私たちの歯は、食べものを噛むためだけに存在しているのではありません。歯は、咀嚼以外にも嚥下、呼吸、発音といった機能にも深く関与しています。そのため、歯がないと発音に悪影響が生じることがあります。ここではそんな歯がないことで発音や滑舌が悪くなる理由、治療方法や歯科医院選びのポイントなどを詳しく解説します。歯がないことで発音障害に悩まされる方は、このコラムの内容を参考にしてみてください。
歯を失った場合の発音への影響
はじめに、歯を失った場合の発音への影響について解説します。
- 歯と発音の関係について教えてください。
- 歯と発音には密接な関わりがあります。舌や唇が歯に接触することで発声するものもあるため、歯を失うと発音に障害がでてきます。
◎歯音(しおん)
歯音とは、サ・ザ・ツなど、歯との関連が深い音を指します。具体的には、上の前歯の裏側と舌の先で調音される子音で、歯を失った場合に大きな影響を受けやすくなっています。発音や滑舌でサ行が発音しにくいと言われるのもこれにあたります。
◎歯茎音(しけいおん)
歯茎音とは、タ・ダ・ナ・ラなど、歯茎との関連が深い音を指します。歯茎から硬口蓋の粘膜と舌が接触することで調音される子音で、これも歯を失った場合、間接的ではあるものの、発音に悪影響を受けやすくなります。
- 前歯や奥歯がないと発音がしづらいのはなぜですか?
- 前歯は、歯音と関連性の深い歯であることから、サ行やタ行が発音しにくくなります。具体的には、サ行やタ行、ラ行などを発音する際に、歯がないことで舌が接触する部分がなくなる、あるいは少なくなってりすることで、息が漏れて歯音がひずんでしまうのです。前歯がないことによる発音障害が常態化すると、前歯のすき間を舌で埋めるような悪習慣が身に付いてしまい、話し方やしゃべり方がさらに悪くなってしまうことがあります。
奥歯をなくした場合は、息漏れによる発音への影響が主な症状として現れます。キ・シ・チなどの発音が特に影響を受けます。前歯の方が発音への影響は大きいですが、奥歯をなくした場合にも発音障害が現れやすいとされています。
- 発音しづらいことでどのような問題が起こりますか?
- 発音がしづらくなると、自分に自信がなくなる、人との会話が成り立たなくなるといった問題が起こりえます。
◎自信の減少
誰かと話すときに、サ行やタ行、ラ行だけ発音が悪くなるのが恥ずかしいと感じる方もいます。普通の人のようにスムーズに発音できないことにコンプレックスを感じてしまうかもしれません。学校や職場、地域のコミュニティなど、不特定多数の人と接する機会がある場合は、発音しづらいことをネガティブにとらえてしまうこともあるでしょう。
◎会話が成り立たない
失った歯の部位や本数によっては、会話が成り立たない程の発音障害が現れることもあります。仕事や知人とのコミュニケーションに支障をきたすこともあるでしょう。高齢の方の場合は、他人との接触を避けて、自宅に引き込もるようになるケースも少なくありません。心身にとても悪い影響を与えてしまいます。
歯がないことで起こる発音以外の影響
次に、歯がないことによる発音障害以外の影響について解説します。
- 歯がないことで見た目に悪影響はおよびますか?
- 前歯を失った場合は、審美的な問題が顕著に現れます。前歯の形や大きさ、色などは口元の美しさを大きく左右する要素となっています。ほかの人からすると、前歯の欠損部を見て「なぜ前歯を失ったのだろう?」「どうして前歯を治療しないの?」といった疑問を抱く人もいるでしょう。
- うまく噛めないことのリスクについて教えてください。
- 前歯は、食べものを噛み切る役割を担っているため、失ってしまうと食べ物を咀嚼しにくくなります。例えば、うどんを奥歯だけで食べようとすると、咀嚼にかなりの時間を要するだけでなく、奥歯に過剰な負担がかかってしまいます。
奥歯は食べ物をすりつぶす役割を担っている歯なので、失ってしまうと前歯以上に咀嚼への悪影響が大きくなります。食べ物を噛み砕いてすり潰すことができないため、食べ物を消化する胃や腸に負担がかかってしまいます。
歯がなくてうまく発音できないときの治療方法
続いて、歯がないことによる発音問題の解決方法を紹介します。
- 歯を失ったときの治療方法は何がありますか?
- 欠けた歯の治療法としては、ブリッジや入れ歯、インプラント、矯正治療の4つが挙げられます。
◎ブリッジ
失った歯の両隣の歯を支えとして、人工歯が複数、連結された装置を装着する方法です。
◎入れ歯
人工歯と義歯床(プレート)、留め具であるクラスプからなる着脱式の装置です。
◎インプラント
欠損部にチタン製の人工歯根を埋め込んで、人工歯を被せる治療法です。
◎矯正治療
矯正装置を使って歯を動かす治療法です。欠損部を埋めるような形で歯を動かせれば、上述した補綴治療を行わずに済みます。
- ブリッジ治療のメリットとデメリットについて教えてください
- ブリッジは、残った歯に装置を固定することから、安定性が高く、食べ物をしっかり噛むことができます。見た目も自然で、発音に障害が現れることもほとんどありません。ただし、ブリッジでは支えとなる歯を大きく削らなければならないことから、残存歯の寿命が縮まるというデメリットも伴います。
- 入れ歯治療はどのような方におすすめですか?
- 失った歯の治療で残った歯を大きく削りたくない、外科手術を受けたくないという方には、入れ歯治療がおすすめです。入れ歯は、残った歯や粘膜にはめこむような形で装着するため、外科的な処置や手術が不要です。装置が壊れた際の修理もしやすく、費用も安いというメリットがあります。
- インプラントのメリット・デメリットを教えてください
- インプラントは、失った歯を歯根から修復できる方法です。しっかりとした人工の歯根に上部構造を被せていると、見た目の美しさや食べ物の噛みやすさを取り戻すことができます。噛んだときの力を人工歯根と顎の骨で受けとめられることから、顎の骨が痩せにくいというメリットも伴います。装置の寿命もブリッジや入れ歯より長いのですが、保険が適用されないので費用も高額になるデメリットがあります。1本あたり30〜50万円程度の費用がかかるため、経済面を重視する場合は、ブリッジや入れ歯を選択した方がよいでしょう。
歯がなくてうまく発音できないときの歯科医院選びについて
歯科医院選びについてポイントを解説します。
- 歯がない人の歯科医院選びにおすすめの方法はありますか?
- 歯がない人が歯科医院を選ぶ際には、次に2点に着目するとよいでしょう。
◎個室の治療室がある
歯がない人は、その状態を恥ずかしいと感じているケースが少なくありません。そのため、ユニットが横一列に並んでいる歯科医院だと、隣の話し声が聞こえたりして治療が受けにくいと感じることもあります。個室の治療室がある歯科医院では、プライバシーも確保されているため、周りの目を気にする方にはおすすめです。
◎インプラントに対応している
失った歯の治療法として、ブリッジと入れ歯に加えてインプラントにも対応している歯科医院なら、自分に適した方法を選びやすくなります。特に審美性や機能性を追求する場合は、インプラントが適しています。
治療の幅広い選択肢を有する歯科医院を受診することで、自分にあった治療方法を選ぶことができます。
- 治療の痛みに配慮している歯科医院の探し方についても教えてください
- 歯科医院のホームページから痛みに配慮した治療に力を入れているのか事前に確認しましょう。具体的には、電動麻酔器やカートリッジウォーマーなどを活用しているか、痛みの少ない麻酔処置や治療に伴う不安感、恐怖心を軽減できる静脈内鎮静法に対応しているかなどを、確認してみましょう。ホームページだけではわからない場合は、直接クリニックに問い合わせるのもおすすめです。
編集部まとめ
今回は、歯がないと発音に悪影響が生じる理由と治療方法、信頼できる歯科医院を選ぶポイントなどを解説しました。私たちの歯は発音にも深く関連した器官であるため、それを失うとサ行やタ行といった特定の言葉の発音が悪くなることがあります。また、歯を失った状態を放置すると、審美障害や咀嚼障害を引き起こすことから、できるだけ早期に歯科治療を受けた方がよいといえます。失った歯の治療法としては、ブリッジ・入れ歯・インプラントの3種類がありますので、自分に合った方法を見つけるためにもまずは歯科医院に相談しましょう。
参考文献