歯を失ったときの治療には、入れ歯、ブリッジ、インプラントなどの方法があります。なかでもブリッジとインプラントは、違和感のない見た目やしっかりと噛む機能を回復できる選択肢です。しかし、それぞれ寿命やお手入れ方法に違いがあります。
この記事では、インプラントとブリッジの寿命の目安や寿命が近づいたときのサイン、長持ちさせるためのポイントを解説します。
インプラントとブリッジの基礎知識

- インプラントとはどのような治療ですか?
- インプラント治療とは失った歯の代わりにインプラント体と呼ばれる人工の歯根を顎骨に埋め込み、その上にアバットメント(支台)と人工歯(人工歯冠)を装着する治療法です。
インプラント治療は顎骨に直接インプラント体を埋め込むため、欠損した周囲の歯に負担をかけません。装着時の違和感が少なく、噛む力が直接骨に伝わるため、自分の歯と同じような感覚で噛むことができます。
また、天然の歯と同じ色調で作られた人工歯冠を装着すると、見た目には天然の歯と区別がつきにくく、自然な見た目を取り戻すことも可能です。
参照:『口腔インプラント治療指針2024』(公益社団法人日本口腔インプラント学会)
- ブリッジについて教えてください
- ブリッジとは歯を1本または2本連続して失った場合に、隣接する歯を支えとして橋をかけるように人工歯を装着する治療法です。支えとなる歯(支台歯)を削って装置を取り付け、人工歯と連結させることで噛む力や見た目などを回復します。ブリッジは人工歯の噛む力をすべて支台歯で支えます。そのため、支台歯やその周囲の歯茎が健康であることが治療の前提です。
ブリッジの利点は、入れ歯のように樹脂部分が欠損部の歯肉と接触しないため、装着時の違和感が少ないことが挙げられます。また、手術を行わずに装着できる点もメリットです。
参照:『ブリッジの考え方2007』(厚生労働省地方厚生局)
インプラントとブリッジの寿命を比較

- インプラントの寿命を教えてください
- インプラントの寿命は、患者さんの口腔内の状態やインプラントの埋入部位、条件などによって個人差があるため、正確に予測することは困難です。しかし、インプラント装着後の状態に関する研究により、平均的な寿命の目安がわかります。
インプラントを埋入した患者さんが撤去するまでの期間を調べた研究では、埋入後10〜15年の残存率は上顎で約90%、下顎で約94%と報告されています。インプラントにおける残存率とは、インプラントを埋入した方のうち、撤去されずに残っている方の割合を示したものです。
また、日本口腔インプラント学会によるアンケート調査では、20年間にわたり1本のインプラントも失っていない患者さんが約86%にのぼると発表されました。
したがって、インプラントは10〜20年以上の長期間にわたり機能する可能性があるといえるでしょう。
参照:
『Effect of implant design on survival and success rates of titanium oral implants: a 10-year prospective cohort study of the ITI Dental Implant System』(Clinical oral implants research)
『Survival of 1,920 IMZ implants followed for up to 100 months』(The International journal of oral & maxillofacial implants)
『10-year survival and success rates of 511 titanium implants with a sandblasted and acid-etched surface: a retrospective study in 303 partially edentulous patients』(Clinical implant dentistry and related research)
『Survival of the Brånemark implant in partially edentulous jaws: a 10-year prospective multicenter study』(The International journal of oral & maxillofacial implants)
『A 10-year evaluation of implants placed in fresh extraction sockets: a prospective cohort study』(Journal of periodontology)
『Long-term evaluation of submerged and nonsubmerged ITI solid-screw titanium implants: a 10-year life table analysis of 468 implants』(The Journal of Prosthetic Dentistry)
『Long-term evaluation of ANKYLOS® dental implants, part i: 20-year life table analysis of a longitudinal study of more than 12,500 implants』(Clinical implant dentistry and related)
『Quality of reporting of clinical studies to assess and compare performance of implant-supported restorations.』(Journal of clinical periodontology)
『Long-term clinical evaluation of implant over denture』(Journal of Prosthodontic Research)
『20年以上経過したインプラント患者のアンケート調査』(日本口腔インプラント学会誌)
- ブリッジはどの程度使えますか?
- ブリッジを使用できる期間は、支台歯の状態や接着部位、口腔内の環境などによって個人差があります。ブリッジを使用できる期間の一つの目安に、累積生存率があります。累積生存率とは、ブリッジがまだ口腔内で機能しているかどうかを示す指標です。例えば人工歯が一部欠けて修理をしていたとしても、撤去されずに使用を続けていれば生存とみなされます。
ブリッジの累積生存率は調査によりばらつきがありますが、複数の研究を確認すると、10年後で約75〜90%、15年後で約65〜75%であったことがわかります。
岩手医科大学ではブリッジを装着した患者さん約330名を対象に、10年間の追跡調査を実施し、10年後の累積生存率が約92%であったと発表しています。
これらのデータから、ブリッジは修理や調整を行えば10年以上使用できる可能性があることがわかります。
参照:
『Long-term retrospective clinical study of tooth-supported fixed partial dentures: A multifactorial analysis』(Journal of Prosthodontic Research)
『A meta-analysis of durability data on conventional fixed bridges』(Community Dent Oral Epidemiol)
『Survival and complication rates of fixed partial dentures supported by a combination of teeth and implants』(Journal of Evidence Based Dental Practice)
『A retrospective clinical evaluation of extensive tooth-supported fixed dental prostheses after 10 years』(Journal of Prosthetic Dentistry)
『岩手医科大学附属歯科医療センター義歯外来における3ユニットブリッジの予後に関する10年間後ろ向きコホート研究』(岩手医科大学)
- インプラントの寿命が長い理由を教えてください
- インプラントの寿命が長い理由は、骨に固定される仕組みと耐久性の高い材質にあります。
インプラントは顎骨に直接固定されるため、周囲の歯に負担をかけずに噛む力を受け止められます。
また、インプラント体に使用されるチタンやジルコニアが、インプラントの長期的な安定を支えています。チタンは軽くて強度が高く、骨と結合しやすい性質を持ちます。口腔内の唾液や酸、塩分に晒されても腐食しにくいため、長期間安定した機能を維持できます。
ジルコニアはチタンには劣りますが固く摩耗しにくいセラミック素材で、長期にわたり噛む力を支えることが可能です。
さらに、インプラントの上部構造である人工歯冠も、インプラントの寿命に大きく関わります。人工歯はジルコニアやセラミック、メタルボンドなど耐久性の高い素材が主に使用されます。
この構造と素材の特性により、インプラントはブリッジと比べて長期的に使用できる方の割合が高いと考えられます。
参照:『口腔インプラント治療指針2024』(公益社団法人日本口腔インプラント学会)
インプラントとブリッジの寿命サイン

- インプラントの寿命が近づいている際の特徴を教えてください
- インプラントの寿命が近づくと、下記のような兆候が現れることがあります。
- インプラント周囲の歯茎の腫れや出血
- インプラントの動揺
- 噛んだときの痛みや違和感
これらの症状にはインプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎が関わっている可能性があります。
インプラント周囲粘膜炎は、インプラントを支える歯茎に炎症が起きている状態です。腫れや出血がみられますが、早期の治療やクリーニングにより改善が可能です。
インプラント周囲炎は、歯茎の炎症が骨にまで及んだ状態です。症状が悪化すると顎骨が破壊され、インプラントが脱落するリスクがあります。
参照:『口腔インプラント治療指針2024』(公益社団法人日本口腔インプラント学会)
- ブリッジは寿命が近くなるとどうなりますか?
- ブリッジの寿命が近づくと、下記のような変化が起こることがあります。
- ブリッジ周辺の腫れ、出血、臭い
- 噛んだときの不快感や違和感
- ブリッジの動揺
- 人工歯の変色、欠け
これらは、ブリッジの支台歯や人工歯、周囲の歯茎に問題が起きているサインです。特に支台歯はブリッジ装着のために歯を削っており、ダメージを受けています。そのため、ほかの歯に比べむし歯や歯周病になりやすい傾向です。
支台歯が弱ると、ブリッジを十分に支えられなくなり、ぐらついたり外れたりするリスクが高まります。治療をせずに放置すると、ブリッジの使用が困難になる場合があります。
参照:『歯周病治療のガイドライン』(特定非営利活動法人 日本歯周病学会)
インプラントとブリッジを長持ちさせる方法

- インプラントを長持ちさせるにはどうすればよいですか?
- インプラントを長持ちさせるには、下記のような点を継続的に実践する必要があります。
- 適切なセルフケア
- 定期検診
- 歯科医院でのプロフェッショナルケア
- 生活習慣の改善
インプラントを長持ちさせるためには、日常的なセルフケアが欠かせません。歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやデンタルフロスなどを使用してインプラント周囲の歯垢をしっかり取り除きます。器具はいずれもインプラントに適したものを選択します。自身の使い心地や好みで選ぶのではなく、歯科医師の推奨するものを選びましょう。
歯科医院での定期検診では、インプラントおよび口腔内の状態の確認、X線検査、噛み合わせの調整などを行います。また、セルフケアでは除去できない細部の汚れや歯垢を専用の機器を用いて清掃します。
インプラントを長期間使用するためには、インプラント周囲の組織を健康に保つことが重要です。適切なセルフケアと、歯科医院での定期的な検診とクリーニングを欠かさずに行いましょう。
参照:『口腔インプラント治療指針2024』(公益社団法人日本口腔インプラント学会)
- ブリッジの寿命を延ばすためにできることを教えてください
- ブリッジの寿命を伸ばすためには、支台歯の健康維持が不可欠です。むし歯や歯周病を防ぐため、日常のセルフケアではブリッジ周辺を特に丁寧に磨きましょう。
生活習慣も口腔内の環境に大きな影響を与えます。喫煙者は非喫煙者に比べて約2〜8倍歯周病になりやすいことがわかっています。過度な飲酒や肥満も歯周病の発症や重症化の要因の一つです。
さらに、歯科医院での検診とプロフェッショナルケアも欠かせません。「今は不具合がないから」といって先延ばしにせずに、歯科医師の指導に従い定期的に受診しましょう。
参照:『歯周病治療のガイドライン』(特定非営利活動法人 日本歯周病学会)
編集部まとめ

インプラントとブリッジはどちらも失った歯を補う治療法ですが、その寿命や管理方法には違いがあります。
どちらの治療法でも共通しているのは、日常のセルフケアと歯科医院での定期的な検診、クリーニングが、寿命を延ばすためには不可欠だということです。
治療を受けた後も、長く健康に使い続けるために、日常の丁寧なケアを継続し、歯科医師の指導に沿ってメンテナンスを行いましょう。
参考文献
- 『口腔インプラント治療指針2024』(公益社団法人日本口腔インプラント学会)
- 『ブリッジの考え方2007』(地方厚生局)
- 『歯周病治療のガイドライン』(特定非営利活動法人 日本歯周病学会)
- 『歯科インプラント治療のためのQ&A』(厚生労働省委託事業「歯科保健医療情報収集等事業」)
- 『20年以上経過したインプラント患者のアンケート調査』(日本口腔インプラント学会誌)
- 『Effect of implant design on survival and success rates of titanium oral implants: a 10-year prospective cohort study of the ITI Dental Implant System』(Clinical oral implants research)
- 『Survival of 1,920 IMZ implants followed for up to 100 months』(The International journal of oral & maxillofacial implants)
- 『10-year survival and success rates of 511 titanium implants with a sandblasted and acid-etched surface: a retrospective study in 303 partially edentulous patients』(Clinical implant dentistry and related research)
- 『Survival of the Brånemark implant in partially edentulous jaws: a 10-year prospective multicenter study』(The International journal of oral & maxillofacial implants)
- 『A 10-year evaluation of implants placed in fresh extraction sockets: a prospective cohort study』(Journal of periodontology)
- 『Long-term evaluation of submerged and nonsubmerged ITI solid-screw titanium implants: a 10-year life table analysis of 468 implants』(The Journal of Prosthetic Dentistry)
- 『Long-term evaluation of ANKYLOS® dental implants, part i: 20-year life table analysis of a longitudinal study of more than 12,500 implants』(Clinical implant dentistry and related)
- 『Quality of reporting of clinical studies to assess and compare performance of implant-supported restorations.』(Journal of clinical periodontology)
- 『Long-term clinical evaluation of implant over denture』(Journal of Prosthodontic Research)
- 『A meta-analysis of durability data on conventional fixed bridges』(Community Dent Oral Epidemiol)
- 『Long-term retrospective clinical study of tooth-supported fixed partial dentures: A multifactorial analysis』(Journal of Prosthodontic Research)
- 『Survival and complication rates of fixed partial dentures supported by a combination of teeth and implants』(Journal of Evidence Based Dental Practice)
- 『A retrospective clinical evaluation of extensive tooth-supported fixed dental prostheses after 10 years』(Journal of Prosthetic Dentistry)
- 『岩手医科大学附属歯科医療センター義歯外来における3ユニットブリッジの予後に関する10年間後ろ向きコホート研究』(岩手医科大学)