため、早めの診察が大切です。
インプラント周囲炎
インプラントが緩む原因の2つ目に、インプラント周囲炎の発症が挙げられます。 これは、インプラントの周囲に細菌が侵入して炎症を引き起こす病気で、進行すると以下のような症状が現れます。
・歯茎の腫れや出血
・骨の吸収(顎の骨が溶ける)
・インプラントの安定性の低下
なかでも、骨が減少することで、インプラント体がしっかり固定されなくなり、上部構造がぐらつきます。
インプラント周囲炎は、初期段階では自覚症状が少ないため、気付かないうちに進行しているケースもあります。
そのまま放置すると、インプラントの脱落につながるリスクもあるため、定期的なメンテナンスと早期の対応が重要です。
噛み合わせ
インプラントが緩む原因の3つ目に、噛み合わせのバランスの乱れが挙げられます。 インプラントは天然歯のように柔軟な動きを持たないため、強い力が一点に集中しやすいのが特徴です。
そのため、噛み合わせが不適切だと、一部の部位に過度な負荷がかかりやすくなります。
さらに、治療後に周囲の歯が移動したり、すり減ったりすることで噛み合わせが変化すると、インプラントに想定外の力が加わる可能性があります。
その結果、内部のスクリューや接合部分に負担がかかり、緩みやぐらつきが生じることがあります。
経年劣化
インプラントが緩む原因の4つ目に、経年劣化が挙げられます。 インプラントは耐久性のある素材で作られていますが、長期間の使用によって徐々に摩耗や変形が起こることがあります。
咀嚼による繰り返しの力や日常的な動きにより、部品の結合部にわずかな隙間が生じたり、スクリューの締め付けが緩むことがあります。
また、口腔内の環境変化や金属疲労(繰り返しの負荷による素材の劣化)も影響し、アバットメントや上部構造の安定性が低下する原因となります。
こうした劣化により、装着物が動揺したり違和感を覚えることがあります。
経年による変化を見逃さないためにも、定期的な検診と、必要に応じた部品の交換や調整が重要です。
インプラント体と骨の結合不良
インプラントが緩む原因の5つ目に、インプラント体と骨の結合がうまくいかないケースが挙げられます。
チタン製のインプラント体は、本来骨としっかり結びつく性質を持っており、この現象はオッセオインテグレーション(骨結合)と呼ばれます。
しかし、喫煙や糖尿病、骨の質が不十分な場合や、治癒期間中に強い負荷がかかると、この結合が妨げられ、インプラントが十分に安定しないことがあります。
結合不良が起きると、インプラント体が骨のなかでしっかり固定されず、上部構造にぐらつきや痛みが生じやすくなるため、慎重な経過観察と適切な術後管理が求められます。
インプラントの緩みを放置するリスク
インプラントの緩みを放置すると、さまざまな深刻なトラブルを引き起こす可能性があります。 まず、インプラント周囲炎が進行することで顎の骨が吸収され、インプラントの脱落や再手術が必要になるケースもあります。 また、緩んだ状態が続くと、上部構造やアバットメントの破損、さらにはインプラント体自体の破折といった重大な問題につながることもあります。 これらのトラブルは、単に治療期間が長引くだけでなく、治療費の増加や口腔内全体の健康悪化にもつながります。 違和感や揺れを感じた際には、早めに歯科医院を受診することが大切です。
インプラントがぐらつく際の注意点
インプラントがぐらつく時は、以下の点に注意しましょう。
まずはすぐに歯科医院を受診する
インプラントにぐらつきや違和感を感じた場合は、できるだけ早く歯科医院を受診することが重要です。
症状が軽く見えても、内部で問題が進行しているケースがあり、放置すると脱落や再治療が必要になるおそれがあります。
痛みを感じない場合でも、「おかしいな」と感じた時点での早期対応が、トラブルの拡大を防ぐ鍵です。
インプラントは天然歯と異なり、異常のサインが自覚しづらいため、わずかな違和感でも見逃さず、歯科医師による診断を受けるようにしましょう。
患部に触れないようにする
インプラントにぐらつきを感じたとき、不安から患部を指や舌で何度も触れたくなることがあります。
しかし、こうした行為は状況を悪化させる原因となるため、避けるべきです。
刺激を与えることで、緩みがさらに進んだり、炎症がひどくなったりする恐れがあります。 また、指や舌を介して細菌が侵入するリスクも高まるため、患部を清潔に保つことが重要です。
併せて、強く噛むことや硬い食べ物を避けるなどの配慮も必要です。ぐらつきがあるときは、なるべく自然な状態を保ち、早めに歯科医院で診察を受けましょう。
硬い食べ物は避ける
インプラントにぐらつきを感じたときは、硬い食べ物を控えることが大切です。 硬いものを噛むことでインプラント部分に強い力がかかり、緩みがさらに進行する可能性があります。
なかでも、以下のような食品は注意が必要です。
・ナッツ類
・硬めのパンやフランスパン
・乾燥した食材(せんべい、ドライフルーツ など)
インプラントは、天然歯と異なり歯根膜というクッションの役割を持つ組織がないため、噛む力や衝撃が直接骨に伝わりやすい構造になっています。
そのため、違和感やぐらつきを感じた場合は、やわらかい食事を選び、できるだけ咀嚼の回数や力を抑えるよう心がけましょう。
負担を軽減することで、状態の悪化を防げます。
外れたパーツは捨てずに保管する
インプラントがぐらついて、上部構造やネジなどのパーツが外れてしまった場合は、決して捨てずに保管することが重要です。
これらの部品は、状態によっては再装着や修復に使用できる場合があり、無駄にせず済む可能性があります。
また、外れたパーツを歯科医師に見せることで、緩みの原因や損傷の程度をより正確に判断しやすくなります。
もし誤って捨ててしまうと、新しい部品の取り寄せや再製作が必要になり、治療期間が延びたり費用がかさんだりする恐れがあります。
外れたパーツは、清潔な容器や小袋などに入れて保管し、できるだけ早く歯科医院に持参しましょう。
このひと手間が、その後の治療をスムーズに進める鍵となります。
自己判断で治そうとしない
インプラントのパーツが外れたり、ぐらつきを感じたりした場合に、自己判断でもとに戻そうとするのは危険です。
無理に装着しようとすると、内部のネジ山や接合部を傷つけてしまい、状態をさらに悪化させる恐れがあります。
また、正しい位置に戻っていないまま力が加わると、骨や歯茎など周囲の組織にも悪影響を及ぼす可能性があります。
インプラントは精密な構造で設計されているため、わずかなズレでも噛み合わせや安定性に問題が生じることがあります。
外れたパーツはそのままの状態で清潔に保管し、できるだけ早く歯科医院を受診してください。
インプラントの締め直しや再治療にかかる費用
インプラントの締め直しや再治療にかかる費用について解説します。
インプラントの締め直しの費用相場
インプラントの締め直しや再治療にかかる費用は、症状の程度や治療内容によって大きく異なります。
軽度な緩みで、上部構造やアバットメントの再装着のみで対応できる場合は、数千円〜1万円程度で済むことが多いようです。
一方、パーツが破損して再製作が必要なケースでは、以下のような費用がかかることがあります。
・上部構造の再製作:5万〜15万円
・アバットメントの再製作:5万5,000円以上
治療内容によって費用に差が出るため、違和感や緩みを感じたら早めに受診し、状態が悪化する前に対応することが費用面でも重要です。
再治療が必要な場合の費用相場
インプラントの再治療にかかる費用は、治療内容や歯科医院の方針、保証制度の有無によって大きく異なります。
例えば、インプラント体の再埋入が必要な場合は、1本あたりおよそ30万〜50万円が相場です。
この金額は、新規のインプラント治療と同程度です。
また、骨造成などの追加処置が必要な場合は、さらに費用が上乗せされる可能性があります。
メンテナンスにかかる費用の目安
インプラント治療後のメンテナンスは、長期的な安定性と口腔の健康を保つうえで欠かせません。
メンテナンス費用の相場は、1回あたりおよそ3,000円〜1万円程度です。
具体的な金額は、歯科医院の方針やケア内容(クリーニング・検査など)によって異なります。
通院頻度の目安は以下のとおりです。
・治療後1年間:3ヶ月に1回
・2年目以降:4〜6ヶ月に1回
この頻度に基づくと、年間のメンテナンス費用は数万円程度になることもありますが、定期的なケアによってインプラントの寿命を延ばし、再治療のリスクや将来的な費用を抑えられる可能性が高まります。
費用負担を抑えるためにできる工夫
インプラントの締め直しや再治療にかかる費用を抑えるためには、定期的なメンテナンスを継続的に受けることが重要です。
トラブルの早期発見や対応によって、大きな修復が不要になるケースもあります。
また、医療費控除の制度を活用することも費用軽減につながります。
年間の医療費が一定額を超えた場合には、確定申告によって所得税の一部が還付される可能性があります。
さらに、保証制度が整っている信頼性の高い歯科医院を選ぶことも大切です。 経験豊富なクリニックでは、万が一再治療が必要になった場合でも、保証の適用によって費用負担が軽減されることがあります。
インプラントを長持ちさせるポイント
インプラントを長持ちさせるための工夫を紹介します。
丁寧に歯磨きをする
インプラントを長持ちさせるには、毎日の丁寧な歯磨きが欠かせません。 インプラント自体はむし歯になりませんが、周囲の歯茎や骨には細菌が影響を与えます。
清掃が不十分だとインプラント周囲炎を引き起こし、歯茎の腫れや出血、さらには骨が吸収されて脱落につながることもあります。
そのため、毎日のセルフケアでは、歯ブラシに加えてデンタルフロスや歯間ブラシを使い、インプラント周囲のプラークをしっかり取り除くことが大切です。
歯科医院で定期的にメンテナンスを受ける
インプラントを長く使い続けるには、歯科医院での定期的なメンテナンスが重要です。 日々の歯磨きでは落としきれない汚れや細菌が、インプラント周囲にたまると、炎症や骨の吸収を招き、ぐらつきや脱落の原因になることがあります。
歯科医院では、専用の器具による精密な清掃に加えて、噛み合わせや歯茎の状態を確認し、異常を早期に発見できます。また、ネジの緩みや部品の摩耗といった不具合にも迅速に対応できるため、大きなトラブルを未然に防ぎます。
治療後も継続的に通院することが、インプラントを長持ちさせる大切な習慣となります。
歯ぎしりや噛み合わせの癖に注意する
歯ぎしりや噛み合わせの癖に注意することは、インプラントを長持ちさせるために欠かせません。
歯ぎしりや食いしばりは、インプラントに過度な力を加え、破損や緩み、脱落のリスクを高めます。
インプラントは天然歯と異なり歯根膜がないため、力を分散できず、負担が周囲の骨や歯茎に直接伝わってしまいます。
こうしたダメージを防ぐ手段として、ナイトガードの使用がおすすめです。睡眠中の歯ぎしりや食いしばりからインプラントを守り、過剰な力の影響を軽減できます。
また、定期的なチェックと調整により、インプラントに偏った力がかかるのを防ぎます。
まとめ
ここまでインプラントの締め直しにかかる費用についてお伝えしてきました。要点をまとめると以下のとおりです。
- インプラントの緩みを放置すると、骨吸収やインプラント脱落、パーツ破損など深刻なトラブルに発展し、治療期間や費用の増加、口腔内全体の健康悪化を招く可能性がある
- インプラントの締め直しや再治療の費用は症状や治療内容によって異なり、軽度なら数千円〜1万円程度、パーツ破損や再埋入が必要な場合は30万〜50万円以上かかることがある
- インプラントを長持ちさせるために、丁寧な歯磨きや定期的にメンテナンス、歯ぎしりや噛み合わせの癖に注意することが重要
インプラントの締め直しにかかる費用は、状態や処置内容によって異なりますが、事前に相場を知っておくことで不安を軽減できます。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。