インプラント

インプラント手術後の過ごし方|経過や注意点、普段の生活に戻るまでの流れを解説

ンプラント手術後の過ごし方|経過や注意点、普段の生活に戻るまでの流れを解説

インプラント治療は外科手術を伴うため、手術後の過ごし方が治療の成功とスムーズな回復に大きく影響します。術後しばらくは普段と違う生活上の注意が必要ですが、適切なケアを行えば不安を最小限に抑えられます。本記事では、インプラント手術後の口腔内や身体の状態、手術当日の過ごし方とその後普段の生活に戻るまでの流れ、インプラントの定着を促す習慣、そして万一トラブルが起きた際の対処法を解説します。

インプラント手術後の口腔内と身体の状態

インプラント手術直後には、お口や身体にさまざまな変化が起こります。手術直後の状態を知っておくことで、適切な対処と不安の軽減につながるでしょう。まず、インプラント手術がお口の中に与える影響と、手術時に使用する麻酔が身体に与える影響を解説します。

インプラント手術の口腔内への影響

インプラント手術では歯茎を切開し、顎骨に人工歯根(インプラント体)を埋め込みます。そのため、術後は切開した歯茎に傷口があり、縫合(糸による処置)が施された状態です。

手術部位の歯茎は炎症反応により腫れたり痛んだりしやすくなります。個人差はありますが、腫れや痛みはその後徐々に落ち着いていき、1週間ほどで治まります。

傷口からは術後すぐに多少の出血がみられることがあります。血液は固まって塊を作り、傷の表面を覆って治癒を助けます。この塊を決して指や舌で触ったり、うがいで強く洗い流したりしないでください。血餅を取ってしまうと傷口から再出血し、痛みや腫れの原因になります。

また、インプラントを埋め込んだ骨の周囲では、これから数ヶ月かけて骨とインプラントが結合するオッセオインテグレーションという現象が起こります。インプラントと骨がしっかり結合するまでの間、手術部位に過度な負担をかけないようにしましょう。

インプラント手術の麻酔が身体に与える影響

インプラント手術では通常、局所麻酔を使用します。手術直後は麻酔が効いているため痛みを感じにくくなっています。また、唇や頬の感覚も鈍くなっており、知らないうちに頬の内側を噛んでしまったり、熱い飲食物でやけどしたりするおそれがあります。

また、インプラント手術では静脈内鎮静法を併用することもあります。静脈鎮静を受けた場合、麻酔後しばらくは眠気やふらつきが残ることがあるため、完全に意識がはっきり戻るまでは安静に過ごし、当日の車の運転は控えるなど十分注意してください。いずれにせよ、麻酔の影響は時間とともに消えていきますので、焦らず休息をとることが大切です。

インプラント手術後|当日の過ごし方

インプラント手術を受けた当日は、麻酔の影響が残り傷口も安定していないため、普段以上に慎重な過ごし方が求められます。ここでは、手術当日に特に注意すべきポイントを具体的に解説します。

歯科医師の指示に従って鎮痛薬を服用する

手術当日は、歯科医師から鎮痛薬が処方されることがあります。麻酔が効いているうちは痛みを感じにくいものの、麻酔が切れると同時に痛みが出てくる可能性があります。そのため、たとえ術後すぐは痛みがなくても、医師の指示どおり早めに鎮痛薬を服用しておきましょう。痛みが出てから慌てて飲むよりも、前もって薬を飲んでおいた方が効果的に痛みを抑えられます。

麻酔が切れるまでは飲食を控える

手術直後から数時間は麻酔が効いており、お口の感覚が麻痺しています。この状態で無理に飲食をすると、頬や舌を誤って噛んでしまったり、熱いスープでやけどを負ってしまったりする危険があります。そのため、麻酔が完全に切れて感覚が戻るまでは飲食を控えるようにしましょう。

麻酔の効果が切れてきたかどうかは、唇や頬の感覚が戻っているかで判断できます。数時間して感覚が戻ってきたら、少しずつ飲食を再開して構いません。ただし、最初の食事は無理をせず、温度が熱すぎない流動食や、やわらかい食べ物から始めるとよいでしょう。

食事はやわらかい食材を選ぶ

麻酔が切れた後、手術当日の食事はできるだけやわらかい食材にしましょう。おかゆやうどん、スープなど、そこまで咀嚼せずに飲み込めるか、軽く噛めば崩れるやわらかいものが適しています。一方、硬い食品(せんべいやナッツ類など)は手術部位に大きな負担をかけ、傷口を刺激してしまいます。傷の治りが悪くなったり、出血や痛み、腫れが長引いたりする原因にもなりかねません。

手術部位で食べ物を噛まない

食事を再開する際には、手術を行った側の歯や歯茎で食べ物を噛まないよう意識することも重要です。可能な限り反対側の健常な歯で噛むようにしてください。手術直後のインプラント部位や周辺の歯茎は、傷口が完全に閉じておらずとてもデリケートです。そちら側で咀嚼すると、傷口が開いたり縫合糸が外れたりするリスクがあります。

当日は禁酒・禁煙を徹底する

インプラント手術当日は、飲酒と喫煙を厳禁としてください。まず飲酒に関してですが、アルコールには血行を促進する作用があります。術後すぐにアルコールを摂取すると血流がよくなり、傷口からの出血が増えたり腫れがひどくなったりするおそれがあります。

また、お酒は炎症を悪化させ痛みを強める可能性もあります。

次に喫煙についてです。タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、傷口への血流を悪化させます。その結果、傷の治りが遅くなり、感染のリスクが高まる可能性があります。そのため、飲酒と同様、手術当日は絶対に喫煙しないでください

入浴はシャワーのみにする

手術当日の入浴は、湯船につからずシャワー程度にとどめるようにしましょう。お風呂で身体を温めると血行がよくなり、傷口からの出血や痛みや腫れが悪化することがあります。特に、熱いお湯に長時間浸かるのはやめましょう。

出血が見られる場合は清潔なガーゼで圧迫止血する

手術直後、傷口からの少量の出血や血の混じった唾液が出ることがあります。まずは落ち着いて行動しましょう。歯科医院で止血処置と縫合は行われますが、帰宅後に出血が出てくることもあります。

もし出血が見られたら、清潔なガーゼを用意し患部に当てて強めに噛み締めてください。ガーゼを10〜15分ほど連続して圧迫し、その後ゆっくり離して出血の様子を確認します。まだ出血が続くようであれば、新しいガーゼに取り替えて同じように圧迫を続けましょう。多くの場合、焦らず圧迫止血を続ければ血は徐々に止まってきます。

圧迫止血を行っても鮮やかな出血がなかなか止まらない場合や、明らかに出血量が多い場合は、早めに歯科医院に連絡し指示を仰いでください。

当日は歯磨きを避けうがいのみにする

インプラント手術当日は、基本的に歯磨きを控え、うがいで口腔内を清潔に保つようにしましょう。手術直後の傷口はまだ閉じておらず、歯ブラシが当たると傷が開いたり治癒が遅れたりすることがあります。当日は傷口付近に刺激を与えないためにも、歯磨きはお休みし、軽く口をゆすぐ程度に留めてください。

インプラント手術後|普段の生活に戻るまでの過ごし方

手術当日を乗り切った後も、しばらくは普段の生活に徐々に戻していく期間が続きます。無理のない範囲で日常生活を再開しつつ、引き続き注意が必要なポイントを押さえておきましょう。この章では、普段の生活に戻るまでの期間の目安と、術後2日目以降の飲食や生活上の注意点について解説します。

普段の生活に戻るまでの期間の目安

インプラント手術後、だいたい1週間ほどで大まかな腫れや痛みが落ち着き、日常生活にほぼ支障がなくなるケースが多いです。軽度の手術であれば、術後翌日から通常の仕事や生活に復帰する方もいらっしゃいます。

一方、多数のインプラントを埋入した場合や、骨造成など付随処置を行った場合は、顔が腫れることがあります。この場合、見た目の腫れは手術直後よりも翌日以降にピークを迎えることが多く、腫れが引いて外見が落ち着くまでに1週間程度かかるでしょう。腫れがある間は人前に出るのを控えたいという場合は、1週間程度は無理をしない予定を組むとよいでしょう。

歯科医院では通常、術後1〜2週間後に抜糸(縫合糸の除去)のための受診が予定されています。抜糸が終われば傷口もかなり安定し、日常生活への制限もほとんどなくなります。

参照:『インプラント』(日本歯科医師会)

インプラント手術2日目以降の飲食

術後2日目からは、少しずつ食事の内容も通常に近づけていくことが可能です。ただし、まだ傷口が完全には治っていないため、無理は禁物です。引き続きやわらかめの食品を中心に摂りつつ、徐々に普段の食事に戻していきます。

術後2〜3日間は、基本的に手術当日と同様の食事に留める方がよいでしょう。術後1週間が経過し抜糸が完了した後は、徐々に普通の食事に戻せる場合が多いです。傷口が完全に塞がり、噛んでも痛みがなければ、硬めの食品も少しずつ試してみるとよいでしょう。ただし、インプラントが骨と結合するまでの数ヶ月間は、過度な力がかかる動作は避けた方が望ましいです。

インプラント手術2日目以降の生活

術後2日目以降は、日常生活も徐々にもとに戻していきます。しかし、完全にもと通りというわけではなく、1週間程度は安静第一で過ごすことがインプラントの定着を助けます。

手術翌日から仕事や家事を再開する場合も、無理は禁物です。特に激しい運動や重労働は術後1週間ほど控えてください。運動により血行が促進されると、傷口の痛みや出血・腫れが悪化する可能性があります。ジョギングやジムでのトレーニングはもちろん、重い荷物を運ぶような肉体労働も避けましょう。

デスクワークなど身体に負担の少ない仕事であれば、術後翌日から復帰する方もいます。一般的には術後の仕事や家事に明確な制限はありませんが、調子が悪い場合や出血や痛みがある場合は無理をしないでください。

インプラントの定着を促す習慣

インプラントを長持ちさせるためには、手術直後のケアだけでなくよい習慣を身につけることが大切です。特にインプラントと骨が結合するまでは、生活習慣に注意を払いましょう。ここでは、インプラントがしっかり定着するのを促すための習慣をいくつか紹介します。

インプラントが定着するまでは禁煙を徹底する

インプラントと骨が結合して安定するまでの期間は特に禁煙が重要で、この間に喫煙を続けると骨結合(オッセオインテグレーション)が阻害されてしまう可能性があります。インプラントの成功率を高めるため、最低でもインプラントが定着するまでは禁煙を徹底しましょう。

歯ぎしりや食いしばり癖がある場合はマウスピースを使用する

歯ぎしりや食いしばりの癖がある方は、就寝時にマウスピースを使用することを検討してください。歯ぎしりや強い食いしばりは、天然の歯にも大きな負担ですが、インプラントにも同様に過度な力を与えてしまいます。インプラントは骨と結合して固定されていますが、強すぎる力が繰り返しかかると、インプラント本体に微細なダメージが蓄積したり、被せ物が破損したりするおそれがあります。

硬いものを頻繁に噛まない

インプラント治療後は、硬い食べ物や物を噛み砕く習慣を見直すことも大切です。インプラント自体はとても強固ですが、それでも天然歯と同様に過度な力が加われば問題が生じる可能性があります。特に注意したいのは、氷や飴玉などの極めて硬いものをガリガリ噛む行為です。これはインプラントの被せ物の破損や、最悪の場合インプラント体のゆるみにつながるおそれがあります。

適切な口腔ケアを実施する

インプラントを長期にわたり健康に保つには、毎日の適切な口腔ケアが不可欠です。朝晩の歯磨きを丁寧に行うことが基本です。また、インプラントが入っている部分の歯茎は特に汚れが溜まりやすいので、やわらかめの歯ブラシでマッサージするように磨きます。加えて、デンタルフロスや歯間ブラシを使って、インプラント周囲の細かいプラークもしっかり除去しましょう。

歯科医院で定期的なメンテナンスを受ける

インプラント治療後は、定期検診とメンテナンスを継続して受けることも忘れてはいけません。インプラントは入れて終わりではなく、その後のアフターケアがインプラントを長持ちさせるには大切です。手術をした歯科医院で推奨される間隔で、定期検診を受けるようにしましょう。

インプラント手術後のトラブルへの対処法

万全の注意を払っていても、インプラント手術後には思わぬトラブルが起こることがあります。ここでは、術後によくある腫れや痛みや出血、発熱について、それぞれ症状が悪化した場合の対処法を解説します。

腫れや痛みが悪化した際の対処法

インプラント手術後の腫れや痛みは、手術後に徐々に和らいでいきます。しかし、人によっては腫れが大きく出たり、痛みが強く出ることもあります。まず基本的な対処として、医師の指示通りに鎮痛剤を服用し続けること、そして無理をせず安静に過ごすことが大切です。腫れや痛みが時間とともに悪化する場合は、歯科医院に連絡し相談するようにしましょう。

出血が止まらないときの対処法

手術をした場所からの出血が止まらない場合は、ガーゼによる圧迫止血を試みてください。圧迫止血を行っても鮮やかな出血がなかなか止まらない場合や、明らかに出血量が多い場合は、早めに歯科医院に連絡し指示を仰いでください。

発熱したときの対処法

術後に微熱が出ることは決して珍しくありません。手術によるダメージを修復しようと反応しているため、37度台の軽い発熱は起こりえます。一般に37.5度程度までの微熱であれば心配いりません。しかし、38度以上の高熱が出た場合や、微熱でも2日以上長引く場合は体内で感染が起きている可能性があります。インプラント手術後には予防的に抗生物質が処方されているはずですが、それにも関わらず高熱が続く場合は、すみやかに歯科医院または医療機関に相談してください。

まとめ


インプラント治療後の回復期は、患者さんにとって不安も多い時期かもしれません。しかし、歯科医師の指導に沿って適切に過ごせば、傷の治りも早まりトラブルのリスクも減らすことができます。今回ご紹介したポイントを参考に、インプラント手術後のアフターケアに取り組んでみてください。わからないことや不安な症状がある場合は、遠慮なく担当の歯科医師に相談しましょう。正しい知識とケアで、インプラントを快適に長持ちさせていきましょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
松浦 明歯科医師(医療法人 松栄会 まつうら歯科クリニック)

松浦 明歯科医師(医療法人 松栄会 まつうら歯科クリニック)

出身大学:福岡歯科大学 / 経歴:1989年福岡歯科大学 卒業 1991年松浦明歯科医院 開院 2020年医療法人松栄会まつうら歯科 理事長就任 / 資格:厚生労働省認定研修指導医 日本口腔インプラント学会認定医 ICOI (国際インプラント学会)Fellowship認定医 / 所属学会:ICOI(国際口腔インプラント学会) 日本口腔インプラント学会 日本臨床歯科学会(SJCD) 福岡支部 理事 日本顎咬合学会 会員 日本臨床歯科CAD/CAM学会(JSCAD)会員

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