歯科医院でインプラント治療をすると、MRI検査はできないと聞いたことがあるかもしれません。
MRI検査では金属類を持っていると撮影に悪影響を及ぼすとして、金属類は取り外すようにいわれます。ペースメーカーや人工内耳などの金属製の医療機器が体内に埋め込まれている方は、MRI検査を受けられません。
インプラントも金属製のため、MRI検査は受けられないのではと考える方もいます。
しかしインプラントには医療用と歯科用の2種類があり、歯科用の場合はMRI検査を受けても問題ありません。
ここでは、インプラント治療をしたら本当にMRI検査はできないのかについて解説します。注意点も紹介するので、参考にしてください。
インプラント治療後はMRI検査ができない?
インプラント治療を受けるとMRI検査ができないという話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、本当なのでしょうか。
今後のことを考えてMRI検査が受けられない可能性があるならと、インプラント治療に不安を感じて断念する人もいるようです。
冒頭でもお伝えしたように、そのようなことはありません。さまざまな噂・勘違いが一人歩きをしているだけです。
インプラント治療をしてもMRI検査ができる理由や、MRI検査ができないといわれる理由について解説するので、参考にしてください。
インプラントに使用される金属はチタン
インプラント治療には金属が使用されますが、その主な素材は下記の3つです。
- 純チタン・チタン合金
- 金
- セラミック(オール・ジルコニア・ハイブリッド)
これらの中でセラミック素材にはオール・ジルコニア・ハイブリッドの3種類があります。
オールはすべてセラミック製、ジルコニアは人工ダイヤモンド、ハイブリッドはレジンとセラミックを混ぜ合わせた素材です。
上記3つの中で、インプラント治療で最も多く使用されているのはチタン・チタン合金です。
またチタンにも純チタンとチタン合金の2種類がありますが、チタン合金にはニッケルやアルミニウムが混ぜられています。
チタン・金・アルミニウムは非磁性体と呼ばれ、磁場に直接反応することはありません。
ただし、ニッケルは強磁性体なので磁気に反応します。チタン合金を使用している場合は注意したほうがよいでしょう。
MRI検査での歯科用のインプラント使用はOKとされる
MRI検査は磁気の共鳴を活用して、体内の状態を調べます。体内に磁性体の金属があるとMRIが反応し、データ不備・事故につながるかもしれません。
しかし、歯科用インプラントで使用する金属は、すべて非磁性体です。MRI検査でも磁気に反応することが少ないので使用がOKとされています。
ほかの金属製品と一括りにされ誤解されている
チタンはその見た目などから、ほかの金属製品と一括りにされて誤解されることが多い金属です。
さらに、インプラントには歯科用インプラント以外に医療用インプラントもあります。こちらは磁性体の金属が使用されることがあるので注意が必要です。
なかには医療用と歯科用を混同している人もいます。医療用では磁性体の金属が使われることがあるため、歯科用も同様に勘違いしているのです。
ただし、歯科用インプラントでチタン合金が使用されている場合は注意してください。ニッケルが含まれている場合は共鳴します。
純チタンではない場合は、必ず素材を歯科医師に確認してください。
金属だけど体にほとんど影響はみられない
インプラント治療にチタンが使用される理由は主に下記の3つです。
- 金属アレルギーが発症しにくい
- 顎骨との親和性が高い
- 耐久性が高い
チタンは人体と親和性が高いため、顎骨と接合しやすくて金属アレルギーが発症しにくいのが特徴です。
ただし、絶対に金属アレルギーが発症しないわけではありません。アレルギーが出る場合もあり、その場合は別の素材を使用します。
また、耐久性が高いという点もチタンのメリットといえるでしょう。長期間使用しても壊れることが少ないため、再手術の必要性は少なくなります。
噛む・咀嚼するという行為も気兼ねなくできるため、日常生活に支障をきたすことは少ないでしょう。
MRI検査で金属がNGな理由
そもそも、なぜMRI検査では金属がNGなのでしょうか。MRI検査のときに金属を持っていると、以下のようなトラブルが起きる場合があります。
- 検査画像への映り込み
- 金属部分の発熱
これらトラブルについて解説するので参考にしてください。
検査結果の画像に影が映り込むことがある
ペースメーカーや人工内耳などの金属を使用した医療機器が体内に埋め込まれていると、MRI検査受診時に画像に影が映り込むことがあるといわれています。
強力な磁場をつかって身体の水分を振動させ、影を作って撮影するのがMRIです。そのため、金属があるとその金属が磁場に反応してしまいます。
その結果、影が残ったりノイズが映りこんだりなどし、うまく撮影ができないのです。
歯科用インプラントではこのような問題は心配ありません。しかしまれになじみのないインプラントメーカーが使用されていることもあり、チタン以外の金属が使われている可能性もあります。
その場合、検査結果に影響を及ぼすことがありますので、注意しましょう。
金属部分が過熱する恐れがある
金属が磁場に反応すると、金属部分が発熱する恐れがあります。金属が発熱するとやけどすることもあり、危険です。
ペースメーカーや人工内耳などの金属を埋め込んでいる方がMRI検査を受けられないのは、金属が発熱してやけどする危険性があるためなのです。
しかし、一般的なインプラントに使用されている歯科用チタンは、磁場に反応しない素材となっています。
実際に歯科用インプラントのMRIでの発熱に関する報告は、日本放射線技術学会の論文でも、最大で1℃程度と報告されていますので通常は問題ないと考えられます。
ただし、インプラントを製造するメーカーは多数あります。メーカーの中にはチタン以外の素材が多く含まれたものもあるかもしれません。
インプラント治療時に詳しい説明がなかった場合は、必ず歯科医師に確認してください。
インプラント使用時にMRI検査ができない場合は
インプラント使用時、MRI検査ができないケースもあります。主なケースは下記の2つです。
- オーバーデンチャー使用
- 歯科以外のインプラント使用
上記に当てはまる場合は、仮に純チタン製のインプラントを使用していてもMRI検査はできません。
なぜMRI検査ができないのか、その理由について解説するので参考にしてください。
オーバーデンチャー使用時
オーバーデンチャー使用時は、MRI検査ができない場合があります。
オーバーデンチャーは、インプラントを支持として使う入れ歯です。インプラントと入れ歯を固定させるために、マグネットが使われていることがあります。
故障の原因となったり画像の乱れにつながったりするため、マグネットを用いたオーバーデンチャーの場合はMRI検査が難しいです。
インプラント治療でオーバーデンチャーを使用している場合は、主治医に確認するといいでしょう。
歯科治療器具以外のインプラント使用時
歯科治療以外でインプラントを使用していた場合にも、MRI検査はできません。
インプラントとは「中に(イン)植える(プラント)」という意味です。医療では体内に埋め込むもの全般を指しています。
歯科用インプラントの場合はチタン素材が主流ですが、医療用インプラントの場合はそうではありません。
ペースメーカー・人工内耳なども医療用インプラントであり、これらの素材にはチタン以外の金属もたくさん含まれています。
鉄・ニッケルのような強磁性体のものも多く含まれているため、磁気を利用したMRI検査では支障をきたすでしょう。
画像データに影響を及ぼす可能性もありますし、発熱する危険性もあります。
インプラントは歯科だけではありません。医療でも用いられ、さまざまな金属が使用されるのでMRI検査がすすめられた際は注意してください。
インプラントが原因でMRI検査を断られたら?
インプラントが原因でMRI検査を断られる場合もあります。MRIは体内の状態を調べる検査なので、受診不可の場合は支障が出るかもしれません。
もし断られたら、下記の方法で対処が可能です。
- 人工歯部分を外す
- かかりつけの歯科医に相談する
- チタンであることを申告する
それぞれの方法にはメリット・デメリットがあります。各対処法について解説するので、参考にしてください。
人工歯部分を外してもらう
インプラントが原因でMRI検査を断られた場合、対処法として人工歯部分を外してもらう方法があります。かかりつけ歯科医に外してもらいましょう。
MRIに支障をきたす部分を歯科医院で外してもらいます。その際、インプラント部分が空洞になるので仮歯を作って装着するのが一般的です。
その後、MRI検査を受診して再び歯科医院へいって人工歯を装着します。ただし、形が変わっているかもしれないので型取りからのスタートです。
ここまでの行程を簡単にすると下記のようになります。
- 人工歯の取り外し
- 仮歯の作成
- 仮歯装着
- MRI検査を受診
- 歯科医院にて型の取り直し
- 人工歯の作成
- 人工歯の取り付け
これらの行程には、すべて費用が発生するので注意してください。MRI検査に加えて歯科医院でも費用が発生するので負担は大きいでしょう。
かかりつけの歯科医に相談する
インプラントが原因でMRI検査の受診を断られた場合は、一度かかりつけ歯科医に相談してください。
どのような過程でMRI検査を受診する必要があるのか、説明しましょう。かかりつけの歯科医から診療情報提供書をもらうことをおすすめします。
医師からの書面をかかりつけ歯科医に見せることで情報が共有され、一番良い計画が提案されるでしょう。
人工歯を取り外してMRI検査を受診する方法もありますが、大幅な時間とコストが必要です。かなりの負担になるため、避けたい人は多いでしょう。
人工歯を取りのぞかなくても医科で詳細な検査を受診する方法がほかにもあるかもしれません。まずはかかりつけ歯科医に相談してください。
チタンでできていると申告する
インプラントが原因でMRI検査を断られたら、チタンでできていることを申告するのも一つの方法です。
歯科用インプラントが、医療用インプラントと同様の素材でできていると思っているケースもあります。
その場合は、チタンでできていることを申告することでMRI検査が受けられるかもしれません。
ただし、インプラントに使用されている素材が純チタンであるかどうか必ずかかりつけの歯科医師に確認してください。
インプラントは、さまざまなメーカーで製造されています。なかにはチタン以外の素材で作られたインプラントを使用しているかもしれません。
また、チタンでもチタン合金の場合は危険です。チタン以外にニッケルが含まれている可能性があるので注意してください。
ニッケルは鉄などと同様に強磁性体の金属なので、MRIで使用する磁気に強く反応します。インプラントの発熱などが起こる可能性があるので危険です。
かかりつけの歯科医師に診療情報提供書を作成してもらい、医科に持参すると良いでしょう。
インプラント治療後にCT検査はできる?
インプラント治療をしていても、原則、MRI検査ができることはわかりました。では、CT検査はどうなのでしょうか。
インプラント治療後にCT検査ができるのか、解説します。
CT検査なら問題なく出来る
インプラント治療をしても、CT検査なら問題ありません。MRIとCTでは撮影の仕組みが異なるからです。
MRIは磁力と電波を使用して撮影を行います。一方のCTは放射線を使用し、磁力と電波は使用しません。
インプラント治療を受けたことでMRI検査を断られるのは、MRI検査が磁力と電波を使用するからです。
歯科用インプラントの場合、素材の多くはチタンです。しかし、チタン合金などを使用した場合にはニッケル・鉄などが含まれているかもしれません。
ニッケル・鉄などは強磁性体金属と呼ばれ、磁力・電波に強く反応します。磁力・電波を使用したMRI検査は不向きなのです。
一方のCTは放射線を使用するため、強磁性体金属であっても反応しません。発熱の心配もないので安心です。
ただし、CT画像にはインプラントの小さな影ができる可能性があります。あらかじめ自己申告しておけば問題ないでしょう。
歯科治療以外でもCT検査は受けられる
MRI検査とCT検査は仕組みが違うため、歯科治療以外でもCT検査は受けられます。仮に体内に心臓ペースメーカーがあっても、磁力を使用しないCT検査なら対応可能です。
ただし、歯科用インプラント同様に撮影画像に影ができる可能性はあります。あらかじめ申し出ておけば問題はありません。
まとめ
MRIとインプラントの関係性について解説してきました。
現在、歯科用インプラントの治療方法・素材は目まぐるしく発展しています。さまざまなニーズに合わせたインプラントの開発が盛んです。
多くの歯科医院ではチタン製のインプラントを使用していますが、その限りではありません。ほかの素材を使用している可能性もあります。
MRI検査を受ける場合は、使用している歯科用インプラントの素材をかかりつけ歯科医に確認してください。
かかりつけ歯科医と医科が情報を共有することで、対応したさまざまな検査方法が提案されるでしょう。
参考文献