インプラント治療を受けた後、必ずしも予後が良好に進むわけではありません。インプラント治療後に、患部が化膿してしまうケースも確認されています。
インプラント治療後の化膿は、想像以上に厄介なものです。せっかく埋め込んだインプラントを除去しなければならなくなるケースもあるのです。
インプラント治療後の化膿の原因・化膿した場合の対処法・化膿を予防するためには何をしたらよいのかなどについて、解説していきます。
インプラント治療後に化膿する原因
- インプラント治療後に化膿するケースはありますか?
- インプラント治療後に化膿が認められたケースは、実際に報告されています。全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)に寄せられたインプラント関連の相談は、2013年度から5年間で409件です。このうち化膿・炎症については56件の相談が寄せられているのです。インプラント治療後の化膿は、起きうる事態だと判断した方がよいといえます。実際の臨床例については、2つのケースがあります。インプラント治療の直後に化膿するケースと、インプラント治療後時間がたってから化膿するケースです。この2つは次で説明するように、原因が異なっています。
- 化膿の原因を教えてください。
- インプラント治療後の化膿の原因として考えられるのは、以下の2つです。
- 術中・術後における細菌感染
- インプラント周囲炎
インプラント治療の直後に化膿した場合は、術中・術後の細菌感染の可能性が高くなります。一方、治療後時間がたってから化膿した場合はインプラント周囲炎です。前者は手術中の感染・術後の感染の両方が考えられます。手術中の感染は、治療を行っている部位が汚染されていることによって起こるものです。感染が起きるかどうかは医療機関の技量に左右される要素もあるのですが、既往症として歯周病があると化膿しやすくなるとされています。術後については処方された抗菌薬が合っていないケースのほか、患者さんによるアフターケアの不備が考えられます。患者さんが術後の指示を守っていないケースです。一方、インプラント周囲炎はお口の中の細菌がインプラントの周辺で増殖して起きます。骨破壊を伴うこともあり、こちらも歯周病との関連性が指摘されています。
- 化膿はどのくらい続きますか?
- 術中・術後感染の場合もインプラント周囲炎の場合も、自然治癒することはまずありません。放置しておけば、化膿はいつまでも続きます。それどころか、放置しておけば状況はどんどん悪化していくのです。特にインプラント周囲炎は骨破壊など不可逆的な病変を伴うことがあるので、化膿したままにしておくと危険です。インプラント治療後の化膿を確認した場合は、可能な限り早く医療機関に診療してもらわなければなりません。
- 化膿だけではなく腫れもあるのですが…。
- インプラント治療後は1週間程、頬や顎に腫れが出るケースがあります。治療後に時間がたってから化膿と腫れを認める場合は、インプラント周囲炎の悪化という事態を想定しなければなりません。インプラント周囲炎は、初期段階では化膿・腫れが認められないので発見は簡単ではありません。化膿が認められればある程度進行しており、腫れがあればさらに悪化しているとみてよいでしょう。繰り返しますが、インプラント周囲炎は骨破壊などの不可逆的な病変を伴う疾患です。症状が悪化して化膿・腫れが認められるような状況なら、すでにインプラントを支えている骨がなくなっている可能性があります。この段階でさらに放置すると、歯茎がインプラントを支えられなくなってしまうのです。
インプラント治療後に化膿した場合の対処法
- 化膿してしまった場合の対処法を教えてください。
- 化膿してしまった場合、対処法は可能な限り早く医療機関を受診しましょう。術中・術後の感染が原因でも、インプラント周囲炎が原因でも自然治癒することはまずないからです。遅れれば遅れる程、骨破壊など不可逆的な病変が進みます。インプラントが維持できなくなってしまうこともあるのです。医療機関を受診しなければ、症状が改善することはありません。ただし、仕事の都合などで早急に医療機関を受診できないケースも考えられます。その場合は可能な限り病変が進まないようにするため、お口の中を清潔に保つようにしてください。
- 化膿がひどい場合は歯科医院に相談するべきですか?
- 結論からいえば、化膿の程度に関わらず歯科医院をはじめとする医療機関に相談すべきです。さらにいえば、可能な限り早期の受診をおすすめします。繰り返しますが、インプラント治療後の化膿の原因となった疾患は自然治癒することはまずありません。インプラント周囲炎の初期は痛みがほとんどなく、化膿が激しいということはかなり病状が進んでいる可能性があるためです。すでに骨破壊が進んでいる状態で、放置すると歯茎が痩せてインプラントが維持できなくなりかねません。高いお金を払って治療の意味がなくなってしまいかねないので、できるだけ早く医療機関で処置してもらわなければならないのです。
- どのような薬が処方されますか?
- 術中・術後の感染であれインプラント周囲炎であれ、化膿の原因となった細菌への対策は欠かせません。抗菌薬として、患部を中心に抗生物質の投与が行われます。医療機関を受診した際に痛みが生じているケースもあります。この場合でも、炎症を治す目的で抗生物質の投与は有効です。なお、インプラント手術後には抗菌薬が処方されます。これは、術後に感染が起きないよう予防するためです。
インプラント治療後の化膿の注意点や予防法
- 化膿している場合の食事の注意点を教えてください。
- 術中・術後の細菌感染もインプラント周囲炎も、化膿している部位が炎症を起こしているという点は変わりません。また、インプラント周囲炎は歯周病との関連性が指摘されています。食事をするにあたっては、抗炎症・抗酸化作用を持つものを積極的に摂取するとよいでしょう。具体的にいえばオメガ3脂肪酸・ビタミンCで、いずれも血中濃度が高ければ歯周病の有病率が低くなります。オメガ3脂肪酸は魚の脂、ビタミンCは柑橘類・ピーマン・キウイフルーツなどに多く含まれているものです。これらの食材の摂取を心がけてください。逆に、アルコールは炎症を増強させるため病状を悪化させるリスクをはらんでいます。可能な限り、摂取を控えてください。
- 生活するうえで注意するべきことはありますか?
- 食事以外で注意すべきこととしては、お口の中を清潔に保っておくことが挙げられます。術中・術後の細菌感染もインプラント周囲炎も、お口の中の細菌が関係しています。細菌の塊であるプラークが形成されている状態だと、化膿のリスクは高まるのです。丁寧な歯磨きを心がけ、炎症の原因となる細菌が繁殖しにくい環境を作るようにしてください。喫煙も病状を悪化させる要因になりかねないので控えるべきです。もちろん食事や生活習慣のような自己管理だけで化膿が改善するわけではなく、医療機関による治療は欠かせません。ただし、患者さんのメインテナンスが不十分だと治療効果が期待できません。病状を必要以上に悪化させないためにも、自己管理が大切になってくるのです。
- 治療後の化膿を予防する方法はありますか?
- 抗酸化・抗炎症作用を持つ食べ物の摂取を心がけること、丁寧な歯磨きなどでお口の中を清潔に保つことは治療後の化膿を避けるためにも大切だといえます。加えて、治療後の化膿を防ぐためには歯科医師の指示に従うことも重要です。術後に処方された抗菌薬の服用を途中でやめると、殺菌効果が不十分で化膿の原因となりかねません。また、歯科医院では効果的な歯磨き方法の指導も行われます。指導の直後にはしっかりとした方法で歯磨きを行っていても、毎日丁寧に行うことが難しいケースもあるでしょう。歯磨きが不十分だとお口の中が不潔になり、インプラント周囲炎の原因となってしまいます。定期的に歯科医院でメインテナンスを行い、インプラント周囲炎などのトラブルが起こりにくい口腔内を目指しましょう。
編集部まとめ
インプラント治療後の化膿は医療機関側の技量に起因するケースもありますが、患者さんの自己管理が不十分なことが原因で起きることもあります。
化膿させないためにはまず、医療機関の指示を守ってください。そして食事に気をつけ、お口の中を清潔にすることを心がけてください。
もし化膿してしまったら、放置していてもよくなることはまずありません。可能な限り早く、医療機関を受診するようにしましょう。
参考文献