インプラントは第二の永久歯とも呼ばれ、失った歯の機能を補います。しっかりと噛めることで食事が楽しめるようになり、生活の質も向上します。
しかし、インプラント治療に年齢制限があるのか、80代以降の高齢でも治療が受けられるのか気になっている方もいるのではないでしょうか。
本記事では80代以降のインプラント治療の実態や治療のリスク、注意点を解説し、あわせてインプラント治療を受ける際の歯科医院の選び方もご紹介します。
高齢だからといって治療を諦めることなく、快適な口腔環境づくりの参考になれば幸いです。
インプラント治療について
- インプラント治療で行われる手術について教えてください。
- インプラント治療では失った歯の場所にチタン製でできた人工的な歯根を埋め込む外科手術を行います。手術の流れは以下のとおりです。
- 埋入する場所の歯肉を切開して顎骨を露出させる
- ドリルで顎骨に穴をあけインプラントを埋入する
- 傷口を縫合しインプラントが骨と結合するのを待つ(3〜6ヶ月ほどの期間が必要)
- インプラントが結合したら再び歯肉を切開しインプラント頭部を露出させる
- アバットメント(インプラントと人工歯を結合させる部品)を装着し仮歯で調整する
- 後日に最終的な人工歯を入れ調整をして終了
歯肉を切開する手術では局所麻酔や、必要なら麻酔科医立会いのもとで静脈内鎮静法などを施し痛みが出にくいよう対処しています。
1回目の手術は30分程度、2回目の手術は10分程度で終了です。
一般的には2回手術を行う方法(2回法)で治療を進めていきますが、1度の手術でインプラント頭部を出し、アバットメント装着まで行う方式(1回法)もあります。
- インプラント治療を受ける方が多い年齢層を教えてください。
- インプラント治療を受ける年代は40代以降から増えはじめ、60〜70代がピークとなります。
2022年歯科疾患実態調査結果の概要によると、70歳以上75歳未満が最も多い年代でした。
働き盛り、子育て真っ最中の40代が自身の歯の健康に十分なケアの時間が取れず、年月の経過とともに歯の健康を損なってしまうことが一因だと考えられます。
- インプラントにはどのようなメンテナンスが必要ですか?
- インプラントを長く機能させるためには、自宅で行うセルフメンテナンスと歯科医院で行うプロフェッショナルなメンテナンスが重要です。
自宅では食事後の歯磨きを丁寧に行い、患部の清潔に努めます。
また、歯科医院へ通院し、専用の機械でセルフケアでは落としきれない歯の汚れを定期的にクリーニングするのが効果的です。
歯科医院ではクリーニングだけでなく、インプラントのネジの緩みや噛み合わせ調整などの不具合にも対応可能です。
- インプラント治療ができない場合はほかにどのような治療法を選択できますか?
- インプラントが治療できない場合でも、歯の機能を補う方法はあります。
具体的には入れ歯やブリッジといった装置を装着し、歯の機能を補う治療を提案します。入れ歯やブリッジは保険適用できる治療もあるため、価格を抑えながら治療を受けられるのがメリットです。
しかし、周りの歯を削ったり装置を引っかけたりするため、周りの歯が健康であることが治療の条件になります。
インプラント治療では通常、顎骨の量が一定の基準に満たないと手術できません。しかし骨造成という手法を行うと顎骨の骨量を増やせるため、治療が可能になるケースもあります。
インプラント治療を検討したい患者さんは骨造成治療を受けることも選択肢の一つです。
インプラント治療は80代でもできる?
- インプラント治療は80代になってもできますか?
- 先ほど、インプラント治療のピーク年代は70歳以上から75歳未満であると述べましたが、実際には80代以降でも治療を受けている方もいます。
歯科医師は患者さんの既往歴や薬歴、生活環境など多角的な要素を考慮しながら治療を行うべきか慎重に判断しています。
単に年齢が高いという理由だけで治療が難しくなるわけではありません。
- 80代でインプラント治療を断られるのはどのような場合ですか?
- 歯科医院でインプラント治療を断られるケースは以下のような理由が挙げられます。
- 顎骨の量が少なくドリルでの埋入に耐えられない
- 病気や薬などの影響で術後の細菌感染リスクが高い
- 手術に耐えられるだけの体力がない
- 治療やメンテナンスごとの通院が難しい
インプラント治療が難しくなる病気には高血圧や心臓病、糖尿病、骨粗しょう症などがあります。骨の強度が足りなかったり傷口から細菌感染を起こしたりする可能性があるためです。
また体力面以外でも、度重なる通院が難しい場合は治療を見送るケースがあり、将来的な生活状況も判断基準になります。
手術を希望する際は、家族や施設の協力体制が得られるのか事前に確認しておくことをおすすめします。
高齢者のインプラント治療のメリットやリスク
- 80代がインプラント治療を受けるメリットを教えてください。
- 80代以降の方がインプラント治療を受けることで得られるメリットは以下のとおりです。
- しっかり噛めおいしく食事がとれる
- 噛むことで脳への刺激が増え認知症予防につながる
- 残存歯を守ることができる
- 会話がスムーズにできる
高齢になるほど噛むことが日常生活の質に直結するため、多くのメリットを受けられるでしょう。
よく噛めるようになることで、体内の消化吸収が促進され、低栄養を防ぎやすくなります。
結果として健康的な身体の維持につながります。
- 80代がインプラント治療を受ける際にはどのようなリスクがありますか?
- 体力や免疫力が少しずつ衰えていく80代では、治療時にさまざまなリスクが起きやすいです。特に注意したいのが、術後の細菌感染と合併症です。
これらの不具合が重なるとインプラントと顎骨の結合が妨げられ、最悪の場合インプラントが抜け落ちてしまうこともあります。
術後は安静にしたり、スケジュールを詰め込み過ぎたりしないよう、体調管理に十分に配慮しましょう。
また、口腔状態がよくないとインプラント歯周炎の発症が懸念されます。手術が成功しても、治療はそれで終わりではありません。術後も継続的なメンテナンスが重要です。
- 80代がインプラント治療を受ける際の注意点を教えてください。
- インプラント治療を受ける際は、以下の点に注意が必要です。
- 健康状態が良好か
- 治療の内容やリスクが理解できているか
- 歯科医師やスタッフとのコミュニケーションが良好にとれているか
- インプラントのメンテナンスが継続的に行えるか
以上の注意点が守られるようであれば、高齢の患者さんでも安全性の高い治療を受けられます。
また歯科医院では、インプラントの製品や手術に関する情報を患者さんへ提供しています。
これらの情報をきちんと保管しておけば、将来転居しても別の医療機関で速やかに情報を提供できるため、スムーズな治療やメンテナンスが可能です。
- 80代がインプラント治療を受ける際の歯科医院の選び方を教えてください。
- インプラント治療を受けるときは、以下の項目を確認することでより適切な歯科医院選びが可能になります。
- 院内設備:歯科用CTやガイドシステム、シミュレーションソフトなどが設置されているか
- 衛生的な環境:滅菌システムの確立やインプラント専用のオペ室があるか
- 歯科医師の技術力:特に高齢者インプラント手術の実績が豊富か
- 根拠に基づいた説明:念入りな検査や丁寧な説明があるか
- 使用するインプラント:良質で安全性の高いものを採用しているか
- 通いやすい環境:度重なる通院でも苦にならないか
もし、通院しているうちに疑問を感じるようであればセカンドオピニオンの実施も考慮しておくとよいです。
編集部まとめ
本記事では、80代以上のインプラント治療における実態やリスク、注意点について解説しました。
インプラント治療では歯を失った部位の顎骨に人工歯根を埋め込み、インプラントが骨と結合することで安定的に噛めるようになります。
インプラント治療を希望する年代は40代頃から増え始め、70代前半がピークです。ただし、健康状態に問題が無ければ80代以降でも手術を受ける患者さんはいます。
高齢の方がインプラント治療を受けることで、食事を快適に楽しめるようになり、生活の質も向上します。一方で、細菌感染や合併症といったリスクへの配慮も欠かせません。
治療を受ける際は、手術の工程やリスクを十分に理解し、術前術後の体調管理にも十分に配慮しましょう。
医療機関を選ぶ際は設備や歯科医師の実績を確認し、通院の負担が少ない立地であることも重要な要素となります。
ご自身やご家族が80代でもインプラント治療を検討されている場合は、まず信頼できる歯科医師に相談し、納得のいく選択ができるよう十分な情報収集を心がけましょう。
参考文献