インプラント治療を検討する際、むし歯や歯周病の治療順序に迷う方は少なくありません。
治療の成功率やインプラントの長期安定性を高めるには、治療順序を適切に守ることが重要です。
特に、むし歯や歯周病などの感染源は、インプラント治療の成功に大きく影響します。そのため事前の処置が不可欠です。
本記事では、インプラント治療の適切な治療順序と、術後に注意すべき点を詳しく解説します。
インプラント治療とむし歯の治療はどちらが先?
- インプラント治療とむし歯治療はどちらを先に行うべきですか?
- 多くの場合、むし歯の治療を先に進めるのが基本とされています。インプラント治療前には、口腔内の感染源を徹底的に除去することが原則です。むし歯は口腔内の重要な感染源の一つであり、未治療のむし歯が残存している状態でインプラント手術を行うと、感染のリスクが高まります。むし歯菌がインプラント埋入部位に達すると、オッセオインテグレーション(骨結合)の形成が阻害されるおそれがあります。インプラントの長期的な安定性に悪影響を与えるため注意が必要です。
その他にも、インプラント治療は長期間にわたる治療です。治療期間中にむし歯が進行すると、全体的な治療計画に影響を与える可能性があります。そのため、インプラント治療の前に、むし歯治療を終えておくことが推奨されます。
- インプラント治療とむし歯治療を同時に行うのはどのようなケースですか?
- 基本的に、インプラントとむし歯の同時治療は推奨されていません。治療部位が複数あると、口腔内の、細菌感染のリスクが高まるためです。ただし、例外的に検討されるケースもあります。インプラント埋入部位から離れた軽度なむし歯があり、感染リスクが極めて低いと歯科医師が判断した場合が挙げられます。
- インプラント治療とむし歯治療を同時に治療を行うリスクを教えてください。
- 同時に治療を行うことで、インプラントが安定しないリスクや、術後の回復に悪影響を及ぼす可能性があります。 むし歯菌によってインプラント埋入部位が細菌感染すると、インプラント体と骨組織の結合が弱まり、ぐらつきにつながる可能性があります。さらに、口腔内の感染が全身に広がることで、全身状態や術後経過に悪影響を及ぼす可能性も否定できません。そのため、治療前の感染管理には十分な注意が必要です。
インプラント治療と歯周病の治療はどちらが先?
- インプラント治療と歯周病治療はどちらを先に行うべきですか?
- 歯周病治療を先に行うことが一般的です。歯周病は口腔内の主な感染源の一つであり、インプラント埋入前に可能な限り除去する必要があるからです。歯周炎とインプラント歯周炎の細菌を比較すると、類似した細菌が検出されることが知られています。さらに、残存歯の歯周ポケットからインプラント周囲溝へ、短期間で細菌感染が広がることが報告されています。そのため、歯周病のコントロールが不十分なままインプラント治療を行うと、インプラントの安定性が低くなる可能性が高いです。
- 歯周病が残ったままインプラント治療を始めるリスクを教えてください。
- 歯周病がある場合、インプラントの残存率が低下する傾向があります。歯周病菌がインプラントの周囲に感染すると、インプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎を引き起こす可能性があるためです。特に、歯周病治療後に歯周ポケットが残っていると、インプラント周囲炎の発症と関連することが知られています。歯周病による炎症は、インプラント周囲の骨の吸収を引き起こすため、ぐらつきの原因の一つです。この段階では、インプラントの保存が難しくなり、除去が必要となる場合があります。
- 歯周病治療にかかる期間はどのくらいですか?
- 治療期間は患者さんの状態により大きく異なりますが、一般的に数ヶ月から1年程度が目安とされています。歯周基本治療では、再評価検査までに通常2〜3ヶ月程度要する場合が多いようです。歯周ポケットが4mm以下に改善されていることが確認できれば、治療効果は良好です。さらに、歯茎を軽く触れた際に出血がみられない(プロービング時の出血が陰性)場合には、インプラント治療への移行が検討されます。重度の歯周病の場合は、歯周外科治療が必要となることもあり、治療期間がさらに延長する可能性があります。インプラント治療は、歯周病の原因が除去され、炎症の消退が再評価で確認された後に開始されるのが一般的です。治療期間が長期にわたる場合も少なくないため、病状が治癒または安定と判断された後も、継続的なメインテナンスが欠かせません。
インプラント手術後に注意するべきトラブル
- インプラント手術後に腫れや出血などのトラブルが起こるケースはありますか?
- インプラント手術後に見られる腫れや出血は一般的な反応ですが、適切な管理が必要です。手術後は、軽度の出血が数日間続くことがあり、痛みや腫れは通常2〜3日をピークに現れます。ただし、以下のような症状が見られる場合は、速やかに歯科医師に相談することが推奨されます。
- 出血が多く、止まりにくい
- 腫れや痛みが長引いている
- 発熱や倦怠感など全身症状がある
また、重篤な合併症として下歯槽神経麻痺があります。発現率は0.13〜8.5%とされ、軽微な知覚障害から永続的な麻痺に至る場合もあります。麻痺が疑われる場合は、インプラント体の早期除去、ビタミンB12製剤やステロイド薬の投与、星状神経節ブロックなどの迅速な処置が重要です。
- インプラント周囲炎にはどのような症状があるか教えてください。
- インプラント周囲炎とは、インプラントを支える骨や歯肉に炎症が起こり、インプラントの脱落につながる可能性のある疾患です。初期段階では自覚症状が乏しい場合もあるため、早期の発見と対応が重要です。インプラント周囲炎では、次のような症状がみられます。
- 歯肉の赤み、腫れ、排膿、出血などの炎症症状
- 歯肉との隙間の病的な深化
- インプラントの動揺
発症のメカニズムは、まずインプラント体の表面に細菌膜(バイオフィルム)が形成され、そこに嫌気性の歯周病原菌が定着することから始まります。その後、炎症が進行すると骨が吸収され、インプラントを支える土台が失われることで脱落につながることがあります。
- インプラント手術をした周囲の歯はむし歯になりやすいですか?
- インプラント手術後の周囲では、清掃が不十分になるとプラークが蓄積しやすくなり、むし歯のリスクが高まります。特に、インプラントと隣接する歯の間には複雑な隙間や段差ができやすく、歯ブラシが届きにくいため食べかすやプラークが停滞しやすい環境です。このような状態が続くと、歯間部のむし歯が発生しやすく、発見が遅れるケースも少なくありません。むし歯や炎症を防ぐには、正しい歯磨き方法の習得、定期的な歯科検診が必要です。セルフケアでは、通常の歯ブラシに加えて、インプラント専用の歯間ブラシやデンタルフロスを使用します。インプラント周囲の清掃には、金属製の器具ではなく、プラスチック製やカーボン製の専用器具を使用します。これにより、インプラント表面を傷つけることなく、清潔な状態を保つことが可能です。歯科医院での専門的なメインテナンスでは、プロービングデプス(歯周ポケットの深さ)の測定、エックス線検査による骨レベルの確認が行われます。そのうえで、専門器具を用いたプロフェッショナルクリーニング(PMTC)も実施されます。インプラント周囲の細菌検査も実施され、早期の問題発見と対処が可能です。
- インプラント手術後に人工歯が取れたり壊れたりするケースはありますか?
- 上部構造の破損や脱落は、起こる可能性があるトラブルの一つです。咬合性外傷により、補綴装置に過度な力が加わると、破損が生じることがあります。材質の劣化として、長期使用による疲労や摩耗が原因となる可能性があります。定期的なメインテナンスでは、スクリューの緩みの確認や適切な咬合調整が必要です。問題を早期に発見し対処するためにも、定期検診を欠かさないようにしましょう。
編集部まとめ
インプラント治療の成功には、適切な治療順序を守ることが重要です。
むし歯や歯周病などの感染源を完全に除去したうえでインプラント治療を開始し、治療成功率を高めことで、長期的な安定性を得られます。
特に、歯周病菌とインプラント周囲炎の原因菌は類似しており、歯周ポケットからの細菌感染が短期間で起こることもあります。
歯周治療が完了したことを確認後に、インプラント治療を開始することが望ましいです。
治療後は、インプラント周囲にプラークがたまりやすく、隣接歯のむし歯リスクも上昇します。
またインプラント周囲炎は初期症状が乏しく、進行すると脱落に至ることもあるため、継続的なメインテナンスと定期検診が不可欠です。
治療を検討する際は、歯科医師と十分に相談し、口腔内の状態や基礎疾患を考慮した治療計画を立案することが重要です。
参考文献