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インプラントで起こりうる歯性上顎洞炎とは?原因と治療法を解説

インプラントで起こりうる歯性上顎洞炎とは?原因と治療法を解説

インプラント治療は、顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込む外科手術を伴うため、動脈を損傷して大量出血したり、重要な神経を傷つけて感覚の麻痺が残ったりするなどのリスクを伴います。なかでも上の歯のインプラントを行う際に注意が必要なのが、歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)という病気です。インプラント治療だけで起こるものではありませんが、上の歯のインプラントの埋入術ではそのリスクが高くなります。ここではそんなインプラント治療で起こりうる歯性上顎洞炎の症状や原因、治療法について詳しく解説します。

上顎洞炎について

上顎洞炎について 歯性上顎洞炎は、どのような病気なのかイメージが湧きにくいかと思います。そこではじめに上顎洞や上顎洞炎の基本事項を確認しておきましょう。

上顎洞炎とは

上顎洞炎とは、上顎洞と呼ばれる部位に炎症が生じる病気です。

鼻の穴である鼻腔の周りには、副鼻腔と呼ばれる空洞が4つ存在しており、そのうちのひとつが上顎洞です。上の歯のすぐ近くに存在している上顎洞は、位置関係上、歯科的な問題と関連しやすくなっています。ちなみに、上顎洞以外の副鼻腔には、前頭洞(ぜんとうどう)、蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)、篩骨洞(しこつどう)があり、これらは歯との距離が離れていることから、インプラント治療などでトラブルが起こることはほとんどありません。

上顎洞は左右一対あり、鼻に原因がある鼻性上顎洞炎では、その両方に炎症反応が起こるのが一般的です。歯に原因がある歯性上顎洞炎は、どちらから一方に炎症反応が起こることが一般的です。歯性上顎洞炎でもケースによっては両方に炎症反応が起こることもあるため、その点だけで原因を断定することはできません。

上顎洞炎の症状

上顎洞炎の症状は、鼻性上顎洞炎と歯性上顎洞炎とで少し異なります

◎鼻性上顎洞炎の症状
鼻性上顎洞炎の主な症状は、鼻づまりです。炎症反応によって鼻腔の粘膜が腫れて、とおりが悪くなります。緑色や黄色の鼻水がたくさん出るのも鼻性上顎洞炎の症状のひとつとして挙げられます。鼻水が緑色や黄色をしているのは、細菌が繁殖して膿がたまっているからです。その他、鼻性上顎洞炎では目の奥が痛い、重い、頭痛が生じる、歩くと鼻に強い違和感を覚えるなどの症状が見られます。

◎歯性上顎洞炎の症状
歯性上顎洞炎の症状も基本的には鼻性上顎洞炎と同じです。加えて、歯が浮いたような感覚を覚える、歯で噛むと痛みを感じる、歯茎が腫れる、歯茎を触ると痛いなどの症状も見られます。

上顎洞炎の原因

上顎洞炎の原因は、鼻性上顎洞炎と歯性上顎洞炎で異なります。

◎鼻性上顎洞炎の原因
鼻性上顎洞炎の主な原因は、鼻腔への細菌感染やウイルス感染です。風邪やインフルエンザなどの感染症を患った際に、副鼻腔まで感染が広がって炎症反応を引き起こします。一部のアレルギー性鼻炎を長引かせた結果、鼻性上顎洞炎を発症することもありますが、いずれにしても鼻性上顎洞炎は、鼻腔から始まります。

◎歯性上顎洞炎の原因
歯性上顎洞炎の主な原因は、歯周病やむし歯、インプラント治療などの外科処置です。上の歯と上顎洞炎は近接しているため、歯や歯周組織の病気が重症化したり、歯科治療で上顎洞を傷つけるような処置を施したりした場合に、歯性上顎洞炎を発症することがあります。詳細については、後段で解説します。

歯性上顎洞炎の原因

歯性上顎洞炎の原因 歯性上顎洞炎の主な原因としては、以下の5つが挙げられます。

根尖病巣(こんせんびょうそう)

根尖病巣とは、歯の根の先に現れる膿のかたまりで、重症化したむし歯でよく見られます。むし歯菌の感染が歯の神経まで達し、根管内で異常繁殖すると、その一部が根の先である根尖から漏れ出るようになります。専門的には根尖性歯周炎と呼ばれる病気で、感染源となっている根管内のむし歯菌を一掃しなければ改善が見込めません。上の歯の位置や根尖病巣の大きさによっては、上顎洞まで細菌感染および炎症反応が波及することもあります。

上顎洞内へインプラント体が迷入

インプラント治療では、チタン製の人工歯根(インプラント体)を顎の骨に埋め込みます。このインプラント体の長さは1cm程度しかないのですが、上顎洞までの骨の厚みが薄かったり、埋入する深さや角度を誤ったりすると、インプラント体が上顎洞へと入り込み、そこで細菌感染を起こします。

インプラント治療では、歯科用CTによる事前の精密診断や適切な技術を持った歯科医師による執刀が重要となるのです。

歯周病の放置

歯周病は、歯茎の腫れや出血から始まる病気ですが、進行する過程で顎の骨の破壊が進んで行きます。上顎洞と口腔を隔てる上顎骨の厚みがもともと薄く、歯周病の放置による顎骨の破壊が進んだ症例では、炎症反応の波及による上顎洞炎を発症するリスクが高くなっています。

根管治療による刺激

根管治療では、根管の拡大や形成に加えて、次亜塩素酸ナトリウムやオキシドールなどを用いた消毒洗浄を行います。これらの薬剤の一部が根尖から漏れ出て、上顎洞へと流入するようなことがあると、上顎洞炎を発症するリスクが生じます。

上顎洞炎というのは細菌による刺激だけではなく、化学的刺激によって引き起こされることもあるのです。

抜歯による上顎洞穿孔

上の歯を抜歯する際にも上顎洞炎に注意しなければなりません。上の歯の歯根が上顎洞に近接している症例や骨が薄くなっている症例では、抜歯を行う過程で上顎洞へと穴が開くこともあるからです。場合によっては、脱臼した歯が上顎洞に迷入することもあります。上顎洞が汚染されて、細菌感染や炎症反応を引き起こす原因となりえます。

歯性上顎洞炎の治療方法

歯性上顎洞炎の治療方法 歯性上顎洞炎を発症した場合の治療方法について解説します。歯性上顎洞炎の治療方法としては、薬物治療、歯科治療、上顎洞根治手術の3つが挙げられます。

薬物治療

歯性上顎洞炎の症例で広く行われるのが薬物治療です。炎症の原因となっている細菌感染に対して、キノロン系、マクロライド系、β-ラクタム系などの抗生物質を使用します。重症度の高い歯性上顎洞炎に対しては、β-ラクタマーゼ阻害薬が配合された治療薬を用いることもあります。ほとんどのケースで、薬物治療を単独で行うのではなく、後段で解説する歯科治療や上顎洞根治手術と併用します。

歯科治療

歯周病やむし歯が原因で、歯性上顎洞炎を発症している場合は、それらの治療を優先的に進めて行く必要があります。細菌の感染源や根本的な原因が歯や歯周組織にあることが理由です。進行したむし歯で根尖病巣が生じているケースには、通常の根管治療を行います。難症例に対しては、歯根端切除術(しこんたんせつじょじゅつ)という外科的歯内療法を行うこともあります。

それでも根尖病巣が再発して上顎洞の炎症が治まらない場合は、抜歯も検討しなければなりません。進行した歯周病でも外科治療が奏功しない場合は、抜歯を選択することになります。

上顎洞根治手術

上顎洞根治手術とは、上顎洞に生じている病変を外科的に取り除くことで症状の改善をはかる治療です。標準的な上顎洞根治手術の方法としては、Caldwell-Luc(コールドウェルーラック)法とDenker(デンカー)法の2種類が挙げられます。

コールドウェルーラック法は、歯茎をメスで切開して上顎洞に穴を開け、汚染された組織を取り除く方法です。デンカー法は、上顎洞を構成する骨を広範囲に削る手術法です。どちらも高度な技術と知識を必要とするため、歯科医師や病院選びは慎重に行わなければなりません。

インプラントと歯性上顎洞炎の関係

インプラントと歯性上顎洞炎の関係 続いては、インプラント治療と歯性上顎洞炎の関係について解説します。上述したように、歯性上顎洞炎にはさまざまな原因が挙げられますが、インプラント治療はその性質上、この病気との関係性が深くなっている点に注意が必要です。

上顎洞底の厚みとインプラント

インプラント治療を安全性を重視して実施するためには、上顎洞底(じょうがくどうてい)の厚みを正確に把握しなければなりません。上顎洞底とは、上顎洞の底を構成する部分で、口腔と隔てる壁になっています。上顎洞底の厚みが足りないと、インプラント体を埋入したときにその先端が上顎洞へと突き出たり、不要な刺激を与えたりする可能性があります。上顎洞底の厚みには個人差があり、先天的に薄い人もいれば、歯周病や加齢に伴って薄くなっていく人もいるため、事前の検査が大切です。

歯性上顎洞炎でもインプラントは可能か

歯性上顎洞炎を発症しているケースに対して、そのままインプラント治療を行うことは難しいです。上顎洞に炎症性疾患がある状態で、上顎の外科手術を行うこと自体が危険であるため、歯性上顎洞炎の治療を行い、症状の改善が認められてからインプラント治療を実施することになるでしょう。

上顎洞底の厚みが薄くて、歯性上顎洞炎のリスクが高いケースに関しては、不足している骨を回復させる手術を行うことで、インプラント治療が可能となる場合があります。具体的には、ソケットリフトやサイナスリフトという上顎洞底挙上術(じょうがくどうていきょじょうじゅつ)を行って、上顎洞底の厚みを増やします。

インプラントによる歯性上顎洞炎を防ぐ方法

インプラントによる歯性上顎洞炎を防ぐ方法 インプラント治療に伴う歯性上顎洞炎のリスクを減らす方法、予防する方法について解説します。

定期的なメンテナンスとセルフケアを行う

インプラント治療に伴う歯性上顎洞炎は、歯科医院でのメンテナンスを定期的に受けて、セルフケアを徹底することで防ぎやすくなります。

特にインプラント周囲炎には要注意です。インプラント周囲炎とは、インプラント特有の歯周疾患で、一般的な歯周病よりも進行が早く、重症化しやすいという特徴があります。そのため定期的なメンテナンスを受けていないと発見が遅れて、インプラントが脱落するだけでなく、歯性上顎洞炎まで発展する可能性も否定できません。歯科医院での定期的なメンテナンスや適切なセルフケアは、インプラント治療前の歯性上顎洞炎を予防するのにも役立ちます。

インプラント経験が豊富な歯科医院を探す

インプラントは、専門性の高い治療法なので、歯科医院選びは慎重に行うようにしましょう。インプラント治療に対応している歯科医院はたくさんありますが、治療経験が豊富で、正しい知識と技術を身に付けている歯科医師を選びましょう。導入している設備や医療機器の種類によっても治療の精度は変わります。

無理のない治療計画を立てる

インプラント手術は、サージカルガイドと呼ばれる装置を活用したガイデッドサージェリーが普及しており、インプラント体の埋入処置の誤りによって歯性上顎洞炎を発症するリスクは低くなっています。

一方、治療前の検査診断、治療計画に関しては、歯科医師の知識や技術、経験による差が現れやすいです。不適切な治療計画を立てたりすると、インプラント体の埋入位置や角度、深さを見誤る可能性が出てきます。

上顎洞底が薄いことがわかっているにも関わらず無理な治療計画を立てると、上顎洞への穿孔やインプラント体の迷入を招いてしまうかもしれません。相談した歯科医師の診断や治療計画に不安や疑問がある場合は、セカンドオピニオンを求めてもよいでしょう。

アレルギー性鼻炎の時期を避ける

花粉症のような季節性のアレルギー性鼻炎を持っている人は、その時期を避けてインプラント治療を受けた方がよいでしょう。

アレルギー性鼻炎によって副鼻腔に炎症反応が起こっていると、細菌感染に伴う歯性上顎洞炎の発症リスクも高くなる可能性があるからです。インプラント治療を受ける適切な時期は、さまざまな要因を含めて検討しなければなりません。アレルギー症状を優先に考える必要はありませんが、歯性上顎洞炎を予防するという観点においては重要です。

まとめ

今回は、インプラント治療で起こりうる歯性上顎洞炎の症状が原因、治療法について解説しました。歯性上顎洞炎とは、歯にまつわる病気やトラブルが原因で上顎洞に炎症が起こる病気で、顎骨に人工歯根を埋め込むインプラント治療ではそのリスクがやや高くなっています。歯性上顎洞炎を発症した場合は、薬物治療や歯科治療、上顎洞根治手術などで治療することが可能ですが、できることなら予防したいものです。そんなインプラント治療に伴う歯性上顎洞炎についてもっと詳しく知りたいという方は、インプラント治療に対応している歯科医院に相談してみましょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
大津 雄人歯科医師(医療法人社団GLANZ大津歯科医院 副院長 / 東京歯科大学インプラント科 臨床講師)

大津 雄人歯科医師(医療法人社団GLANZ大津歯科医院 副院長 / 東京歯科大学インプラント科 臨床講師)

東京歯科大学歯学部 卒業 / 東京歯科大学大学院歯学研究科(口腔インプラント学) 卒業 / 現在は大津歯科医院勤務 / 東京歯科大学インプラント科臨床講師 / 専門は口腔インプラント

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