自分の歯と同じように噛めるインプラント治療は、むし歯や歯周病などで歯を失った人にとって大きなメリットがあります。
一方、顎の周辺の筋肉や関節の痛み・口が開けにくい・口を開けるときに音が鳴るなどの症状が現れる顎関節症という疾患があります。
一見関係がないように見えるインプラント治療と顎関節症ですが、実は関連性があるのをご存知でしょうか。
本記事では、インプラントと顎関節症について、知っておきたい関連性や治療のリスクなどを詳しく解説します。
インプラント治療のメリット・デメリット
- インプラントはどのような治療法ですか?
- インプラントは、むし歯・歯周病・外傷などによって歯を失った人に行われる
治療です。歯がない部位の顎の骨にインプラントを埋め込み、そのインプラントに人工歯を付けます。
1本の歯がなくなった場合だけでなく、すべての歯がなくなった場合まで幅広く対応できます。インプラントの素材は主にチタンやチタン合金です。これらの金属には噛む際の強さに耐えられる強度があるほか、生体親和性が高く、顎の骨と結合しやすい特徴があります。
- インプラントのメリットを教えてください。
- インプラントは人工歯をしっかり固定できることがメリットです。そのため、自分の歯と同じようにしっかり噛める感覚があります。また、インプラントは自費診療のため、人工歯の部分にセラミックやジルコニアなどの素材が用いられることが多いでしょう。これらの素材は天然の歯のような美しい見た目です。
さらにインプラントでは、残っている歯を削ったり、残っている歯に人工歯を安定させるための装置を付けたりする必要はありません。そのため、残っている歯に負担をかけずに治療できるのもメリットです。
- インプラントのデメリットを教えてください。
- インプラントを埋入するためには手術が必要です。そのため、全身状態がよくない患者さんは適用が難しくなります。また、治療期間もほかの歯科診療に比べて長めです。費用に関しても自費診療となるため、高額なこともデメリットです。具体的には、インプラント1本につき30万~50万円(税込)程です。
さらに、インプラントを埋入する部位の顎の骨が少なかったり、薄かったりする場合には治療が難しいケースもあります。とはいえ、こうしたケースでも骨造成のような手術を事前に行い、骨を増やしてからインプラントを埋入できる場合もあります。
インプラントと顎関節症の関連性
- 顎関節症とはどのような疾患ですか?
- 顎関節症は、口を開こうとすると顎関節や顎を動かす筋肉が痛んだり、大きく口を開くのが難しかったりする症状です。口の開け閉めをする際に音がする症状が出る人もいます。
顎関節症の原因は、顎の骨を構成する骨・筋肉・関節円板・靱帯などの異常です。顎関節症の症状で医療機関に来院するのは女性が多く、10代後半から増加し、20~30代で非常に多くなります。顎関節症の治療は、痛みの軽減や十分に口を開けるようになることを目指して行われます。以前は顎を動かすと音がするだけでも治療が行われていましたが、現在では治療の必要はないと判断される場合が多いでしょう。
- 顎関節症でもインプラント治療を受けられますか?
- 顎関節症でも症状が軽度の場合は、インプラント治療を受けられます。ただし、インプラント治療では人工歯根を埋入する手術を行う際に、口を大きく開けていなければなりません。
口を開け続けるのが難しい場合は手術ができない可能性があります。そのため、歯科医院でインプラント治療が可能な程口が開けられるかどうかを確認してもらう必要があるでしょう。インプラント治療ができない場合は、先に顎関節症の治療を行い、口が開けられるようになってからインプラント治療を行ったほうがよいでしょう。
- インプラント治療前に行う顎関節症の検査方法を教えてください。
- 顎関節症の検査方法には次のようなものがあります。
- 開口量測定
- 関節の運動診査
- 下顎マニピュレーション診査
- 咬筋圧痛検査
- 画像診断
開口量測定は、どのくらい口を開けられるか角度を調べる検査です。関節の運動診査では、大きく口を開けたり閉じたりして下顎頭が正常に前方に滑走して動くかを検査します。下顎マニピュレーション診査とは、下顎を前方に引っ張ったり後方に圧迫したりして、下顎頭の動きや痛みを調べる検査です。咬筋圧痛検査は、噛むために使われる筋肉である咬筋の状態を調べる検査です。
ほかにも必要に応じて、レントゲン・MRI・CTなどの画像診断が行われ、ほかの疾患との鑑別や関節障害の確認などをします。
インプラントと顎関節症に伴う治療のリスク
- インプラント治療で顎関節症は発症・悪化しますか?
- インプラントを埋め込んだ後、歯を噛む力は以前よりも強くなります。そのため、歯周組織・咬筋・顎関節に負担がかかる可能性があります。負担がかかると顎関節の痛みや不調を引き起こすケースがあるでしょう。また、インプラントを埋入する手術を行う際に口を大きく開くことによって顎に負担がかかり、顎関節症が悪化する可能性もあります。
小さな音が鳴る程度の症状だったり、過去に顎関節症の治療を受けて現在は症状が落ち着いていたりする場合でも悪化する可能性があるでしょう。そのため、顎関節症の人がインプラント治療を受ける前には、歯科医師にそのことをしっかり伝えておくことが重要です。
- インプラント治療で顎関節症が改善されるケースはありますか?
- インプラント治療により、顎関節症が改善されるケースがあります。そのため、顎関節症の改善方法としてインプラント治療が注目されています。嚙み合わせが悪いため、顎関節に負担がかかることが顎関節症になる原因の1つです。一方、インプラント治療は人工の歯根を顎骨に埋め込むことにより、人工歯をしっかり支える治療方法です。
歯の位置を正しい状態に戻し、噛み合わせのバランスを整えることにより、顎関節にかかる負荷を軽減するのに役立ちます。結果として、顎関節症の症状の緩和が期待できます。
- インプラント治療後に噛み合わせが悪くなるリスクはありますか?
- インプラント治療後に嚙み合わせが悪くなるリスクはあります。インプラント治療後に嚙み合わせが悪くなる原因には、日常生活の癖が挙げられます。具体的には、頬杖をつく・食いしばり・舌の癖などです。こうした癖は噛み合わせに影響を及ぼす可能性があります。また、もともとの噛み合わせが悪いことも原因として考えられます。
もともとの噛み合わせが悪い状態のままインプラント治療を受けた場合、治療後の噛み合わせにも影響が出る可能性が高いでしょう。嚙み合わせが悪くなると、顎関節症を発症する原因になりかねません。
- インプラント治療後の顎関節症を予防する方法はありますか?
- インプラント治療後の顎関節症を予防する方法には次のようなものがあります。
- 噛み合わせを調整する
- 日常生活の癖を治す
- ストレスを避ける
- 定期検診を受ける
まず、嚙み合わせを調整することが重要です。インプラント治療によって嚙み合わせが変わる場合があるため、正しい位置に調整することが必要になる場合もあります。また、歯ぎしりや食いしばりなどの癖は嚙み合わせに悪い影響を及ぼす可能性があるので直しましょう。さらに、ストレスによって歯ぎしりや食いしばりが増える場合もあります。
ストレスを避け、リラックスするようにしましょう。最後に、インプラント治療後に定期検診を受けることも重要です。定期検診を受ければ、歯科医師に噛み合わせやインプラントの状態なども確認してもらえます。問題があった場合もすぐに対応可能なため、顎関節症の予防に役立つでしょう。
編集部まとめ
本記事では、インプラント治療と顎関節症の関連性を解説しました。
インプラント治療によって顎関節症が発症したり、悪化したりするリスクがあります。また、反対に顎関節症が改善するケースもあります。
とはいえ、顎関節症だからといってインプラント治療が受けられないわけではありません。インプラントを埋入する際にある程度口が開けられるなら治療は可能ですし、顎関節症を治療してから受けられる場合もあります。
現在顎関節症ではない人やインプラント治療後が不安な人は、顎関節症を予防したり悪化を防いだりすることが重要です。まずは担当の歯科医師とよく相談しましょう。
参考文献