インプラント治療と従来法との大きな違いは「外科手術の有無」です。歯茎をメスで切開して、ドリルで顎に穴を開ける外科手術となると、相応の準備や対応が求められます。そのなかでも気になるのがインプラント手術後の車の運転ではないでしょうか。インプラント手術当日に車を運転できれば、手術後はスムーズに帰宅できますし、人によってはそのまま仕事に戻れるかもしれません。今回はそんなインプラント手術後の運転の可否やその他の注意点について詳しく解説をします。
インプラント手術後の車の運転
はじめに、インプラント手術後に車の運転をしてもよいのかどうかや運転する場合の注意点などを解説します。
- インプラント手術後は車を運転してもよいですか?
- インプラント手術をした当日は、基本的に車の運転はしない方がよいです。なぜならインプラント手術では、必ず局所麻酔を施しますし、ケースによっては静脈内鎮静法も併用します。前者に関しては、手術後2~3時間で効果が薄れてくるため、その後は車の運転をしてもよいように感じるかもしれませんが、体調が万全の状態ではないことを忘れてはいけません。インプラント手術では、心身への負担が大きい外科処置を伴うため、当日はふらつきを覚えたりすることも珍しくないのです。静脈内鎮静法に至っては、手術後しばらくは認知機能が低下する傾向にあることから、その日に車を運転してはいけません。不要な事故やトラブルを回避するためにも、インプラント手術をしたその日は運転せず、安静に過ごしてください。
- インプラント手術後は自転車やバイクの運転も避けた方がよいですか?
- インプラント手術した当日は、車だけでなく、自転車やバイクの運転も避けた方が望ましいです。バイクは言うまでもありませんが、自転車の運転も高度な認知機能を要するだけでなく、原則として車道を通行することが義務付けられており、バイクや自動車と同様の乗り物ととらえた方がよいでしょう。近年は、自転車による交通事故も多発していますので、自転車くらいならという軽い気持ちで運転するのはNGです。
- 手術からどのくらい時間が経てば、運転してもよいか教えてください
- インプラント手術を受けた当日は、時間の経過にかかわらず、車・自転車・バイクの運転は控えてください。たしかに、インプラント手術を午前中に受けて、夜になる頃には局所麻酔や静脈内鎮静法の効果もほとんどなくなっていますが、痛みや腫れなどの症状が徐々に強まっていきます。こうした症状は、一般的に手術から2〜3日でピークアウトするため、それまでは車・自転車・バイクの運転を控えるようにしましょう。何らかの理由でどうしても車を運転しなければならないという場合は、インプラント手術の翌日以降、自分の体調と相談しながら検討するとよいでしょう。
- インプラント手術後に運転する場合、どのような注意点がありますか?
- インプラント手術の翌日以降、車やバイクを運転する際には、まず体調が良好であるかを確認してください。発熱していたり、顎の痛みや腫れで強いストレスを受けていたりすると、運転中に正常な判断を下せない可能性が出てきます。インプラント手術後には、痛み止めや腫れ止め、抗菌薬などの薬剤もいくつか服用するため、薬剤による体調への変化もしっかりチェックするようにしてください。可能であればパートナーや家族から体調のチェックを受け、運転中も同乗してもらうのが望ましいです。自分や周りの人が少しでも不安に感じるような症状が見られる場合は、無理にして運転はせず、タクシーや公共交通機関を利用しましょう。
インプラント手術後に気を付けるべき生活習慣
インプラント手術を受けた後は、車の運転以外にも注意すべき点があります。ここでは生活習慣に焦点を当てて、インプラント手術後の注意点を解説します。
- インプラント手術後に日常生活で気を付けることは何ですか?
- インプラント手術後には、以下に挙げる点に注意しながら生活を送りましょう。
◎運動・入浴・飲酒を避ける
インプラント手術後は、顎に大きな傷を負っている状態なので、全身の血流がよくなる行為はできるだけ控えてください。具体的には、ランニングやスポーツなどの運動、熱い湯船に浸かる、サウナに入る、お酒を飲むことなどが挙げられます。
◎処方された薬を歯科医師の指示どおりに飲む
インプラント手術後には、痛み止めや腫れ止め、抗菌薬などが処方されますので、歯科医師が指示したとおりの方法で服用してください。痛み止めや腫れ止めは、症状が出た場合に服用すればよいのですが、抗菌薬は症状の有無にかかわらず、すべて飲み切ることが原則となります。処方された抗菌薬を自己判断で飲まなかったり、途中で飲むのをやめたりすると、感染のリスクが高まります。
◎うがいは慎重に行う
インプラント手術後のお口のなかは、血の味がしたり、消毒薬の影響などで乾きやすくなったりするため、うがいを強く、繰り返し行いたくなるものですが、うがいの方法には十分注意しなければなりません。ブクブクうがいを強く行ったり、うがいを繰り返したりすると、傷口に大きな負担がかかって治りが遅れます。ケースによっては、再出血を引き起こすこともあるため、インプラント手術後のうがいは慎重に行ってください。
◎傷口を刺激する行為は避ける
インプラント手術後も歯磨きする必要がありますが、傷口を刺激しないよう注意してください。食事も辛いものや熱いもの、硬いものが傷口を刺激する場合があるため、食事の内容には十分配慮しましょう。傷口がうずいても、舌で触って刺激することは避けてください。
◎喫煙はしない
タバコの煙には、血管を収縮させる成分が含まれており、血流が悪くなることで傷の治りも遅れます。また、タバコには口腔乾燥を引き起こす作用もあり、細菌感染のリスクも増大するため、インプラント手術後はしばらく禁煙するようにしてください。理想的には、インプラント手術後はもちろん、インプラント手術前から完全な禁煙を試みるべきです。喫煙はインプラントの天敵であり、タバコを吸っている限り治療が失敗するリスクが高まります。
- インプラント手術後、安静にすべき期間はどのくらいですか?
- インプラント手術後2〜3日は、安静に過ごして車の運転なども控えてください。激しい運動に関しては、インプラント手術から1週間は控えた方がよいでしょう。
- インプラント手術後の食事で気を付けることはありますか?
- インプラント手術後2〜3日は、あまり噛まずに飲み込めるものを食べるようにしましょう。辛いもの、熱いもの、冷たいもの、硬いものも傷口に悪い影響を及ぼしかねないため、できるだけ避けましょう。
インプラント手術後に注意すべき症状
最後に、インプラント手術後に現れる症状で、注意すべきものについて解説します。
- インプラント手術後に出血が続くときの対処方法を教えてください
- まずは、清潔なガーゼを噛んで、止血を試みましょう。ベッドに横たわることでリラックスでき、血も止まりやすくなります。通常であれば15〜30分程度で血が止まります。それでも出血が続くようであれば、何らかの異常が疑われることから、主治医に相談した方がよいです。血が止まらないことを電話で伝えて、主治医の指示を仰いでください。
- 手術をした部分に違和感や異臭がする場合はどうすればよいですか?
- インプラント手術後の患部には、必ずといってよいほど違和感や痛み、腫れなどが生じます。その症状が許容範囲内であり、手術から2〜3日程度で緩和されるのであれば過剰に心配する必要はありません。患部の違和感程度なら、インプラント手術後から1週間くらい続くこともあります。インプラント手術後の異臭は、薬剤の臭いや血の臭い、お口のなかが不潔になっている臭いなどが原因として考えられます。この症状もインプラント手術後から2〜3日程度で気にならなくなるでしょう。あまりにも強い異臭がしたり、手術から2〜3日経過してもおさまる気配がなかったりする場合は、主治医に相談しましょう。
- 手術後に腫れや痛みが続く場合は、歯科医院に相談するべきですか?
- インプラント手術後から3~4日経過しても腫れや痛みが一向に治まる気配がない場合は、遠慮せずに歯科医院に相談しましょう。インプラント手術から2〜3日以内でも許容範囲を超えるような腫れや痛みが生じた場合は、速やかに主治医へ連絡してください。
編集部まとめ
今回は、インプラント手術後に車を運転することの可否や注意したい生活習慣、症状について解説しました。インプラント手術をした当日は、原則として乗り物の運転は避けてください。それは車に限らず、自転車やバイク、電動キックボードなども含まれます。インプラント手術後は、傷口に負担をかけないような生活習慣を心がけることで、さまざまなトラブルを回避しやすくなります。それでも許容範囲を超えるような腫れや痛みが現れた場合は、迷わず主治医に相談しましょう。
参考文献