インプラント治療において、術後の痛みや腫れ、さらには見た目に大きな影響を与えるのが切開線であることをご存知でしょうか。インプラント治療では、適切に切開線を入れることが重要といわれていますが、医師の技量や経験によって差が生じやすい工程です。これからインプラント治療を検討している方は、インプラント治療の痛みやリスクだけでなく、切開線のことも理解しておくとよいでしょう。この記事では、インプラントの切開線に関して初心者にもわかりやすく解説します。
インプラント治療の具体的な方法
- インプラントとはどのような治療法ですか?
- インプラントとは、永久歯を失った部分にチタンやチタン合金などの金属製の歯根を埋め込み、人工の歯を被せるようにして装着し、失った歯を補う治療法です。インプラント治療は、事故や怪我、さらには歯周病などが原因で失われた永久歯を補えるだけでなく、入れ歯と比較して咀嚼機能の大幅な改善が見込めること、10年〜15年にわたって使用できる耐久性の高さも特徴といえます。一方、インプラント治療は歯肉の切開を伴う手術が不可欠なほか、治療期間が長くなりがち、さらには原則として保険は適用されないため、治療費が高くなる側面もあります。
- 1回法と2回法の違いを教えてください
- インプラント治療における1回法と2回法の違いは、手術の工程、治療期間、患者さんの心身の負担、そして費用です。インプラントには、1回法と2回法と呼ばれる方法があります。いずれも、手術つまりは切開の回数を示しています。インプラント治療の1回法とは、歯肉を切開してインプラント体を埋め込み、その流れでアバットメントと呼ばれるインプラント体と人工歯を連結する部分を装着する方法です。これに対して2回法は、歯肉を切開してインプラント体を埋め込んだ後に一度縫合し、インプラント体と骨の結合を待ちます。おおむね3ヶ月経過した後に、再び切開し、アバットメントを装着します。1回法は2回法と比べ、心身の負担が軽く、短期間で治療が完了する一方、細菌感染リスクが否定できないほか、すべての歯科医院が対応しているわけではない、さらにすべての患者さんに適用するとは限らないため、インプラント治療は2回法が主流とされています。
- インプラント手術の具体的な流れを教えてください
- インプラント手術は、基本的には以下の流れをたどります。
- カウンセリング
- 検査および治療計画の作成
- インプラント体埋入手術(1次手術)
- 3ヶ月の待機期間
- アバットメント取付手術(2次手術)
- 型取り
- 人工歯の取付
先述したように、インプラント手術は1回法と2回法があり、それぞれで手術の工程が変わります。一般的には、インプラント手術は2回法が採用されており、2回法の場合は上記のような流れです。なお、1回法は2次手術までを1回で済ませるため、工程が少なくなります。
- インプラントで切開線はどのように入れられますか?
- インプラント手術の切開線は、先が尖ったメスや、先端が湾曲したメスを使い、歯の偶角部と呼ばれる部分から歯槽頂に沿って入れられます。インプラント手術の切開線は、歯槽頂切開または口腔前庭部切開と呼ばれる方法が用いられます。切開線が適切に入らないことで、縫合時に歯茎が付着しなかったり、瘢痕ができたりする可能性があります。切開線の入れ方は、インプラント手術の成功に大きく影響する要素です。切開線をどのように入れるかは、歯槽の形状が患者さんごと違うため同じようにはいきません。この点に対して、医師の技量や経験が求められるわけです。
- インプラント治療はどのくらい時間がかかりますか?
- インプラント治療は1本あたり約30分かかると考えましょう。麻酔の時間を考慮すると、60分〜90分かかります。また、インプラントの本数が増えると、1本あたり20分〜30分追加されることがほとんどです。そして、インプラント治療の着手から完了までの期間は、一般的に3ヶ月〜12ヶ月といわれています。これはインプラントの手術を行った後は、埋入したインプラントが骨と結合して生着するのを待つ必要があるためで、生着までの待機時間を含めて、全体でこの程度の期間がかかります。
インプラントの生着にかかる期間は、下顎であれば3ヶ月程度、上顎の場合は4ヶ月が目安です。
インプラント治療での切開について
- 切開を伴うインプラント治療に痛みはありますか?
- 切開を伴うインプラント治療では、術後に痛みが生じると考えてください。手術中は麻酔が効いているため、痛みを感じることはありません。痛みの感じ方は個人差があるものの、麻酔が切れた後、2日目から3日目をピークにして痛みや腫れが生じるでしょう。ズキズキした痛みや、ジンジンするような感覚がしばらく続きます。
- 術後に切開した場所が開いてしまうことはありますか?
- 術後に切開した場所が開くことは考えにくいでしょう。一方、過度な衝撃が加わったり、医師の縫合が適切でなかったりした場合は、切開した箇所が開く可能性は否定できません。術後は、血流が促進されるような激しい運動や入浴をなるべく控えることや、患部に触れないような歯磨きを実践すること、そして歯間ブラシや爪楊枝などの使用を中断するのが望ましいでしょう。
- 切開線が跡として残ることはありますか?
- インプラント治療による切開線が跡になることは考えにくいでしょう。通常は、抜糸後に切開線はきれいに閉じるほか、人工歯が装着されると切開線は目立たなくなります。仮に、切開線が跡になったとしても、よほど近付かない限り視認は難しいでしょう。ただし、術後間もなくのタイミングで縫合部で炎症が起きた場合や、抜歯が早すぎる、あるいは遅すぎると、切開線周辺の組織が固くなる瘢痕化を招くかもしれません。切開による跡は残りにくいものの、炎症に起因する傷跡は残る可能性があります。
インプラント治療におけるセルフケア
- インプラント治療後に注意するべきことはありますか?
- インプラント治療後、特に術後1週間を目安にして以下のことに注意しましょう。
- 出血が続くときはガーゼで圧迫止血する
- 咀嚼しなくてよい食事にする
- アルコールや喫煙を控える
- 運動や入浴を控える
- 硬いものや辛いものの摂取を控える
- やわらかい歯ブラシを使う
- 歯間ブラシや爪楊枝は使用しない
- 患部を刺激しない
このように、インプラント治療後は1週間を目安にして安静に過ごすことが大切です。特に、出血と刺激に関することに注意しましょう。上記のことは、出血と刺激を避けるために有用なため、インプラント治療後の注意事項として覚えておきましょう。
- 切開跡など術後の回復を早めるための方法を教えてください
- インプラントによる切開跡を少しでも早く治すには、安静、清潔、そして栄養の3つを意識するようにしてください。切開跡がしっかり塞がるまでは運動や入浴を控え、なるべく安静に過ごすことが求められます。また、できるだけ口腔内を清潔に保つことは切開後の炎症を防ぐにも有用です。やさしく歯磨きすることや、こまめなうがいを心がけるとよいでしょう。栄養については、免疫を高めるほか治癒効果も期待できるビタミンCの摂取や、たんぱく質の摂取を心がけてください。インプラント治療後1週間の過ごし方は、術後の回復を大きく左右する可能性があるため、医師の指示にしたがうようにしましょう。
編集部まとめ
インプラントの切開線は、歯の偶角部から歯槽頂にかけて、一筆書きするように一定の深さで入れます。切開は医師の技量や経験、さらには手先の器用さも影響するため、インプラント治療の経験が豊富な医師を選ぶことが大切です。 歯科医院を選ぶ際は、医師の経験はもちろん、治療に関する流れや注意点などもわかりやすく丁寧に説明してくれる医師を選ぶとよいでしょう。
参考文献