インプラント

インプラント治療による感染 | 原因・対処法・トラブルの予防法を解説

インプラント治療による感染 | 原因・対処法・トラブルの予防法を解説

失った歯を補うインプラントは、手術を受けただけで使い続けられるものではありません。正しくケアしていないと、感染が起こる可能性が高まります。

感染はインプラントの寿命を縮めかねません。そのためインプラント治療を受ける場合には、あらかじめ感染のリスクをよく把握し対処するのが肝心です。

そこでこの記事では、インプラント治療による感染の原因・対処法を解説します。トラブルを防ぐ予防法も併せて参考にしてみてください。

インプラント治療による感染の原因

歯の痛みを気にする男性 

口腔内はさまざまトラブルが起きやすい器官です。なかには、インプラント治療に起因する感染症状に悩まされる患者さんもいます。

インプラント治療による感染を防ぐには、まず原因を知るのが重要です。治療後に起こりえる感染の4つの原因を解説します。

口腔内のケア不足

口腔内ケアアイテム

インプラントが感染を起こす大きな原因の1つは、口腔内のケア不足です。口腔内のプラーク(歯垢)にはさまざまな細菌が含まれています。

口腔ケアが不十分な場合、細菌が繁殖し歯周炎のリスクが高まります。慢性的なケア不足はインプラントも汚染し、感染を招くでしょう。

実際に過去の研究および症例では、歯周炎の既往群は非既往群よりもインプラント治療の成功率が低くなりやすいと報告されています。

歯周炎そのものがインプラント感染のリスク因子になるとの断定にはいたっていません。とはいえ、細菌の繁殖が口腔内の感染率を高めるのは明白です。

口腔清掃を停止すると炎症が起き、再開すると炎症が消退する結果も出ているため、口腔ケアはインプラント感染と大きな関係があると思われます。

免疫力・抵抗力の低下

口腔内に関わらず、細菌ならびにウイルスによって感染し炎症を起こすかどうかは、身体が本来もつ免疫力・抵抗力の強さが鍵です。

生体内に病原体および異物が侵入すると、刺激によって生体反応(免疫反応)が起き白血球から抗体・感作リンパ球が作られます。

身体に元々備わっている自然免疫ではNK細胞、後天的に身につく獲得免疫ではT細胞・B細胞などのリンパ球が主に活動し、病原体を攻撃します。

人が感染するのは、これらの免疫細胞がもつ力が病原体の毒力・繁殖力に負けるためです。免疫力が低下している際には病原体に打ち勝てません。

リンパ球を作る白血球、また白血球を作る造血幹細胞に関わる疾患を抱えている患者さんは、正常に抗体が作られず免疫力が低下しやすいです。

また、すでにほかの感染症を患っている場合も抵抗力が下がっており、インプラント感染を引き起こしやすくなります。

喫煙

喫煙中

喫煙は歯周炎の重症化に関与するリスクファクターです。これにはニコチンの血管収縮作用が関係していると明らかになってきました。

ニコチンが血管を収縮させると歯肉上皮下毛細血管網の血流量が減少するとともに、ヘモグロビン量および酸素飽和度の低下を引き起こします。

喫煙習慣が長期間にわたるにつれて炎症を起こした歯肉出血が減少するため、歯肉の炎症症状がわかりにくくなり進行の自覚を遅らせます。

さらに喫煙による血流の低下は、免疫機能に対しても抑制的に作用するでしょう。つまり喫煙はインプラントの感染を引き起こしやすく、重症化させやすいです。

また、非喫煙者よりも歯槽骨の減少率が大きい点も注意が必要です。インプラント体が歯槽骨に結合せず、歯肉に炎症を起こす可能性が高まります。

歯科医院の感染対策不足

患者さんのなかにはインプラント治療を受けた歯科医院の感染対策が十分でなかったために、治療後に感染を起こす症例も見受けられます。

歯科治療では超音波スケーラーまたは切削器具によってエアロゾルが発生し、病原体が空気中に飛散して診療室全体を汚染する可能性が高いです。

また、インプラント治療のような外科的手術では唾液・血液の飛沫が伴います。飛沫に含まれる細菌が患部に侵入し、繁殖する恐れがあるでしょう。

このように治療中は感染リスクが発生する場面が頻発します。歯科医院がしっかり感染対策を講じていないと、治療中に感染が生じるでしょう。

インプラントの感染によって生じる疾患・症状

歯の模型

インプラントが関わる感染では、主にインプラント周囲粘膜炎ならびにインプラント周囲炎と呼ばれる2つの疾患を引き起こします。

これらは名称のとおり、インプラントの周囲に生じて影響を与える疾患です。それぞれの疾患リスクを把握するために、症状の特徴を解説します。

インプラント周囲粘膜炎

インプラント周囲粘膜炎とは、インプラント周囲の軟組織にプラークが長期間にわたり接触しているために粘膜のみに生じる炎症反応です。

インプラント周囲組織は歯周組織とは異なり、インプラント体周囲に歯根膜が存在せず血流量が乏しく、咬合緩衝能を有していません。

それにより細菌感染または過重負担を受けやすく、インプラント・骨境界面に破壊が起こります。歯周炎と似ているものの、異なる病態を示します。

インプラント周囲粘膜炎診断基準は、粘膜の発赤・腫脹、歯周ポケットを検査するプロービング時の出血です。出血は特に疾患の進行性を示唆する症状です。

日本歯周病学会が2018年に報告した実態調査では、日本でのインプラント周囲粘膜炎の罹患率は33.3%との結果が出ています。

これによりインプラント治療による合併症のなかでも、大きく割合を占めているのがインプラント周囲粘膜炎だと明らかになっています。

インプラント周囲炎

インプラント周囲炎は、初期の骨結合が成功した後にインプラント体周囲の軟組織が炎症し、支持骨の喪失まで引き起こす疾患です。

発症過程はインプラント周囲粘膜炎と同じです。簡単にいえばインプラント周囲粘膜炎が継続的に進行した結果、インプラント周囲炎へ移行します。

炎症症状ではあるものの、インプラント周囲粘膜炎とは異なり周囲粘膜の炎症を呈していない症例があり、肉眼的に診断するのが困難な場合もあります。

そのため、インプラント周囲ポケットの深化・排膿、またインプラント周囲の骨吸収の特徴がみられるかどうかが診断の重要な項目です。

前述の日本歯周病学会による実態調査の結果では、インプラント周囲炎の罹患率は9.7%です。そのうち大半の患者さんで、顎骨まで病変が広がっています。

インプラント治療を受けた患者さん全体の割合からみれば少ないものの、深刻なまでに進行している状態のため放置するのは危険です。

インプラントの感染が及ぼす影響

歯の痛みを気にする男性

インプラント治療後に感染が起こる可能性があるとわかっていても、具体的にどのような影響があるかを知らないと対処を怠ってしまう恐れがあります。

ここでは特に注意が必要な2つの影響を取りあげます。インプラント自体だけでなく患者さんの生活に関わる影響のため、事前によく確認しておきましょう。

歯周病リスクが高まる

インプラント治療は天然歯のような自然な使い心地を得られる一方で、歯根膜が存在しないため歯周病リスクが高まるデメリットがあります。

組織学的にみるとインプラント体と接触する上皮をはじめとする封鎖構造が天然歯よりも限局的で少なく、上皮細胞・チタンの接着性も低いです。

これらの理由から、わずかに存在する接着構造も封鎖機能が低いとされています。その結果、歯周病細菌への抵抗性が低くなると推測されます。

インプラント治療により感染が起こると患部に歯周病細菌が侵入しやすくなり、以前には歯周病と診断されなかった方も歯周病になる可能性が高いです。

噛み合わせが悪くなる

本来、インプラント治療を受ければ失った歯が補われ噛み合わせがよくなります。しかし感染が起こった場合には、噛み合わせが悪くなってしまいます。

インプラント体が骨結合する前に感染すると、結合が妨げられるでしょう。そこに強い咬合力が加われば、インプラント体がずれてしまいます。

また骨結合は成功していても、インプラント周囲炎が進行すると歯槽骨の吸収ならびに周囲粘膜の喪失が起こり、歯槽骨周囲の角化粘膜が不足しやすいです。

支える土台が失われるため、インプラント体が動揺します。重度になるとインプラントが脱落するケースもあり、十分な噛み合わせが得られなくなるでしょう。

インプラントによる感染症の対処法

治療中の人

ここまでは、インプラントが感染する原因および感染により生じる疾患を解説しました。ここからは感染してしまった場合の対処法を取りあげます。

前述したように、インプラント粘膜周囲炎およびインプラント周囲炎では感染度合いが異なります。各疾患に合わせた治療をチェックしましょう。

インプラント周囲粘膜炎の治療

インプラント周囲粘膜炎の治療法は確立していませんが、細菌感染症のため発生原因が似ている歯周病の非外科的治療法が基本となっています。

炎症の治療でまず重要なのは、病因菌(バイオフィルム)の除去です。インプラント周囲組織の機械的な清掃および抗菌療法にて環境を改善します。

また、メチレンブルーを主成分とするバイオジェルをポケット部に注入して病原細菌を染色し、赤色光を化学反応させる光線力学療法も行われています。

痛み・副作用の心配が少なく予防にも有効ですが、光過敏症の方は受けられません。自由診療で、1本につき3,000円前後の費用がかかります。

インプラント周囲炎の治療

インプラント周囲炎でも非外科的治療法が用いられます。ただし感染が進行しているため、主に外科的治療が必要となるでしょう。

第一に超音波スケーラー・ダイヤモンドバー・チタン製ブラシなどを用い、機械的な清掃を行うのが基本です。歯科用レーザーが使用される場合もあります。

さらにインプラント体の動揺がみられたり大部分が骨吸収している状態になったりしている場合には、インプラント体除去も必要となるでしょう。

インプラント周囲粘膜炎ならびに周囲炎の治療費用は炎症の程度に応じて異なりますが、22,000〜110,000円(税込)程度かかる見込みです。

なお、インプラント埋入手術費用は1本につき250,000〜280,000円(税込)程です。感染すると金銭面での負担がかさむ点も覚えておきましょう。

インプラント治療に伴う感染トラブルの予防法

自信に満ちた人

口腔内は細菌が繁殖しやすく、感染しやすい傾向にあります。しかし、治療時・治療後に適切な処置を行っているなら感染リスクを下げられるでしょう。

ここでは、インプラントの感染を防ぐために患者さんができる3つの予防法を取りあげます。インプラント治療を検討している方はぜひお役立てください。

口腔内を清潔に保つ

インプラントの感染で特に重要となるのがプラークコントロールです。毎日の歯磨きを丁寧に行い、口腔内を清潔に保つなら感染率は減少させられます。

歯ブラシの毛先を歯頭部に当てて小刻みに動かし、歯茎を傷付けないプラーク除去を心がけます。デンタルフロス・歯間ブラシの併用もおすすめです。

ただしインプラント埋入手術直後〜数日の周囲組織はデリケートです。歯磨きが負担となり感染を引き起こす恐れがあるため、しばらく控えましょう。

とはいえ、手術部位以外も歯磨きしないでいると口腔内は汚染されます。手術部位以外は普段と同じように歯磨きをして清潔を保ってください。

処方された抗菌薬を飲み切る

薬とお水

インプラント体を2〜3本埋入した場合、一般的に痛み止めが5回分、また抗菌剤・胃薬が5日分処方されるでしょう。

痛み止めは痛みがなければ服用をやめるため、同じように抗菌剤の服用もやめたくなるかもしれません。しかし抗菌剤まで飲むのをやめてはいけません。

抗菌剤はデリケートなインプラント周囲組織の感染予防に大切です。感染の兆候がみられなくても、処方されている抗菌剤はすべて飲み切ってください。

信頼できる歯科医院を選ぶ

インプラント治療を受ける歯科医院をよく選ぶのも重要なポイントとなります。なぜなら、感染対策の程度は歯科医院ごとに委ねられているためです。

例えばエアロゾル感染を防ぐには、個室あるいはパーティションで隔離された空間での施術が有効です。口腔外バキュームも清潔を保つのに役立ちます。

飛沫感染の予防には術者および介助者が手指衛生を適切に行う点に加え、手袋・マスク・ゴーグルなどの個人防護具を身に着ける点も大切です。

また治療に使用する器具の洗浄ならびに歯科用ユニットの消毒も徹底されているなら、さらに感染リスクを下げられるでしょう。

このような衛生管理が行き届いている歯科医院であれば、治療前から治療後まで感染に対する細やかな対策を講じてもらえるはずです。

インプラント感染が疑われる場合はなるべく早く受診しよう

カウンセリング中

インプラント治療後、インプラント周囲組織の炎症および口腔機能に異変を感じた場合は、感染を起こしていると考えられます。

自己判断で放置すると、感染は治まらず進行していきます。インプラントを守るために、なるべく早くインプラント治療を受けた歯科医院を受診してください。

また少なくとも1年に一度メンテナンスを受けていれば、感染にいち早く気付けるでしょう。明らかな症状が出てから受診するよりも早期治療が行えます。

メンテナンスでは、インプラント支持補綴物ならびに周囲組織の臨床検査のほか口腔衛生指導も受けられるため、インプラントを長期的に維持できます。

まとめ

鏡を見て歯を確認している人

この記事では、インプラント治療に伴う感染リスクを解説しました。あらかじめ原因・症状・予防法を知っておくと、対策しやすくなるでしょう。

インプラント周囲粘膜炎およびインプラント周囲炎を発症した場合、適切に治療しなければインプラント体の脱落もしくは除去となってしまうかもしれません。

このような事態を避けるには衛生管理が行き届いた歯科医院で治療を受ける点と、歯科医院のみならず自宅でのメンテナンスを徹底する点が重要です。

インプラントは一度失った口腔機能を取り戻すのに有効な治療法です。感染対策をしっかり行い、できる限りインプラントを長く使っていきましょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
山下 正勝医師(医療法人徳洲会 名古屋徳洲会総合病院)

山下 正勝医師(医療法人徳洲会 名古屋徳洲会総合病院)

国立大学法人 鹿児島大学歯学部卒業 / 神戸大学歯科口腔外科 勤務 / 某一般歯科 7年勤務 / 国立大学法人 山口大学医学部医学科卒業 / 名古屋徳洲会総合病院  呼吸器外科勤務 / 専門は呼吸器外科、栄養サポートチーム担当NST医師

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