インプラント

インプラントの骨造成のリスクは?治療の種類・メリットも解説

インプラント 骨造成 リスク

インプラント治療を受けるとき、顎骨の量が足りない場合は骨造成を行うことがあります。インプラント治療ではインプラント体を顎骨に埋め込むため、十分な骨の量がないと治療が難しくなるためです。

しかし、骨造成にリスクはないのでしょうか。本記事では骨造成のリスクと併せて、治療の種類やメリットを解説します。

顎骨が少なく治療を断られた方や、これから骨造成を行う予定のある方はぜひ参考にしてみてください。

インプラントの骨造成治療の種類

歯医者の診察室で診察を受ける女性

インプラントの骨造成治療にはどのような種類があるのでしょうか。骨造成にはさまざまな治療法があり、患者さんの症例にあわせて治療法が選択されます。

冒頭でもお伝えしましたが、骨造成治療は顎骨が不足している場合に、足りない骨の量を補うために行う治療です。

インプラント治療は自分の歯と同じような噛み心地が得られることや、審美性に優れているなどのメリットがあります。一方、インプラントを埋め込むための外科的手術が必要だったり、自由診療のため費用が高額になったりすることがデメリットとして挙げられるでしょう。

費用相場はインプラント1本あたり、300,000~500,000円(税込)程です。骨造成を行う場合、さらに費用が加算されます。参考にしてみてください。

それではさっそく、インプラントの骨造成治療の種類について紹介していきましょう。

ソケットリフト

ソケットリフトは上顎の骨の量が不足している場合に行われる治療法です。治療の流れを紹介します。

まず、インプラント体を埋め込む部分の歯槽骨に穴を開けます。このとき、上顎洞を覆っているシュナイダー膜を傷つけないように注意が必要です。

次に専用の器具を使ってシュナイダー膜を押し上げ、人工骨を填入します。インプラント体を埋め込んだら歯肉を戻し、縫合して終わりです。

填入した人工骨が完全に自分の骨となり、インプラントが安定したら上部構造の取り付けになります。

骨造成とインプラントの埋め込みが同時に行えるため、ほかの骨造成治療と比べたら治療期間が短くて済むのがメリットです。インプラントを埋め込む部分に穴を開けるため、患者さんの負担も少なくて済みます。

しかし、適応できる方が限られています。3~5mm以上の骨の厚みがない場合、ソケットリフトは難しいでしょう。

費用相場は、30,000~100,000円(税込)程です。参考にしてみてください。

サイナスリフト

歯型模型と歯磨き指導

サイナスリフトも上顎の骨の量が不足している場合に行われる治療法です。骨の吸収が進んでおり、骨の厚みが3~5mmない場合にサイナスリフトが選択されます。

骨の厚みが足りなくても対応できるのが、サイナスリフトのメリットです。しかし、頬側から歯茎を切開して治療を行うため、手術後に腫れや痛みを伴うリスクがあります。

骨ができるのを待ってからインプラント治療を始めるため、治療期間が長くかかるのもデメリットとして挙げられるでしょう。

サイナスリフトではまず頬側の歯茎を切開し、歯槽骨を露出させます。そこに小さな穴を開け、骨とシュナイダー膜を剝がします。

ソケットリフトではシュナイダー膜を押し上げてスペースを作りますが、サイナスリフトは骨とシュナイダー膜を剝がすことでスペースを作るのです。

そこに人工骨を入れ、自分の骨になるのを待ちます。自分の骨になるまで、約3ヵ月かかるそうです。自分の骨に変わったら、インプラント治療を開始します。

サイナスリフトの費用相場は、150,000~300,000円(税込)程です。大がかりな手術になるため、費用は高額になる傾向があります。

GBR(骨組織誘導再生法)

GBR(骨組織誘導再生法)は骨の厚みや高さが足りない場合に選択される治療法です。骨が失われた部分は骨を作ろうとする骨芽細胞よりも、歯茎を作る線維芽細胞が増殖しやすいです。

そのため、GBR(骨組織誘導再生法)ではメンブレンと呼ばれる人工膜を使います。骨造成を行う部分をメンブレンで覆い、線維芽細胞の侵入を防ぎます。

GBR(骨組織誘導再生法)の治療の流れについては、インプラントの骨造成の流れで解説するので参考にしてみてください。

費用相場は、30,000~150,000円(税込)程となっています。

ボーングラフト

ボーングラフトは骨造成とは少し違い、骨移植を行う治療法です。お口以外の部分から自分の骨を採取し、必要な部分に補充します。

前歯部分の骨の幅が足りないときに選択されることが少なくないようです。ボーングラフトの費用は100,000円(税込)からとなっています。

ソケットプリザベーション

男性医師と患者

ソケットプリザベーションは、抜歯後の骨吸収を防止するために行われる処置のことです。歯がなくなると、その歯があった場所の顎の骨は存在する意味がなくなってしまいます。

そのため、時間の経過に伴い吸収されていきます。6ヵ月後には半分くらいの大きさになり、歯茎も退縮するでしょう。

この状態でインプラント治療を始めようと思うと、骨造成が欠かせなくなる可能性が高いです。

ソケットプリザベーションの手順を簡単に説明しましょう。手順は以下のとおりです。

  • 抜歯後の抜歯窩をきれいにする
  • 抜歯窩の皮質骨にデコルテチケーションを行う
  • 骨充填剤で抜歯窩を満たす
  • 吸収性のコラーゲン膜などを使って抜歯窩を閉じる

個人差はありますが、4~9ヵ月くらいで抜歯窩が骨で満たされます。この治療法の有効性は賛否両論あるようですが、歯茎の減少は防げるといわれているようです。

インプラントの骨造成の流れ

歯科治療を受ける女性

インプラントの骨造成はどのような流れで行われるのでしょうか。ここでは、GBR(骨組織誘導再生法)を例に、骨造成の流れを解説します。

自分の骨を採取する

GBR(骨組織誘導再生法)は人工骨と自分の骨(自家骨)を使う方法の2種類があります。自家骨を使う場合はまず、自家骨の採取から行います。

自家骨は下顎の先端のオトガイ部や下顎の奥歯の外側から採取することが多いそうです。インプラントの埋め込みも同時に行う場合は、採取した骨を細かく砕きます。

インプラントを埋め込む

歯茎を開き、インプラントを埋め込みます。通常は骨にインプラントがきれいにおさまりますが、骨の量が足りない場合は一部が露出した状態になります。

骨の再生を待ってからインプラント治療を行う場合は、この作業は行いません。骨が再生してから、インプラントを埋め込む作業をします。

自家骨・骨の補填材を充填する

歯科衛生士と患者

インプラントを埋め込んだら、自家骨・骨の補填剤を充填する作業です。インプラントの骨造成のところでも軽く触れましたが、自家骨もしくは骨の補填剤を充填したらメンブレンで覆います。

足りない骨の量が少ない場合は、体内で吸収されるタイプのメンブレンを使い、多くの骨を作る場合は、チタン製の非吸収性のメンブレンを使います。非吸収性のメンブレンを取り出すのはインプラントの定着後です。

歯茎を縫い合わせる

メンブレンで自家骨・骨の補填剤を覆ったら、歯茎を縫い合わせて閉じます。骨の再生期間は再生する骨の量や個人差によって変わります。目安としては、6~10ヵ月です。

インプラントも埋め込んだ場合は、インプラントが固定するのも一緒に待ちます。インプラントと骨が結合するまでは強い力や刺激が患部に加わらないように、患部を安静に保ちましょう。

人工歯を装着する

インプラントがしっかりと固定されたら、人工歯(上部構造)を装着します。上部構造を装着するためには、アバットメントと呼ばれる部分をインプラントに接続しなくてはいけません。

そのため、インプラントを埋め込んだ部分の歯茎を再度開き、インプラントにアバットメントを装着します。その後、上部構造を取り付けて完了です。

非吸収性のメンブレンを使った場合は、この時に取り出します。

インプラントの骨造成をするとき、入院は必要ありません。骨造成治療は日帰り手術で行います。

歯科医院や患者さんの状態などによっても時間は変わりますが、骨造成治療のみならかかる時間は30分~1時間程です。

インプラントの埋め込みを同時に行う場合でも、45分~1時間程です。ただし、静脈内鎮静法を併用した方は術後の帰りに注意しましょう。

インプラントの骨造成のリスク

頬に手を当てる女性

骨の量が足りずインプラント治療が難しい方にとって、骨造成は有用な治療法です。しかし、気になるのがリスクがあるのかどうかではないでしょうか。

骨造成にはいくつかのリスクがあります。

  • 外科的手術を伴うため腫れや痛みがでることがある
  • 骨が作られるまで時間がかかる
  • 心疾患などの全身疾患がある場合は骨造成ができないことがある

主にこれらのリスクが考えられます。腫れや痛みは一時的なものなので、処方された痛み止めや抗生剤を服用し、様子をみましょう。数日間は痛みが続き、2~3日は腫れることがあります。

全身疾患や喫煙習慣などがあると、骨造成治療後の骨の癒着率が下がってしまうこともあるでしょう。全身疾患や喫煙習慣がある方は、事前に担当の歯科医師に相談してください。

このほかに、ソケットリフト・サイナスリフトでは治療のときにシュナイダー膜を破ってしまうこともあるようです。この場合、手術後に抗生剤を服用して感染を防ぎ、膜が自然にふさがるのを待ちます。

骨造成は自由診療となるため、保険が適用されません。そのため、治療費が高額になる傾向があります。骨造成を行うことのリスクとは少し異なりますが、この点も注意しましょう。

インプラントの骨造成のメリット

バインダーとメディカル服の女性

骨造成治療を行うことでどのようなメリットが得られるのでしょうか。ここではインプラントの骨造成のメリットをみていきます。

  • インプラント治療のリスクを軽減できる
  • インプラントの安定性が高くなる
  • 見た目がよくなる
  • 骨の再生が促進される

主にこれら4つのメリットが挙げられます。

インプラント治療のリスクを軽減できる

まず1つめのメリットは、インプラント治療のリスクを軽減できることです。骨の量が足りないままインプラント治療を始めると、インプラント体が顎骨を突き抜けたり歯茎から露出したりします。

顎骨をインプラント体が突き抜けると、神経を損傷するリスクがでてくるでしょう。インプラントと顎骨の接合部が安定しないため、インプラントが脱落する可能性もあります。

このように、骨の量が足りないまま治療を始めるとインプラント治療が失敗するリスクがあるのです。骨造成によって十分な骨の量を確保することで、これらのリスクは軽減できます。

インプラントの安定性が高くなる

骨の量が増えることで、インプラントの安定性が高くなります。インプラントの脱落事故も防げるでしょう。

骨の量が足りないとインプラントの安定性が悪くなり、将来的に脱落したり痛みを感じたりする可能性があります。

見た目がよくなる

虫歯をチェックする女性

骨の量を増やすことは、インプラント治療のリスクを軽減したり安定性をよくしたりする以外にもメリットがあります。骨の量を増やすことで、見た目もよくなるでしょう。

顎骨と歯茎は密接な関係にあります。そのため、骨が健康になると歯茎も健康になり、歯茎の状態が改善されます。

歯を失い骨が瘦せると、歯茎は下がっていくでしょう。歯と歯茎のバランスが悪くなり、見た目もよくありません。

骨の再生が促進される

骨造成を行うことで、骨の再生の促進も期待できます。体内の骨再生能力を利用するため、新しい骨ができるようになります。

そのため、インプラントも長期的に安定するでしょう。

インプラント治療で骨造成が必要となるケース

問診をする歯科医

骨造成が必要になるのは、骨の厚み・高さ・量が不足している場合です。この場合、インプラントを埋め込むのが難しいため、骨造成が検討されます。

インプラント体の長さや直径はメーカーによって異なりますが、長さは8~12ミリ、直径は3~5ミリが平均とされています。

インプラント体の周りに骨は少なくとも2ミリ以上あった方がいいといわれるため、骨の高さは10ミリ以上必要です。これに満たない場合、インプラントを埋め込むのが難しくなるので、骨造成が行われます。

骨の量が不足していると、上部構造と顎骨・歯茎のバランスが悪くなることもあるでしょう。清掃がきちんとできない場合もあり、インプラント周囲炎のリスクがでてきます。

この場合も、骨造成が必要です。ほかにも審美性をよくするために、骨造成を行うこともあります。

インプラントの骨造成には入院が必要?

入院

インプラントの骨造成をするとき、入院は必要ありません。骨造成治療は日帰り手術(※)で行います。

歯科医院や患者さんの状態などによっても時間は変わりますが、骨造成治療のみならかかる時間は30分~1時間程です。

インプラントの埋め込みを同時に行う場合でも、45分~1時間程です。ただし、静脈内鎮静法を併用した方は術後の帰りに注意しましょう。

車や自転車の運転は危険です。公共交通機関を利用するか、家族や知人に送迎してもらうようにしましょう。

(※)術前の検査、術後の経過観察が必要です。

まとめ

病院で働く医療スタッフ

ここまで、インプラントの骨造成治療のリスクについては解説してきました。骨造成治療は一定のリスクを伴いますが、インプラントを長期的に使うためには欠かせない治療法です。

骨造成を行う部位や、骨の量がどれだけ不足しているかなどによって治療法が異なります。骨造成を行うときは、どの治療法がいいのか、担当の歯科医師と話し合うといいでしょう。

本記事で紹介した骨造成治療の種類や骨造成の流れ、リスクやメリットなどの情報が参考になれば幸いです。

参考文献

この記事の監修歯科医師
酒向 誠医師(酒向歯科口腔外科クリニック院長 東京女子医科大学口腔外科 非常勤講師 聖路加国際病院歯科口腔外科 非常勤嘱託)

酒向 誠医師(酒向歯科口腔外科クリニック院長 東京女子医科大学口腔外科 非常勤講師 聖路加国際病院歯科口腔外科 非常勤嘱託)

1980年: 愛知学院大学歯学部入学 1986年: 愛知学院大学歯学部卒業 1986年: 愛知学院大学歯学部歯学研究科入学 1990年: 愛知学院大学歯学部歯学研究科卒業 1990年: 愛知学院大学歯学部第2口腔外科講座非常勤助手 1990年: 名古屋第一赤十字病院歯科口腔外科勤務 1993年: 東京女子医科大学歯科口腔外科学講座非常勤助手 1995年: 聖路加国際病院歯科口腔外科勤務 1998年: 東京女子医学大学歯科口腔外科学講座非常勤講師 2005年: 聖路加国際病院退職、酒向歯科口腔外科クリニック開業 2017年: 日本口腔科学会 認定医取得(5/31) 2020年: 日本口蓋裂学会 口腔外科 認定師取得(4/1) 2021年: 日本口腔ケア学会 評議員 2021年: 国際歯学会(ICD ) フェロー認定

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