近年、矯正治療が流行しています。矯正治療の方法は通常の矯正装置を使ったものから、マウスピースを使ったインビザラインまでさまざまなものが登場しています。
その中でも、インプラントを利用した矯正方法があることをご存じでしょうか?インプラントを用いた矯正では期間短縮・抜歯不要などのメリットがあります。
インプラントといっても、無くなった歯の代わりに支柱を埋め込んで義歯を被せる「インプラント治療」とは異なります。
矯正インプラントはスクリューもしくはプレートを歯茎に埋め込み、それを足場として動かしたい歯を引っ張る手法です。
この記事ではインプラント矯正について詳しい施術方法・メリット・デメリット・種類などについて解説します。
インプラント矯正は歯を引っ張るための足場(固定源)に自由度があるという点で画期的な手法です。矯正治療の分野において近年注目されつつある矯正方法です。
矯正治療を検討している方は、ぜひ選択肢の1つとして検討してみましょう。
矯正でインプラントを使う方法とは?
ここではインプラントを使用した矯正について解説します。冒頭でも触れたように、インプラント矯正ではスクリューかプレートを使用します。
インプラント矯正において埋め込まれるスクリューやプレートは、移動させる歯を引っ張るための足場(固定源)です。
通常のインプラント治療とは異なり、埋め込んだスクリューやプレートと歯茎の骨を合着させる必要はなく、固定源は治療期間中の一時的なものとなります。
したがって、矯正期間が終了すればスクリュー・プレートを取り外すことが可能です。
ただし、インプラント治療を行ったあとに矯正治療に移行するケースもあります。この場合、既存のインプラントを固定源に矯正治療を行うことが可能です。 以下、それぞれの方法について解説していきます。
インプラント矯正(歯科矯正用アンカースクリュー)を利用する
インプラント矯正では、追加のアンカー(固定源)が必要になります。歯科矯正用アンカースクリューと呼ばれる小型のボルトを顎骨に埋め込み、矯正装置と結合して使用します。
スクリューは直径1〜2mm、長さ6〜10mmのチタン・チタン合金でできています。スクリュータイプは、後ほど紹介するプレートタイプよりも埋め込みが簡単です。
これにより、歯の移動をコントロールするための固定源を確保し、矯正治療の効果を高めることができます。
インプラント矯正は何が画期的かというと、固定源とする顎骨・歯槽骨が安定していて動きづらいことにあります。
ワイヤーなどを活用した従来の矯正治療では、歯と歯の間を装置で結合していくため、それぞれの歯が固定源であると同時に動かす対象でもありました。
固定源が不安定なことで、動かしたくない歯までも動いてしまうという「反作用」が起こりがちでした。そのため、動きづらい奥歯まで矯正装置を伸ばす必要があったのです。
しかしインプラント矯正でアンカースクリューを使用すれば、安定している顎骨や歯槽骨を固定源とすることが可能です。
そのことにより「動かしたい歯だけ」「動かしたい幅だけ」を狙って矯正治療を行うことが可能になりました。
既存のインプラントを固定源にする
続いて既存のインプラントを固定源にする方法です。矯正治療を行う方の中には、既にインプラント治療を行っているケースもあります。
冒頭でも触れたように、インプラント治療は義歯を埋めるための処置です。ただし埋め込まれた既存のインプラントを固定源として矯正治療を行うことは可能です。
なお、矯正治療において既存のインプラントが固定源として使用できるかどうかは、歯科医師による精密な評価が必要です。
インプラント矯正のメリット
ここでは、インプラント矯正のメリットについて解説していきます。すでに述べたように、インプラント矯正には期間短縮・抜歯不要などのメリットがあります。
ほかにも、従来の矯正治療では実現できない強みがインプラント矯正にはあります。
その強みとは、主に以下の3点です。
- 動かしたい歯だけを大きく動かせる
- 非抜歯治療が可能になる
- 矯正治療の期間を短縮できる
それぞれ詳しく解説していきます。
動かしたい歯だけを大きく動かせる
すでに述べたように、インプラント矯正では「動かしたい歯だけ」を狙って移動させることが可能です。
従来の矯正治療では、反作用の影響で動かしたくない歯までも動いてしまうというデメリットがありました。このため狙ったとおりに治療することが難しかったのです。
しかしインプラント矯正であれば顎骨などを固定源とするため、動かしたい歯をピンポイントで引っ張ることが可能になります。
それだけでなく、従来の矯正治療では歯を固定源にする関係で「横の動き」しかできなかったのが、インプラント矯正では「縦の動き」も可能となりました。
これによって「前歯を手前に引っ張る」などの立体的な動きも可能となります。理想の歯並びを実現させるために、立体的な動きで歯列矯正できるのです。
非抜歯治療が可能になる
インプラント矯正のメリットとして「動かしたい歯だけを動かせる」ことを解説しました。このことは非抜歯治療の可能性にもつながる画期的なことです。
そもそも矯正治療において「抜歯」が必要な理由として、以下の4点が挙げられます。
- スペース確保のため
- 噛み合わせを調整するため
- 前歯の角度・位置の調整のため
- 治療後はインプラントは取り除く
特にスペース確保に関しては奥歯から全体的に後ろへ下げる方法があります。しかし従来の矯正方法だと、奥歯は他の歯を引っ張る固定源として最後尾に位置します。
そのため奥歯を引っ張るといっても、移動できる幅には限界がありました。しかしインプラント矯正であれば固定源の位置の調整次第で奥歯を十分に引っ張ることが可能です。
また前述したように、インプラント矯正では歯の「立体的な移動」が可能です。そのためインプラント矯正では非抜歯治療が可能となるケースが大幅に増えます。
矯正治療の期間を短縮できる
ここまで紹介してきたように、インプラント矯正は比較的自由度の高い矯正方法です。ピンポイントで歯を動かせるほか、抜歯も不要にできるケースが増えます。
これらのメリットによりさらに生まれるメリットがあります。それは、「期間を短縮できる」ことです。
従来の矯正方法では横方向の動きだけとなってしまうため、固定源となる奥歯を含めて全ての歯を同じ方向に引っ張る必要がありました。
この方法だと動かしたくない歯が一緒に動いてしまうため、どうしても工程を2段階に分けて行うケースがありました。
しかし上記で解説したように、インプラント矯正では狙いたい歯だけを狙うことができます。そのため別々の方向に歯を動かす場合でも1回の施術で完了するのです。
また、単純に抜歯が不要になるだけで大幅な時間短縮になります。抜歯をすると抜いたあとの穴が埋まるまでに早くても1年〜1年半ほどかかるからです。
抜歯後のケア自体も相応のストレスがかかります。抜歯後の歯茎は非常にデリケートな状態のため、患部に細菌が入ると感染しやすい状態です。
また、抜歯後の歯茎にはかさぶたのようなものができますが、舌や指ではがしてしまうと「ドライソケット」という状態になり、痛みや口臭を伴うこともあるのです。
これらを総合的に考えるとインプラント矯正は優れた矯正法といえます。
治療後はインプラントは取り除く
最後に挙げられるメリットが、「インプラントは治療後に取り除く」ということです。反対に、義歯を差し込むためのインプラント治療は、半永久的に治療機器を埋め込む必要があるのです。
一般的に知られているインプラント治療は義歯を差し込むための地盤を作る施術です。そのため最終的には顎骨との合着を目指します。
しかしインプラント矯正で使用するスクリューなどは、あくまで矯正期間中の一時的なものです。
矯正が終了したあとはきれいに取り除き、自分の歯茎や顎骨に治療機器が残るようなことはありません。
また、スクリューを抜いたあとは、時間とともに歯茎が自然治癒してくれます。時間が経過すれば見た目も元通りになるのです。
インプラント矯正のデメリット
ここまでインプラント矯正に関するメリット面を解説してきました。しかしどんなに画期的な治療法にも欠点はあります。
そこで、ここからはインプラント矯正のデメリットを解説していきます。従来の矯正方法とは違って画期的な分、新たなリスクも無視できません。
以下の3点がインプラント治療の主なデメリットです。
- インプラントが外れる可能性がある
- 炎症の可能性
- 麻酔を伴う外科手術
インプラント矯正を検討する場合は、デメリットについてもきちんと理解した上で選択しましょう。
インプラントが外れる可能性がある
前述したように、インプラント矯正は治療後に取り除きます。実は取り除く際は、麻酔もいらないケースがあるほど簡単かつ短時間で取り除くことができます。
しかしここで生じるデメリットが、矯正治療期間中に「外れる可能性がある」ことです。顎骨の厚みにもよりますが、約3割程度の確率で起こります。
スクリューなどが外れてしまった場合は再度埋め込む施術を行います。しかし何度も埋め込む施術はストレスがかかるほか、矯正治療の成否にも関わることです。
自由度が高いインプラント矯正ですが、外れる可能性があることは、まさに諸刃の剣です。矯正治療における確実性・快適さなどの優先順位を明確にしたうえで検討しましょう。
炎症の可能性
インプラント矯正では炎症が起こる可能性もあります。従来の矯正にもよりますが、インプラント矯正の場合は特に上顎・歯茎にスクリューを埋め込む際に炎症が生じます。
なかでも体調が悪いときなどは免疫機能が低下していることから、炎症が悪化するおそれもあります。
施術後の炎症の悪化は上記で解説したインプラントの外れやすさにもつながるおそれがあるため、体調が万全の状態で施術することが望ましいです。
また、従来の矯正にもいえることですが、インプラント矯正においても口内環境が清潔に保たれていないと患部の腫れ・炎症につながります。
埋め込みしたスクリュー・プレートや結合部分の周辺は特に入念にブラッシングやケアを施し、細菌が増殖しにくい環境を保ちましょう。
麻酔を伴う外科手術
インプラント矯正は歯茎にスクリュー・プレートを埋め込む施術なので、麻酔を伴う外科手術に該当します。
矯正治療を検討している方の中には外科手術に抵抗を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、一般的な外科手術に比べると施術は比較的単純です。
しかし歯茎に穴を開けることは神経や血管を傷つけるリスクもあるので、慎重な判断とスキルが必要になります。
また、傷口から細菌が入ると感染症のリスクも高まるので、徹底した衛生管理が重要です。リスクについて十分理解の上、信頼できる矯正歯科を選択しましょう。
矯正用インプラントの種類
ここまでインプラントの特徴・メリット・デメリットについて解説しました。ここでは具体的に、インプラント矯正を検討する際の「種類」について解説していきます。
インプラント矯正の種類は大きく分けてスクリュータイプ・プレートタイプの2種類があります。それぞれの特徴を解説するので、ぜひ検討の参考にしてみてください。
スクリュータイプ
スクリュータイプについては冒頭の方でも紹介しました。直径1〜2mm、長さ6〜10mmのチタンでできた骨接合に用いる治療器具を応用したものです。
スクリュータイプを使用したインプラント矯正では埋め込みが簡単で、手術に際した心理的ストレスを軽減できます。抜歯を伴う矯正に多く利用されます。
しかしその反面、スクリュータイプはプレートタイプに比べて外れやすいのがデメリットです。
前述したように、インプラント矯正が外れるケースは全体の約3割となっていますが、その大多数はスクリュータイプとなっています。
それでも施術のしやすさや矯正の自由度を考えるとスクリュータイプのインプラント矯正は画期的であることに変わりないといえるでしょう。
なお、スクリュータイプの費用相場は3万円(税込)ほどとなっています。
プレートタイプ
プレートタイプの素材は純チタンになっており、スクリュータイプと同じく骨接合に用いる治療器具を応用したものです。
プレートタイプを使用したインプラント矯正では、奥歯近くにある歯茎の外側にプレートを打ち込むケースが一般的です。
プレートタイプは直径2mm、長さ5mm程度のミニスクリューを2〜3本打ち込んで固定します。スクリュータイプに比べて安定感があり、外れにくいというメリットがあります。
また、スクリュータイプと比較して突起部分が小さいため、さまざまな症例に応用が効くインプラントの種類だといえます。
ただし1割程度の確率で顔の腫れが起こるのがデメリットです。こちらもリスクについては十分理解の上、施術方法を選択しましょう。
なお、プレートタイプの費用相場は10万円(税込)ほどとなっています。参考にしてみてください。
インプラント矯正は矯正歯科に相談しよう
インプラント矯正について一通り解説しましたが、最終的な選択は歯科医師に相談の上、判断するのが望ましいです。
そしてインプラント矯正について相談するなら、矯正歯科で相談するのがおすすめです。より多くの症例と選択肢を踏まえて適切な治療法を選択できるからです。
端的にいうと、一般的な歯科医院と矯正歯科では矯正治療に関する経験値が異なります。歯科医院では口内の健康状態を保つためにさまざまなアプローチを行います。
そのため歯科矯正に関する経験・データは限定的です。一方で矯正歯科では幅広い症例・治療法を経験しているため、より自分に合った治療法を検討できます。
最寄りで相談するクリニックを迷っている方は、ぜひ参考にしてみてください。
まとめ
この記事ではインプラント矯正に関して、その特徴・メリット・デメリット・種類について解説しました。
インプラント矯正はスクリューやプレートを歯茎などに埋め込み、固定源とすることで自由度の高い矯正治療を実現する歯科矯正の手法です。
インプラント矯正は従来の矯正方法では成し得なかった自由度・短期間で矯正治療が行える反面、外れやすい・外科手術であるなどのデメリットがあります。
また、一般的にスクリュータイプとプレートタイプの2種類があり、それぞれにメリット・デメリットがあることを解説しました。
矯正治療をやりたいと考えている方は、ぜひ治療の選択肢として検討してみましょう。
参考文献