歯を失った時の治療として知られているのは、インプラントと義歯(入れ歯)です。義歯は昔からの治療法としてなじみがあり、インプラントも健康保険適用外ですが使用する人は増えてきています。
それでは実際インプラントと義歯ではどのような違いがあるのでしょうか?治療の仕方・治療期間・費用などそれぞれの違いに着目すると、メリット・デメリットもわかってきます。
この記事ではインプラントと義歯の違いについて説明し、インプラントオーバーデンチャーについても詳しく説明していきますので、治療法を選ぶ時の参考にしてください。
インプラントと義歯(入れ歯)の違い
歯を失った時の治療方法にはインプラントと義歯(入れ歯)があります。それぞれの特徴や違いを知っておくと、選択する時の目安になります。
- 見た目の違い
- 食べ物の噛みやすさの違い
- 寿命の違い
- 取り外し可能かどうかの違い
- 周囲の歯への影響の違い
詳しく解説していきますので、参考にしてみてください。
見た目の違い
新しい歯にした時は見た目が大いに気になるところです。
インプラントは歯根となるネジ状のインプラント体を埋め込み、その上に支台部(アバットメント)を設置して上部構造を取り付けます。そのため装着部品が見られず、一見して人工歯であるとわかりにくいです。
それに対して部分入れ歯では両側の歯に掛ける人工バネ(クラスプ)が見えるため、見た目がインプラントよりは劣ってしまいます。
部分入れ歯でも人工バネを歯茎と同じ色の樹脂にしたノンクラスプ義歯にすると目立たなくなります。
食べ物の噛みやすさの違い
人工歯でもしっかり噛めると食事もおいしく感じることができ、また消化も良くなります。
顎の骨に取り付けるインプラントは硬い物もしっかり噛める安定感があります。
両側にバネを掛けるだけの部分入れ歯は、噛む力は劣り、食べ物がすき間に入りやすくなります。また総入れ歯は異物感があり、慣れるのに時間が掛かります。
噛みやすさは食生活に関わりますので、生活スタイルに合わせて治療法を選択しましょう。
寿命の違い
本当の歯ではなくても使っているうちに馴染んでいく歯ですから、費用のことも考えるとなるべく長く使いたいです。
インプラントはインプラント体にチタンやチタン合金を採用し耐久性に優れていて長期間に渡って使用できます。但しメンテナンスをしないと寿命は短くなってしまいます。
一方義歯はプラスチックで作られていて、寿命の参考となる10年生存率は50%程度といわれています。口内の状態が変わっていくため、定期的な調整や作り直しが必要となってきます。
取り外し可能かどうかの違い
歯は取り外しができると洗いやすいです。一方取り外しができない歯は他の歯と同じように扱います。
インプラントは顎の骨にインプラント体をしっかりと取り付けられているため取り外しはできません。そのため普通の歯と同様に毎日歯みがきをしてきれいに保たないといけません。汚れが溜まるとインプラント周囲炎になる可能性があります。
インプラント周囲炎はインプラントの周辺の歯や歯肉が歯周病菌に侵されると炎症が起こり、インプラントを支える骨が溶け抜けてしまうことがあります。
このようにインプラントは一度装着すると取り外しができないため、自分の歯と同じように大切にする必要があるのです。
義歯(入れ歯)もインプラント同様にきれいに保ちましょう。入れ歯は簡単に外すことができ、歯ブラシを使って洗うことができます。
洗浄液に漬け置きしたりできるため衛生的に管理しやすいです。但し食事やくしゃみなどで不意に外れてしまう場合もあります。
それぞれメリット・デメリットがありますので参考にしてみてください。
周囲の歯への影響の違い
新しい歯を入れることにより周囲の歯にリスクが出るのはなるべく避けたいところです。
インプラントは他の歯に依存することなく、独立して装着されるため他の歯への影響はありません。
部分入れ歯の場合、削る歯の量は少量ですが、両側の歯に掛けるバネの根元部分に汚れが付きやすく、日々の洗浄が必要です。
インプラントと義歯(入れ歯)の治療の違いは?
インプラントと義歯(入れ歯)の違いは外科的手術の有無と治療期間の長さです。
- インプラントは外科的手術が必要
- インプラントは治療期間が長め
- 義歯(入れ歯)は外科的手術が必要ない
- 義歯(入れ歯)はインプラントよりも治療期間が短め
治療の違いを知ることで、自身に合った選択ができるようになります。それぞれを詳しくみていきましょう。
インプラントは外科的手術が必要
インプラントには外科的手術が必要であり、1回法と2回法があります。
- 1回法:インプラント体を埋める場所を切開して、ドリルで穴を開けます。そこへインプラント体を埋め込み、アバットメントを取り付けます。
- 2回法:インプラント体を埋め込むまでは1回法と同じで、一旦縫合します。その後インプラント体と骨が結合するまで待ちます。待つ期間は約3〜6ヶ月となるでしょう。結合が確認できたら再び切開して仮のアバットメントを取り付けます。 切開の傷の治りを確認して上部構造の型取りをして、上部構造を取り付けたら完了です。
外科手術に不安がある方は、予め歯科医師の説明をしっかりと聞き、疑問に思うことは聞いておくと安心です。
インプラントは治療期間が長め
インプラントは外科的手術をするため、事前に十分なカウンセリングと診察、そして検査が必要です。これらを行った後に手術を行う流れになります。
- カウンセリング:これからインプラントの治療するための説明があり、要望を聞き取りします。また現在の健康状態(基礎疾患の有無)などを確認し、インプラントに適応できるかを確認します。
- 口腔内の状態確認:現在の歯や顎の状態をCTやレントインプラント義歯(インプラントオーバーデンチャー)とはどのようなもの?ゲンなどで検査したり、実際に口の中を見たりして診察します。骨の質や歯肉の高さなど細かくチェックしますが、インプラントを安全に取り付けるためには重要な検査です。
- 手術前の準備:インプラントの手術をするには、歯を入れる部位を最適な状態にしておく必要があります。歯周病がある場合は治療を済ませてからの手術になる場合が多いです。
- 骨造成手術:骨の量が不足している場合は骨造成の手術を予めする場合もあり、入念に準備してからインプラントの手術へと移ります。
- 手術:1回法または2回法により手術をします。
- メンテナンス:手術が終わっても定期的な検診により、インプラントのネジが緩んでいないか、炎症が起きていないかなどのチェックをします。
このようにインプラントの治療は細かい検査と事前準備がされるため治療期間が長くなり通院回数も増えます。
計画的に通院することができるよう、通いやすい歯科医院を選びましょう。
義歯(入れ歯)は外科的手術が必要ない
義歯は歯型を取り、それを装着するだけなので外科的手術の必要はありません。しかし総入れ歯では装着後、慣れるのに時間がかかります。
自然なつけ心地になるよう歯科医師により嚙み合わせの調整を行います。食事のとき、慣れるまでは違和感を感じるかもしれません。
その場合は食事も噛みやすいように小さくするなど、日常生活においても最初は気を配らないといけません。
義歯(入れ歯)はインプラントよりも治療期間が短め
義歯では外科的手術がないので、手術に係わる検査や治療時間が無くなるためインプラントよりは短くなります。
しかし事前の診察や検査は十分にして最適な状態にして義歯を入れるようにしています。
- カウンセリング:義歯治療についての説明をし、患者さんの要望を聞き取ります。
- 口腔内の診察:欠損部位とその周辺の状態を確認します。部分入れ歯にする場合は義歯を支える周辺の歯の強度が重要になります。 また義歯装着後に外れにくくするため、噛み合わせのチェックも欠かせません。
- 治療:むし歯や歯周病があり、口腔内の状態が悪化する恐れがある場合は治療をします。
- 型取り:口腔内の状態が整ってきたら歯の型取りをします。この型により義歯の作成をしますが、完成するまでの期間は歯科医院により違いが生じます。 スピーディーな義歯の完成のため、歯科技工士が常駐している歯科医院もあるので、急ぐ時には確認しておきましょう。
- 義歯取り付け:完成した義歯を取り付けます。その時に嚙み合わせを確認し調整しますが、その後も定期的に診察を受けて異常がないか確認をしておくと安心です。
インプラントと義歯(入れ歯)の費用の違いは?
インプラントは健康保険の対象にならないため、高額な費用となります。義歯は健康保険の対象となり、費用はインプラントと比べるとかなり安くなります。
インプラントの費用相場
インプラントの費用は歯科医院ごとに変わり、また材質によっても変わります。歯科医院のホームページや事前相談などでどのぐらいの費用がかかるのか確認しておきましょう。
インプラントの費用の相場は、アバットメントを埋め込み上部構造を取り付けるまでの費用として1本あたり約30~50万円前後(税込)となりますので参考にしてみてください。
更にインプラント手術に伴う治療や手術で別途費用が掛かることもあるので、費用については治療を受ける前に歯科医院からの説明を受けておきましょう。
歯科医院によってはクレジットなどでの分割払いを適用しているところもあります。
義歯(入れ歯)の費用相場
入れ歯は健康保険の対象となり費用の相場は負担割合によって変わります。
部分入れ歯の費用の相場は1本約3,000円となりますので、こちらを目安として参考にしてみてください。
見た目を更に良くしたい、耐久性のある歯にしたい場合は、ノンクラスプ義歯やセラミック人工歯などの健康保険対象外の義歯もあります。
費用の相場は10~20万円(税込)程度を超える高額となり、医療費控除の対象となる可能性もあるので、相場を参考に検討してみましょう。
インプラント義歯(インプラントオーバーデンチャー)とはどのようなもの?
外科的治療を行わず歯のない箇所を補うことができる義歯ですが、インプラント体を顎骨に埋め込み、その上に義歯を覆うインプラント義歯があります。
義歯(入れ歯)をインプラントで固定
インプラントオーバーデンチャーとは、1〜4本のインプラント体を埋め込み、その上を義歯で覆います。
通常の義歯とは違い、インプラントにより根元が固定されているので、違和感なくインプラントほどではありませんがしっかりと噛むことができます。
残りの歯や顎の骨が少なくインプラントの治療が困難な場合にも、インプラントオーバーデンチャーでは埋め込むインプラント体が少ないので治療を受けることも可能です。
治療期間もインプラントよりも短く、費用を抑えることができます。
オールオン4とは違い自分で取り外しが可能
インプラントオーバーデンチャーはアタッチメントにより義歯を固定するので、着脱が可能で洗浄がしやすく衛生的です。インプラント周囲炎のリスクも低くなります。
また自分できれいに歯を磨きにくくなっている高齢者は、取り外しできる方がきれいに保てるでしょう。また介護する人にも洗浄が簡単で便利です。
一方オールオン4は4本のインプラント体を顎の骨に埋め込み、その上に上部構造を取り付け固定するので、一旦装着すると取り外しができません。
しかししっかりと固定するのでインプラントオーバーデンチャーよりも安定感があります。
インプラントと義歯(入れ歯)は併用できる?
インプラントと義歯はそれぞれの治療方法がありますが、インプラントオーバーデンチャーにすると併用した治療が可能です。
インプラントでは1本1本独立して埋め込むため、数が多いと治療期間も長く、費用も多くかかります。
義歯では見た目も気になり、安定感に欠け食事時に不便さを感じることもあります。
しかしインプラントオーバーデンチャーにすることで、インプラントと義歯のメリット・デメリットを補い合う治療をすることも可能となるでしょう。
インプラントにするか義歯(入れ歯)にするか迷ったら
失ってしまった歯を補完する治療は、日常生活に困らないようにするための大事な治療です。それだけにインプラントにするか義歯にするかと迷われることも多いでしょう。
インプラントは硬い物も噛めて、審美性に優れ、義歯よりも優位なメリットが多いです。しかしインプラントの治療費用は高額であり、治療期間も長く、患者さんへの負担も多いです。
義歯は費用が安く治療期間も短いので、治療を始めやすい治療方法です。
それでもやはり見た目が気になる場合は、健康保険適用外の義歯を検討してみるのも良いでしょう。またインプラントオーバーデンチャーの選択もあります。
現在の自分の経済状況や健康状態、生活環境を確認して、より良い治療方法を選択しましょう。
まとめ
今回の記事ではインプラントと義歯(入れ歯)の違いについて説明しました。
インプラントは見た目や付け心地では義歯よりも大きく上回りますが、高額な費用と長い治療期間がデメリットになります。また外科的手術は体力的、心理的負担が掛かります。
このデメリットを縮小させるのがインプラントオーバーデンチャーになります。インプラントと義歯を併用する治療方法は、インプラントよりも治療期間を短く、義歯よりも付け心地も良く快適に日常生活を送ることも可能です。
歯科医院では歯科医師からのわかりやすい説明により口腔内状態を知ることができます。
また予めインプラントと義歯の違いを知っていたなら、自分に合った治療方法を納得して選択できるでしょう。
参考文献