歯を失った方にとって、インプラントはとても魅力的な治療方法です。インプラントは便利である一方で、取り扱いを誤ると破損することがあります。
本記事では、インプラントが壊れた際の治療方法や費用・応急処置を記載しています。インプラントの破損でお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
インプラントが壊れたら再治療はできる?
インプラントが壊れても、基本的に再治療は可能です。ですがインプラント歯周炎など歯茎に深刻なトラブルが起きていると、再治療が難しくなることもあります。
人工歯・アバットメントが壊れた場合
インプラントは、歯根にあたるインプラント体・その上にあるアバットメント・一番上の人工歯(上部構造)の3段構造になっています。
アバットメントはインプラント体と人工歯を結合させる役割を果たし、角度を変えることで噛み合わせを調整する機能を果たします。
アバットメント・人工歯は破損しても修復可能な場合が多いでしょう。単に外れてしまったときも、歯科医院で簡単に取り付けが可能となるケースもあります。
インプラント体が壊れた場合
インプラント体は、歯槽骨と結合することで歯根の役割を果たす大切な部位です。
そのような特徴のため、アバットメント・人工歯と異なりインプラント体が破損した際は修復不可能なケースが少なくありません。
そのため、手術で一度すべて取り外し、一からインプラント手術をやり直す必要が出てきます。
なお、インプラント体が脱落した時はインプラントそのものが寿命を迎えた状態です。その時は再度、インプラント体の埋入手術を行う必要があります。
破損の場合も同様であり、新しいインプラント体を埋入します。
インプラントが壊れた場合の再治療にかかる費用
インプラントが壊れた場合、再治療にかかる費用は歯科医院によって異なりますが、場合によっては保証が効くケースもあります。治療を受けた歯科医院に確認してみましょう。
保証がない場合は、修理内容によって費用が異なってきます。インプラントを再び埋入する場合は、一度目と同等の費用がかかってくるでしょう。
保証期間内であれば無償で治療できる場合もある
インプラント手術を受けた場合、歯科医院によってはメンテナンス保証が受けられるケースがあります。
治療後5年以内にアクシデントなどで破損・欠損した際に、再治療が受けられるなどがあります。
ほかにも口腔内のクリーニングや歯磨き指導も受けられるようです。
歯科医院によっては、1日の喫煙本数が10本以上の場合は保証の対象外となる可能性があります。詳細は歯科医院にご確認ください。
インプラントが壊れた場合の応急処置と注意点
インプラントが抜けたり外れたりした場合、応急処置が必要です。その場合は自分で治そうとせず、治療を受けた歯科医院へ連絡しましょう。
治療後に引越しなどで歯科医院から離れた住所に住んでいる場合は、インプラント治療を行っている歯科医院へ尋ねてみましょう。
歯科医院では、どの部位がいつ抜けたのか正確に伝えます。正確であればある程、的確な処置ができる可能性があります。
また、無理やり自分で直そうとすると、指の細菌が口腔内へ侵入して細菌感染を引き起こすなどのトラブルが想定されるため控えましょう。舌で触れるのも危険ですのでなるべく触れないようにしてください。
治療までの間にやむを得ず食事を摂る際は、なるべく外れてない部位の歯で噛むようにしましょう。
パーツを容器に入れて保管する
抜けたり取れたりしたインプラントは、ティッシュなどのやわらかい素材で包んだうえで、プラスチックなどの頑丈なケースに収納しましょう。
プラスチックケースがない場合はなるべく頑丈なケースに、収納してください。ギフトなどに添えられるエアーパッキンなども適しているでしょう。
ここでの注意点はいかに外れたパーツを傷つけないかです。歯科医院へ持ち込むまでの間に、なるべく傷をつけずに持ち込むことが、インプラントが外れた理由を解明する手がかりとなるかもしれません。
外れた理由が単にインプラントが合っていなかったのか、食べ物のカスが溜まった故か、インプラント周囲炎によるものなのかの判断は歯科医師に行ってもらいましょう。
取れたパーツを自分で付けない
前述したとおり、外れたインプラントを自分で付けることはやめましょう。細菌感染など思わぬトラブルを引き起こす可能性があります。
また、素人がパーツを無理やり装着することによってパーツへ負荷がかかり破損する可能性も考えられます。その他口腔内を傷つける恐れもあるといえるでしょう。
知識や経験が伴っていない素人が無理やり取り付けようとすると、想定外のトラブルを招く恐れがありますので控えてください。
パーツが取れたまま放置しない
外れたインプラントを放置しておくことも危険です。放置していると、知らないうちに落としてしまって傷をつけてしまうかもしれません。
また小さな子どもが手に取って遊んでしまったり、室内飼いのペットによるいたずらで破損してしまったりなど、不用意なトラブルを招きかねません。
このようにして付けられた傷は細菌感染の懸念が出てくるほか、傷がつかなければ再度取り付けが可能だったものを新調する必要も出てくるでしょう。
新調するとなると、保証が効くならまだよいですが、そうでない場合は新たにインプラント代がかかることになります。インプラントは高額なものなので、その出費は手痛いものになるでしょう。
無駄な支出を抑えるためにも取り扱いにはくれぐれも慎重になりましょう。
インプラントが壊れる原因
簡単に壊れないようしっかり作られたはずのインプラントですが、なぜ壊れてしまうのでしょうか。
そこには噛み合わせや食いしばり・経年劣化などさまざまな原因が考えられます。掘り下げていきましょう。
よくない噛み合わせ
噛み合わせの問題によってインプラントが破損するケースがあります。嚙み合わせが悪くインプラントが破損した場合は、歯列矯正を検討しましょう。
歯ぎしり・食いしばり
歯ぎしりや食いしばりの傾向がある方は、インプラント治療よりもマウスピースなどを使った治療を先に行う必要があるかもしれません。
インプラント治療は一度行うと、その後のケアが欠かせません。歯ぎしりや食いしばりの傾向がある場合はインプラントに無理な力が加わり、破損の原因となります。
また歯ぎしりが寝ているときに起きる人は、自分でも気付かないうちにインプラントを傷つけていることになります。
睡眠時の歯ぎしりによる噛む力はとても大きなものであり、大きな負荷がインプラントにかかるため、歯ぎしりや食いしばりの傾向がある旨をあらかじめ歯科医師へ相談してみるとよいでしょう。
インプラント周囲炎
インプラント周囲に歯垢や歯石があると、インプラントが破損する原因となります。
インプラント周囲炎とは、歯槽骨周辺に装着したインプラントの周囲に炎症が起こることであり、インプラントの歯周病とも呼ばれているそうです。
その原因は歯垢や歯石であり、これらがインプラントと歯茎の間の歯周ポケットに入り込んだ場合、さらに歯磨きを怠っているとインプラントを支える歯槽骨を溶かしてしまいます。
天然歯は歯根膜と呼ばれる膜があることで、歯根と歯槽骨とがピッタリ結合しており、構造上細菌が侵入しにくくなっています。
反面、インプラントは歯根膜がなく細菌が侵入しやすい作りであるため、より丁寧な歯磨きが必要といえるでしょう。
歯垢や歯石が歯槽骨を溶かすとインプラントが脱落しかねません。
経年劣化
インプラントは、適切な歯磨きなどのケアを行うと10年程度は持つといわれています。
その生存確率は90%以上と高い数値であり、なかには40年以上もの間、問題なく使用できたとされる論文もあるようです。なるべく経年劣化を避けるため、定期的に歯科検診を受けるようにしましょう。
毎日の歯ブラシはもちろんですが、歯間ブラシやデンタルフロスも使って歯ブラシでは取れない歯垢をしっかり除去してください。
歯と歯の間の歯垢は歯ブラシでは取りきれません。1日1回するだけでも違うので、習慣化しましょう。
強い衝撃
スポーツなどにより何らかの衝撃が加わった場合も、インプラントが破損する理由となります。
特にボクシングなどの直接顔に衝撃が加わるスポーツをされることは、控えた方がよいかもしれません。
毎日頻繁に車の運転をする人も、事故による口腔周りのトラブルが懸念点でしょう。事故によって口元にけがを負い、インプラントが外れたり破損する可能性が考えられます。
程度にもよりますが、インプラントを破損する程の衝撃が起きる可能性も否定できません。
また、食べ物にも注意しましょう。固い肉料理や果物など、固いものを噛んでいると知らず知らずのうちにインプラントに負荷をかけてしまい、あるときふと破損したり外れたりするかもしれません。
これらを避けるためにも、固いものを食べる際は極力インプラント治療していない歯で噛むようにしましょう。
ネジの緩み
インプラント治療のなかでは、ネジによる締め付けで行われるものもあり、この場合経年によるネジの緩みが起きることがあります。
治療後のインプラントによるトラブルの6割がネジの緩みによるものとされる報告もあり、なるべくネジのないインプラント治療が望ましいといえます。
ですが、ネジ式ではない治療方法は難易度が高いとされており、より高度な知識や技術を習得した歯科医師による治療がおすすめです。
インプラントを長持ちさせるために気を付けること
インプラントを長持ちさせるには、適切なメンテナンスが欠かせません。
前述したとおり、インプラントは正しく使えば10年程度は持つとされています。入れ歯やブリッジは数年程度で取り替える必要がありますが、この点でインプラントのメリットは大きいです。
万が一のために歯科医院によっては保証を受けられるところもありますが、保証の条件に沿った使用方法でなければ保証を受けられないケースも出てきますので注意が必要です。
歯科医院で定期メンテナンスを受ける
歯科医院でしっかりメンテナンスを受けるようにしましょう。
インプラントは天然歯に近いものですが、あくまで人工的なものです。前述したとおり、歯根と歯槽骨の間に歯垢が溜まるなど、思わぬトラブルを引き起こしかねません。
また、歯垢がどの程度溜まっているのかはなかなか自分ではわからないものです。そのため、しっかり歯科医師による検診を受けることが大切です。
インプラントで怖いのは、歯周病ともいわれています。
もともと歯周病持ちであり、治りきらずにインプラントをしてしまった場合は、全身疾患などの重大なトラブルを引き起こす可能性も危惧されています。
また、インプラント後も毎食後にしっかりと歯磨きによる歯垢除去ができているかも、自分ではなかなか完璧にはわからないものです。
インプラントの取り付け位置によっては自分の手では完璧に磨きづらいケースもあります。そのためにも、歯科医師による確認は必要でしょう。
バランスよく噛む
インプラントを長持ちさせるためには、左右バランスよく噛む癖をつけることも大切です。
人間、癖はあるものなので、噛む行為が左右どちらかに偏ることはありがちといわれます。ですがその場合、インプラント手術をした方でよく噛むのであれば、どうしてもインプラントに負荷をかけがちです。
インプラントの劣化を早める原因にもなるので、左右バランスよく噛むよう心がけましょう。
また、インプラント治療によって天然歯に近い噛み応えが得られたことにより、以前よりも好んで治療した歯で食べる癖がついてしまうこともあります。
この場合もインプラントを劣化させる原因となるので、あくまで左右のバランスを考えて摂る食事が大切です。
歯ぎしり・食いしばりなどの癖を改善する
歯ぎしりや食いしばりなどの習慣は、インプラントにとって悪影響です。一般的に成人男性が食いしばることによって生み出す力は、60kg程度といわれています。
それだけの負荷が癖によって常態化してしまうと、いかに強度のあるセラミックでも破損する恐れが出てきます。
歯ぎしりは睡眠時に引き起こされることも少なくありませんが、無意識の歯ぎしりが生み出す力は100kgともいわれるそうです。
100kgもの圧力が継続的にかかっていれば固いといわれるインプラントであっても破損してしまう可能性は想像に難しくありません。
これらの悪習慣により、人工歯部分が欠けたり、結合部であるアバットメントが損傷したりする可能性が出てきます。
これらは決して安価なものではありませんが、場合によっては取り替えの必要も出てくるでしょう。
インプラント治療をしていない天然歯にとってもいいものとはいえないため、悪習慣は改善した方がいいでしょう。
睡眠時による歯ぎしりには、ナイトガードと呼ばれるマウスピースの装着がおすすめです。寝ているときの習慣を改善するのは至難の業であり、マウスピースで圧力がかかりにくくなるような配慮が大切です。
インプラント治療をしていてもマウスピースの装着は可能なので、一度歯科医院に相談してみるといいでしょう。
まとめ
インプラントが壊れた場合の対応方法を書きました。
インプラントは便利な反面、日頃のメンテナンスや歯科医院での検診を怠ると劣化していきます。
なかでもインプラント治療によって思考が侵入しやすくなった歯周ポケットは、しっかり歯ブラシをして歯垢の除去をしない限り、歯周病などの重大なトラブルを引き起こしかねません。
歯ブラシだけでは取りきれない歯石や、歯の奥に入り込んだ歯垢の除去も必要ですので、定期的な歯科医院への受診は怠らないようにしましょう。
また、歯磨きのほかフロスや歯間ブラシによって歯間の歯垢を取り切ることが大切です。
参考文献