インプラント治療では、人工歯根を顎の骨に埋め込むため、十分な骨量が必要です。しかし、骨が不足している場合でも、顎の骨を増やす骨造成という治療を行うことでインプラント治療が可能な場合もあります。 本記事ではインプラント治療は骨がないとできない?について以下の点を中心にご紹介します。
- インプラント治療における骨造成とは
- 骨造成の種類について
- インプラント治療の保険適用について
インプラント治療は骨がないとできない?について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
インプラント治療における骨の重要性
まずは、インプラント治療の基本とインプラント治療における骨の重要性について、以下に解説します。
インプラント治療とは
そもそも、インプラントとは、体内に埋め込む人工物(医療器具や材料)全般を表しています。そのため、骨折治療に使用されるボルトや心臓ペースメーカー、美容整形で使用されているシリコンなどもインプラントの一つです。
歯科におけるインプラント(歯科インプラント)は、失われた歯の機能を回復するために顎の骨に埋め込まれる人工歯根のことを指しており、歯科インプラントが使用される治療のことをインプラント治療と呼んでいます。
人工歯根は主にチタン製で、その上にセラミックやレジン製の上部構造が取り付けられることで、見た目や機能の面で天然歯に近いものを再現します。
骨が少ないとインプラント治療ができない理由
インプラント治療において、顎の骨の量は重要な要素のひとつです。
先に述べたように、インプラント治療では人工歯根を顎の骨に埋め込みますが、骨の量が不足していると、人工歯根が安定して固定されないため、治療が困難になります。これは、安定した基盤がない場所に建物を建てるのが難しいのと同じ理由です。
さらに、顎の骨が薄い場合、インプラント手術中に周辺の重要な解剖学的構造、例えば神経や血管などを傷つけるリスクが高まります。また、上顎へ埋入する場合、不十分な骨の高さが原因でインプラントが上顎洞に貫通し、上顎洞炎などのさまざまな合併症を引き起こす可能性があります。
このような理由から、インプラント治療には、十分な骨の厚みと密度が必要となります。
骨が少ないときに行う骨造成について
インプラント治療を希望されている患者さんのなかには、何らかの理由で顎の骨が減ってしまっているケースがあります。例えば、長期間歯がない状態が続いたり、重い歯周病によって骨が溶けたりしている場合です。こうした状態のときに必要となるのが、骨造成という治療です。
骨造成は、顎の骨が不足している部分に人工的な材料を加えることで、骨の量を増やす治療です。これにより、インプラントをしっかり支えるための土台を作ります。
また、骨造成を実施する時期については、事前に骨造成によって骨量をふやしてからインプラント手術が行われるケースや、インプラント手術と並行して骨造成が行われるケースなど、患者さんの状態によって異なります。
骨造成のメリット
ここでは、骨造成の主なメリットを3つ解説します。
骨の量が確保できる
骨造成のメリットのひとつは、顎の骨の量が確保できることです。
顎骨が十分に存在しない場合、インプラントを安全に支えることができず、人工歯根が歯茎を突き抜けるリスクや、外側から見えてしまうリスクがあります。
さらに、骨造成により骨の量が確保されることで、手術中に重要な神経や血管を損傷するリスクが低減され、インプラント手術時のリスクも軽減されます。
抜け落ちる心配が減る
骨造成は、インプラントが顎の骨にしっかりと固定されることが重要です。顎の骨が十分でない場合、インプラントは不安定になりがちで、抜け落ちるリスクを高めます。
骨造成によって骨量が増えると、インプラントはしっかりと固定されます。この状態は、日常生活でインプラントが抜ける心配がほとんどなくなり、安定したインプラントは長期間にわたって快適に使用でき、定期的なメンテナンスもスムーズに行えます。
歯茎のバランスがきれいになる
骨造成は、顎の骨量を増やすことで、歯茎の見た目と機能を向上させるメリットがあります。
骨が少ないと、歯茎が下がってしまい、笑ったときやお口を開けたときなどに不自然な見た目になることがあります。骨造成を行うことで、この問題を解決し、歯と歯茎の自然なバランスを取り戻し、口元の見た目が整います。
骨造成のデメリット
ここでは、骨造成の主なデメリットを2つ解説します。
骨造成が難しいケースがある
骨造成は、すべての患者さんが受けられる治療ではありません。 骨造成が難しいケースについて、以下に詳しく述べます。
【全身疾患を持っている】
コントロールの難しい重症の糖尿病(1型糖尿病も含む)や心臓病のある患者さんには、骨造成が推奨されていません。これらの病気は、手術後の治癒が遅い場合があり、骨がうまく再生されないことに加え、治療時の感染リスクが高いため、骨造成の成功確率は下がります。
【喫煙者】
喫煙は血流を悪化させ、酸素や栄養素の供給を阻害するため、手術後の骨の統合と治癒が不十分になる可能性があり、喫煙者は骨造成手術後の合併症が発生しやすいとされています。
【顎の骨に放射線治療を受けたことがある方】
がん治療で顎の骨に放射線治療を受けた患者さんは、放射線の影響で骨組織が弱くなっている場合があり、骨造成材料の組み込みが難しいとされています。
【重度の骨粗しょう症】
重度の骨粗しょう症を持つ患者さんは、骨の密度が低下しているため、骨造成手術のリスクが増大します。
【20歳未満の未成年者】
成長期の未成年者では、顎の骨がまだ成長しているため、骨造成やインプラントが適さない場合が多いようです。
【妊婦】
妊娠中の女性は、ホルモン変動や体の状態が不安定であるため、骨造成手術のリスクが高まる可能性があります。
【免疫系の疾患を持っている】
リウマチやHIV感染症などの自己免疫疾患や免疫抑制状態の患者さんは、感染のリスクが高く、骨造成手術後の合併症リスクが高いため、推奨されていません。
【長期間ステロイドを服用している方】
長期間のステロイド服用は骨密度を低下させ、骨折や骨の治癒を遅らせることがあり、骨造成の成功率が低下する恐れがあります。
これらの条件を持つ患者さんに対しては、骨造成の代わりに入れ歯やブリッジなどのほかの治療法が検討されます。
しかし、患者さんの状態が改善された場合には治療が行えるケースもあります。まずは、インプラント治療に詳しい歯科医院を受診して、ご自身の今の状態をしっかりと伝え、相談してみましょう。
治療期間が長い
骨造成は、治療完了までの期間が長いことがデメリットのひとつです。患者さんの骨の状態により期間は異なりますが、骨が再生し安定するまでには、4ヶ月から半年程度かかり、時には1年を超えることもあります。 そのため、日常生活や仕事に影響が出る可能性があり、治療を受ける際は生活スケジュールの調整が必要です。
骨造成の種類
骨造成には、さまざまな方法が存在します。ここでは、インプラント治療における骨造成の5つの技術とそれぞれの特性について詳しく説明します。
ソケットリフト法
ソケットリフト法は、上顎の奥歯部分で骨量が不足している場合に適応される骨造成の手法です。上顎洞挙上術とも呼ばれており、上顎の奥歯の部分に骨の厚さが3mmから5mm以上ある患者さんに対して推奨されます。
手術の際には、患者さん自身の骨または骨補填材を使用し、インプラントを埋め込む部位に小さな穴を開けて材料を注入します。これにより、骨の再生に働きかけ、必要な骨の量を確保します。ソケットリフト法のメリットは、インプラント埋入の手術と骨造成を同時に行えるケースもあるため、全体の治療期間が不必要に延長することが少ない点です。インプラント手術の前に事前にソケットリフト法が行われる場合は、インプラント手術に適した状態になるまで治療後3〜4ヶ月程度を要します。
ソケットリフト法は上顎の奥歯に限定される技術であるため、ほかの部位の骨造成には別の手法が必要です。
サイナスリフト法
サイナスリフト法は、上顎洞挙上術の一環として、上顎の奥歯部分において広範囲にわたって骨が不足している症例に適用される技術です。この方法は、前述したソケットリフト法とは異なり、より多量の骨補填が必要な場合に用いられます。
顎の骨の厚さが3mmから5mm未満の患者さんに対して推奨され、広範囲の骨再生を目指します。
サイナスリフト法の手順は、まず頬側の歯肉を切開し、骨造成のための十分なスペースを確保します。次に、必要な骨補填剤を注入し、その後縫合を行います。この手法では、インプラントの同時埋入は行わず、まず骨の再生を促すことに重点を置いています。そのため、骨造成後にインプラント治療に進むまでには、10ヶ月から1年の期間が必要とされます。
サイナスリフト法は、患者さんへの負担の大きさを考慮しながら、広範囲の骨造成を必要とする症例に対して選択されます。
ソケットプリザベーション
ソケットプリザベーションを行う主な症例は、抜歯が避けられないケースで、将来的にインプラントの設置を予定しているが、すぐにはインプラント治療を行えない場合に選択されます。
この手法は、抜歯を行った後の顎の骨の減少を抑えるために、抜歯によって空洞になった歯槽窩(ソケット)に自身の骨片や合成の骨補填材を充填し、その上から医療用の膜(メンブレン)を被せて骨の再生を助けます。
ソケットプリザベーションによる骨の再生は、4〜9ヶ月の期間が必要であり、骨が十分に固まった後にインプラントの埋入を行います。
GBR
GBR(骨組織誘導再生法)は、顎の骨の高さと幅が不足し、インプラントを支える骨量が確保できない場合に選択されます。
基本的にはインプラントの埋入と並行して行われ、自家骨や合成骨補填材を注入し、その上に医療用の特殊膜(メンブレン)が配置されます。
3ヶ月から半年程度で骨が形成されますが、骨を広範囲に再生しなければならない場合など、状況によってインプラントの埋入を別の時期に行う必要があるケースもあり、治療期間が延びることがあります。
ボーン・クラフト
ボーン・クラフト(遊離自家骨移植術)は、顎の骨が重度の歯周病や疾患によって大きく損なわれた場合に用いられる骨造成技術です。この方法では、患者さん自身の骨をブロック状に切り出して患部に移植し、スクリューや固定装置を使用して安定化させます。
治療には、骨移植後に骨がしっかりと顎に統合されるまでの4ヶ月から半年程度の期間を要します。
インプラント治療や骨造成は保険適用される?
インプラント治療は、基本的には自費診療とされていますが、特定の条件下では保険の適用が認められる場合があります。これには、厚生労働省が定める厳格な基準が存在し、保険適用されるのは限られた場合のみです。
保険が適用されるのは主に、先天的または後天的な理由によるものです。先天的なケースとしては、顎の骨が3分の1以上連続して欠損しているか、形成不全がある場合、または永久歯が6本以上先天的に欠如している場合などが挙げられます。後天的な理由には、腫瘍や顎骨の疾患により顎の骨が大幅に失われた場合、または事故による外傷で同様の損傷があった場合が含まれます。
しかしながら、これらの条件を満たすだけでは不十分で、治療を受ける施設も要件を満たす必要があります。これには、20床以上の入院設備を持つ歯科または口腔外科、適切な当直体制、インプラント治療に関する豊富な経験を持つ常勤医師の配置、さらには医薬品や医療機器の管理体制が整っていることなどが求められます。
このように、インプラント治療や骨造成が保険適用されるケースは限られています。治療を検討している場合は、事前に歯科医師に確認をしましょう。
インプラント治療を受ける前に知っておきたいこと
インプラント治療を考えている場合、知っておくべき重要なポイントがいくつかあります。
- 歯周病の予防
インプラントの周囲に発生する歯周病は、インプラントの基盤となる骨を溶かしてしまう可能性があります。これを防ぐためには、定期的な口腔ケアとメンテナンスが必要です。 - 十分な骨量が必要
これまで述べてきたように、インプラント治療は、十分な骨量がないとしっかり固定できません。骨の状態を事前に詳しく調べ、必要なら骨造成を行うことが重要です。 - 見た目の問題に注意
特に前歯のインプラント治療では見た目に影響が出やすく、骨や歯肉の退縮により、インプラントが不自然に見える場合があります。また、歯肉が薄いと、インプラントの金属部分が透けて見えることがあります。 - 金属アレルギーの確認
インプラント治療に用いられるチタンは、稀にアレルギー反応を示すことがあります。 - 骨との結合問題
患者さんの持病などで骨密度が低かったり、全身状態があまりよくない状況だと、インプラントがうまく結合しないことがあります。
これらの注意点を把握し、事前に信頼できる歯科医師としっかりと相談することが大切です。
まとめ
ここまでインプラント治療は骨がないとできない?についてお伝えしてきました。インプラント治療の要点をまとめると以下のとおりです。
- インプラント治療における骨造成とは、顎の骨が不足している部分に人工的な材料を加えて骨の量を増やし、インプラントをしっかり支えるための土台を作る治療
- 骨造成の種類には、ソケットリフト法、サイナスリフト法、ソケットプリザベーション、GBR、ボーン・クラフトなどがある
- インプラント治療は基本的には自費診療とされており、厚生労働省が定める厳格な基準に当てはまる限られたケースのみ保険が適用される
以前は、顎の骨が少ない患者さんは、インプラント治療が行えないことも少なくありませんでした。しかし、現在は個々に応じた骨造成を行うことで、顎の骨が少ない患者さんでもインプラント治療が受けられるようになりました。
これらの情報がインプラント治療を検討されている方のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。