歯がないと老けて見えると聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
実は、歯とお顔の印象には深い関係があります。また、これは見た目だけに限った話ではありません。歯が抜けたままの状態を放置すると、顔つきが変わるだけでなく、全身の健康にも悪影響を及ぼすことがあるのです。
この記事では歯を失うことで生じる見た目の変化や健康リスク、そして失った歯を補うための主な治療方法について、わかりやすく解説していきます。
歯がないと頬がこけるって本当?
- 歯を失う原因を教えてください。
- 歯を失う主な原因はむし歯と歯周病です。むし歯は初期の段階であれば削って詰め物をするだけで治療できますが、悪化すると歯の根本や神経まで細菌が侵入し、抜歯が必要になることがあります。一方の歯周病は、細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患です。歯の周りの歯茎や、歯を支える骨(歯槽骨)などが溶けてしまう病気です。進行すると、歯がグラグラしたり、抜け落ちたりする原因になります。
ほかにもスポーツや事故による衝撃で歯が折れたり抜けたりすることもありますが、歯が抜ける原因の6割がむし歯と歯周病であるといわれています。そして一度歯を失うと隣接する歯への負担がかかり、連鎖的にほかの歯まで失いやすくなるため、日頃のケアや早めの治療がとても大切です。
- 歯がないと頬がこけると聞いたのですが本当ですか?
- 歯を失った状態が続くと、その部分の骨や歯茎が少しずつ痩せていきます。これは骨吸収と呼ばれる現象で、歯がなくなることで骨にかかる刺激がなくなり、骨が徐々に減ってしまうのです。
骨が減ると、お口のまわりの筋肉や皮膚を支える土台が失われ、頬が内側に沈んだような状態になります。これが頬がこけたように見える原因です。特に高齢になると皮膚のハリや筋肉の弾力も失われてくるため、お顔全体が一気に老け込んだ印象になることもあります。
- 頬がこけると見た目の印象はどう変わりますか?
- 頬がこけると、お顔に立体感がなくなり、骨ばった印象や貧相な雰囲気が出やすくなります。特に頬のボリュームが減ると、肌がたるんだように見え、お顔全体が痩せこけた印象になりがちです。見た目に現れる具体的な変化としては、以下のようなものがあります。
- ほうれい線が深くなる:頬の支えが失われることで、しわが目立ちやすくなる
- 口角が下がって見える:頬がこけると口元の筋肉が下方向に引っ張られやすくなる
- 頬が凹んで見える:お顔の中心に影ができ、老けた印象が強くなる
- 唇のハリがなくなる:歯の支えがなくなることで、口元全体がしぼんだような印象になる
こうした変化は、実年齢より老けて見えたり、不健康そうに見えたりといった印象を周囲に与える可能性があります。また、これらはご本人のメンタルや対人関係にも影響する可能性があります。
歯がないまま放置するリスク
- 歯がないまま放置していると歯並びにどのようなリスクがありますか?
- 歯の1本くらい抜けてもそんなに影響ないだろう、といったような油断は禁物です。歯が抜けたまま放置すると、隣接する歯が空いたスペースに倒れてきたり噛み合う歯が伸びてきたりなど、これらにより全体の歯並びが乱れてしまいます。
歯並びが乱れると噛み合わせが悪くなり、しっかり食べ物を噛めなくなるだけでなく、顎関節に負担がかかって頭痛や肩凝りの原因になることもあります。歯1本の喪失が、全体のバランスを崩すきっかけになってしまうのです。
- 歯がないまま放置していると全身にも影響がありますか?
- 歯がない状態では噛む力が落ちてしまいますので、食べ物が噛みきれず消化器官への負担が増えたり、栄養の吸収効率が悪化したりする可能性があります。その結果、消化によいやわらかいものばかり食べるようになると栄養バランスがくずれ、健康状態に影響を及ぼすことも少なくありません。
また、噛む回数が減ることで脳への刺激も減少します。これは後述の認知機能とも関係しており、噛むという行為は脳を活性化させる大事な行為なのです。さらに、歯がない状態での会話は発音が不明瞭になることもあり、人とのコミュニケーションにストレスを感じる原因にもなります。
- 歯がないと認知機能にも影響を与えると聞いたのですが本当ですか?
- 物を噛む運動が認知症の予防につながることは古くから知られており、噛むという行為は脳機能に深く関与すると考えられています。歯の本数と認知症や健康状態の関連性について調査した研究がいくつかあり、以下のような研究結果が報告されています。
- 歯が抜けた後入れ歯をせずにそのまま放置している方は、20本以上歯が残っている方や歯がほとんどなくても入れ歯を使用している方と比べて認知症の発症リスクが1.9倍だった
- 歯が19本以下で入れ歯を使用していない方は、20本以上歯が残っている方と比較して転倒するリスクが2.5倍
- 保有する歯が19本以下の方は、20本以上の方と比較して1.2倍要介護認定を受けやすい
つまり歯の健康維持は、全身の健康管理にも深く関係しているといえます。健康に長生きするためにも日頃の歯のケアを心がけましょう。しかし万が一、歯を失っても入れ歯やブリッジ、インプラントなど適切な治療を受けることであらゆる機能は維持されるため、歯科医院で相談しながら定期的なチェックが重要です。
失った歯を補うための治療方法
- 失った歯を補うための治療方法を教えてください。
- 歯を失った場合の主な治療方法には、以下の3つがあります。
- 入れ歯
- ブリッジ
- インプラント
入れ歯は歯を失った部分の歯茎の上に義歯をのせて、隣の歯にフックをかけて固定する方法です。取り外しが可能で、保険が適用されるため、安く治療を受けることが可能です。ただし、天然の歯と比べて噛む力は弱く、装着時には違和感を覚えることもあります。また、過度の負担を加えるとフックをかけた歯に負担がかかるため、場合によっては痛みが生じることがあります。
ブリッジは歯を失った部分の両隣の歯を削って土台にし、その上に一体型の被せ物(人口の歯)を橋のようにかける方法です。固定式のため、入れ歯のように動くことがありません。見た目も自然で安定した噛み心地が得られます。
ブリッジも保険適用の範囲で治療が可能です。ただし、ブリッジの土台とするために、健康な歯を削る必要があるため、将来的にその歯に負担がかかるリスクがあります。また、残っている歯が少なかったり、奥歯が抜けていたりするとブリッジができないこともあります。
インプラントは歯が抜けた部分の顎の骨に人工の歯の根(インプラント体)を埋め込み、その上に人工の歯を装着する方法です。インプラントについてのメリット・デメリットは、次のセクションで詳しくご紹介します。
- インプラント治療のメリットとデメリットを教えてください。
- インプラント治療は、見た目や機能性に優れていますが、外科手術が必要であることなど、注意点もあります。主なメリットは以下のとおりです。
- 天然の歯に近い見た目と噛み心地が得られる
- 周囲の健康な歯を削る必要がなく、ほかの歯に負担をかけない
- 発音や咀嚼がスムーズで、違和感が少ない
一方でデメリットには以下のようなものがあげあられます。
- 外科手術が必要
- 治療期間が長い
- 顎の骨の量や全身の健康状態によっては適応できない場合がある
- 保険適用外であるため、治療費が高額になる
ご自身の健康状態や予算にあわせて、歯科医師とよく相談しましょう。
- インプラント治療にはどのくらいの期間がかかりますか?
- インプラント治療にかかる期間は患者さんによって異なりますが、3〜6ヶ月程度が目安です。治療の流れとしては以下のとおりです。
- カウンセリング・検査:歯科用CT撮影や健康状態を確認し、治療計画を立てます
- 手術:顎の骨にインプラント体を埋め込みます
- 治癒期間:骨とインプラント体が結合するまで数ヶ月かかります
- 人工歯の装着:骨とインプラント体の結合を確認した後、人工歯を装着します
手術後1年以内は、治療部位の確認やメンテナンスのために定期的に通院が必要です。トータル1年以上の治療期間を想定しておく必要があるため、スケジュールやライフスタイルもふまえて、事前にしっかりと医師と相談しましょう。
- インプラント治療の費用相場を教えてください。
- インプラント治療は保険適用外のため、すべて自費診療となります。費用はクリニックによって異なりますが、1本あたり300,000〜500,000円(税込)程度が一般的な相場です。診察代や検査費、手術費、被せ物の種類などによって総額が変わるため、治療前に必ず詳細な見積もりを出してもらうことが大切です。
編集部まとめ
歯がないことは見た目だけでなく、全身の健康や生活の質にも大きく関わってきます。特に頬がこける、老けて見えるといった見た目の変化は、精神的なストレスにもつながりやすいものです。
インプラント治療は費用や期間こそかかるものの、機能性や審美性の両面で優れた選択肢となります。
もし現在、歯を失ってそのままになっている場合は、早めに歯科医院で相談してみましょう。1本の歯が、あなたの見た目や健康を大きく左右することもあるのです。
参考文献
- 歯を失ったまま放置していませんか?|公益社団法人 日本口腔インプラント学会
- 入れ歯やブリッジとの違いは|公益社団法人 日本口腔インプラント学会
- よくあるご質問|公益社団法人 日本口腔インプラント学会
- インプラントの費用は?|公益社団法人 日本口腔インプラント学
- 歯周病とは?|特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会
- 生活習慣病などの情報|厚生労働省
- 入れ歯|日本歯科医師会
- 8020現在歯数と健康寿命|日本歯科医師会
- なぜ歯が抜けたら治療しなければいけないのでしょうか?そのままではだめなのでしょうか?|岩手医科大学歯学部 歯科補綴学講座 有床義肢保哲学分野
- I. 咬合異常の診療ガイドライン
- 「物を噛む運動は、脳内の異なる二つの司令塔によって制御されていた!」― 咀嚼機能を司る新たな運動制御機構の解明に道筋 ―|国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター