前歯の治療を考えている方にとって、インプラントやブリッジ、部分入れ歯などどのような治療を選ぶべきか悩む方も多くいます。
これらの治療にはそれぞれメリット・デメリットがあり、どれが自分に合っているのか判断するのは難しいものです。
本記事では、インプラントとブリッジ、部分入れ歯の治療の特徴について詳しく解説します。
治療を考えている方の不安や疑問を解消し、治療を前向きに進める際に役立つ内容となっていますので、ぜひご一読ください。
前歯を失ったときの治療法
前歯は見た目の印象を決定づけるだけでなく、発音や食事、さらに歯列全体のバランスに大きく関与しています。
前歯を欠損したまま放置すると、周囲の歯が移動して噛み合わせが悪化することや、顎の骨が退縮することが考えられます。
特に前歯は会話や食事の際に重要な役割を果たすため、早期の治療が求められるでしょう。
前歯の治療法としては、インプラント・ブリッジ・部分入れ歯が代表的な選択肢です。それぞれの治療法にはメリット・デメリットがあり、患者さんの口腔内の状態やライフスタイル、予算に合わせた選択が重要になります。
インプラントで前歯を治療する方法
インプラント治療は、失った歯の代わりに人工の歯根を顎の骨に埋め込み、そのうえに人工歯を取り付ける方法です。
前歯にインプラントを使用する場合、審美性に優れた治療が可能で、見た目や機能性において自然に仕上がります。
インプラント治療の流れ
インプラント治療の流れは次のとおりです。
- 術前検査
- 手術
- 人工歯の作製~装着
- メンテナンス
初めに、手術の前に必要な検査を行います。歯科用CTによる精密検査で歯の厚さや固さ、顎の状態、血管や神経の位置など詳細なデータを取ります。
この検査は、手術後の神経麻痺などのリスクを避けるためにも重要な検査です。顎の骨の状態によっては、骨造成や骨移植などの治療が必要なケースもあります。
続いて血液検査や心電図などの臨床検査を行い、むし歯の有無や噛み合わせ、歯周病の有無や歯周ポケットの状態なども確認します。
むし歯や進行した歯周病がある場合は、インプラント手術の前に治療が必要です。インプラントの手術は、1次手術後と2次手術2回に分けて行うのが一般的です。
1次手術は、歯肉と骨に小さな穴を開け、インプラントの土台部を埋め込みます。手術は局所麻酔をかけて行い、所要時間は1時間程度です。
インプラントの本数が多い場合や、不安感の強い方には静脈内鎮静法というリラックスした状態になる麻酔を使用することもあります。
インプラントと骨が結合するまでに通常3〜6ヶ月ほどかかります。その間は仮歯を入れて過ごすことも可能です。 2次手術では、局所麻酔後に歯根部上部の粘膜を切除し、アバットメントといわれる接合部の連結を行います。
2次手術による傷が治癒した後、人工歯を入れるための型取りを行います。完成した人工歯を装着し、噛み合わせの調整を行い、治療終了です。
治療後はインプラントを良好に保つためにほかの歯と同様に日常的なセルフケアが大切です。また、メンテナンスなど3〜6ヶ月に1回程度の定期的な通院が必要となります。
インプラントの仕組み
インプラントは、人工歯根(インプラント体)と人工歯、それらの接続部分となるアバットメントといわれる3つの組み合わせで成り立っています。
人工歯根や接続部に用いる金属は顎の骨と結合しやすく、アレルギーリスクの低い金属であるチタンが多く使用されています。
チタンは軽くて頑丈な性質があり、食べ物を噛む際の圧力にも耐えられるため、自分の歯に近い機能を持つことができるのです。
インプラント治療のメリット・デメリット
インプラントのメリットは、見た目が自然で審美性に優れており、周囲の歯に負担をかけない点です。口腔内全体の健康を維持できることも利点です。
また、噛み合わせや発音に問題が生じにくく、食事や会話を快適に楽しむことができます。デメリットとしては、治療に時間がかかることや、外科手術が必要であることです。
また、治療費が高額になる場合があります。歯の状態によっては適応できない場合もあるため注意が必要です。
インプラントで前歯を治療する際の費用
インプラント治療は保険適用外であることが多く、費用は高額になります。
インプラント治療にかかる費用の相場は、1本あたり350,000円〜600,000円程度(税込)です。
この費用には、術前検査やインプラント体の埋入・アバットメント(接続部品)および人工歯の費用が含まれています。
顎の骨が薄い場合や、歯を失ってから時間が経ち骨が痩せてしまった場合には骨造成手術(骨再生治療)が必要になるケースがあり、この場合には追加費用がかかります。
費用は歯科医院によって異なるため、事前に確認し慎重に計画を立てることが重要です。
ブリッジで前歯を治療する方法
ブリッジ治療は、失った歯の両隣の歯を削り、橋渡しのように人工の歯を取り付ける方法です。
一般的にインプラントと比べて治療期間が短く、安価であることが特徴です。
ブリッジ治療の流れ
ブリッジ治療は以下のような手順で進められます。
- 治療前の検査
- 土台の形成
- 型取り
- ブリッジの製作~装着
- メンテナンス
初めに、欠損した歯の部分の状態や両隣の歯の健康状態、口腔内全体のバランスを確認します。必要に応じて精密な検査やむし歯・歯周病治療が先に行われることもあるでしょう。
治療は、まず欠損した歯の両隣にある歯を削り、人工歯を支える土台作りを行います。削る範囲は歯の状態によって異なります。
続いて行われるのは、人工歯や土台となる歯にかぶせるクラウンを製作するための型取りです。そして、ブリッジが完成するまでの間、削った歯を保護するために仮歯を装着します。
仮歯は見た目や機能面で一定の役割を果たしますが、耐久性が低いため過度に負担をかけないよう注意が必要です。
ブリッジを仮装着し噛み合わせやフィット感などの調整を行った後、問題がなければ接着剤でしっかり固定し、治療終了になります。
治療後はブリッジを良好に保つために、ほかの歯と同様に日常的なセルフケアが大切です。
ブリッジの仕組み
ブリッジは、欠損部を補う人工歯と、隣の歯にかぶせるクラウンで構成されています。そのため、土台となる歯として使用する隣接の歯が健康であることが重要です。
ただし、両隣の歯を削る必要があるため、健康な歯への影響を考慮する必要があります。
ブリッジ治療のメリット・デメリット
ブリッジのメリットは治療期間が短く、使用する素材にもよりますが、保険適用の治療を選択した場合は費用が安価であることです。
また、ブリッジ全体が一体化しているため固定性が高く、自然な見た目が得られます。しかし、両隣の健康な歯を削る必要や、長期間の使用による土台となっている歯への負担がかかる点がデメリットとなります。
土台となる歯の状態によってはほかの治療方法を選ぶ必要がある点にも注意が必要です。
ブリッジで前歯を治療する際の費用
一般的に保険が適用されるブリッジの場合、費用を抑えて治療を受けることができ、1本あたり20,000円から30,000円程度です。
ただし、保険適用されるのは、基本的に使用する人工歯の素材がプラスチック製の硬質レジンに限られる場合です。
保険が適用されない自由診療では、より審美性や耐久性に優れた素材が選べるため費用が高額になり、1本あたりおよそ100,000円から500,000円(税込)の費用がかかります。
自由診療となる素材ごとの特徴は以下のとおりです。
- オールセラミック製:天然歯に近い見た目と優れた耐久性を持ち、経年による劣化も少ないため、審美性が高い人工歯です。費用の目安は1本あたり150,000から400,000円(税込)です。
- ジルコニア製:セラミックよりさらに強度が高く、見た目も自然であるため、前歯治療にも適しています。費用の目安は1本あたり150,000円から500,000円(税込)です。
- メタルボンド製:内側に金属を使用し、表面をセラミックで覆ったもので、審美性と強度のバランスが取れています。費用の目安は1本あたり100,000円から250,000円(税込)です。
これらは自由診療となるため、費用は歯科医院によって異なります。費用については事前に確認するとよいでしょう。
部分入れ歯で前歯を治療する方法
部分入れ歯は、失った歯を補うために取り外し可能な人工歯を使用し、周囲の健康な歯や歯茎で支える治療方法です。
インプラントと比べると短い期間で治療ができ、費用も抑えられる特徴があります。ただし、選択する材料や治療方法、保険の適用可否によって費用は大きく異なります。
部分入れ歯の流れ
部分入れ歯の治療は以下の手順で進められます。
- 治療前の検査
- 型取り
- 部分入れ歯の製作~装着
- メンテナンス
初めに、欠損した歯の状態や残存する歯の健康状態、口腔内全体のバランスを確認します。必要に応じて精密な検査やむし歯・歯周病治療が先に行われることもあるでしょう。
治療は、まず口腔内の型取りを行い、部分入れ歯を製作します。完成前の仮の部分入れ歯を装着し、噛み合わせや装着感、見た目を確認や調整を行います。
完成した部分入れ歯を装着し、噛み合わせやフィット感を再度調整したら治療は終了です。治療後は、歯茎や残存歯への負担を軽減するためのケアや、定期的なメンテナンスが重要です。
部分入れ歯の装着後も定期的に歯科医院でフォローアップを行います。口腔内の状態が変化した場合や装着感に問題が生じた場合は、入れ歯の調整や修理を行うこともあるでしょう。
部分入れ歯の仕組み
部分入れ歯の仕組みは、人工歯やクラスプ(留め具)を支える基盤(義歯床)と人工歯、部分入れ歯を固定するために周囲の歯に引っかけるパーツである留め具で成り立っています。
取り外し可能で、使用後は清掃が必要です。
部分入れ歯のメリット・デメリット
部分入れ歯のメリットは、治療期間が短く保険適用で治療を行う場合は費用が安価な点です。
一方で、固定力が弱いため咀嚼力に劣る点や、見た目がインプラントやブリッジほど自然ではない点がデメリットといえます。
取り外しが必要で清掃しやすい利点はありますが、食べ物が挟まりやすく、異物感を感じやすい点もあります。将来歯茎が痩せていくと、作り変えが必要になることもあるでしょう。
部分入れ歯で前歯を治療する際の費用
保険が適用される部分入れ歯は、必要最低限の機能を満たしながら治療費を抑えたい方に適した選択肢です。
ただし、使用できる材料に制限があり、保険適用となる人工歯の素材はプラスチック製の硬質レジンに限られます。
また、審美性や快適さは自由診療のものに比べて劣る場合があります。治療費用は、15,000円程度と安価です。
自由診療対象の素材を選択する場合は高品質な素材を使用するため、審美性・耐久性が向上しますが、その分費用も高くなります。
自由診療となる素材ごとの特徴は以下のとおりです。
- 金属床:薄くて強度が高いため、保険適用の素材と比べると口腔中の違和感が少ないのが特徴があります。費用の目安は100,000円から300,000円(税込)です。
- チタン床:軽量で金属アレルギーの心配が少ない素材を使用しています。費用の目安は150,000円〜400,000円(税込)です。
- ノンクラスプデンチャー(留め具が目立ちにくい入れ歯):金属製の留め具を使わず目立ちにくい形で人工歯を支えるため、自然な見た目を実現します。費用の目安は100,000円〜500,000円(税込)です。
自由診療の素材を選ぶ場合は歯科医院で設定費用が異なるため、事前に確認し、慎重に選ぶことが重要です。
インプラント治療で前歯を治療する際の注意点
インプラント治療は、ブリッジや入れ歯などほかの治療に比べて審美性や噛む機能の回復に優れ、違和感が少ないという大きなメリットのある治療方法です。
しかし、治療には外科手術を伴うため、一定のリスクも存在します。
また、治療期間が長く費用も高額になるため、メリットとデメリットを含めた治療内容を十分に理解したうえで受けるかどうかを慎重に判断しましょう。
診断の重要性
インプラント治療を行うにあたっては詳細な診断が不可欠です。
特に前歯部分は骨の厚みや密度がほかの部位よりも薄いことが多いため、CTスキャンやレントゲンを用いて詳細に検査し、必要に応じて骨造成手術を計画することが重要です。
また、糖尿病や歯周病、喫煙がある場合は治療の成功率に影響を与える可能性があります。
治療のリスクを抑える対策を立てることが重要となります。
歯科医院の選び方
インプラント治療を受ける際は、信頼できる歯科医院を選ぶことが重要です。
治療経験が豊富な歯科医師がいる医院を選ぶことだけでなく、カウンセリングで治療方針を十分に理解し、納得したうえで治療を受けましょう。
治療後のアフターケアとメンテナンスの重要性
インプラントは天然の歯と比べて細菌に感染しやすい状態になることがあるため、長く使うためには、歯磨きやフロスの使用などを用いたケアを怠らないことが大切です。
定期的な検診も怠らないようにしましょう。適切にケアを行うことでインプラントの寿命を延ばし、健康な口腔状態を保つことができます。
まとめ
前歯の治療法には、インプラントやブリッジ、部分入れ歯などさまざまな選択肢があります。
それぞれにメリット・デメリットがあるため、治療を始める前にしっかりと情報収集を行いましょう。
適切な治療法を選ぶためには、歯科医とよく相談し、口腔内の状態や生活スタイルに合った方法を選択することが重要です。
治療後も適切なメンテナンスを行い、健康な口腔環境を保つよう心がけましょう。
この記事が、治療を検討している方の参考になれば幸いです。
参考文献