インプラントは、歯を失った際に行う治療のなかで満足度が高い治療法の1つとされています。しかし、手術後に続く痛みに悩んでいる方は少なくありません。
義歯にはさまざまな種類があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。2022年厚生労働省の調査によると、15歳以上で補綴物の装着者の割合は、以下のとおりです。
- ブリッジ:32.9%
- 部分床義歯:20.1%
- 全部床義歯:8.7%
- インプラント:3.2%
インプラントは治療期間が長い・治療費が高いなどのデメリットがあるため、ほかの義歯と比べると利用者が少ない傾向です。
しかし、インプラントには、しっかりと強く噛める・歯を見せて笑える・おいしく食事できるなどの魅力があります。
本記事では、インプラント手術後に痛みが続く原因について詳しく解説します。痛みが続く場合、病院に行った方がよいタイミングや術後の注意点も理解できるようになるでしょう。
インプラント手術後の痛みでお悩みの方は、本記事を参考にしていただけますと幸いです。
インプラント手術後の痛みについて
- インプラント手術後の痛みの原因を教えてください
- インプラント手術後の痛みは、手術中の切開や縫合など外科処置による影響が考えられます。
インプラントは骨になじみやすいチタンなどの材料で作るため、骨にしっかりとつくのがインプラントのよい点です。自分の歯のように噛み心地が自然であるため、インプラントは第二の永久歯とも呼ばれています。
しかし外科手術を伴うため、痛み・腫れ・出血・合併症が起こる可能性があります。術後直後の痛みの主な原因は、以下のとおりです。- 術後の腫れによって、周辺部位の組織が圧迫されている
- 手術の影響で、手術をした部位の近くにある組織が損傷している
- インプラント埋入時、骨を火傷した
手術では、喪失歯の顎の骨に埋めた人工歯根を土台にして、歯を作ります。このとき、ドリルを使って穴をあけるため、ドリルと骨の摩擦で骨が火傷することがあります。インプラント手術が完全に完了した後に痛みが出る場合の原因は以下のとおりです。
- インプラント周囲炎の影響
- インプラントのパーツのゆるみ
- インプラントをドリルで埋め込んだ歯の周りの歯が炎症を起こしている
- 噛み合わせによる影響
チタンは口腔内の菌が付着しやすく感染に弱いため、インプラント周囲炎を引き起こしやすい傾向があります。インプラント周囲炎を引き起こすと治療が難しいため、注意しましょう。
- インプラント手術後の痛みはどのぐらい続きますか?
- インプラント手術後の痛みには個人差があり、一般的には短いと2~3日・長くても約1週間で自然に治まるとされています。
痛みが自然に改善しない場合、手術以外の原因がある可能性があります。気になる場合は、歯科医師に相談してみましょう。インプラント手術を受ける前に、痛みや腫れなどのリスクを確認しておくと、必要以上に不安に陥らなくてすむでしょう。
- 手術後に腫れや痛みが引かない場合の対処法を教えてください
- 数日~1週間程度、痛みが続く可能性があります。痛みがある間は、歯科医院で処方された痛み止めや抗菌薬などの薬を服用して様子を見ましょう。その他、腫れや痛みが悪化しないための対処法は以下のとおりです。
- 口腔内を清潔に保つ
- 激しい運動を控える
- 飲酒を控える
- ぬるめのシャワーを浴びる
- インプラント手術を行った部位とその周囲に刺激を与えない
上記の対処法をしても1週間以上腫れと痛みが引かない場合は、歯科医師に相談しましょう。
- インプラント手術後の痛みで病院に行くべき目安はありますか?
- インプラント手術後1週間経過しても痛みや腫れが続き、それ以外にも症状がある場合、細菌感染している可能性があります。考えられる感染症は、インプラント周囲粘膜炎・インプラント周囲炎です。主な症状は以下のとおりです。
- インプラント周囲の粘膜の腫れ
- 粘膜からの出血
- インプラントと粘膜の隙間が深くなる
- インプラントが取れる
主な原因は、細菌のかたまりである歯垢です。上記のように気になる症状があれば、できる限り早めに歯科医院を受診しましょう。インプラント周囲粘膜炎の基本的な処置は、歯垢の除去・口腔内のクリーニングです。インプラント周囲粘膜炎を繰り返さないために、自宅での口腔ケアをしっかりと行う必要があります。
また、インプラント周囲炎の治療は難しいとされています。基本的な処置は、抗菌薬の投与・殺菌効果のある洗口液の使用・できる範囲での歯垢除去などです。
万が一炎症が骨まで及ぶ骨吸収が3mm以上見られる場合は、スレッド除去術・歯肉移植術・骨造成手術など外科的療法も行われます。インプラント周囲炎をできる限り防ぐためには、自宅での適切な口腔ケアを行う・気になる症状があれば早めに歯科医院を受診することが重要です。
インプラント手術後の注意点
- インプラント手術後の痛みを軽減する方法はありますか?
- インプラント手術後、処方された痛み止めや抗生剤の服用で痛みを軽減できます。麻酔の効果があり痛みを感じにくくても、事前に服用しておきましょう。反対に、痛みや腫れを増大させてしまう行為は、以下のとおりです。
- ランニングやスポーツジムなどの激しい運動
- 飲酒
- 熱い湯船に長時間浸かる
- 喫煙
手術当日は、シャワーを浴びる程度にします。喫煙習慣のある方は、手術4週間以上前からの禁煙が推奨されています。術後も禁煙を継続しましょう。タバコの煙に含まれる成分の影響で、術後に感染症を起こしたり麻酔や手術に伴う合併症の危険性が高くなったりするといわれています。
痛みや腫れがある間は、上記の行為は控えましょう。また、感染予防で口腔内を清潔に保つため、自宅で丁寧に口腔ケアを行うことが重要です。自宅で使用できる口腔ケアの道具は、以下のとおりです。- 歯ブラシ
- 歯間ブラシ
- デンタルフロス
- スーパーフロス
- 電動ブラシ
- 音波ブラシ
ただし、抜糸するまでは、傷口に歯ブラシを当てるのは控えましょう。やり方がわからない場合は、歯科医院に相談し、指導を受けるようにしましょう。またインプラント手術後は、口腔内の歯垢やむし歯・噛み合わせなどのチェックのため、定期的に歯科医院を受診してください。
- 手術後に痛みが起きやすい人の特徴を教えてください
- 手術後に痛みが起きやすい方の特徴は、以下のとおりです。
- 飲酒する方
- サウナ・お風呂を好む方
- 激しい運動をする方
- コーヒーを好む方
血行がよくなると痛みが起きやすくなります。インプラント手術後は、できる限り痛みが治まるまでは上記のような行為は控えましょう。
- 手術後の痛みを防ぐ方法はありますか?
- 刺激が強い・熱い食べ物や冷たい飲み物は傷口を刺激する可能性があります。痛みがある間は、スープや蒸した野菜などのやわらかい食べ物の摂取がおすすめです。患者さんによってお口の状態は異なります。一人ひとりに合わせたインプラント手術を行うためには、経験豊富な歯科医師の技術が必要です。
短時間で手術を終えることで、術後の痛みを抑えやすくなるとされています。インプラント手術は、経験豊富な歯科医師が在籍し、医療設備が整っている歯科医院で受けるようにしましょう。
また、インプラント手術を受ける際は、事前に歯科医師からリスクや注意点などを確認することが重要です。
編集部まとめ
インプラントは、自分の歯を喪失しても、健康に笑顔で過ごすための義歯治療方法の1つです。手術中、切開や縫合などの外科処置を行うため、痛みや腫れが起こります。
基本的には、数日~1週間程度で自然に痛みや腫れが落ち着くでしょう。しかし、1週間以上経過しても症状が改善しない・粘膜から出血や腫れがある場合は、インプラント周囲炎やインプラント周囲粘膜炎が原因の可能性があります。
できる限り早めに歯科医院を受診しましょう。また、経過良好の場合でもインプラントのプラークや噛み合わせなど、定期的な口腔内のチェックが必要です。
できる限り長くインプラントを使用するために、歯科医師の指示に従い、定期的な通院をしましょう。
参考文献