インプラント治療は歯の治療法としての選択肢の1つです。機能面に加えて審美性からも、元の歯に近い状態を目指すことができるため、インプラント治療を検討している方もいるでしょう。
しかしインプラント治療の説明のなかで、治療後に歯茎が下がるといった話を聞くことがあります。せっかくのインプラント治療で見た目を気にしている場合は、不安材料となることもあるでしょう。機能面でも支障があるように感じてしまうかもしれません。
この記事ではインプラント治療後に歯茎が下がる原因と、その対策を紹介します。正しいケアで、インプラント治療の後のメンテナンスを行えるとよいでしょう。歯茎が下がる原因を知っておくことで、予防につなげられれば幸いです
歯茎が下がった状態とは
まずは歯茎が下がった状態を指す特徴を知っておきましょう。歯の周りを覆っている歯茎は歯周組織とも呼ばれます。歯肉や歯槽骨、セメント質などから構成されています。
歯茎が下がっているとは、歯の根っこを支えている歯槽骨が菌の毒素で溶けている状態です。また正常な状態ではピンクで引き締まっている歯肉が、炎症を起こしています。
そのため正常な状態よりも歯茎が下がって見えたり、歯と歯周組織の間の溝の部分を指す歯周ポケットが広がったりします。
インプラント治療後に歯茎が下がる原因
インプラント治療が完了してから歯茎が下がる要因を考えてみましょう。インプラント治療が終わった後に起こるトラブルとしては、治療を行ったインプラント体が骨とうまく付かないことが挙げられます。
歯茎が下がってしまい想定する治療経過とならないことも起こりがちなトラブルです。
歯茎が下がる要因は日頃の習慣に起因するものも少なくないため、自分に該当する点がないか確認してみましょう。またこれらの要因は、歯周病などの原因とも関係する内容です。
インプラント治療を行った方だけでなく、これからインプラント治療を検討している方も改善しておくとよい内容です。
噛み合わせが悪い
噛み合わせが悪いと、一部の歯に大きな負担がかかってしまうため、インプラントの表面に摩耗や破損が生じる可能性があります。
また噛み合わせや歯並びといった観点から、歯と歯の間の隙間の手入れが容易ではないケースも少なくありません。これらの理由から菌がインプラント周りの歯周ポケットに蓄積し、歯茎が下がる要因となることがあるでしょう。
歯ぎしりや食いしばりがある
歯ぎしりや食いしばりがあることで、歯に過剰な負担がかかることはイメージしやすいでしょう。さらにインプラント体がうまく定着しない要因となる可能性があります。
一般的にインプラント体が骨にしっかりと定着する確率は約97%と低くはありません。しかし術後に歯に負荷が日常的にかかってしまう歯ぎしりや食いしばりのある患者さんでは定着しない可能性があるため注意が必要です。
このように術後の口腔内が安定しないことで、歯茎が下がる要因となる可能性があります。
歯を磨く力が強すぎる
歯を強く磨きすぎることも、インプラント治療後の定着に影響を及ぼす可能性があります。歯磨きは強い力をかければ効果的というわけではありません。
歯磨きの際に重要なのは、歯ブラシを細かく動かすことや歯茎と歯肉の境目など必要な箇所に正しくあてることです。日頃の歯磨きできちんとケアできているか不安に感じる方は、歯科医院でアドバイスをもらってもよいでしょう。
歯科医院では歯石の除去などの設備や技術を必要とするケアを受けることもできるため、相談してみることをおすすめします。
正しい歯磨きを行うことで、効果的に歯垢を落とすことにもつながります。歯磨きの方法を見直して口腔内の健康を保ちましょう。
お口の衛生状態が悪い
お口の衛生状態が悪いと、菌が繁殖する可能性があがるため、歯茎が下がる要因になるでしょう。歯磨きがしっかりできていないことでも衛生状態は悪化します。
栄養バランスの偏りや、甘い食物の過剰摂取なども、口腔内の衛生状態を悪くする要因です。普段の食生活も見直してみる必要があるでしょう。
喫煙習慣がある
習慣的に喫煙をしている場合にも、歯茎が下がる要因となります。
タバコには約4,000種類の化学物質が含まれています。有害物質も少なくありません。喫煙者はこれらの有害物質を口腔内に取り入れているため、歯肉に炎症などの影響を及ぼします。
またインプラントの定着を妨げる要因としても喫煙習慣が関係しています。インプラント体が定着しない確率が、通常の患者さんと比較し2~9倍になるといったデータもあるため、インプラントを検討する場合には禁煙も考えておくべきでしょう。
歯茎が下がることで生じる問題
通常であれば、歯茎は歯の根元をしっかりと覆っています。その歯茎は土台を支える歯槽骨と歯肉で構成されていますが、歯茎が下がった状態では、歯槽骨が損傷して正常な状態より覆っていない状態を表しています。
歯茎が下がったとしても、日常生活に支障がないのであれば問題ない場合もあります。
しかし歯茎が下がってしまうと、さまざまな支障をきたします。イメージしやすいのは審美性の観点です。
ご自身の歯であれば歯が多く露出しますが、インプラント治療を行った歯では、隠れていたネジ部分が露出してしまうこともあるでしょう。見た目や機能面でさまざまな問題が発生します。
どのような問題があるか、確認してみましょう。
インプラントの露出
インプラント治療を行った後で歯茎が下がると、インプラントが露出する可能性があります。
インプラントは、骨の中に埋め込まれる歯根の部分や支える台の部分、歯にあたる上部構造からできています。手術後は見えていなかったインプラントが、歯茎が下がることで見えてしまうことがあり、審美性からも大きな問題です。特に前歯のインプラントが露出した場合には、目立ちやすく違和感を覚える方も少なくありません。
またインプラントが露出することで、衛生面や機能面からも支障がでるでしょう。機能面では土台の部分が露出しているので、進行するとインプラントそのものが抜けてしまうというリスクがあります。このような状態になる前に、早めに歯科医院を受診することをおすすめします。
知覚過敏のような症状
知覚過敏のように、冷たいものを口にしたときに沁みる点も特徴です。
通常の知覚過敏は、歯の表面を覆っているエナメル質が薄くなることで起きます。内側の象牙質がむき出しになることで、飲食物で歯の神経が刺激され痛みを感じる症状です。
インプラントの場合には歯そのものがご自身のものではないので、知覚過敏は起きません。ただし歯茎が下がることで、インプラント治療を行った歯以外のご自身の歯で知覚過敏が起きることがあるため、注意が必要です。
噛み合わせのバランスが崩れる
歯茎が下がっている状態は、お口の中の細菌によって歯の周りの歯槽骨が衰退してしまっている状態です。歯茎が下がっている状態では土台の丈夫さが失われているため、正常な歯の状態ではないでしょう。そのため歯茎が下がったことが原因で噛み合わせのバランスが崩れる可能性があります。
さらに噛み合わせのバランスが崩れることで、これまで均等にかかっていた歯への負荷が一部の歯に偏ってしまいます。これまで健康だった歯に大きな負荷がかかることで、別の歯でも異常が起きる可能性があるでしょう。
口臭の原因になる
歯茎が下がることで、歯と歯肉の間の歯周ポケットが広がります。歯周ポケットの中で細菌が増殖しますが、その細菌の代謝のなかで硫化水素やメチルメルカブタンといった物質が産生されます。これらの物質が口臭の原因となります。
また歯周ポケットが広がり細菌が繁殖している状態の口腔内では歯茎から出血したり、口の中がネバネバしたりといった症状を伴うことが少なくありません。これらもお口の中の環境が悪化している目安となるでしょう。
インプラント周囲炎のリスクが高くなる
インプラント周囲炎とは、インプラントの周囲で起きる炎症です。歯茎の腫れや出血、歯茎が下がるといった症状は歯周病と似ています。ただしインプラント周囲炎の進行は、歯周病と比較して速いといった点が特徴です。
インプラント治療を受けた患者さんの約4割でインプラント周囲炎が発生しているというデータもあります。日頃のケアでインプラント周囲炎のリスクを低減できるとよいでしょう。
歯茎が下がらないようにする対策
歯茎が下がっている状態は、インプラント周囲炎といった病気の兆候ともなるため、気を付ける必要があります。
歯茎が下がらないようにする対策を講じることで、口腔内の状態をよりよく保つことができるでしょう。歯茎が下がるという症状は、ある日突然起こるわけではありません。そのため歯茎が下がらない対策も、日頃のケアの積み重ねが重要です。
具体的にどのような対策をしておくべきか、紹介します。
正しい方法で歯磨きをする
歯茎が下がらないための対策として、正しい歯磨きを行うことは重要です。インプラント治療を行った箇所は、ご自身の歯よりも入念な歯磨きが必要です。インプラント治療を行った歯科医院でメンテナンス方法や歯磨きの方法を習うことも少なくないでしょう。
具体的なポイントとしては、歯ブラシを細かく動かして、インプラントと歯肉の境目を重点的に磨くとよいでしょう。インプラントと歯肉の間は、食べかすが詰まりやすく、細菌も繁殖しやすいです。根本の部分はタフトブラシを活用するなど、工夫してケアすることをおすすめします。
さらに歯間ブラシやデンタルフロスを活用して、歯とインプラントの境目を磨くことも日頃のケアとして効果的です。ご自身の歯とインプラントの間の隙間の汚れを落とすイメージでケアを行います。
ケアを行う箇所に合わせてケア用品を使い分け、ていねいにケアすることで、歯茎が下がることを予防しやすくなるでしょう。
定期的にメンテナンスを受ける
インプラント治療が終わった後に、定期的なメンテナンスを受けることも、歯茎が下がらないようにするためには大切です。日頃の歯磨きをはじめとするケアを行っていても、口腔内のトラブルが起きることもあります。
定期的なメンテナンスでは、治療を行った箇所だけでなく口腔内全体でトラブルが起きていないかをチェックします。また日常のメンテナンスだけでは手が届かない部分のケアを行うことも可能です。
歯垢が溜まって歯石となっている場合には除去するなど、口腔内をより清潔に保つことができるでしょう。
日頃の自宅でのケアと、定期的な歯科医院でのメンテナンスの両方を継続することで、歯茎が下がるといった症状を防ぐことにつながります。
生活習慣を改善する
口腔内の環境には、日頃の生活習慣も関係しています。特に喫煙習慣のある方は、インプラント治療後の定着に支障をきたす可能性が高くなります。また口腔内に有害物質が残るため、歯がざらざらして菌が繁殖しやすくなる点も喫煙者の口腔内の特徴です。
インプラント治療を検討している方は、喫煙習慣を見直すとよいでしょう。
ほかにも歯周病とメタボリックシンドロームには深い関わりがあるといった研究もあります。日頃の生活習慣を改善することで口腔内の環境を向上させることにもつながります。
日頃の生活習慣から見直して口腔内の環境を良好に保つことで、歯茎が下がるといった症状を予防できるとよいでしょう。
下がった歯茎のケアと治療方法
もし実際に歯茎が下がっていることに気付いた場合には、まずは歯科医院への受診をおすすめします。ただし歯茎が下がっていることに気付いた場合だけでなく、常日頃から定期的にメンテナンスのため歯科医院に通うことが大切です。
歯科医院ではインプラント治療を行った歯をはじめとする口腔内の現状を確認します。そのうえで菌の繁殖が原因となっている場合には消毒や抗生剤療法でケアを行うことが一般的です。定期的なメンテナンスと同様にクリーニングや歯肉マッサージを行う場合もあります。もちろん並行して、自宅でのケアも継続することが大切です。
インプラント周囲炎を発症している場合には、ケアのほかに切除的外科や再生療法を行うケースもあります。歯科医院での治療方針をしっかりと聞きながら治療を進めるとよいでしょう。
まとめ
この記事では、インプラント治療をきっかけに歯茎が下がるという症状について紹介しました。
歯茎が下がる原因として紹介したなかには、インプラント治療を経た結果のものだけでなく、これまでの生活習慣に起因するものも少なくありません。生活習慣の見直すことで歯茎が下がらないよう対策できることもあるため、実践してみるとよいでしょう。
また歯茎が下がることで起きる問題についても紹介しました。審美性だけでなく、機能面や口臭といった問題もあるため、改善や予防が重要です。予防には、毎日の歯磨きに加えて、歯科医院での定期的なメンテナンスを継続的に行うことが効果的です。実際に歯茎が下がってしまった場合は、早急に歯科医院を受診することをおすすめします。
インプラント治療を経てこれから歯茎が下がってしまうか気になっている方だけでなく、これからインプラント治療を検討している方にも参考になれば幸いです。
参考文献