インプラント治療は、骨量が足りず治療が難しい可能性があります。そんなときに活用されるのが、サイナスリフトとGBR(骨誘導再生療法)という治療法です。
どちらも骨量を増やすための治療法ですが、似た名前や目的のため混同される場合があります。
本記事ではサイナスリフトとGBR法の違いについて以下の点を中心にご紹介します。
- サイナスリフトとGBR法の違い
- サイナリフトとGBR法の治療の流れ
- サイナリフトとGBR法のメリット・デメリット
サイナスリフトとGBR法の違いについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
サイナスリフトとGBR(骨誘導再生療法)の違い
サイナスリフトとGBR(骨誘導再生法)は、どちらも骨量を増やすために行う治療法です。
しかし、適用部位やアプローチ方法がそれぞれ異なります。
サイナスリフトは主に上顎で行われる治療法で、インプラント治療を希望する方の奥歯部分の骨量が不足している場合に用いられます。
上顎洞(サイナス)と呼ばれる空間をリフトアップし、そのスペースに骨補填材を入れて骨量を増やします。
一方、GBR法(骨誘導再生療法)は、主に下顎の骨量を増やす目的で使用される治療法です。奥歯や前歯部分の骨の高さや量が不足している場合に適用されます。骨を増やしたい部分に骨補填材を置き、それを特殊な膜(メンブレン)で覆い、骨形成を助けます。
サイナスリフトについて
サイナスフリフトは、上顎の奥歯の骨量がかなり不足している場合に行われる骨造成手術です。
サイナスフリフトのメリットやデメリットには、どのようなものがあるでしょうか。
サイナスリフトとは
サイナスリフトは、上顎の奥歯を失った後や骨量の減少が進んでいるケースで活用されます。
上顎の奥には上顎洞(じょうがくどう)と呼ばれる空間があり、骨の厚みが5mmに満たない程薄いと、インプラントが上顎洞に侵入しやすくなります。放置すると、細菌感染や蓄膿症を引き起こす可能性があります。そのためサイナスリフトを行い、インプラントを安定して設置できる環境を整える必要があります。
サイナスリフトの治療では、上顎洞の粘膜を慎重に持ち上げ、その下に骨補填材を移植します。補填材は患者さん自身の骨や人工骨を使用し、骨の高さと厚みを十分に確保します。
骨量が安定してからインプラントを埋め込むと、従来の骨量では対応できなかった症例にも対応できるとされています。
サイナスリフトは、上顎洞の形状や骨の厚みに応じて、オープン法やクローズ法という方法が取られます。
サイナスリフトのメリット
サイナスリフトには、以下のようなメリットがあります。
- 骨が薄くてもインプラント治療できる
上顎の骨が薄いためにインプラントが難しい方でも、サイナスリフトを行えば、インプラントが埋入できるようになります。ソケットリフト(5mm程度以上残っている場合に適応)よりも薄い骨でも対応できるのが特長です。 - 広範囲の骨造成に対応
サイナスリフトは一度の治療で広い範囲の骨を造成できるため、複数本のインプラントを計画している方に推奨されます。インプラントを複数回に分けて埋め込む必要がなくなり、治療期間の短縮が期待できます。 - 粘膜損傷のリスクを抑えられる
サイナスリフトは治療中に上顎洞の粘膜を直接確認しながら進めるため、粘膜損傷のリスクが低いとされています。上顎洞粘膜の破損を防ぎやすい設計になっているため、合併症のリスクの軽減が期待できます。
サイナスリフトのデメリット
サイナスリフトには、以下のようなデメリットがあります。
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- 体への負担が大きい
サイナスリフトは手術範囲が広くなるため、術後に痛みや腫れが出やすく、体にかかる負担が大きい点が挙げられます。歯茎の切開や骨の処置が必要となるため、術後の不快感が強く出る場合があります。 - 費用が高額
サイナスリフトは技術と時間を要する治療であるため、ほかの治療法に比べて費用が高くなる傾向があります。治療を検討する際には経済的な負担も考慮する必要があるでしょう。 - 治療期間が長い
骨量が増えるまでには3〜6ヶ月程かかり、インプラント埋入を含めるとトータルで1年程要する場合があります。すぐにインプラント治療を希望する方には、長い治療期間がデメリットに感じられることもあるでしょう。
- 体への負担が大きい
これらのデメリットを理解したうえで、医師と十分に相談し、自身の体調やライフスタイルに合った治療方法の選択が大切です。
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- サイナスリフトは負担が大きい一方で、骨量が不足している方にもインプラントの選択肢を広げられる治療法です。
サイナスリフトの流れ
サイナスリフトの流れは以下のとおりです。
麻酔
サイナスリフトは外科的な処置を伴うため、治療前に局所麻酔を行います。
手術への恐怖心や緊張が強い方には、静脈内鎮静法が併用できるクリニックもあるようです。静脈内鎮静法は、鎮静剤を点滴で投与し、半分眠ったようなリラックスした状態を作り出します。
静脈内鎮静法は、恐怖心の強い方や外科手術に慣れていない方におすすめの選択肢です。不安や緊張感を軽減し、落ち着いて手術を受けたい方は医師に相談してみましょう。
顎の骨に窓を作る
麻酔が効いていることを確認した後、インプラントを埋め込む部位の歯肉を切開し、顎の骨を露出させます。その後、上顎洞の骨に小さな開口部を作る作業に移ります。開口部を作ることで、骨補填材を挿入するためのスペースを確保します。
この手順では、上顎洞を覆っているシュナイダー膜(上顎洞粘膜)を慎重に扱うことが求められます。膜を傷つけないよう細心の注意を払いながら処置を進めて、上顎洞の機能を保ちつつ、インプラントに必要な骨の高さと厚みを確保します。この工程は、サイナスリフトのなかでも特に、精密さが求められる重要な段階です。
骨補填材を入れる
骨に開けた窓から患者さん自身の骨や人工骨などの骨補填材を丁寧に詰めていきます。必要な量をしっかりと充填した後、骨に作った窓を塞ぎ、元の歯肉を戻して縫合します。この一連の処置により、インプラントを支えるために十分な高さと厚みのある骨が形成される環境を整えます。
インプラントを埋め込む
骨補填材によって十分な高さと安定性が確保されたら、次はインプラントを埋め込みます。この段階に進むまで、3〜6ヶ月程度の期間を要します。骨量を増やし、安定させることが大切です。
インプラントを埋入する際には、骨が強固な基盤を持つよう慎重に計画を立てた上で行います。埋め込んだ後、上部構造(人工歯)を装着するために、4〜5ヶ月程の期間を設け、骨とインプラントがしっかり結合するのを待ちます。
このように、サイナスリフトによる骨造成のプロセスを経ることで、骨量が不足しているケースでもインプラント治療を受けられる可能性があります。
GBR(骨誘導再生療法)について
GBR(骨誘導再生療法)の治療法やメリットやデメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。以下で解説します。
GBR(骨誘導再生療法)とは
GBR(骨誘導再生療法)とは、主に下顎の前歯や奥歯がむし歯や外傷で歯が抜けてしまったり、歯周病などの原因で歯槽骨が痩せてしまったりして骨幅や高さが足りない場合に、インプラントを支える土台となる骨量を増やすための治療法です。
特殊な人工膜(メンブレン)やチタンメッシュを使用して骨を増やすためのスペースを確保します。
失われた骨の部分には、人工骨や患者さんの骨、他家骨(牛の骨)などを移植します。
患者さんの状態によって個人差はありますが、GBR法で十分な骨量にするには4~6ヶ月程かかります。
GBR法は、欠損した歯槽骨や顎骨を補い、インプラント治療を可能にするだけでなく、長期的にインプラントを安定させるのに必要なアプローチです。
GBR(骨誘導再生療法)のメリット
GBR(骨誘導再生療法)のメリットは以下が挙げられます。
- 骨不足でもインプラント治療を受けられる
顎の骨が足りない場合でも、GBR法を活用して骨を補えば、従来では難しいとされていたケースでも、骨の基盤を整えることでインプラント治療を受けられる可能性があります。 - 自然な見た目と機能の回復
GBR法によりインプラントを安定させると、自然な外観と噛む機能を取り戻すことが期待できます。 - インプラントの安定性を向上
骨が少ない場合、インプラントの埋入位置が限られ、安定性に影響を及ぼす可能性があります。しかしGBR法を用いることで、骨を造成して理想的な位置にインプラントを配置でき、治療後の持続性が期待できます。 - 適用範囲の広さ
GBRは顎の骨の厚みや高さを補うだけでなく、上顎や下顎などの必要な部位に骨の造成ができるとされています。さまざまなケースに柔軟に対応できる治療法です。
GBR(骨誘導再生療法)のデメリット
どの治療法にもいえることですが、GBR(骨誘導再生療法)にも、いくつかのデメリットが伴います。
- 治療期間が長い
骨が十分に増えるまでには3~12ヶ月程の時間を要するため、治療全体の期間が長くなる可能性があります。
サイナスリフトと同様、早期にインプラントを希望する患者さんにとっては、負担に感じる場合があります。 - 術後の痛みや腫れ
治療には歯茎の切開や骨の採取といった外科的な処置が必要なため、術後に腫れや痛みが生じる可能性があります。
麻酔を使用するため手術中の痛みは少ないといわれていますが、術後3~7日程、不快感を感じる場合があります。
痛みや不快感が長引く場合は、早めに担当の歯科医師に相談しましょう。 - 感染リスク
骨補填材を使用したり自家骨を採取したりする過程では、細菌感染のリスクが伴います。感染が起こると、炎症が骨や歯肉に広がり、さらなる治療が必要になる場合があります。 - 費用が高額
GBR(骨誘導再生療法)は保険適用外のため、治療費が高額になりやすい点もデメリットです。
治療費の相場は5~10万円程ですが、インプラント手術を含めると総額で35~50万円程かかる可能性があります。
GBR(骨誘導再生療法)の流れ
GBR(骨誘導再生療法)の治療の流れは、以下のとおりです。
自家骨を採取する
骨造成において、自家骨(患者さん自身の骨)の採取が必要です。 採取部位は、主に下顎の先端(オトガイ部)や奥歯の外側にある下顎枝が多いようです。骨の質が似ていることから、これらの部位が選ばれるといわれています。
採取した骨は、インプラント治療やGBR(骨再生誘導法)で使用される前に、専用の粉砕器「ボーンミル」を使って細かく加工されます。インプラント埋入と骨造成を同時に行う場合は、あらかじめ骨を粉砕しておくことで、効率的な治療につながります。
クリニックによっては、自家骨ではなくリン酸カルシウムでできた人工骨や、牛由来の骨補填材が使用されることもあります。
また、自家骨の使用をできるだけ抑えるために、カルシウムのリン酸の部分の粉末を加圧して、骨の組織と一体化させることもあります。
インプラント体を埋入する
インプラント治療では、まず歯肉を切開して顎の骨を露出させ、その骨にインプラント体を埋め込みます。骨の厚みや高さが十分にある場合は、インプラント体がしっかりと骨に収まります。
しかし、GBR(骨再生誘導法)が必要な場合は、骨量が不足しているため、インプラント体の一部が骨から露出する状態になる可能性があります。そのため、適切な骨造成を施して、インプラント体を安定させるための土台を整えます。
自家骨または骨補填材を充填
インプラント治療で骨造成を行う際には、骨の不足部分に自家骨や骨補填材を充填します。その後、骨の形成を妨げる繊維芽細胞の侵入を防ぐため、メンブレン(人工膜)で骨補填材を覆います。
骨量の不足が軽度の場合には、自然に体内で吸収されるメンブレンが使用されることが多いようです。
一方で、骨欠損が大きく、大量の骨造成が必要な場合には、耐久性のよいチタン製の非吸収性メンブレンが用いられます。その場合、インプラントの定着後にメンブレンを取り除く手術が必要です。
インプラントが骨から露出している場合は、その支柱部分を利用して骨補填材をしっかりと固定し、効率的な骨造成を促します。このプロセスは、インプラントを安定させ、長期的な機能性を確保するために重要です。
歯肉を縫合する
骨補填材や自家骨をメンブレンでしっかりと覆った後、切開した歯肉を縫い合わせて閉じます。縫合後は、歯槽骨が再生し、インプラント体がしっかりと骨と結合するのを待つ期間に入ります。個人差がありますが、3ヶ月〜1年程かかることが多いようです。
この間、インプラントと骨の結合を助けるために、患部に強い力や刺激が加わらないよう注意することが大切です。適切に管理をすれば、骨量が十分に増え、インプラントが安定した土台を作ることができるでしょう。
上部構造を装着する
インプラントが骨にしっかり固定されたことを確認した後、最終段階として上部構造を装着します。
まず、埋入したインプラントの上に、アバットメントと呼ばれる連結部品を取り付けます。これは、上部構造を支える役割を果たします。
その後、アバットメントの上に上部構造を装着し、機能的かつ見た目にも自然な仕上がりを目指します。
治療中に非吸収性のメンブレンを使用していた場合は、このタイミングでメンブレンを除去します。
上部構造を装着すると、噛む機能が回復し、快適な日常生活が再び送れるようになります。
まとめ
ここまでサイナスリフトとGBR(骨誘導再生法)の違いについてお伝えしてきました。 サイナスリフトとGBR法の違いの要点をまとめると以下のとおりです。
- サイナスリフトとGBR法は、どちらも骨を増やすために行う治療法だが、適用部位やアプローチ方法が異なる。サイナスリフトは主に上顎の奥歯部分の骨量が不足している場合に行われる治療法で、GBR法は、主に下顎の奥歯や前歯部分の骨の高さや量が不足している場合に適用される
- サイナスリフトのメリットは、骨が薄い場合でも治療でき、粘膜損傷のリスクを抑えられる、広範囲の骨造成に対応できる点。デメリットは体への負担が大きい、費用が高額、治療期間が長いことが挙げられる
- GBR(骨誘導再生法)のメリットは、自然な見た目と機能の回復が期待できる、インプラントの安定性の向上が挙げられる。デメリットは治療期間が長いこと、術後の痛みや腫れを引き起こす可能性があることなどが挙げられる
サイナスリフトとGBR(骨誘導再生法)は、どちらも骨造成を目的とした治療法ですが、それぞれ適用される部位や手法が異なります。 どちらの方法がよいのかは、患者さんの骨の状態や治療の目的に応じて歯科医院の判断によって決まります。しっかりカウンセリングを受け、自身に合うインプラント治療法を選びましょう。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。