インプラント治療では、顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込んで、セラミックやジルコニアなどで作られた上部構造を装着します。この2つのパーツは、アバットメントと呼ばれる連結装置でつながれるのをご存知でしょうか?アバットメントは、人工歯根や上部構造と同じくらい重要なもので、取れた場合は迅速に対処しなければなりません。ここではそんなインプラントのアバットメントが取れる原因や対処法について詳しく解説します。アバットメントが取れた、もしくは不具合が生じている場合は、このコラムを参考にしてみてください。
インプラントのアバットメントが取れる原因
はじめに、インプラントのアバットメントが取れる原因について解説します。
- アバットメントが取れる主な原因を教えてください
- インプラントのアバットメントが取れる主な原因は、ネジの緩みです。一般的なアバットメントは、ネジを回す形で固定します。どのような装置でも経年的にネジが緩むことはあります。特にインプラントのアバットメントは、噛んだときの圧力を受け止める装置でもあるため、緩みやすいといえるでしょう。アバットメントの緩みを放置していると、いつかは外れてしまいます。ケースによっては、アバットメントが破損して外れることもあります。
- メンテナンスが不十分だとアバットメントが取れる可能性はありますか?
- その可能性は十分にあります。なぜなら定期的なメンテナンスを行っていないと、アバットメントの緩みや破損に気付くのが遅れるからです。また、アバットメントが緩みや破損につながる口腔内の異常もセルケアだけでは発見しにくいことから、インプラント治療後の定期的なメンテナンスは必須といえるでしょう。
- 噛み合わせがアバットメントに影響して取れることはありますか?
- 悪い噛み合わせが影響して、アバットメントの緩みや破損につながることはよくあります。噛み合わせの調整が不十分だと、上部構造やアバットメント、人工歯根に過剰な負担がかかり、脱落しやすい状況を作ってしまうからです。また、歯ぎしりや食いしばりといった悪習癖もインプラント全体にダメージを与えることから、アバットメントの脱落を招きやすくなります。
インプラント体とアバットメントへの日常生活の影響
次に、日頃からの癖がインプラント体(人工歯根)とアバットメントにどのような影響をもたらすのかについて解説します。
- 喫煙や食事習慣がインプラント体やアバットメントに与える影響を教えてください
- 喫煙習慣は、インプラントの天敵といわれています。これはタバコの煙に含まれるニコチンや一酸化炭素が歯周組織の免疫機能や栄養状態を低下させるためです。インプラント治療を行う前はもちろん、インプラント治療を行った後もタバコを吸い続けていると、歯周病を発症して歯茎や顎の骨の健康が損なわれ、インプラントの状態も悪くなります。具体的には、人工歯根と顎の骨との結合であるオッセオインテグレーションが失われることで、装置全体の安定性が崩れ、アバットメントの緩みや脱落を招くリスクも高まるのです。毎日の食事で、ナッツ類やフランスパン、するめに代表される乾物などを頻繁に食べていると、上部構造やアバットメント、人工歯根に過剰な負担がかかってさまざまなトラブルを招くことがあります。特にわかりやすいのは上部構造の破折や破損で、アバットメントのネジが緩む現象も起こりえます。重大なケースでは、人工歯根そのものが外れる可能性も否定できないため、極端に硬い食べ物を習慣的に摂取するのは控えた方がよいといえます。
- 歯ぎしりや食いしばりがアバットメントにどのように影響するか教えてください
- 歯ぎしりや食いしばりは、インプラント治療で想定している以上の力が上部構造やアバットメント、人工歯根にかかります。成人男性の場合であれば、歯ぎしり・食いしばりで100kgくらいの力が歯や顎の骨にかかると考えられています。とりわけ就寝中に起こる歯ぎしり・食いしばりは、長時間に及ぶだけなく、力のコントロールも働きにくいことから、アバットメントの緩みや脱落を招きやすくなるでしょう。もちろん、歯ぎしり・食いしばりによって緩んだアバットメントは、定期的なメンテナンスで締め直せばよいのですが、その習癖が長期にわたると、インプラントの装置全体にダメージが蓄積していくため、根本的な原因を取り除く努力をした方が賢明です。
インプラントのアバットメントが取れた場合の対処法
次に、インプラントのアバットメントが何らかの理由で取れた場合の対処法を解説します。
- アバットメントが取れてしまった場合まず何をしたらよいですか?
- インプラントのアバットメントが取れた場合は、まずそれを飲み込まないように注意してください。アバットメントが取れたということは、上部構造も一塊となって脱落している可能性が高いため、誤飲するトラブルは絶対に避けたいものです。取れたアバットメントと上部構造を確認して、大きな損傷などがなければ、汚れを洗い流した状態で保管しておきましょう。ティッシュなどに包んでテーブルのうえなどに置いておくと、誤って捨ててしまうかもしれないので、ジッパーのついた保管袋やプラスチックケースなどに入れて、大切に保管してください。そのうえで主治医に連絡をしてアバットメントが取れた状況を詳しく説明し、診療の予約を入れましょう。
- 自分でアバットメントを取り付け直すことはできますか?
- 何らかの理由で取れたアバットメントを自分で取り付け直すことはできません。アバットメントを物理的にはめ込むことは可能かもしれませんが、正しい位置まで締め直すことは不可能です。なぜならアバットメントを適切に締め直すためには、専用のドライバーが必要だからです。そもそも上部構造が連結された状態でアバットメントを取り付け直すことはしないため、自己流に対処するのはNGです。とりあえず付け直すという感覚でリカバリーしようとすると、噛み合わせが高くなって強く噛むようになるなど、新たなトラブルを招きかねませんので、十分にご注意ください。
- アバットメントが取れた際に気をつけることを教えてください。
- アバットメントが取れた場合は、人工歯根も含めたインプラントの装置に傷や歪みを与えないように注意してください。取れたアバットメントを自分でもとに戻そうとすれば、装置の破損を招きかねません。また、歯科医院を受診するまでは、口腔衛生状態を良好に保つことも心がけましょう。アバットメントが外れた状態は、普段よりも汚れがたまりやすくなっています。
インプラントのアバットメントが取れないための予防法
ここでは、インプラントのアバットメントが脱離するのを防ぐ方法について解説します。
- インプラントの定期的なメンテナンスに通うべきですか?
- インプラントの定期的なメンテナンスは、必ず受けるようにしてください。これはアバットメントが取れるのを防ぐためだけでなく、インプラントの装置全体のトラブルを防ぐことにつながります。3ヵ月に1回くらいの頻度でインプラントのメンテナンスを受けていれば、アバットメントの緩みや噛み合わせの異常なども早期に発見でき、問題が起こる前に対策を講じられます。
- 日常生活で気をつけるべき習慣について教えてください
- アバットメントが取れる原因となる習慣は、今日からでも改善するよう努めてください。極端に硬い食べ物を食べる習慣は、容易に変えられるかと思います。歯ぎしり・食いしばりに関しては、意識を変えるだけでは改善できないことも少なくないたので、必要に応じて歯科治療を受けましょう。歯科医院では、就寝中にマウスピースを装着するスプリント療法で歯ぎしり・食いしばりの治療も受けられます。
編集部まとめ
今回は、インプラントのアバットメントが取れる原因と対処法について解説しました。インプラントのアバットメントは、硬い食べ物を習慣的に噛んでいたり、歯ぎしり・食いしばりなどの悪習慣があったりすることで、徐々にネジが緩み、脱落を招く場合があります。そうした理由でアバットメントが取れた場合は、速やかに歯科を受診して付け直してもらいましょう。アバットメントを自分で付け直すのはNGです。取れたアバットメントを自己流に付け直そうとすると、さらなるトラブルへと発展しかねないことから、必ず専門家の処置を受けるようにしましょう。
参考文献