ほとんどの歯やすべての歯を失った人は「オールオン4」という治療法を選択肢のひとつとして検討しているかもしれません。
オールオン4は、従来法とは大きく異なる治療法であり、見た目や構造、その他の治療法との違いについて、よく分からないという声も聞かれます。ここでは、そんなオールオン4の特徴やメリット・デメリット、入れ歯やインプラントとの違いについて詳しく解説をします。
オールオン4とは
- オールオン4とはどのような治療方法ですか?
- 顎の骨に4〜6本の人工歯根を埋め込んで、総入れ歯のような大型の上部構造を装着する治療法です。
基本的には4本の人工歯根で上部構造を丸ごと支えることから「オールオン4」という名前が付けられていますが、患者さんの顎の骨の状態によっては、人工歯根を6本程度埋め込まなければならないこともあります。その場合は「オールオン6」と呼びます。
- オールオン4の構造について教えてください。
- オールオン4は、チタン製の人工歯根であるインプラント体(フィクスチャー)と連結装置であるアバットメントを土台とし、その上に10~12本の人工歯と歯茎の部分が付随した上部構造を装着します。通常のインプラントと基本構造はほぼ同じではあるものの、上部構造においては大きな違いが見られます。
- オールオン4の治療の流れについて教えてください。
- オールオン4の治療の流れは、次の通りです。
STEP1:カウンセリング
初診では、カウンセリングでオールオン4の概要についての説明を受けます。オールオン4の治療手順や治療にかかる期間、費用など、細かい点まで説明してくれることでしょう。患者さんからは今現在、抱えている口腔の悩みとともに、治療に関する要望を歯科医師に伝えることが大切です。オールオン4を希望していたとしても、症状によってはその他の治療法が適している場合もあるため、歯科医師との相談は綿密に行う必要があります。STEP2:精密検査
オールオン4には外科手術を伴うため、一般的な口腔内診査や歯型取り、レントゲン撮影に加えて、歯科用CTによる画像診断も必須となります。STEP3:前処置
口腔内に歯が残っていたり、顎の骨に何らかの問題を抱えていたりする場合は、前処置を行う必要があります。残存歯の抜歯はオールオン4の手術前に行い、傷が治るのを待つこともありますが、手術と同時に歯を抜くこともあります。オールオン4は基本的に顎の骨が少ない場合でも適応可能ですが、それでも不足がある場合は、骨移植や骨造成など、ケースによって対応が分かれます。STEP4:インプラントの埋入手術
顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込む手術を実施します。歯茎をメスで切開し、顎の骨に穴を開けたら、人工歯根であるインプラント体を4~6本ドリルで埋入するといった流れです。続いて、アバットメントを装着し、仮歯に当たる上部構造を設置します。手術したその日から仮歯を入れることができ、なおかつある程度の咀嚼まで出来るのが、オールオン4の特長のひとつといえます。STEP5:治癒期間
通常のインプラント治療と同様、オールオン4でも人工歯根と顎の骨が結合するまでの間、待機する必要があります。治癒にかかる期間はケースによって大きく異なりますが、3~6ヵ月程度が一般的です。STEP6:上部構造の装着
インプラントが顎の骨に定着したら、最終的な補綴物である上部構造を装着します。オールオン4の治療後も通常のインプラントと同じように、定期的なメンテナンスが必須となります。
オールオン4の見た目
- オールオン4はどのような見た目になりますか?
- 一見すると本物の歯のように見えます。それはオールオン4が人工歯根で支えられている装置だからです。
もちろん、オールオン4の上部構造には歯茎の部分が付随しているため、歯冠と歯根からなる天然歯とは少し構造が異なりますが、総入れ歯のような違和感や異物感が生じることはほとんどないといえます。なぜなら、歯茎の部分は総入れ歯と比較すると極めて狭い範囲にとどまるからです。
- オールオン4で歯の見た目はどうやって決めるのですか?
- まずは素材を決めて、残存歯に合わせた自然な色合いを選びます。上部構造の人工歯は、セラミックを選択することで見た目が自然になるだけでなく、汚れがつきにくくなるというメリットも得られます。
オールオン4と他の治療方法の違い
- オールオン4と入れ歯の違いは何ですか?
- オールオン4は、インプラントの治療の一種です。失った歯を歯根から回復できるため、入れ歯よりも審美性・機能性・耐久性に優れているといえます。
噛んだ時の力を人工歯根で受け止めることができるので、顎の骨が痩せにくいというメリットも伴います。一方、入れ歯は着脱式の装置であり、歯がない部分に被せることで審美性や機能性を回復させます。噛んだ時の力は歯茎で受け止めることから、硬いものや弾力性の高いものは咀嚼しにくいです。顎の骨が経年的に痩せていってしまうというデメリットも伴います。
- オールオン4とインプラントの違いは何ですか?
- オールオン4は、4〜6本のインプラント(人工歯根)を埋め込んで、総入れ歯のような形態をした大型の上部構造を1つ装着する治療法です。
チタン製の人工歯根を埋め込むという点においてオールオン4はインプラント治療の一種といえるのですが、標準的なインプラント治療では1本の人工歯根に対して1つの人工歯を装着することから、厳密には異なる治療法といえます。
ちなみに、1本1本人工歯根を埋め込んで上部構造を装着するという通常のインプラントでもすべての歯を失ったケースに適応することは理論上可能ですが、全顎で20本程度の人工歯根を埋め込むことは患者さんの心身および経済面にかかる負担が極めて大きくなるため、オールオン4を選択するのが一般的となっています。
- オールオン4とインプラントオーバーデンチャーの違いは何ですか?
- どちらも顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込む治療法ですが、装置の装着方法に違いが見られます。オールオン4は、上部構造を人工歯根およびアバットメントに固定する方法であるため、患者さんが自由に取り外すことはできません。一方、インプラントオーバーデンチャーは人工歯根に入れ歯を装着するようなイメージです。あくまで入れ歯(デンチャー)なので、患者さん自身が食事や歯磨きの時に取り外すことができます。
また、インプラントオーバーデンチャーは、歯が残っているケースにも適応できるという特徴があります。例えば、まだ使える歯が1~2本残っていて、足りない分を人工歯根で補うという選択肢をとることができるのです。あるいは、歯が数本欠損している部位に、部分入れ歯のような形でインプラントオーバーデンチャーを装着することも可能です。この点は、総入れ歯と適応症が同じオールオン4との大きな違いといえます。
オールオン4のメリット・デメリット
- オールオン4のメリットについて教えてください。
- オールオン4では、4~6本という少ない本数のインプラントで、すべての歯がない無歯顎(むしがく)の症例を治療できます。また、通常のインプラント治療と比較すると、治療期間が短い、費用が安い、心身にかかる負担が少ない、といったメリットを伴います。総入れ歯と比較した場合は、見た目が自然で美しい、天然歯のようにしっかり噛める、装置がずれたり外れたりしない、顎の骨の吸収を抑えられる、といったメリットが得られます。
- オールオン4のデメリットについて教えてください。
- 歯が残っているケースでは、事前に抜歯をしなければならないことがあります。顎の骨が不足しているケースでは、骨造成と呼ばれる外科手術が必要となることも覚えておきましょう。
また、患者さんの顎の骨や全身の健康状態によってはオールオン4を適応することが難しく、非外科的な方法で治療できる総入れ歯が第一選択となる場合も珍しくありません。その他、オールオン4には保険が適用されない、定期的なメンテナンスが必須となる、治療を担当する歯科医師の技術や経験によって結果が大きく変わる、といったデメリットを伴います。
編集部まとめ
オールオン4は、4〜6本の人工歯根を顎の骨に埋め込んで、総入れ歯の形態をした上部構造を支える治療法です。失った歯を歯根から回復できることから、見た目は自然で一見すると本物の歯のように見えます。噛み心地も総入れ歯より優れており、日常生活で不自由やストレスを感じる場面が少ない補綴装置といえるでしょう。
ただし、オールオン4にも適応できないケースがあったり、外科手術や治療後のメンテナンスが必須となったりするデメリットがありますので、そこはメリットを天秤にかけながら、バランス良く考えることが大切です。
参考文献