インプラント治療は、失われた歯を補う最先端の治療法の1つです。そして、このインプラント治療において重要な役割を果たすのが、「アクセスホール」です。
この記事では、インプラントのアクセスホールとは何か、そしてスクリュー固定とセメント固定という2つの固定方法の特徴について解説します。
この記事が、インプラント治療を検討している方、またはこの分野に興味をもつ方々にとって、判断の材料として役立てば幸いです。
インプラントのアクセスホールとは?
インプラントのアクセスホールとは、人工の歯とインプラントをネジで接続するために、人工の歯に開ける穴のことを指します。
インプラント治療を行う場合、インプラント本体を歯茎に埋め込んだ後に、人工の歯を取り付けることで、失われた歯の代わりとします。
その人工歯にアクセスホールといわれる穴を開けることで、その穴にネジを挿入し、インプラント本体と人工歯を繋ぎ止められるようになるのです。
このように、アクセスホールはインプラント治療において重要な役割を担っています。
インプラントの固定方法
インプラント本体に人工歯を固定させるための方法には以下の2つの種類があります。
- スクリュー固定
- セメント固定
ここでは、スクリュー固定とセメント固定の方法について解説をしましょう。
スクリュー固定
スクリュー固定は、インプラントと上部構造である人工歯を直接ネジで固定する方法です。
スクリューはネジのことを指しており、インプラント体にこのスクリューを挿入するためのアクセスホールといわれる穴を開けます。
そのアクセスホールにチタン合金で作られたスクリュー(ネジ)を挿入して、インプラントを固定させます。
スクリュー固定の場合、このスクリュー(ネジ)を緩めることで人工歯を取り外せる点が特徴的です。
スクリュー固定では取り外しができ、やり直しが行いやすいため、スクリュー固定が治療の方法のファーストチョイスになりやすいとされています。
セメント固定
もう1つの固定の方法がセメント固定です。
セメント固定では、インプラントとアバットメントをスクリュー(ネジ)で固定した後に、セメントを用いて固定させます。
このセメント固定の特徴は、一度固定させると取り外すことができない点です。
セメント構造ではセメントでくっつけてしまうため、歯科医師であってもインプラントを取り外せなくなります。
そのため、スクリュー固定が難しい場合に選ばれることが多い固定方法とされています。
また、セメント固定の場合、セメントを用いることによって生じるリスクに注意が必要です。
通常、インプラント本体と人工歯を接着させる場所は、歯肉の中にあります。
そのため、人工歯にセメントを入れ、インプラント本体と繋げた際にどうしてもセメントが歯肉に流れ込んでしまうのです。
この歯肉に流れ込んだセメントを完全に除去することはできないため、インプラント周囲炎といわれる歯槽膿漏のような症状が生じる場合があります。
スクリュー固定の特徴
インプラントの固定方法にはスクリュー固定とセメント固定の2つの方法がありますが、それぞれ異なる特徴を持っています。
2つの固定方法のうち、スクリュー固定がもつ特徴は以下の4つです。
- アクセスホールを開けてスクリューを挿入する
- 人工歯を外せる
- メンテナンスがしやすい
- インプラント体にダメージが加わりにくい
ここでは、スクリュー固定がもつ4つの特徴について詳しく解説を行います。
アクセスホールを開けてスクリューを挿入する
スクリュー固定の1つ目の特徴は、アクセスホールを開けて、その穴にスクリュー(ネジ)を挿入することです。
インプラントを装着する際には、インプラント本体(フィクスチャー)を歯茎の中に埋め込んで、それを上部構造といわれる人工の歯を繋ぎ止める必要があります。
スクリュー固定の場合、この人工の歯にアクセスホールといわれる穴を開けて、ネジで固定を行います。
人工歯を外せる
スクリュー固定の2つ目の特徴は、人工歯を取り外せる点です。
スクリュー固定は、インプラント本体と上部構造の人工歯をネジで締めることで固定させます。
そのため、逆にネジを緩めることで人工歯を取り外すことが可能です。
こうした人工歯を取り外せるという特徴から次の3つ目の特徴が生じることにもなります。
メンテナンスがしやすい
スクリュー固定の3つ目の特徴は、メンテナンスがしやすい点です。
2つ目の特徴で述べたように、スクリュー固定で固定された人工歯は取り外しが可能となります。
そのため、人工歯を取り外してかみ合わせの再調整や清潔な状態の維持などのメンテナンスを行いやすくなり、インプラントを良い状態に保ちやすくなります。
インプラント体にダメージが加わりにくい
スクリュー固定の4つ目の特徴が、インプラント体にダメージが伝わりにくいという点です。
日常生活の中で、かみ合わせが乱れたり、歯ぎしりや食いしばりをしたりすることでインプラント体に大きな力が加わることがあります。
本物の歯の場合、歯根と顎の骨の間にある歯根膜という衝撃を和らげるクッションのような働きをもつ膜が存在しています。
それに対して、インプラントではそうした歯根膜がないため、歯を食いしばったり噛んだりした際の衝撃が直接的にインプラントに伝わってしまいかねません。
しかし、スクリュー固定では咬み合わせや歯ぎしりなどによってインプラント本体に過剰な負荷がかかると、スクリューが緩んで外れることがあります。
それによって、インプラント本体に直接力が加わりにくくなり、負荷が軽減されることになります。
セメント固定の特徴
インプラントを固定するもう1つの方法であるセメント固定がもつ特徴は以下の通りです。
- アバットメントの上に人工歯をセメントで固定する
- 審美性が高い
- 人工歯を意図的に外せない
- 力が加わったときに外れてしまうことがある
- インプラント体に負担がかかりやすい
ここでは、セメント固定がもつ5つの特徴について詳しく解説をします。
アバットメントの上に人工歯をセメントで固定する
セメント固定がもつ第1の特徴は、アバットメントの上に人工歯をセメントで固定するという点です。
スクリュー固定では、人工歯に穴を開け、その穴にスクリュー(ネジ)を挿入してインプラント本体と人工歯を固定させていました。
それに対して、セメント固定ではインプラント本体にアバットメントという部品をネジで止めた後、そのアバットメントと人工歯をセメントで繋ぐという作業を行います。
審美性が高い
セメント固定の第2の特徴は、審美性が高いという点です。
スクリュー固定の場合、人工歯にアクセスホールというスクリュー(ネジ)を挿入するための穴を空ける必要がありました。
そのため、その穴の位置によっては会話や食事などで口を開けた際に、穴が見えてしまう可能性があります。
それに対して、セメント固定の場合、人工歯に穴を空ける必要はありません。そのため、セメント固定の方が自然な歯に見えやすいという特徴があります。
人工歯を意図的に外せない
セメント固定の第3の特徴は、人工歯を意図的に外せないという点です。セメント固定は、セメントでインプラント本体と人工歯を固定させてしまっています。
そのため、セメント固定では、人工歯を意図的に取り外すことができません。
力が加わった時に外れてしまうことがある
セメント固定では、人工歯は意図的に外せませんが、不意に外れてしまう場合がある点には注意が必要です。
例えば、セメント固定に使用したセメントが劣化したり、歯ぎしり・食いしばりなどによって人工歯に力が加わることで人工歯が外れてしまうことがあります。
また、噛み合わせがうまく噛み合っていない場合にも、人工歯が外れてしまうことがあります。
人工歯が外れてしまった際には、すぐに担当の歯科医に相談し、可能な限り早い対応をしましょう。
その際は、人工歯を無くさず保管し、どのような状況でいつ外れてしまったのかや口の状況について担当の歯科医に伝えるようにしましょう。
また、細菌感染を防ぐためにも、人工歯が外れた箇所をむやみに触らないようにすることも重要です。
インプラント体に負担がかかりやすい
セメント固定がもつ5つ目の特徴は、インプラント体に負担がかかりやすい点です。
スクリュー固定では、スクリュー(ネジ)が緩衝材のような役割を果たすことで、インプラント体に伝わる衝撃を和らげることが可能でした。
しかし、セメント固定ではそうした緩衝材の役割を果たすものがありません。そのため、人工歯に加わる力がそのままインプラント体にも伝わってしまいます。
そのため、セメント固定はスクリュー固定と比較して、インプラント体に負担がかかりやすい固定方法です。
アクセスホールを目立たなくする方法は?
スクリュー固定の特徴の1つに、アクセスホールという穴を開けて、スクリュー(ネジ)を挿入するというものがありました。
スクリュー固定では、このアクセスホールという穴を開ける必要があるため、口を開けた際にその穴が見えてしまうという可能性があります。
それゆえに、穴を開けないセメント固定と比較して、審美性に劣りやすいというデメリットがあります。
しかし、そうした審美性に劣るというデメリットを補うために、アクセスホールを目立たなくすることも可能です。
ここでは、スクリュー固定を行う際に生じるアクセスホールを目立たなくさせる方法について解説を行います。
レジンで埋める
アクセスホールを目立たなくさせる方法として、レジンで埋めるという方法があります。
このレジンは、天然歯に近い色味を持ったプラスチック製の歯の修復に用いられる材料です。むし歯の治療の際に用いられる歯の色の詰め物をイメージすれば理解しやすいでしょう。
アクセスホールをこのレジンで埋めることで、歯に穴が空いていることを周囲に気づかれにくくなる効果があります。
レジンは経年劣化を起こす
アクセスホールをレジンで埋めることで、スクリュー固定のデメリットである審美性を補える一方で、レジンは経年劣化を起こすという問題にも注意が必要です。
レジンはプラスチック製であるため、変色しやすいという特徴があります。そのため、時間が経過するに伴って、変色してしまいかねません。
また、長期間使用し続けることですり減ってしまい、噛み合わせに悪影響が生じる可能性もあります。
このように、レジンでアクセスホールを埋めることは見た目を良くするといったメリットがある一方で、変色やすり減ってしまうなどの経年劣化が生じてしまいます。
そうした劣化が見られた場合には、担当の歯科医に相談をしましょう。
レジンは簡単に交換することが可能であるため、歯科医に相談をすることで、変色やすり減ってしまって噛み合わせが悪くなっているなどの問題を解決できます。
インプラント治療の流れ
インプラント治療には主に以下の4つのステップがあります。
- 治療診断と治療計画
- インプラント手術
- 人工歯の取り付け
- メンテナンス
インプラント治療を行う際の最初のステップは治療診断と治療計画です。治療を行う前に、レントゲンやCTを取り、治療の方針や計画を立てます。
この最初のステップで、治療期間・費用・リスクなど治療に関する説明が行われることが一般的です。
2つ目のステップは、インプラント手術です。
治療計画に基づいて、歯茎の内部にインプラントを埋め込む手術を行います。このインプラント手術は1時間程度で終わることが多いです。ただし、埋め込む本数によっては、2〜5時間程度かかる場合もあります。
通常、埋め込んだインプラントが顎の骨にくっつくまで3〜6ヶ月程度の期間が必要です。
その後、インプラントの頭部分を歯肉の上に出すための、2回目の手術を行う場合があります。
3つ目のステップは、人工歯の取り付けです。
インプラント本体と人工歯をスクリュー固定やセメント固定などの方法によって、繋ぎます。
最後のステップはメンテナンスです。
インプラント治療は埋め込みが完了すれば、それで終わりというわけではありません。正しいホームケアを行うとともに、インプラントのメンテナンスが必要となります。
スクリュー固定を行い、アクセスホールを目立たなくさせるためにレジンを用いた場合、そのレジンの経年劣化は免れません。
また、セメント固定を行った場合でも、セメントが原因でインプラント周囲炎の危険性もあります。
こうした理由から、半年に1回程度は定期検診を受けるようにしましょう。
まとめ
失われた歯を補うためのインプラント治療を行い、スクリュー固定によってインプラントと人工歯を繋いだ場合、アクセスホールといわれる穴を開ける必要があります。
しかし、そのアクセスホールは人工歯に開いた穴であるため、周囲からその穴が目立ってしまうデメリットもあります。
レジンを使ってアクセスホールを目立たなくさせる方法もありますが、レジンは経年劣化することには注意が必要です。
そのため、半年に1回程度は定期検診を受けて、インプラントのメンテナンスを行うようにしましょう。
参考文献