インプラントは失った歯を補う魅力的な治療法ですが、すべての方が受けられるわけではありません。顎の骨量不足や全身疾患、喫煙など、治療が難しいケースもあります。
本記事ではインプラントができないケースはあるのかについて以下の点を中心にご紹介します。
- インプラントができないケース
- インプラントができない場合の対処法
- インプラント以外の選択肢
インプラントができないケースはあるのかについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
インプラントができない可能性があるケース
インプラントができない場合にはどのようなケースが考えられるのでしょうか。以下に解説します。
未成年である
未成年(20歳以下)の方は、顎の骨がまだ成長段階にあるため、インプラント治療の対象外となることが多いとされています。成長中の顎にインプラントを埋入すると、骨や歯列の変化に対応できず、不具合を引き起こすリスクが高まります。
特に顎の成長が完了していない場合、埋入したインプラントが位置のズレを生じる可能性があり、長期的な安定が難しくなります。
さらに、顎の成長スピードには個人差があり、これを正確に予測することは困難です。そのため、18歳以下や20歳未満の患者へのインプラント治療を控え、安全性を優先している歯科医院が多いようです。成長が終わるまで、ほかの治療法を検討することが推奨されます。
妊娠中である
妊娠中の方に対するインプラント治療は、母体と胎児の安全を第一に考え、歯科医院では控えられる傾向にあります。インプラント治療では外科的手術やレントゲン撮影、さらには抗生物質や鎮痛薬の使用が必要になるため、妊娠中の体への影響をすべて排除することは難しいからです。
また、妊娠中はホルモンバランスの変化により精神的に不安定になることも多いといわれ、治療によるストレスが胎児の成長に悪影響を与える可能性も懸念されます。そのため、妊娠中の治療は基本的に避け、出産後に計画を立てることが推奨されます。
どうしても治療が必要な場合は、慎重に医師と相談し、母子ともに安全な方法を選択することが大切です。
全身疾患や持病がある
高血圧、心疾患、骨粗しょう症、糖尿病などの全身疾患や持病を抱えている場合、インプラント治療が難しいケースがあります。特に糖尿病で血糖値のコントロールが難しい場合、免疫力が低下していることが多いとされ、手術後の治癒が遅れるだけでなく、感染症やインプラント周囲炎のリスクも高まります。腎疾患のある方も同様に免疫力が低下しやすく、人工透析を受けている場合は手術による細菌感染が臓器に広がる可能性があります。
また、骨の脆弱性がある場合、インプラントの固定が難しくなることもあります。これらのリスクを踏まえ、全身疾患や持病がある方は、医師と綿密に相談し、安全性を最優先にした治療計画を立てることが重要です。
むし歯や歯周病がある
むし歯や歯周病がある方は、インプラント治療を受ける前に治療が必要になる場合があります。口腔内にむし歯や歯周病があると、インプラント埋入時に細菌感染が起こりやすく、人工歯根が顎の骨と結合できなくなるリスクが高まるためです。
また、手術後に感染症を引き起こす可能性もあり、成功率に影響を及ぼします。さらに、歯周病が進行している場合、インプラント周囲炎という炎症性疾患を引き起こし、インプラントの周辺組織が破壊される危険性があります。
そのため、むし歯や歯周病がある状態での治療は推奨されず、まずは口腔内環境を整えることが大切です。健康な口内を保つことが、インプラント治療の成功につながります。
顎の骨が薄い・少ない
顎の骨が薄かったり量が少ない場合、インプラント治療が難しいことがあります。インプラントは顎の骨に人工歯根を埋め込み固定する治療法であるため、十分な骨の厚みと高さが必要です。骨が痩せたり吸収してしまうと、人工歯根をしっかり固定する地盤が確保できず、治療の成功が困難になることがあります。
特に前歯部分の骨は奥歯に比べて薄く、骨吸収が少し進むだけでも治療のハードルが上がる傾向にあります。また、骨が脆い状態で無理に人工歯根を埋め込むと、抜け落ちたり破損したりするリスクも高まります。
そのため、骨量が不足している場合には骨を増やす治療が必要になることもあります。しっかりとした骨の状態が、インプラント成功の鍵です。
ヘビースモーカーである
喫煙、とりわけヘビースモーカーの方は、インプラント治療が難しい場合があります。インプラントの成功には、人工歯根が顎の骨としっかり結合することが重要です。しかし、喫煙による一酸化炭素は血流を低下させ、タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させるため、患部への血液供給が不足し、治癒が遅れる傾向があります。
この結果、人工歯根と骨が結合しにくくなり、治療が失敗に終わる可能性が高まります。さらに、喫煙者は歯周病にかかりやすく、インプラント治療後にインプラント周囲炎を発症するリスクも高いといわれています。
これらの要因から、ヘビースモーカーの方はインプラント治療を断られることが多いとされ、禁煙が治療成功の鍵となります。
インプラントができない場合の対処法
インプラントができない場合はどのように対処すればよいのでしょうか。以下に解説します。
骨を増やす治療を行う
顎の骨が薄い、または骨量が不足している場合、インプラント治療を可能にするために骨を増やす治療を行うことがあります。
この治療では、骨を再生または補強することでインプラント埋入に十分な骨量を確保します。
代表的な方法として”GBR(骨組織誘導再生法)”があり、特殊な材料を用いて骨の再生を助けます。また、人工素材を使用して骨の厚みを補う”ソケットリフト法”や”サイナスリフト法”なども挙げられます。
これらの治療法は患者さんの骨の状態に合わせて選択されるため、事前の精密検査が重要です。骨再生治療は難易度が高く、対応可能なクリニックが限られる場合がありますが、適切な治療を行えば骨量が不足している方でもインプラント治療が実現する可能性があります。
かかりつけ医と相談してくれる歯科医師を探す
全身疾患を抱える方がインプラント治療を希望する場合、かかりつけ医との連携が大変重要です。糖尿病や腎疾患などの持病がある方は、血糖値のコントロールや免疫力の状況に応じて治療の可否が異なります。
そのため、歯科医師が単独で治療を進めることはリスクが高く、かかりつけ医の指導を受けながら慎重に進める必要があります。特に糖尿病の場合、血糖値が安定し、医師から治療の許可が出れば、インプラント治療が可能になるケースもあります。
インプラント治療を希望する場合は、全身疾患に詳しく、かかりつけ医と連携を取ってくれる歯科医師を探すことが成功への第一歩です。このような対応をしてくれる歯科医院を選ぶことで、安全で適切な治療が期待できます。
むし歯や歯周病を治す
むし歯や歯周病がある状態では、インプラント治療を行うことが難しい場合があります。これらの疾患があると、インプラント埋入時に細菌感染のリスクが高まり、人工歯根が顎の骨にしっかりと定着しない可能性があるからです。
さらに、治療後にインプラント周囲炎という炎症性疾患を引き起こすリスクも高くなります。
そのため、インプラント治療を希望する場合は、まずむし歯や歯周病の治療を優先的に行い、口腔内を健康な状態に整えることが重要です。
重度の歯周病によって顎の骨が減少している場合には、骨再生治療が必要になる場合もあります。
歯周病やむし歯を治したうえでインプラント治療を受けることで、長期的な成功が期待できるでしょう。
喫煙を控える
喫煙はインプラント治療の成功率を大きく下げる要因となるため、治療を希望する場合には禁煙が不可欠です。タバコに含まれる一酸化炭素やニコチンは血流を低下させ、患部への血液供給を妨げます。その結果、インプラント埋入後の治癒が遅れ、人工歯根が顎の骨としっかり結合しないリスクが高まります。
また、喫煙者は歯周病にかかりやすく、治療後にインプラント周囲炎を発症する可能性も増加します。インプラント治療を安全かつ効果的に行うためには、治療中はもちろん、治療後も禁煙を続けることが推奨されます。
一時的な禁煙ではなく、できる限り禁煙を徹底することで、インプラント治療の成功率と治療後の安定性を向上させることができるでしょう。
インプラントが難しい場合に有効な治療法
インプラントが難しい場合にはどのような治療法があるのでしょうか。以下に解説します。
ソケットリフト
ソケットリフトは、上顎奥歯の骨量が不足している場合に骨を増やすことでインプラント治療を可能にする方法です。
骨の厚みがある程度残っているがインプラントには不十分な場合に適用され、元の歯があった箇所から人工骨や移植材を充填し、骨の厚みを増やします。この手法の特徴は、骨造成とインプラント埋入を同時に行えるため、治療期間が短い点です。順調に進めば3~4ヶ月で治療が完了することもあります。
さらに、身体への負担が少なく、サイナスリフトよりも費用が抑えられる点もメリットです。
ただし、骨が著しく減少している場合や広範囲に骨を増やす必要がある場合は適用が難しいため、事前の精密検査が重要です。
ソケットリフトは短期間で骨量不足を改善できる治療法です。
サイナスリフト
サイナスリフトは、上顎奥歯の骨量が大幅に不足している場合に行われる治療法です。ソケットリフトで対応できないような広範囲に骨を増やす必要がある場合や、骨の厚みが極端に薄い場合に適用されます。
この手法では、上顎洞(サイナス)の底部を持ち上げ、その下に人工骨や骨補充材を充填して骨の高さを増やします。これにより、インプラント埋入に十分な骨量を確保し、安定した固定が期待できます。
サイナスリフトは適用範囲が広く、複数本のインプラントを必要とするケースでも有効とされています。ただし、治療期間が半年以上に及ぶことが多いとされ、身体への負担や費用が高い点がデメリットです。難易度が高いため、経験豊富な歯科医院での施術が重要です。
ソケットプリザベーション
ソケットプリザベーションは、抜歯後の骨吸収を防ぐために行われる治療法で、将来的にインプラントを考えている方に特に有効といわれています。抜歯後すぐに人工骨を充填することで、骨の吸収をできる限り抑え、インプラント埋入に合った骨の状態を維持します。
この方法は、抜歯後の骨量不足を防ぎ、インプラント治療の成功率を向上させるために役立ちます。身体への負担が少ない点もメリットです。
ただし、骨の吸収が著しい場合や状態が悪い場合には適用できないことがあります。また、骨の再生には時間がかかるため、治療期間が延びる場合もあります。
ソケットプリザベーションは、将来を見据えたインプラント治療を目指す方にとって魅力的な選択肢といえるでしょう。
CTG(結合組織移植術)
CTG(結合組織移植術)は、歯茎のボリュームが不足している場合に行われる治療法です。患者さん自身の口腔内から結合組織を採取し、下がった歯茎に移植することで、歯肉の厚みを増し、インプラント治療の成功率を向上させます。
この方法は、歯周病の進行を抑える効果もあり、見た目の美しさを保つ点でもメリットがあります。ただし、術後に腫れや痛みが出ることがあるほか、高度な技術を要するため、対応可能な歯科医師が限られる場合があります。
CTGは、インプラント治療に合った歯茎を形成するために有効とされる手段であり、特に審美性を重視する患者さんにおすすめの治療法です。
インプラント以外の選択肢
インプラント以外の選択肢にはどのようなものがあるのでしょうか。以下に解説します。
差し歯
差し歯は歯根が残っている場合に適用される治療法で、歯根の上に被せ物を装着し、機能と見た目を回復させます。治療期間が短く、身体への負担が軽いのが特徴です。
一方、インプラントは歯根がない状態で人工歯根を埋め込む治療法であり、適応するケースが異なります。
ただし、抜歯を宣告された場合でも、歯根が保存でき、差し歯が選択できるケースがあるため、治療前にセカンドオピニオンで確認することが重要です。
ブリッジ
ブリッジは、欠損した歯の両隣の歯を支えにし、連結した被せ物を装着して噛む機能を回復する治療法です。咀嚼力が高く、保険適用で費用を抑えられる点がメリットですが、健康な両隣の歯を削る必要があるため、歯の寿命に影響を与える可能性があります。
また、多くの歯を失った場合や支台歯がない場合には適用できません。ブリッジは1~2本の欠損に向いており、治療期間が短い点も魅力です。
適用の可否を歯科医師と相談することが重要です。
部分入れ歯
部分入れ歯は、失った歯を補う治療法で、金属製のクラスプを残った歯に引っかけて固定します。保険診療で費用を抑えたり、自費診療で快適な入れ歯を作ることも可能とされています。
金属を使用しない”ノンクラスプデンチャー”に関心が寄せられており、装着時の違和感が少なさと審美性が魅力です。
咀嚼力が高く治療期間が短い一方、留め具をかける歯への負担や口腔内の衛生管理が難しい点に注意が必要です。
まとめ
ここまでインプラントができないケースはあるのかについてお伝えしてきました。
インプラントができないケースはあるのかの要点をまとめると以下のとおりです。
- インプラント治療ができないケースには、未成年や妊娠中、全身疾患や持病がある場合、むし歯や歯周病がある場合、顎の骨量不足、ヘビースモーカーなどが挙げられる
- インプラントが難しい場合の対処法として、骨再生治療や全身疾患に対応した医師との連携、むし歯・歯周病の治療、禁煙などが挙げられる
- インプラント以外の選択肢には、歯根を利用する差し歯や両隣の歯を支台とするブリッジが挙げられる
インプラントは魅力的な治療法ですが、すべての方に適用できるわけではありません。インプラントが難しい場合も、対処法や代替治療を検討することで、機能性や審美性を十分に回復させることができるでしょう。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。