歯が1本もない状態から、ほぼすべての歯がそろっている状態にできるオールオン4。総入れ歯とは異なり人工歯根があることから、見た目だけではなく、噛み心地まで天然歯に近付けることができます。
オールオン4では、人工歯根と同じくらい重要なパーツの上部構造があります。この記事では、オールオン4の上部構造の特徴や使用される素材、治療の流れなどを詳しく解説します。オールオン4の上部構造に関心のある方は、このコラムを参考にしてみてください。
オールオン4の構造とは
インプラントの技術を応用し、より高度な治療へと発展させたオールオン4は、通常のインプラントと同様、アバットメント、インプラント体、上部構造の3つからなります。
アバットメント
アバットメントとは、インプラント体と上部構造を連結するパーツです。
一般的にはネジのような形をしており、インプラント体にはめ込むことで上部構造の土台としての役割も担っています。
アバットメントの素材には、
- 純チタン
- チタン合金
- ジルコニア
これらの素材が用いられることが一般的です。
特にジルコニアは、チタンアレルギーのある方や審美性を追求したい方におすすめの素材です。アバットメントというのは、上部構造に覆われるため、口腔内から見えることはありません。しかし、経年的に歯茎が下がってくると、アバットメントの色や形が露出することもあるのです。そうしたときでも審美性を保てるように、白くて美しいジルコニアを選択するケースがあります。
4つのインプラント体
オールオン4は、4つのインプラント体で1つの上部構造を支えています。一般的なインプラント治療は、1つのインプラント体が1つの上部構造を支えていますので、この点に違いがあります。
使用するインプラント体は純チタンやチタン合金で作られており、形態に違いは見られません。オールオン4では、インプラント体を顎の骨がしっかりしている部分を狙って埋め込めることから、適応範囲も広くなります。
ただし、患者さんの顎の骨の状態によっては、インプラント体を4本ではなく、6本埋め込まなければならないことがあり、オールオン4ではなく、オールオン6の方法で行われます。
上部構造
上部構造とは、人工歯に相当するパーツです。通常のインプラント治療における上部構造は、クラウンと同じような見た目で、歯質の部分しかありません。一方、オールオン4の上部構造には歯茎の部分も備わっています。
オールオン4で埋入するインプラント体の本数は4本ですが、装着する上部構造の人工歯の数は10〜12本にもなります。そのため、オールオン4人工歯根とインプラント体を1対1で装着することができません。
ブリッジの形式で10〜12本の人工歯を並べられればよいのですが、耐久性の問題がでてきます。歯が1本もない状態に人工歯だけ12本並んだ装置を装着すると、審美面においても違和感が強くなることから、オールオン4の上部構造では歯茎も部分もついているのです。
ただし、従来法の総入れ歯とは、見た目が大きく異なるため、装置が目立ちやすいということはありません。
オールオン4の上部構造の特徴
次に、オールオン4の上部構造の特徴を紹介します。
歯茎がついている
一般的なインプラントとは異なり、オールオン4の上部構造には歯茎がついています。総入れ歯のプレート部分である義歯床に近い構造ですが、面積が大きく異なります。
◎総入れ歯の歯茎
総入れ歯の義歯床は、人工歯の周りだけでなく、歯茎やお口の天井部分である口蓋まで広範囲に覆う構造となり、装着時の異物感や違和感があります。 会話や食事の際にズレたり、外れたりすることも多々あることから、総入れ歯の見た目や噛み心地に不満を抱く方は少なくないのです。
◎オールオン4の歯茎
オールオン4の上部構造についている歯茎は、人工歯の周りだけを覆っています。歯茎の面積が小さく、噛んだときに歯茎や口蓋を刺激することも少ないので装着感に違和感を感じることはほとんどありません。
ネジで固定するため安定性がある
オールオン4の上部構造は、アバットメントにネジで固定します。ネジでしっかりと固定されるため、噛んだときにズレたり外れたりすることはありません。
総入れ歯にはこうした強固な土台がなく、口腔粘膜に吸着させる形で固定しなければならないので、歯茎の部分を広く作らなければならないのです。
過去に総入れ歯を使っていて、オールオン4へと交換した患者さんは、ネジで固定することの安定感を装着直後から実感できることでしょう。
複数の素材から選べる
オールオン4の上部構造では、いくつかの素材を使用することができます。
- ジルコニア
- ハイブリッドセラミック
- アクリリックレジン
これらの選択肢があり、審美性、耐久性、機能性、経済性などを考慮して、自分に合った素材を選べます。オールオン4の上部構造に使われる素材については、この後で解説します。
オールオン4の上部構造に使用される素材
オールオン4の上部構造は大きな装置で、費用も高額になるため、使用する素材は慎重に選びたいところです。ここでは、ジルコニア、ハイブリッドセラミック、アクリリックレジン、それぞれの特徴を解説します。
ジルコニア
ジルコニアは、二酸化ジルコニウムを主成分とするセラミックの一種です。
金属に匹敵する硬さを備えていることから、人工ダイヤモンドとも呼ばれています。オールオン4の上部構造にジルコニアを使用すれば、人工歯が欠けたり、割れたりするリスクは限りなくゼロに近づきます。
近年のジルコニアは、天然のエナメル質が持つ透明感や光沢感も忠実に再現できるようになってきているので、審美性もよいとされています。ジルコニアは、費用が高くて壊れたときの修理も難しい欠点があります。
ハイブリッドセラミック
ハイブリッドセラミックとは、セラミックと歯科用プラスチックの混合材料の素材です。
セラミックとレジンの性質を併せ持っており、ジルコニアとアクリリックレジンの中間的な品質として、選ばれることもあります。
アクリリックレジン
アクリリックレジンは、歯科用プラスチックの一種で加工しやすいのが特徴です。
壊れたときの修理もしやすく使い勝手のよい素材です。費用もジルコニアやハイブリッドセラミックより安価ですが、セラミックよりも壊れやすく経年的な劣化が起こりやすかったり、審美性もよくないといった欠点があります。
オールオン4で治療を受けるメリット
続いては、無歯顎の症例でオールオン4を選択するメリットを解説します。ここでは、通常のインプラント治療および総入れ歯とオールオン4との違いについて紹介します。
手術時間や治療期間が短く済む
オールオン4のメリットのひとつに、手術時間や治療期間を短縮できることがあります。埋入するインプラントの本数が片顎4本と少なく、治療工程が簡略化されているためです。
インプラント体の埋入本数が多くなれば、その分だけ手術時間や治療期間が長くなってしまいます。治療にかかる費用も約2倍になることから、少ないインプラントで無歯顎の治療を行えるオールオン4は、患者さんにとって時間的、経済的メリットの大きい方法といえるでしょう。
また、オールオン4では、斜めにインプラントを埋入することで骨との接触面積を広げたり、安定性を高めるため手術直後に仮歯を装着して咀嚼機能を早期に回復させることも可能です。
顎の骨が少ない場合でも、骨移植が不要なことがほとんどで、その分治療期間がさらに短縮されます。オールオン4は短期間で効率よく機能回復ができるメリットがあります。
身体への負担が抑えられる
通常のインプラント治療よりも手術時間や治療期間が短いことは、患者さんの心身にかかる負担軽減にもつながります。
本来は2〜3回に分けて行わなければならない手術を1回で済ませられるだけでも負担は減るでしょう。術中や術後の感染リスクも低下させることもできます。
オールオン4は、インプラント体の手術と同時に仮の上部構造を装着できるため、その日から食事をすることもできます。
しっかり噛めるようになる
総入れ歯との違いは、顎の骨にしっかりと根付いた人工歯根があるため、オールオン4の方が咀嚼能に優れているところがあります。
咀嚼の力をチタン製の人工歯根と顎の骨で受けとめることができるため、硬い食べ物でもしっかり噛むことができます。毎日の食事に噛み応えのある食品を入れることだけでも、患者さんのQOLは大きく向上します。顎の骨が痩せていくという、総入れ歯では避けられないデメリットも抑えられるのです。
顎の骨が少なくても受けられることがある
加齢や歯周病によって顎の骨が少なくなっていると、インプラント体を真っすぐ埋め込めないことがあります。このようなケースでは、骨造成で足りない骨を補うか、総入れ歯を選択しなければなりません。
オールオン4の場合は、インプラント体を斜めに埋めることが可能なので、部分的に骨が少なくなっていたとしても、十分な骨があるところを狙って埋入させられます。そのため、通常のインプラントよりも、適応範囲が広いというメリットがあります。
オールオン4の治療の流れ
オールオン4の治療の流れを説明します。
術前検査と診断
オールオン4の治療では、術前検査と診断が重要となります。術前検査では、歯周組織検査、口腔内写真撮影、模型の製作、CTスキャン、パノラマレントゲン撮影などが行われます。
患者さんの全身の健康状態を把握するための血液検査なども必要に応じて実施され、その結果をもとに診断を行って治療計画を立てていきます。
インプラント手術
オールオン4の手術は、局所麻酔下で行われます。手術への不安感や恐怖心が強い場合は、半分眠った状態になる静脈内鎮静法を併用するのが一般的です。
お口のなかに歯が残っている場合は、残っている歯を抜いてからインプラント体を4本埋め込みます。
仮歯の装着
オールオン4による治療では、インプラント体の埋入と同時に、アバットメントおよび仮歯を装着するのが一般的です。
通常のインプラント治療は、インプラント体を埋め込む一次手術、アバットメントを装着する二次手術を経て、数週間後に仮歯を入れる工程で行われます。
仮歯の装着までの期間ひとつとっても、オールオン4がいかに効率的な治療法であるかがわかります。
上部構造の装着
インプラント手術から3〜6ヵ月くらい経過すると、インプラント体と顎の骨が結合するオッセオインテグレーションが確認されます。
この頃には、仮歯による日常生活にも慣れて、仮歯の形や大きさなどの問題点も明確になってきます。このタイミングで、補綴物である上部構造の製作に入ります。
仮歯を外して歯型取りを行って、入れ歯を作るような流れで上部構造を製作します。完成した上部構造を装着して、噛み合わせなどを調整したら治療は終了です。
治療が終了した後も、噛み合わせや見た目の問題が見つかったり、経年的な劣化などが起こったりした場合は、治療を受けた歯科医院で調整などの処置を受けられます。インプラントは歯科医院でのメンテナンスを受けることが保証の条件に組み込まれていることから、オールオン4の治療後も定期的に通院する必要性が高くなります。
まとめ
今回は、オールオン4の上部構造の特徴や使用される素材、治療の流れについて解説しました。オールオン4の上部構造は人工歯に相当するパーツで、使用する素材が装置の審美性や機能性を大きく左右します。
本文では、ジルコニア、ハイブリッドセラミック、アクリリックレジンの3つを取り上げて説明しましたが、ほかにも選択肢はありますので、関心のある方はオールオン4に対応している歯科医院に相談してみましょう。歯科医院でのカウンセリングでは、オールオン4の上部構造の現物を自分の目で見て確かめることも可能です。
参考文献