インプラント

歯が抜けたときに放置してはいけない理由とは? 機能や見た目、生活への影響と治療方法について解説

歯が抜けたときに放置してはいけない理由とは? 機能や見た目、生活への影響と治療方法について解説

転んだときに前歯を強くぶつけた。野球のプレー中にボールが口元を直撃した。このような外傷を受けたときに歯が抜けることがあります。私たちの歯は生え変わることがなく、一生涯使い続けていくものなので、歯が抜けたときは焦って気が動転してしまうかもしれません。受傷の仕方によっては、歯が抜ける以外の症状も現れることがあるため、まずは落ち着いて適切に対処する必要があります。ここでは歯が抜けたときの応急処置方法やそのままの状態で放置してはいけない理由、歯科医院での治療方法などを詳しく解説します。

歯が抜けたときの処置について

歯が抜けたときの処置について はじめに、歯が抜けたときの対処法を解説します。

歯が抜けたときの応急処置方法

何らかのトラブルで歯が抜けたときの応急的な対処法は、以下の3つです。

【対処1】傷口の状態を確認する

外傷によって歯が抜けた場合は、まず傷口の状態を鏡で確認しましょう。出血している場合には、清潔なガードなどを噛んで止血をすることが大切です。受傷した際に口腔内へと砂粒などの異物が入り込んでいたら、軽くうがいをしたうえで止血をしましょう。

【対処2】抜けた歯を捨てずに保管する

歯が丸ごと抜けた場合は、歯科医院でもとの位置に戻せる可能性があります。歯の再植(さいしょく)と呼ばれる治療法で、再植には、歯と歯が抜けた部分の状態が良好であることが前提となります。そこで重要なのが、抜けた歯を乾燥させないことです。歯の根っこには、歯根膜(しこんまく)という血管や神経で構成される軟組織が分布しており、歯根膜が乾燥すると歯の再植が不可能となってしまいます。

歯根膜は、歯ブラシでゴシゴシと磨くだけでも細胞が死滅する繊細な組織なので、歯に汚れがついていたとしても水道の水で軽く洗い流す程度にしましょう。洗浄後は牛乳もしくは、生理食塩水に浸けて保管が推奨です。

学校内であれば、ティースキーパーという専用の保存液が備蓄していることもあるので、用意がある場合は使用をしてください。もし、いずれの保存液もない場合は、抜けた歯を口腔内に含んだ状態で、歯科医院を受診することで、歯根膜の乾燥を防ぐことができます。

【対処3】できるだけ早く歯科医院を受診する

抜けた歯の再植は、受傷から30分以内の処置がひとつの目安となります。歯が抜けてから長い時間が経過する程、もとの位置に戻せる可能性が低下するため、受傷後はできるだけ早く歯科医院を受診してください。いつも通っている歯科医院が休診日であったり、すぐには対応できないと断られたりした場合は、急患を受け入れている近くの歯科医院を探すとよいでしょう。

早期に対処するべき理由

歯が抜けた状態によっては、そもそも再植が不可能なこともあります。具体的には、歯根が折れていたり、歯の神経が露出していたりする場合です。そうしたケースでも歯が抜けた場合は、早期に対処する必要があります。それは以下の理由からです。

【理由1】傷口の状態が悪くなる

歯に大きな力がかかって脱落すると、歯茎や歯槽骨にまでダメージがおよびます。傷口を放置していると細菌感染が起こるなどして、さらなるトラブルへと発展しかねないことから、早めに処置をしてもらう方がよいでしょう。

【理由2】治療の難易度が上がる

早期に対処することで、抜けた歯をもとの位置に戻したり、ブリッジや入れ歯治療を短期間で終わらせたりできるかもしれませんが、対処が遅れると治療の難易度が上がります。そのため、治療期間が長くなり、費用も高くなるリスクがあるので、受傷後は早期に対処するようにしましょう。

歯が抜けた状態を放置することによる口腔環境への影響

歯が抜けた状態を放置することによる口腔環境への影響 歯が脱落した状態で治療せずに放置していると、口腔環境にさまざまな影響があります。ここでは代表的な4つの影響を紹介します。

歯並びや噛み合わせの悪化

歯並びや噛み合わせは、すべての歯がそろった状態で安定します。そのため、1本でも歯を喪失すると、歯並びや噛み合わせは不安定となり、徐々に乱れていきます。はじめは欠損部の両隣の歯が、抜けた歯のスペースに倒れ込んでしまいます。噛み合っていた歯も、スペースに向かって伸びていきます。次第に、隣の歯も同様に傾いてしまい、ドミノ倒しのように波及していき、歯並びや噛み合わせが全体的に悪化していくのです。

歯並びや噛み合わせの悪化は徐々に進行していくため、患者さんは自覚しにくいとされています。放置しておくと、口腔機能を大きく低下させる要因となるため、注意しなければならない症状といえます。

悪化した歯並びや噛み合わせを改善するためには、数十万から百万円程度の費用を支払って、数年におよぶ歯列矯正を受けなければならなくなることも忘れてはいけません。

むし歯や口臭リスクの増加

歯が抜けると、歯列内に大きなスペースが生じるため、歯磨きしやすくなると思う方もいるかもしれませんが、実際はその逆です。歯列内に不要なスペースがあると、歯ブラシを行き届かせることが難しくなり、口腔衛生状態が悪化します。

歯が抜けた状態を放置していると歯並びが悪くなってしまうので、歯磨きによる磨き残しが増えて、歯垢や歯石がたまりやすくなります。その結果、むし歯や歯周病、口臭のリスクも高まります。

見た目への影響

失った歯を放置して実感するのは、見た目への影響です。特に前歯が抜けたケースでは、口元の審美性が顕著に低下してしまいます。口元あるいは顔の印象というのは、歯の色や形、歯並びなどによって大きく左右されるため、歯が1本でも抜けている状態は、顔の印象も大きく変化してしまうでしょう。

奥歯が抜けた場合は、審美面に大きな影響はありませんが、口を大きく開けたり、笑ったりするときには気になってしまいます。そのため、人と話すときは口元を隠すようになってしまう方も少なくありません。

発音への影響

歯が抜けていると正しく発音できなくなってしまいます。特定の音では、舌や唇が歯に接触することで発音できるようになります。サ行やタ行、ラ行の発音がしにくく滑舌が悪くなる原因にもなりえます。

歯が抜けたまま放置することによる生活への影響

歯が抜けたまま放置することによる生活への影響 歯が抜けたまま放置すると、口腔環境に加えて生活にも影響があります。

生活習慣病との関連

歯が抜けたまま放置することは、生活習慣病のリスクを高めてしまいます。

抜けた歯を放置していると、口腔衛生状態が悪化して、歯周病の発症リスクが高まります。歯周病は、歯茎や歯槽骨が破壊される口腔疾患ではあるものの、重症化することで歯周病菌が全身へと巡り、糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞などのリスクを上昇させるのです。

歯を失うことで咀嚼機能が低下して、摂取できる栄養素に偏りが生じます。その結果、糖尿病や高血圧症のリスクを高めることにつながります。

認知症リスクとの関連

失った歯の本数が増える程、認知症リスクが高まることがわかっています。

歯がない部分があると咀嚼機能が低下して、食事の際に噛む回数が減ってしまいます。噛む回数が減ることで、脳への刺激も低下してしまい認知機能にも影響がでます。

健康な歯並びと噛み合わせで食べ物をしっかりと咀嚼することは、記憶や思考といった認知機能の維持することにも寄与していることを知っておきましょう。

胃腸への負担が増える

咀嚼機能が低下して、食べ物をしっかり噛めなくなると、十分に咀嚼しきる前に食べ物を飲み込むようになります。その結果、食べ物の原型に近いまま消化器官に入ってくるので、胃や腸での分解機能に負担がかかります。慢性的に、胃腸に大きな負担がかかり、栄養素を十分に吸収できなくなると、全身の健康状態は悪化していきます。

歯が抜けたときの治療

歯が抜けたときの治療 歯が抜けたときの治療法について解説します。現状、抜けた歯の治療法としては、インプラント・ブリッジ・入れ歯・矯正治療の4種類が選択肢として用意されています。

インプラント

◆インプラントの治療方法

インプラントは、歯が抜けた部分にチタン製の人工歯根(フィクスチャー)を埋め込む治療法です。抜けた歯を歯根から回復できる歯科治療は、インプラントしかありません。人工歯根を埋め込んだ後は、アバットメントと呼ばれる連結装置を取り付けて、セラミックなどで作られた上部構造(人工歯)を装着します。

◆インプラントのメリット・デメリット

◎インプラントのメリット

・本物の歯のようにしっかり噛める
インプラントには人工歯根があるため、硬い食べものや弾力性の高い食べものでもしっかり噛むことができます。インプラントでの噛み心地は天然歯に近いものといわれています。

・見た目が自然で美しい
インプラントは、人工歯根と上部構造のパーツから構成されており、その構造は天然歯とほぼ同じです。余計なパーツが付属していないことから、見た目が自然で美しいです。

・顎の骨が痩せにくい
噛んだときの力を人工歯根でしっかり受け止められるインプラントは、顎の骨の吸収が起こりにくいです。ブリッジや入れ歯にはないメリットといえます。

・装置の寿命が長い
インプラントは、少なくとも10年以上は持つといわれています。治療後のメンテナンスを定期的に受け、正しいセルフケアを実施していれば、15年、20年と使い続けていくことも難しくないでしょう。

・違和感や異物感が少ない
インプラント治療では、天然歯とほぼ同じ状態に回復できることから、装着後の違和感や異物感はほとんどありません。発音障害が現れることもほとんどありません。

◎インプラントのデメリット

・外科手術が必要
人工歯根を埋め込むための外科手術が必須となります。

・治療期間が長い
人工歯根と顎の骨が結合するオッセオインテグレーションには、数ヵ月の治療期間が必要です。そのためインプラント治療は、半年近い期間を要するのが一般的です。

・費用が高い
インプラント治療には原則として保険が適用されません。また、使用する材料や必要となる機材は高額であることから、インプラントはその他の治療法よりも費用が高くなります。

ブリッジ

◆ブリッジの治療方法

ブリッジは、歯が抜けた部分にポンティックと呼ばれる歯冠だけの人工歯を配置して、その両隣の歯に同様の人工歯を被せる治療法です。人工歯が複数連結された装置を残った歯に被せる治療法となります。

◆ブリッジのメリット・デメリット

◎ブリッジのメリット

・保険が適用される
ブリッジには、保険が適用されるため、抜けた歯の治療費を安く抑えられます。

・治療期間が短い
ブリッジの治療は、1ヵ月程度で終わるのが一般的です。

・外科手術が必要ない
ブリッジの治療では、支えとなる歯を削る必要はありますが、インプラントのような外科手術は不要です。

・残った歯にしっかり固定できる
ブリッジは、固定式の装置であることから、安定性が高く、見た目も入れ歯よりは自然です。

◎ブリッジのデメリット

・健康な歯を大きく削る必要がある
ブリッジのデメリットは、支えとなる歯を大きく削らなければならない点です。

・顎の骨が痩せていく
欠損部に配置されるのは歯冠だけの人工歯なので、顎の骨は徐々に痩せていきます。

・適応範囲が狭い
ブリッジは、1〜3本程度の歯の欠損に適した治療法なので、それ以上の歯が失われた症例では、インプラントや入れ歯が適しています。

入れ歯

◆入れ歯の治療方法

歯がない部分に、人工歯と義歯床(ぎししょう)、留め具であるクラスプから構成される装置を装着する治療法です。患者さん自身で自由に着脱できます。

◆入れ歯のメリット・デメリット

◎入れ歯のメリット

・歯を大きく削る必要がない
・外科手術が必要ない
・治療期間が短い
・保険が適用される
・壊れたときの修理がしやすい
・取り外してケアできる
・適応範囲が広い

◎入れ歯のデメリット

・見た目が不自然
入れ歯には、金属製のクラスプや面積の広い義歯床などが付随することから、見た目が不自然になりやすいです。

・安定性が低い
入れ歯は、食事や会話のときにズレたり、外れたりしやすいです。

・装着感がよくない
入れ歯の設計や形態はとても複雑なので、装着感はあまりよくありません。装置の一部が歯や粘膜を刺激するなどの不快症状も起こりやすいです。

・顎の骨が痩せやすい
着脱式の入れ歯は、固定式のブリッジやインプラントより噛む力が弱いです。そのため、欠損部の顎の骨が痩せる現象も起こりやすくなっています。

矯正治療

◆矯正の治療方法

マルチブラケット装置やマウスピース型矯正装置を使って、歯並びを治療する方法です。歯が抜けた症例では、欠損部を埋めるような形で周りの歯を動かすことで、正常な歯並び・噛み合わせを回復できます。

◆矯正治療のメリット・デメリット

◎矯正治療のメリット

・補綴治療が必要ない
・欠損部を自然な方法で埋めることができる

◎矯正治療のデメリット

・費用が高い
・治療期間が長い
・治療に痛みを伴う
・歯が抜けた症例への適応は限定的

まとめ

今回は、歯が抜けたときに放置してはいけない理由や機能面、審美面、生活面への影響について解説しました。歯が抜けた状態を放置していると、歯並びや噛み合わせが悪くなったり、むし歯や歯周病リスクが高くなったりするため、できるだけ早く治療した方がよいといえます。抜けた歯の治療法としては、インプラント・ブリッジ・入れ歯の3種類がありますので、自分に合ったものを慎重に選ぶことが大切です。

参考文献

この記事の監修歯科医師
竹本 竜太朗医師(北海道大学病院歯科診療センター(歯科矯正科) 大学院生)

竹本 竜太朗医師(北海道大学病院歯科診療センター(歯科矯正科) 大学院生)

北海道大学歯学部 卒業 / 現在は北海道大学病院歯科診療センター勤務 / 専門は歯科矯正科

記事をもっと見る

RELATED

PAGE TOP

電話コンシェルジュ専用番号

電話コンシェルジュで地域の名医を紹介します。

受付時間 平日:9時~18時
お電話でご案内できます!
0120-022-340