顎の骨にチタン製の人工歯根を入れるインプラントは、1~2本の歯を失った症例に適応されるものと思われがちです。 実際、歯を1本失ったケースから人工歯根を埋入できるのですが、すべての歯を失ったケースにも適応することが可能です。いわゆる「オールオン4」なら、片側の顎に4本のインプラントを埋め込むだけで、総入れ歯の形をした上部構造を支えられます。
当記事では、そんなオールオン4を上下の顎に入れる場合の費用やメリット、活用できるローンなどについて詳しく解説します。
オールオン4を上下に入れる際にかかる費用は?
上下の歯が1本もない状態を無歯顎(むしがく)といいます。無歯顎のケースにオールオン4を適応する場合は、上下の顎が治療対象となるため、費用もそれなりに高額になりそうなものです。そこで通常のインプラントで治療した場合とオールオン4を入れた場合の費用をかんたんに比較したいと思います。通常のインプラントかオールオン4で迷われている方は参考にしてみてください。
オールオン4を入れない場合の費用
まずは、オールオン4を選択せず、通常のインプラントで無歯顎の治療を行った場合の費用を考えてみましょう。インプラントの全国的な相場は、1本あたり30万~50万円程度なので、ここでは「40万円」と仮定します。無歯顎なので少なくとも10本の人工歯および人工歯根が必要となることから、片顎では400万円、全顎の場合は800万円という費用がかかります。治療費の高さに驚かれた方も多いことでしょう。
ただ、現実として全顎に合計20本のインプラントを埋め込むケースはあまり多くないといえます。片側の顎にチタン製の人工歯根を10本埋め込むだけでも、心身への負担はかなり大きくなるでしょう。顎骨だけでなく、全身の健康状態まで良好でなければ、なかなか実施することができません。現在は、オールオン4という優れた治療法が確立されているため、全顎に20本の人工歯根を埋め込まなくても無歯顎のインプラント治療ができるようなっています。
オールオン4を入れる場合の費用
次に、無歯顎にオールオン4を適応した場合の費用についてです。オールオン4はインプラントの中でも特殊な治療法であるため、施術の手順はもちろんのこと、費用相場についてもまったくわからないという方が多いかもしれませんね。先進の医療技術で優れた点も多いことから、極端に高い費用がかかってもおかしくないように感じます。けれども、オールオン4が通常のインプラントよりも費用が高くなることはまずありませんのでご安心ください。
まず、片顎をオールオン4で治療した場合は、250万円程度の費用がかかります。全顎をオールオン4で治療した場合は、その倍の500万円程度が全国的な費用相場となっています。金額だけ見るとものすごく高額に感じますが、上段で解説した通り、通常のインプラントで無歯顎を治療した場合は片顎で400万円程度、全顎で800万円程度の費用がかかることから、オールオン4で治療した方が明らかに安くなるのです。
ケースによっては通常のインプラント治療の半額程度まで出費を抑えられます。これは患者さんにとって極めて大きなメリットとなることでしょう。一般の歯科治療とはスケールが違うため、あまりしっくりこないかもしれませんね。ただ、治療の総額が数百万円変わるというのは、どんな患者さんにとっても有益でしかないといえます。
オールオン4が通常のインプラントより費用を抑えられる理由
オールオン4は、通常のインプラントよりも費用が安くなることはご理解いただけたかと思います。費用の差は数千円から数万円という規模ではなく、数十万円から数百万円に達するため、経済面だけを重視してオールオン4を選択したとしても、それだけで十分なメリットが得られます。そこで気になるのが「なぜオールオン4にするとここまで費用を抑えることができるのか」という点ですね。
インプラントの本数が少ない
オールオン4と通常のインプラント治療を比較した場合の最もわかりやすい違いは、人工歯根(フィクスチャー)の埋入本数です。オールオン4が4本であるのに対し、通常のインプラント治療では10本程度の人工歯根を顎の骨に埋め込みます。使用する人工歯根の本数が増えると同時に、手術費用も増えてしまいます。その本数を半分以下に減らせるのですから、当然、治療費も安くなります。オールオン4が通常のインプラントより費用を抑えられる主な理由はここにあると言っても間違いではありません。
骨造成するケースが少ない
通常のインプラント治療では、人工歯根を埋め込める位置がほぼ決まっています。その位置の顎の骨が不足している場合は、インプラント治療を諦めるか、骨造成という骨を再生させる処置を行わなければなりません。一方、オールオン4は人工歯根を埋入する位置の自由度が高いことから、骨造成が必要となるケースも少なくなっています。骨が十分な位置に4本の人工歯根を埋入できるため、骨造成の費用が加算されることは少ないです。
治療回数が少ない
オールオン4では、人工歯根を埋め込む手術を1回で終わらせることができます。4本の人工歯根を埋め込み、その日のうちに上部構造を装着することも可能です。その点、通常のインプラント治療は手術を複数回にわけなければならず、通院回数も多くなります。インプラントでしっかりと噛めるようになるまでにもそれなりの期間を要するのです。
オールオン4の費用がクリニックによって差がある理由
上で述べたオールオン4の費用はあくまで全国的な相場です。実際はクリニックによって費用に差があります。それは次に挙げるような理由からです。
担当医の経験や実績に差がある
インプラントは、専門的な知識や技術を要する治療法です。オールオン4ともなるとさらに豊富な経験や実績が必要となります。そうした担当医の能力の差によって、オールオン4の費用が大きく変わることもあるのです。当然ですが、経験や実績が豊富な歯科医師ほど、オールオン4の費用も高くなります。
被せ物の材質が異なる
オールオン4では、上部構造の素材に何を使うかによっても費用に差が出てきます。例えば、歯科用プラスチックで上部構造を作った場合は、オールオン4の費用を大きく抑えられます。それは通常の被せ物治療と同じです。ただ、レジンは摩耗や変色が起こりやすいため、審美性や機能性、耐久性などを重視する方にはおすすめできません。 見た目が良くてしっかり噛める人工歯を求めている人には、セラミックやジルコニアがおすすめです。
とくにオールセラミックは歯科材料の中で最も美しいといっても過言ではなく、天然歯の色調や光沢、透明度などを忠実に再現できます。そんなオールセラミックには、衝撃によって割れやすいという弱点があるため、強度の高さを追求する場合はジルコニアが推奨されます。ジルコニアもセラミックの一種ですが、強い衝撃が加わっても割れることはほとんどありません。透明度においてはオールセラミックに劣りますが、見た目も自然で美しいです。オールオン4の上部構造にこうしたセラミック材料を選択した場合は、費用もそれなりに高くなります。
オールオン4の上下に入れる費用が極端に安い場合は注意が必要
オールオン4は、通常のインプラントよりも費用が安くなっていますが、それでもやはり数百万円の出費は負担が大きいと言わざるを得ません。そのためオールオン4による治療を安価に提供している歯科医院を探している方も多いことでしょう。その際、十分に気をつけなければならないのが格安のオールオン4です。全国的な相場よりも極端に安い価格でオールオン4を実施している場合は、以下の点にご注意ください。
マイナーなインプラントを使用している
失った歯を補うデンタルインプラントには、たくさんの種類があります。世界ではいろいろなメーカーがインプラントシステムを開発・提供しており、その種類は100以上に及びます。もうすでに半世紀以上の歴史があるインプラントもあれば、開発されて間もないインプラントもあり、それぞれで質も大きく異なる点に注意しなければなりません。
とくに注意が必要なのがマイナーなインプラントシステムで、費用が安い分、実績が乏しかったり、長期の治療データがなかったりするため、使用するインプラントメーカーは確認したほうがよいでしょう。
一部の費用しか表示していない
オールオン4の費用が極端に安い場合は、内訳がきちんと表示されているかを確認しましょう。例えば、オールオン4の手術費用しか表示されていないケースでは、全国的な相場よりも極端に安くなります。実際は、検査・診断、上部構造の費用などが加算されることから、適正な費用へと落ち着きます。これはオールオン4に限らず、歯列矯正やセラミック治療などの自費診療全般にいえることなので、十分にご注意ください。
オールオン4を上下に入れる治療で費用を抑える方法はある?
オールオン4を上下に入れる場合の治療費は、総額500万円程度かかるのが一般的です。上部構造を歯科用プラスチックで作ったりすることで多少、費用を抑えることは可能ですが、極端に安くすることは不可能です。仮に格安の値段でオールオン4を提供しているクリニックがあったとしても、その背景には上段で説明したような事情があるものとお考えください。それでもオールオン4の治療費を抑えたいという方は、次の方法を検討してみてください。
デンタルローン
デンタルローンは、歯科治療の費用を月々の分割払いで支払うことができる制度です。専門の金融機関やクリニックと提携しているローン会社から申し込みます。審査が通れば、治療費用を月々の分割で支払うことが可能となります。もちろん、今回のテーマであるオールオン4でもデンタルローンを利用できます。
◎デンタルローンを利用するメリット
手軽に治療が受けられる: 高額な治療費用も分割払いにすることで、一度に全額を支払う負担が軽減されます。
金利が低い場合も: クリニックと提携しているローン会社であれば、金利が低いケースもあるため、経済的にも有利な場合があります。
◎デンタルローンを利用するデメリット
審査が必要: 信用情報に基づく審査があるため、審査に通らない場合もあります。
総支払額が増える可能性: 金利が高い場合や分割期間が長い場合、最終的な支払額が増える可能性があります。
オールオン4のインプラント治療を検討している方にとって、デンタルローンは非常に魅力的な選択肢となることでしょう。しかし、最適なローンプランを選ぶためには、各ローン会社の条件をよく比較し、自分の経済状況とニーズに合ったプランを選ぶ必要があります。最良の治療を受けるための一歩として、デンタルローンの利用を検討してみてはいかがでしょうか。
医療費控除
歯科治療は健康の基盤であり、人々の日常生活の質を向上させる重要な役割を果たします。しかし、治療費用はしばしば重荷となることがあるでしょう。ここで注目したいのが、「医療費控除」という制度です。
◎医療費控除の利用方法
領収書の保管: 歯科治療の際には領収書を必ず受け取り、保管しておきます。
支払いの確認: 1年間で支払った医療費の合計を計算します。所得税の確定申告時に必要です。
確定申告の提出: 所得税の確定申告期間に、医療費控除の明細書とともに申告します。インターネットでの申告も可能です。
◎医療費控除のメリット
税金の還付: 歯科治療の費用が一定額を超えると、その分の税金が還付されます。これによって、治療費用の負担を軽減することができます。
範囲の拡充: 歯科治療だけでなく、一般の医療費も対象です。家族の医療費も合算することができます。
健康への投資: 高額な治療でも税金の還付があるため、自身の健康への投資が容易になります。
保険適用の条件は厳しい
オールオン4の費用を抑える方法として最も活用したいのは「健康保険」ですよね。保険が適用されれば、3割負担でオールオン4を受けられる場合もあります。オールオン4を上下に入れる場合の費用を500万円と想定すると、3割負担では150万円となります。けれども、オールオン4に保険が適用されることはまずないため、別の方法を検討した方が賢明といえるでしょう。
まとめ
このように、オールオン4を上下に入れた場合は、かなり高額な費用がかかりますが、通常のインプラントで治療する場合よりも安くなります。また、オールオン4の費用を抑える方法もいくつかあるため、すべての歯を失った場合には検討してみても良いのではないでしょうか。
その際、経済面だけを重視するのではなく、インプラントの種類や執刀する歯科医師の技術・経験、歯科クリニックの設備等にもきちんと着目することが大切です。
参考文献