歯を失った際、これまでは入れ歯やブリッジが選択されていました。しかし現在では、入れ歯やブリッジの代わりにインプラント治療を選択する方も少なくありません。
インプラント治療は審美性の高さや自分の歯に近い機能性など、さまざまメリットがあります。
しかしインプラント治療には後遺症や合併症などのリスクはないのでしょうか。今回はインプラント治療における後遺症や合併症などのリスクについて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
インプラント治療の後遺症は残る?
インプラント治療は専門的な技術が求められるうえ、麻酔をともなう外科手術が必要なため、後遺症が残るリスクがあります。
インプラント治療では顎の骨にドリルで穴を開け、インプラント体を埋入します。このとき、動脈や神経が傷つけられ後遺症が残るケースもあるのです。
ただし、必ず後遺症が残るわけではありません。原因として考えられるのは、歯科医師の技術不足や治療計画の不備です。
インプラント治療を受けるときは歯科医師の技術力や設備が整っているかなどをチェックすることにより、後遺症が残るリスクを減らせます。
インプラントで起こる後遺症
インプラント治療で起こる後遺症として、おとがい神経の知覚鈍麻があります。おとがい神経は下顎にある神経です。
顔の感覚をつかさどる神経で、この神経を傷つけると下唇・顎先の感覚が鈍ってしまう後遺症が残ることがあります。
ただし、現在のインプラント治療は精度が高く、事前にCT検査をしておけば知覚鈍麻が起こることはほぼありません。そのため、インプラント治療で後遺症が残るケースはゼロに近いといえます。
インプラントで起こる合併症
治療後に何らかの症状が残ることを後遺症といいますが、インプラント治療が原因となって何らかの症状が出る場合があります。
このことを広義の合併症といいます。
専門的には併発症といわれ、厳密には合併症とは区別されていますが、本記事では合併症として記述します。
以下がインプラント手術に関連する合併症の主なものです。
- 上顎洞への突き抜け
- 手術ミスによる神経損傷
- 頭痛・肩こり
インプラント治療で起こる合併症として、主にこれらの症状があります。下記ではこれらの合併症について解説します。
上顎洞への突き抜け
インプラント治療では人工歯根(しこん)であるインプラントを埋め込む手術を行います。
その手術中に上顎の骨の中にある上顎洞と呼ばれる部分にインプラントの先端が侵入すると、上顎洞炎(副鼻腔炎・蓄膿症)という合併症の発生に繋がります。
人工歯根が上顎洞内に侵入したことをきっかけに、上顎洞内で炎症が生じます。上顎洞炎の症状としては鼻水・鼻づまり・上顎の痛みなどがあります。
手術ミスによる神経損傷
上顎・下顎にはさまざまな神経が走行しており、一度損傷すると長期的な治療が必要となる場合があります。
神経損傷として下歯槽(かしそう)神経麻痺が報告されています。この神経は下顎・下唇といった部位に深く関わっており、この神経が損傷すると下唇だけでなく一部の歯茎にしびれや麻痺といった症状が現れるのです。
神経損傷を避けるためにはどこに神経が走行しているのか、しっかりと確認する必要があります。
神経だけでなく、下顎の骨の近くには太い動脈が走行しています。この動脈を傷つけると、死亡事故につながりかねません。
安全性を重視し正確な治療を行うためには、CT撮影が不可欠です。
頭痛・肩こり
インプラント治療では、噛み合わせの調整を行うことも大事です。しかし人間の噛み合わせは繊細なため、インプラントを入れた後に不調に陥るケースも存在します。
治療後に噛み合わせに違和感が出た場合は速やかに治療を受けた歯科医院を受診し、噛み合わせに問題がないか検査を受けましょう。
インプラント埋入後に起こる可能性のある問題
これまではインプラント治療を受けた際に発生する合併症について解説しました。ここからはインプラント埋入後に起こる可能性のある問題について解説します。
現在インプラント治療の成功率は非常に高いですが、100%ではありません。インプラント治療を望む年齢層が広いため、残っている歯の状況や健康状態によって後遺症のリスクは大きく変化します。
インプラント治療を検討するときは、どのようなリスクがあるのか確認しておきましょう。
インプラントが定着しない
インプラント埋入後に起こる可能性のある問題として代表的なものは、インプラント体が顎の骨に定着しないケースです。
インプラント治療では歯槽骨(しそうこつ)にインプラント体を埋め込み、数ヵ月かけて歯槽骨とインプラント体が結合するのを待ちます。
インプラントが定着しない原因の1つに、ドリリングによるオーバーヒートが挙げられます。
インプラント体と歯槽骨の結合には歯槽骨の生きた細胞が、インプラント体の周りに必要です。
しかし、切削時の摩擦熱でインプラント体を埋め込む周りの歯槽骨の細胞が死んでしまい結合できなくなるのです。
歯槽骨が硬かったり、使用するドリルの刃が鈍っていたりするとオーバーヒートが起こる可能性があります。
インプラント体を埋め込む位置・深さ・角度も大事です。これがずれているとインプラント体と歯槽骨の結合がうまくいきません。
インプラント周囲炎
インプラント周囲炎は細菌により、歯周組織に炎症が起こるインプラントの病気です。原因は治療後のメンテナンス不足で、症状は歯周病に似ています。
インプラントは人工物のため、むし歯の心配はありません。しかし、細菌への抵抗力が弱いという特徴があります。
炎症の進行速度も速く、急速に骨吸収が進行します。
神経が通っていないため、初期段階では自覚症状がほとんどありません。そのため気付いたときには重症化しているケースも珍しくありません。
インプラント周囲炎を防ぐためには、日頃のメンテナンスが大事です。
インプラント治療で後遺症が残る主な原因は?
インプラント治療で後遺症が残るのはなぜなのでしょうか。考えられる原因として、主に以下の2つが挙げられます。
- 歯科医師の技術力不足
- 事前の検査が不十分だった
下記ではこれら2つの原因について解説します。
歯科医師の技術力不足
インプラント治療に資格は必要ありません。そのため、歯科医師なら誰でも治療が可能です。
しかし、インプラント治療は外科手術をともなうことから専門的な知識が必要とされます。そのため、適切な検査と判断が大事です。
患者さんのお口の中は一人ひとり違うため、患者さんにあった治療計画をたてる必要があります。そのため、歯科医師の技術力も大事です。
歯科医師の技術力不足により、適切な治療計画を立てられなかった場合、後遺症や副作用が出るなどのトラブルが起こることもあるのです。
事前の検査が不十分だった
インプラント治療を成功させるためには、適切にインプラント体を埋入しなくてはいけません。そのためには、丁寧な検査が求められます。
歯科用CTスキャンがあるかどうかが1つの重要なポイントとなるでしょう。CTスキャンを使うことで立体的にお口の中を見ることができ、顎の骨の状態などもしっかりと確認することができます。
事前の検査が不十分なまま治療を始めると、骨の量が足りていなかったりインプラント体を埋入する位置が適切ではなかったなどのトラブルが起こる可能性もあります。
インプラントで起こる後遺症が心配なら慎重に歯科医院を選ぼう
インプラント治療の後遺症を避けるためには、慎重に歯科医院を選ぶ必要があります。日本には多くの歯科医院がありますが、得意とする治療・歯科医師の技術力はそれぞれ異なります。
インプラント治療を得意とする歯科医院を選択しましょう。ここからはインプラント治療が得意な歯科医院を探す際に必要なポイントを解説していきます。
インプラントの実績
まず、インプラントの実績について確認しましょう。公式ホームページでインプラントの治療実績や経験を記載している場合もあります。
年間・通算実績の具体数を確認することで、どれだけインプラント治療を行ってきたのか知ることができます。
歯科医院の評判を事前情報のみで知ることは難しいため、まず実績を確認してみましょう。
設備の充実
インプラント治療には複合的な治療が求められるため、設備が充実しているかどうかは重要な要素です。
事前検査で行われる歯科用CTや、CTをもとに3Dモデルを作成しガイドを行う機械など設備もさまざまです。
これらの設備が整っていると、神経や血管がどこを通っているのかをしっかりと確認できるため、手術ミスの心配が減るかもしれません。
歯科医院が現在利用している機械はそれぞれのホームページで紹介されています。
また、周囲炎を始めとする菌が原因の後遺症を起こさないようにするためには、感染対策が大事です。どのような感染対策を行っているのかもチェックしてみるといいでしょう。
カウンセリングの丁寧さ
インプラントは保険適用外であり、一本あたりの治療費も高額です。さらにインプラント体が完全に定着するまで日数がかかる点や、治療後のリスクと把握しておくべきことも多いためカウンセリングできちんと確認する必要があります。
このカウンセリングで納得できる答えを得ることができるか、必要な情報を開示してくれているかという点は治療を受ける際にとても重要です。
インプラントがおすすめな方
インプラントは入れ歯・ブリッジと違うメリットが多く存在します。自身が失った歯の代用にどういった点を求めているかで有効な治療法が変化するため、きちんと把握することが重要です。
ここからはインプラントはどういった人におすすめなのかを解説します。
審美性にこだわりたい
失った歯を補うための治療法としてインプラントが優れている点に、その審美性の高さが挙げられます。
部分入れ歯の場合、周辺の歯に固定装置をつけます。そのため、前歯に近い部分だと入れ歯であることがわかりやすいというデメリットがあります。
入れ歯だと気付かれたくないから人前で話したくない、口を開けることを躊躇ってしまうといった精神的負担からインプラントを選択する人は珍しくありません。
入れ歯に抵抗がある
現在は入れ歯もさまざまな改良が加えられており、保険適用外ではありますがバネなしの入れ歯というものも歯科医院によっては選択できます。
しかし定期的に口から取り外して洗浄を行う点は変わらないため、その行為に抵抗を覚える人は少なくありません。インプラント治療であれば歯科で定期健診を受ける以外は、天然歯と同じ方法でメンテナンスが可能です。
ただし、上記で述べたようにインプラント周囲炎のリスクがあるため、丁寧なメンテナンスが求められます。
残った歯に負担をかけたくない
失った歯を補うために用いられるブリッジは保険適用内で受けられ、同じ保険適用内の入れ歯と違い固定具が露出しない点がメリットに上げられます。
しかし失った歯の両隣を削る必要があり、結果として健康な歯にも影響を与えてしまうリスクは無視できません。
インプラントは失った歯の部分にインプラント体を埋め込む治療法のため、残った歯を削る必要がなく負担をかけずに行えます。健康な歯への負担を減らす治療法としても、インプラントはおすすめです。
まとめ
インプラント治療は審美性の高さや機能性から、選択する人が増えている治療法です。しかしリスクも多く存在するため、安易に選択すると思わぬトラブルに遭遇する危険性があります。
リスクを正しく理解し、自身の判断だけでなく歯科医師と適切なやり取りを重ねることがぴったりな治療法を見つける近道です。
参考文献