上顎のインプラント治療で顎の骨が不足している場合は、サイナスリフトという骨造成を行うことがあります。上顎洞底挙上術(じょうがくどうていきょじょうじゅつ)とも呼ばれる治療法で、大きな侵襲を伴うことから、手術後の食事や歯磨き、運動などはどうすべきか不安に感じている方もいるのではないでしょうか。ここではそんなサイナスリフト術後の食事や日常生活における注意点、術後に起こりやすいトラブルについて詳しく解説をします。サイナスリフトを受ける予定の方や受けた方は参考にしてみてください。
サイナスリフト術後の食事
サイナスリフトは、顎骨の側面からアプローチして、上顎骨の高さを増やす治療法なので、術後には大きな傷口が生じます。そのためサイナスリフト術後の食事にはいくつかの点に配慮しなければなりません。
- サイナスリフト術後すぐに食事をしても大丈夫ですか?
- サイナスリフト術の直後に食事をすることは難しいです。なぜならサイナスリフトの手術では局所麻酔を使用するからです。サイナスリフトにおける局所麻酔の効果は、広範囲に及ぶことから、手術直後に食事をすると舌や唇を噛む、食べものを十分に咀嚼できない、口腔粘膜を火傷するなどのトラブルが起こりかねません。そのためサイナスリフトの手術から2〜3時間程度は食事せず、水分補給だけにとどめるのがよいでしょう。局所麻酔の効果が切れたら食事は可能となりますが、適している食事と、避けるべき食事があることを知っておいてください。詳細は後段で解説します。
- サイナスリフトの術後はどのような食事が適しているか教えてください
- サイナスリフトの術後に適しているのは、やわらかくて噛みやすいもの、あまり噛まずに飲み込めるものです。具体的には、以下のような食事が挙げられます。
- おかゆ
- 雑炊
- リゾット
- スムージー
- 煮込みうどん
- ヨーグルト
- 豆腐など
これらは噛み応えがなく、栄養面においても乏しい食事となりますが、サイナスリフトの手術を受けた直後は、傷口に悪影響を及ぼさない点に重きをおかなければなりません。サイナスリフトの手術から数日経過して、傷口も落ち着いてきたら、次のような食事メニューに切り替えると、食事の栄養面と満足感の両方を高めることが可能です。
- レバーの煮物
- 海鮮系のお鍋
- 豆腐のグラタン
- ほうれん草とチキンのクリーム煮
- かぼちゃのポタージュなど
- サイナスリフトの術後に避けるべき食事は何ですか?
- サイナスリフトの術後は、硬い食べものや熱い食べもの、冷たい食べもの、辛い食べものは避けるようにしてください。これらを口にすると、患部に不要な刺激が加わって傷の治りを遅らせます。場合によっては傷口が開いたり、細菌に感染したりするため、以下に挙げる食事は避けてください。
- おせんべい
- ナッツ類
- フランスパン
- アイス
- 香辛料が効いた中華料理
- 辛いカレー
- 熱いお鍋や雑炊など
もちろん、こうした食事は傷口が落ち着いてきたら問題なく食べられます。サイナスリフトの手術から1~2週間後には縫合糸を抜いて経過を見ていくことになりますが、傷口の痛みや腫れ、違和感などがなければ、熱いものや冷たいもの、辛いものなど、刺激の強い食事も徐々に慣らしていく感覚で増やしましょう。
サイナスリフト術後で食事以外に注意すべきこと
サイナスリフトの手術後しばらくは、食事以外でも注意すべきことがあります。いずれも多くの方が毎日の生活で行うことなので、サイナスリフトの手術を受けた方は十分にご注意ください。
- サイナスリフトの術後に歯磨きで気を付けるべきことがあれば教えてください
- まず、サイナスリフトの手術を受けた直後も歯磨きをする必要があります。手術したその日に歯磨きすることは、傷口を刺激するためデメリットの方が大きいように感じるかもしれませんが、お口のなかが不潔になることの方が危険といえます。だからといって普段通りに歯磨きするのはよくありません。歯磨きやうがいをする際には、サイナスリフトの手術によってできた傷口を避けるようにしてください。例えば、硬い歯ブラシでゴシゴシと強圧で磨いていると、患部に接触して炎症反応を強めたり、細菌感染を引き起こしたりするリスクが生じるため、やわらかめの歯ブラシを使って歯を1本1本やさしく丁寧に磨くようにしましょう。とりわけ患部に近接している歯の衛生状態は重要となることから、歯磨きも慎重かつ丁寧に行う必要があります。普通の歯ブラシで磨くのが難しい場合は、ヘッドの部分が小さいワンタフトブラシを使うとよいでしょう。
- 飲酒や喫煙は術後どのくらいの期間控えるべきですか?
- お酒は、全身の血流を促進する効果があり、サイナスリフトの手術後すぐに飲むと再出血などのリスクが増大します。そのためサイナスリフトの手術から2~3日程度は、飲酒を控えるようにしてください。喫煙に関しては、サイナスリフトの手術直後に限らず、手術からしばらく経過したのちも控えるのが望ましいです。喫煙は、歯周組織の血流を悪くして傷の治りを遅らせるだけでなく、インプラント体と顎の骨の結合を妨げる要因にもなることから、インプラント治療を受ける方は原則として禁煙が求められます。それにも関わらず喫煙がやめられないという方は、インプラントではなくブリッジや入れ歯といった従来法の方が適しているといえます。
- サイナスリフトの術後すぐに入浴や運動を再開してもよいですか?
- サイナスリフトの手術を受けた直後は、熱い湯船に浸かったり、全身を大きく動かす運動をしたりするのはよくありません。これらも飲酒と同様、全身の血流がよくなる行為であるため、手術後すぐに再開してはいけません。サイナスリフトの手術を受けた当日はシャワーを軽く浴びる程度にとどめ、翌日以降で傷口に問題がなければ、温めの湯船に浸かるのもよいでしょう。運動に関しては、サイナスリフトの手術から1週間は控えた方が賢明です。
サイナスリフト術後に起こりやすいトラブルと対処方法
最後に、サイナスリフト術後に起こりやすいトラブルと気になる症状が現れた場合の対処法を解説します。
- サイナスリフトの術後に起こりやすいトラブルにはどのようなものがありますか?
- サイナスリフトの手術を受けた後には、次に挙げるようなトラブルが起こりえます。
◎痛み止めが効かないほどの激しい痛み
サイナスリフトの手術中にかけた局所麻酔の効果が切れると、必ず痛みが生じます。どれくらいの痛みが生じるかはケースバイケースですが、ときには処方された痛み止めが効かないほどの激痛に悩まされることもあるでしょう。それが生理的な反応なのか、細菌感染などに伴う病的な反応なのかは一般の方にわからないため、迷ったら主治医に相談しましょう。
◎患部からの出血や排膿が認められる
サイナスリフトの手術を行った部位から出血や排膿が認められる場合は、傷口に何らかの異常が生じています。
◎下痢や湿疹などの症状が現れる
サイナスリフト術後に下痢や湿疹などの症状が現れた場合は、薬剤による副作用が考えられます。歯科医師の指示どおりに服薬しているにも関わらず、予期せぬ症状が現れた場合は、主治医に報告しましょう。
- 術後の腫れや痛みが長引く場合はどうすればよいですか?
- サイナスリフト術後の腫れや痛みは2〜3日程度でピークを迎え、1週間も経過すると大きく改善されます。こうした経過をたどらず、術後の腫れや痛みが長引く場合は、迷わず主治医に相談してください。
- サイナスリフト術後に違和感や異常があるときの対応方法を教えてください
- サイナスリフト術後には、相応の違和感や異常が現れますが、それらが事前に聞いていた症状とはかけ離れていたり、患者さん自身の許容範囲を超えていたりする場合は、速やかに主治医に連絡してください。サイナスリフト術後の違和感や異常で電話連絡を受けることに嫌な思いをする歯科医師は存在していません。
編集部まとめ
今回は、上顎のインプラント手術で行うことがあるサイナスリフトの術後の注意点や起こりやすいトラブルについて解説しました。サイナスリフトは、インプラント手術のなかでも特に侵襲性が高い処置に分類されることから、術後の食事や生活習慣には十分に注意する必要があります。また、サイナスリフト術後に想定以上の痛みや腫れ、その他の症状が現れた場合は、何らかの異常が疑われるのでまずは主治医に連絡することが大切です。
参考文献