インプラントは歯を失った人にとって大切ともいえる歯科治療です。
第2の永久歯とも呼ばれるインプラントですが、治療費が高額である点も否めません。失った歯が複数本ある人にとっては、失われたすべての歯をインプラントに取り替えるには、大変高額な費用がかかります。
そこで考えられたのが、インプラントと天然歯を連結させる治療です。この治療が可能か不可能か、またメリット・デメリットを詳しく解説していきます。
インプラントと天然歯を連結する治療は可能?
インプラントは第2の永久歯とも呼ばれています。見た目も天然歯とほぼ変わらず、天然歯と同じように噛むことができ、またむし歯のリスクもなくなります。
歯を失った人にとって希望ともいえるインプラントですが、複数の歯を失った人にとってすべての歯をインプラントに置き換えることは費用がかかり、金銭的な問題から治療ができない人もいるようです。
このような場合に着目されるのが、インプラントと天然歯を連結させる治療方法です。この治療方法では例えば、連続する2箇所の歯を治療する際、1箇所のみインプラントを装着しインプラントと天然歯を連結することで治療を行います。
天然歯を多少削る可能性はありますが、結果的に1本のみのインプラント治療で2本分の治療が行えます。ブリッジとよく似ていますが、ブリッジは天然歯2本という同種の歯同士を削り、間にあった失われた歯を補う形で行われる治療方法です。
それに対して、インプラントと天然歯の異なる2種を用いるため、メリットだけでなくデメリットも存在します。メリットだけでなくデメリットも考慮に入れたうえで、治療計画を立てることが大切です。
インプラントと天然歯を連結する治療のメリット
インプラント治療では外科的手術が伴います。
まず、歯を失った箇所の歯茎の切開が必要となり、歯槽骨と呼ばれる顎の骨に穴を開けてインプラント体を埋め込みます。その上にアバットメントと呼ばれる連結器具を装着したのちに、上部構造の取り付け作業が必要です。
歯茎の縫合も必要となるため、手術費用がかかるうえに身体的な負担も強いられます。また、術後に腫れや痛みが伴うこともあるでしょう。
そのうえ、失った歯が1本だけでなく2本以上ある場合は、さらに負担を強いられることとなります。インプラントは1本だけでも装置代と取り付け費用合わせて30万円程度かかるとされており、複数ある場合はさらに費用がかかります。
また、費用だけでなく手術にかかる日数も長期化し、身体的な疲労が増すことにもなりかねません。
これに対してインプラントと天然歯を連結させることができれば、天然歯を多少削ることがあるにせよ、インプラント治療費は1本分に抑えることができます。
この点でメリットは大きいです。
費用を抑えられる
上述したとおり、2本のインプラントを埋め込む手術と、1本のみを埋め込んでブリッジにする手術では、後者の費用が安く済む場合は少なくないでしょう。
2本以上の歯を失ってしまった方にとって、なるべく安価で歯の治療を済ますことができるかもしれません。その点でインプラントと天然歯の連結治療はメリットが大きいでしょう。
手術の負担を軽減できる
インプラント手術は外科手術となり、切開を伴います。麻酔をかけるにせよ、身体的に負担がかかることは避けられないでしょう。
2本のインプラントを埋め込む場合はなおさら負担がかかりますが、1本で済むとなれば負担は軽減されます。
ただし、連結する方の天然歯を多少削る必要があることは考慮しておく必要があります。
手術時間を短縮できる
インプラント体を2本埋め込むよりも、1本の方が手術時間の短縮につながります。手術時間が長ければ長い程、身体にかかる負担や疲労度は大きいことが少なくないため、この点はメリットといえそうです。
身体的負担や手術費用の削減にもつながるでしょう。
インプラントと天然歯を連結する治療のデメリット
一方、インプラントと天然歯を連結する治療にはデメリットも存在します。
どのような治療にもメリットだけでなくデメリットは存在するものですが、この連結治療では、現時点でデメリットの方が強調される傾向にあるようです。
そのため治療のエビデンスがまだまだ十分ではなく、インプラントと天然歯の連結治療そのものを積極的に行わない歯科医院もあるようです。
インプラント体の破損・脱落が起きやすい
天然歯には、歯槽骨と歯根の間に歯根膜と呼ばれる膜が形成されています。この歯根膜はクッションの役割を果たしており、食べ物を噛んだ際に衝撃を緩和・吸収させる特徴があります。
そして衝撃を和らげることは、歯自体も若干動くということです。生理的動揺と呼ばれるこの現象ですが、僅か0.2mm程度の動きがあることが知られています。
反面、インプラント治療は基本的にインプラント体を直接歯槽骨にくっつけるため、歯根膜は存在しません。そのため、インプラントと天然歯を連結させると、食べ物を噛んだ際の衝撃がインプラントに偏ることになります。
一回ごとの噛む力は微弱でも、噛んだときの衝撃は少しずつ蓄積されていき、最終的には歯槽骨の溶解とともにインプラント体そのものが破損したり脱落したりする恐れがあります。
一方で天然歯にも衝撃が伝わる恐れもあるようです。その結果、歯根膜の働きが弱まったり、顎の骨が溶けたりします。
このほか、悪癖として無意識に歯ぎしりをしてしまう人がいます。噛む力の大小はあれど、どのような人でも大抵してしまうのが歯ぎしりであり、特に寝ているときに起こすことが少なくありません。
この歯ぎしりは、歯根膜があることで衝撃が吸収されますが、歯根膜がないと噛む力の衝撃がインプラントをとおして歯槽骨に伝わることになります。それによっても、歯槽骨が弱まることにつながるようです。
天然歯の歯根膜の働きが弱まるリスクがある
基本的に歯根膜は、歯が動くことでその衝撃を吸収する機能を維持しており、歯が動かなくなると機能しなくなる傾向にあります。
インプラントと天然歯を結合させると、動かないインプラント同様に、天然歯も動きにくくなります。そうすると、動くことで機能を果たしてきた歯根膜の機能も弱まり、次第に膜の厚みが薄くなっていきます。
機能の衰えた歯根膜はクッション性が失われてしまい、結果的に連結させたインプラント・天然歯両方に負荷がかかり歯根膜の働きを弱めてしまうことにつながりかねません。
顎の歯が溶ける可能性がある
インプラントは顎の骨である歯槽骨と直接連結させています。そしてインプラントそのものは大変硬い素材でできており、また歯根膜が存在しないために歯槽骨とくっつける治療を行います。
インプラントと天然歯を連結させることで咀嚼の際の負荷が積み重なると、やがては歯槽骨に悪影響を与えるようになるでしょう。その結果、歯槽骨が溶けてインプラントが脱落してしまうこともあります。
トラブルが起きた場合の処置が大がかりになる
複数のインプラントをそれぞれ独立させて装着した場合、トラブルが起きても悪影響を受けているもののみを対処すれば治療が完了することもあります。
対して、インプラントと天然歯を連結させている場合はそうもならず、天然歯の歯槽骨が溶けて脱落した場合はインプラント治療していた方にも処置を施さなければならない可能性があります。
治療が大がかりになりかねないため、デメリットといえるでしょう。
一般的なインプラントよりもケアがしにくく審美性が低い
インプラントと天然歯が連結している構造は、それぞれの歯が独立している状態と比べると複雑です。そのため、歯磨きのしづらさが生じがちです。
歯磨きをしっかり行えないとなると、歯周病のリスクが高まってしまいます。また、インプラントは適切な歯磨きなどのケアを怠ると、インプラント周囲炎という歯周病によく似た病気にかかりやすいです。
ただでさえ構造が複雑であるうえ、日頃のケアが非常に大切になってくることは覚悟しておくべきでしょう。また、審美面の低さも懸念点です。
インプラントのよさは、天然歯のように見える審美性にもありますが、インプラントと天然歯を連結させることによってブリッジのように見えてしまいます。この見え方では審美性が損なわれてしまうと考える人もいるようです。
インプラント体とアバットメントを連結させる手術方法
インプラント治療の、インプラント体とアバットメントの連結方法には2通りあり、1回法と2回法とで区別されています。その違いは、歯肉を切る回数を1回にするか2回にするかです。
またアバットメントを取り付けるタイミングを一次手術で行うか、二次手術で行うかの違いでもあります。
1回法
1回法では、インプラント体の取り付けとアバットメントの挿入を一次手術の段階で同時に行います。これにより歯肉の切開が1回で済むことから治療期間が短縮でき、効率よく治療を進められることがメリットです。
また、手術が1回で済むことによる治療費用の削減や身体的負担の軽減もメリットとして大きいでしょう。その後に安静期間を経て型取りを行い、上部構造の作成と取り付けを行います。
ただし、1回法にはデメリットもあり、骨が薄い場合や弱い場合は適応できないケースがあるようです。歯肉が少ない場合も同様です。
また細菌やウイルスによる感染リスクも、2回法と比べて高くなる傾向にあります。
2回法
2回法では、一次手術でインプラント体を取り付け、切り開いた歯肉を一度縫合します。その後の安静期間を経たうえで様子を確認し、問題なければ再び歯肉を切開します。
この二次手術でアバットメントを取り付けるようです。その後に型取りを行い、上部構造の作成と取り付けを行います。
従来より行われてきた人工歯根手術は2回法である場合が多く、一次手術ののちに歯肉を縫合するため、細菌やウイルスによる感染を防げる点がメリットです。
2回法は、歯槽骨の量が不足している方でも治療を受けることができます。ただし、二次手術でも再び歯肉を切ることとなり、2度の切開が心身に与えるダメージも考えなければなりません。
この点ではデメリットでしょう。
インプラントと天然歯を連結する治療にかかる費用
インプラントと天然歯を連結する際には高額な費用がかかるものの、インプラント自体を複数本装着する場合よりも費用が安く済む傾向にあります。
また、この連結治療を行うことに積極的な歯科医院は多くはないようであり、それは連結によるデメリットが大きいためであると考えられます。
デメリットを選択してでも連結治療を望むのかどうか、ご自身でよく考えることが大切です。また治療方針を歯科医院でよく相談されてみることもおすすめします。
インプラントと天然歯を連結する治療を行う場合の注意点
どうしてもインプラントと天然歯を連結する治療を行う際、注意しておくことがいくつかあります。以下をご参考のうえ、治療に臨むようにしてください。
定期検診をこまめに受ける
定期検診はこまめに受けるようにしましょう。インプラントと天然歯を連結させた場合、上述してきたようにインプラントにも天然歯にも悪影響を及ぼす恐れがあります。
たとえこまめに歯磨きなどのケアを怠らなかったとしても、歯科医師による検診によって、予期していなかったトラブルが起きていることを早期に見つけられるかもしれません。
歯の健康は全身の健康とつながっています。取り返しのつかないことにならないよう、しっかり検診を行っていきましょう。
セルフケアを徹底する
日頃のセルフケアも欠かせません。毎食後の歯磨きの徹底はもちろん、歯間ブラシやフロスも用いて歯垢が残らないよう日々のケアをしっかり行いましょう。
また、歯科医師や歯科衛生士による歯磨き指導もしっかり受けてください。歯の並び方には人それぞれ特徴があり、また利き手もあることから歯ブラシの行き届かない磨き残しが発生しがちです。
歯磨き指導を受けて磨き残しを可能な限り少なくすることは、インプラントと天然歯を連結した状態を維持していくために欠かせません。
インプラントと天然歯の負担を軽減する装置を着ける
インプラントと天然歯をどうしても連結させる場合、先述してきたとおりインプラントを埋め込んだ歯の歯槽骨や天然歯への負担を考慮して緩衝機構や可動性の連結機構を組み込むことが望ましいとされています。
具体的には、1本ではなく複数のインプラントと連結させる方法により、1本あたりのインプラントにかかる負担を軽減させる方法です。ただし、審美面や機能性で問題がないかなど、ほかにも考慮すべき問題があります。
まとめ
インプラントと天然歯の連結治療について、現時点ではあまり推奨されていないことがわかりました。
医学の進歩には目覚ましいものがあり、数年後には状況が変化していることも考えられますが、今のところは無理に結合させる手術を行うことは適切であるとはいい難いようです。
ただし、結合手術が可能な歯科医師がいる場合は別問題かもしれません。しっかりと歯科医師に相談のうえ、連結治療が可能なようなら手術を受けてみてもいいのかもしれません。
参考文献