歯の治療は日々の生活を快適に行うためにも重要です。歯が不健康だと噛み合わせが悪くなりお顔の表情や口臭に影響したり、場合によっては身体全体のバランスにも影響を与えたりします。
しかし日々の忙しさや歯の治療が怖いなどのイメージもあり、途中で治療を止めてしまうケースも少なくはありません。なかには抜歯だけしてもらって、歯がないままの状態の方もいるでしょう。
歯の補綴治療にはブリッジや部分入れ歯、インプラントなどの方法がありますが、抜歯後1年以上経過してからでもインプラント手術は可能なのでしょうか。
この記事では抜歯後1年以上経過した後のインプラント治療のリスクや問題点を解説します。
インプラント手術を行う時期
- 抜歯から時間が経過していない方がインプラント手術に適していますか?
- 抜歯をしてからインプラント手術を行うまでのタイミングは大きく4つに分かれます。
- 抜歯後即時
- 抜歯後4週~8週後
- 抜歯後12週~16週後
- 6ヶ月後以上
どのタイミングで行うかによって、それぞれリスクが異なります。6ヶ月以上、歯が抜けたまま放置していると顎の骨の量が減ってしまい、インプラント手術が難しくなるでしょう。
インプラントを埋入するためには顎の骨の量や厚みが一定量必要です。抜歯を行うとそれまで歯によって与えられていた刺激が減り、顎の骨の量が減ることがわかっています。インプラント手術は抜歯後、早めに行う方がよいでしょう。
ただし、抜歯後即時に手術を行う場合はリスクが高いです。しかし、近年では抜歯後即時埋入の際に骨量の減少リスクを抑える条件や術式が確立されています。なので、過剰に心配する必要はありません。
ただし高い技術力を必要とする点に注意が必要です。また抜歯後は口腔内が傷だらけの状態であり、細菌感染のリスクも高まります。時間が経ち傷が癒えるにつれて細菌感染のリスクは低下します。
- インプラント手術に適した時期はいつですか?
- 一般的にインプラント手術に適した時期は抜歯後4週~8週後とされています。抜歯後の歯茎は抜歯窩という穴が開き骨が露出した状態です。抜歯した当日は抜歯窩の上に血が溜まり、それが血餅というかさぶたのような役割を果たす物に変化します。
ここから1週間ほどで歯茎が再生し、3週間を超えると骨の再生が始まります。4週目にはいると抜歯窩が歯茎で覆われ、細菌感染のリスクも低下するでしょう。
またインプラント手術と同時に骨造成処置を行う場合も、この時期が効果は高いとされています。
- 抜歯後1年以上経過してからインプラント手術は可能ですか?
- 抜歯後1年以上経過してもインプラント手術は可能です。しかし、多くの場合で顎の骨が減少しており、骨造成手術など段階的な治療が必要になることもあります。また骨の状態の変化だけでなく、抜歯した反対側や隣の歯の移動や口腔内環境の悪化により、インプラント手術が難しい場合もあるでしょう。抜歯後1年以上経過してからインプラント手術を検討する際は、歯科医師とよく相談する必要があります。
インプラントを抜歯後1年以上経過して行う問題点
- 抜歯後に骨の状態に変化はありますか?
- 抜歯を行うと顎の骨は一部がいったん体内に吸収されますが、歯茎の回復に併せて骨の再生も行われます。しかし、その後なんの処置もせず抜けたままにしておくと、噛む刺激がなくなり骨が再度吸収されていきます。一般的に骨が痩せたといわれる状態になり、頬がこけて見えたり顎がたるんで老けて見えたりする原因です。
また抜けた歯で咀嚼できず、逆側の歯ばかり使うことで全体的な顎の骨量バランスもおかしくなります。抜けた歯の場所を中心に、周辺の歯や骨まで衰えることもあります。
- 抜いた後に周囲の歯に変化はありますか?
- 抜歯後になんの処置もせず放置しておくと、歯の抜けた隙間を埋めようと歯の移動が起こります。例えば下顎の歯が抜けた状態で放置した場合、その反対側にある上顎の歯が伸びてきます。逆の場合も同様です。上顎の歯が抜けた場合は反対側にある下顎の歯が上に向かって伸びていきます。
また、両横にある歯が隙間を埋めようと傾きはじめることもあるでしょう。進行の程度は人によってさまざまですが、放置する期間が長い程、歯は移動します。歯の移動が始まると噛み合わせが悪くなり、1本1本の歯の負担がより大きくなります。そうなると健康だった歯にも悪影響を及ぼし、新たに歯を失うリスクが高まるので注意が必要です。
- 抜歯後に口腔内の状態が悪化することはありますか?
- 歯の抜けた部分をそのままにしておくと、口腔内の状態が悪化することは十分に考えられます。隙間に食べかすが挟まりやすくなり、歯磨きのときにもうまく磨けず磨き残しが出る場合があります。歯垢が溜まりやすくなり、むし歯や歯周病につながるので注意が必要です。
歯周病になると炎症が起こり歯肉は腫れて赤くなり、歯肉から出血することもあります。歯周病が悪化すると歯肉だけでなく歯を支えている歯槽骨が吸収され、ほかの歯が抜けてしまう可能性にもつながります。場合によっては外科手術が必要な場合もあるので、早期に治療を行うのが重要です。
また歯が抜けたままだとちゃんと噛まない状態で食べるケースが増え、唾液の減少にもつながります。唾液の減少は胃腸の負担増加だけでなく口臭の原因の1つです。
抜歯後1年以上経過してからのインプラント手術
- 骨の状態が悪くてもインプラント手術は可能ですか?
- インプラント手術は歯槽骨という歯を支える骨にインプラントを埋入する手術です。歯槽骨は家を建てるときの基礎部分と同じで、ここがしっかりしていないと、どれだけ品質のよいインプラントを使用しても抜け落ちる可能性があります。
そのためインプラント手術を受ける前に、歯槽骨の状態の改善が重要です。これには以下のような方法があります。- 骨移植法
- 骨再生誘導法(GBR法)
- 上顎洞底挙上法(サイナスリフト)
骨移植法とは下顎の後方などから骨を採取し、インプラント体を埋め込む予定部位へ移植する方法です。移植するための骨を採取する必要があるため外科手術が必要です。
また人工骨を使用して移植する方法もあります。骨再生誘導法は骨が欲しい部分に遮断膜を被せてスペースを確保し、骨再生誘導材などを使用して骨を再生する方法です。
上顎洞底挙上法は上顎の臼歯部から上顎洞という空洞までの骨が不足している場合に行われる方法で、空洞に採取した骨や人工骨を移植する方法です。いずれの場合も骨が定着するまで4~6ヶ月ほどの期間が必要になります。
- 周囲の歯が変化していてもインプラント手術は可能ですか?
- 周辺の歯が変化している状態でインプラント手術を行う場合、十分なスペースが確保できない可能性が高く手術は難しいです。この場合はいったん歯列矯正を行い、歯の並びがある程度整ったところでインプラント手術を進めます。具体的な時期は歯科医師と相談しながら決めていきます。一般的に歯列矯正が終わるまでの期間は1~3年です。
- 口腔内の状態が悪くてもインプラント手術は可能ですか?
- 歯周病などで口腔内の状態が悪い場合、インプラント手術に適さない場合があります。一例として歯周病のままインプラント手術を行った場合、インプラント周囲炎にかかりやすいといわれています。
インプラント周囲炎とは歯周病に似た症状を起こす特有の症状です。歯周病と同じように初期症状に乏しく、進行スピードは歯周病の10倍以上といわれています。
インプラント周囲炎が進行すると、せっかく埋入したインプラントが抜け落ちる可能性もあります。リスク抑えるためにもまずは口腔内の悪い環境を改善することが重要です。
- インプラント手術ができない場合どのような治療法がありますか?
- 何らかの理由でインプラント手術ができない場合、ほかの治療法を選択するケースがあります。治療法は以下の3つです。
- ブリッジ
- 部分入れ歯
- 歯牙移植
ブリッジは、抜けた歯の両側の歯を支柱に、人工歯を装着する治療方法です。抜けた歯の本数が少ない場合に向いており、取り外しはできません。ブリッジを取り付けるためには健康な歯を削る必要があります。両隣の歯にかかる負担が大きくなることもデメリットです。
また、両隣の歯に問題がある場合はブリッジは難しくなります、部分入れ歯は取り外しができるので、メンテナンスがしやすいメリットがあります。しかし品質によっては外れやすく、歯茎との隙間に食べかすが詰まりやすいなどのデメリットもあり注意が必要です。
歯牙移植は親知らずなどの不要な埋伏歯がある場合に、それを抜けた部分に移植する方法です。しかしもともとの歯の形も違うため一般的な治療法ではありません。
編集部まとめ
インプラント治療は、抜歯後に期間が経ってしまっても行うことは可能です。しかし、抜歯する前から計画的に進めることによって、よりよい結果を得ることができる可能性があります。
歯が抜けた状態を放置すると、歯の移動や歯周病などのリスクがあり注意が必要です。歯を1本失うだけでなくほかの健康な歯まで将来的に失うリスクにもつながります。
歯の治療は完治までの一連の流れを歯科医師と相談して進めるのが一般的です。
忙しいなどの事情があった場合でも、歯科医師と長期的なスケジュールを組み、計画的に完治を目指すのが一般的です。
残った歯を大事に使うためにも、歯が抜けたまま放置しないようにしましょう。
参考文献