インプラント手術は歯茎を切開した後、ナイロン・絹などを素材とした糸で歯茎を縫合します。この糸は溶けずに残るため、一定期間が経った後は抜糸が必要です。
この抜糸までの期間は傷口の保護や、傷口の治癒を妨げないためにいくつか制限が設けられています。
今回はインプラント手術の抜糸のタイミングや、抜糸までの過ごし方について解説していきます。抜糸が必要なインプラント手術を受ける際に参考になれば幸いです。
インプラント手術後の抜糸はいつ?
インプラント手術で歯茎を切開し人工歯根を埋め込んだ後は、縫合を行います。この縫合の際に使った糸は、1週間から10日程度で抜糸が可能です。
インプラント手術は事前診察を終え治療プランが固まった後、歯茎を切開し人工歯根を埋めるための処置を行います。その後歯肉を縫合し、人工歯根が骨と結合するまで待ちます。
歯茎を縫合する理由は、切開箇所から細菌が感染するリスクを軽減するためです。縫い合わせておくと自然と歯肉同士がくっつき、抜糸が可能となります。
切開箇所や歯茎の再生状態で歯科医師が抜糸のタイミングを確認するため、それまでは食事や歯磨きのルールを守って過ごしましょう。
手術から抜糸までの期間
手術から抜糸までの期間は個人差がありますが、いつまでに抜糸を行うべきかという基準は存在します。ここからは抜糸までの期間について解説していきます。
また縫合で使う糸は現在数種類存在し、グリコール酸・乳酸などで作られた糸は体内に自然吸収されるため抜糸の必要がありません。
使用される糸は他にもナイロン・絹などが存在し、メリット・デメリットもそれぞれ異なります。縫合に使用する糸は歯科医院によって異なるため、どの糸を採用しているか事前に確認しておきましょう。
抜糸までは通常1週間~10日
インプラント治療の手術から抜糸は、1週間から10日前後が一般的です。この期間は歯茎がある程度治癒し、切開箇所が開かなくなるまでの日数を基準に決定されています。
歯科医院や術後観察により1週間より早く治療が行える場合もあるため、この日程はあくまで目安です。治療を行う前の口内状況や、手術後の経過によって抜糸が可能となる時期は異なります。
治療を受けた歯科医師と相談し、抜糸の時期を決定しましょう。
遅くても2週間後くらいまでには抜糸が行われる
抜糸を行う時期の長さが短くなるかどうかは歯科医院や歯茎の治癒具合で変わりますが、縫合後長くても2週間で抜糸を行うのが一般的です。
理由として縫合に使った糸を長期間口内に入れておくと、糸に汚れが付着し細菌の増殖に繋がる恐れがあるためです。縫合後は1週間から2週間以内に歯科医院へ受診できるよう日程を調節しておきましょう。
糸が残っている状態は特に細菌の増殖リスクが高まります。歯科医師の注意事項をきちんと守りましょう。
手術から抜糸までの過ごし方
縫合は歯茎同士がくっつき治癒していくのを促進するために行います。抜糸が可能となるまでは、縫合した糸によって傷口を塞いでいるため、場合によっては細菌感染や切開箇所が開いてしまいます。
そのため手術後から抜糸までの過ごし方には注意しましょう。歯科医師からの指示をよく聞き、不要な刺激を与えないことがインプラント治療を成功させるために重要です。
また使用する糸によっては歯茎に残っている間、痛みを感じる場合があります。感じ方は人それぞれですが、我慢できない程痛い場合は速やかに手術を受けた歯科医院に相談しましょう。
糸に触らないように注意する
縫合に使う糸や治癒が始まっている周辺がかゆみを感じることもありますが、舌・指などで触らないようにしましょう。舌・指に付着している細菌が切開箇所から入り込み、細菌が増殖する原因となります。
不必要に糸に触れることは細菌感染だけでなく、糸に負担がかかり切れてしまったりほつれてしまったりする危険性があります。傷口が開くと再手術が必要になってしまう場合もあるため、注意しましょう。
抜糸前の糸に舌・指などで触れることはさまざまなリスクに繋がります。無意識に触れてしまう場合もありますが、かゆみを取り除くために触らないよう心がけましょう。
歯磨きは注意して行う
抜糸前でも歯磨きは通常通り行ってください。口内の細菌が繁殖すると、傷口に細菌が入り込むリスクが高まるためです。
歯磨きを行う際は切開した歯茎の周辺はブラシを当てず、周囲の歯・歯茎を丁寧にブラッシングしましょう。
また歯磨き粉は使用可能ですが、一部成分は傷口に刺激を与えてしまうため使用を避ける必要があります。歯科医師に相談すれば最適な歯磨き粉を店頭で購入できる場合もあるため、相談してみましょう。
また口内ケアとしてうがい薬を処方されることもあります。この時も強くうがいをせず優しくうがいを行いましょう。
飲酒や喫煙を控える
抜糸前の飲酒・喫煙は傷口に悪影響を与えるので、抜糸するまでは控えましょう。飲酒は切開箇所の腫れに繋がるだけでなく、血流が良くなってしまうため出血などの原因に繋がります。
タバコに含まれている物質は、抜糸前の歯茎にさまざまな悪影響を与えます。特に悪影響を与えるのは、タバコの三大有害物質と称されるニコチン・一酸化炭素・タールです。
ニコチンは血管収縮効果によってキズの治りが悪くなり、一酸化炭素は血液中の酸素運搬を阻害するため殺菌力の低下を引き起こします。タールは口内にヤニのような物質を残すため、糸にくっついてしまう危険性があります。
抜糸までは1週間~10日のため、この期間は口内環境を整える期間とし禁酒・禁煙を行いましょう。
刺激物を避ける
インプラント治療で行う切開は、口内に裂傷が出来ている状態です。刺激物の摂取は避けましょう。
極端に熱い・冷たい飲み物や食べ物も治癒の妨げになります。
柑橘類などに含まれる酸味も、施術箇所によって避ける必要があります。歯科医師と相談し食べていい物・控えるべきものをリストアップし、傷口に影響を与えないことが重要です。
硬い食べ物を避ける
食事をする際刺激物を避けるのと同様に重要な点として、硬い食べ物を避けることが挙げられます。傷口に硬い食べ物が触れてしまうと、傷口が開いたり縫合している糸が切れてしまったりする恐れがあります。
一般的に食べ物を噛む時は一方だけで噛まないようにする必要がありますが、抜糸が完了するまでは片方で噛むことが推奨される場合があります。歯科医師に相談し、食事の方法を聞いてみましょう。
血行がよくなることをしない
筋トレ・有酸素運動・入浴など、血行が良くなることは腫れの原因や出血に繋がるため控えましょう。入浴はできませんが、シャワーで軽く汗を流す程度であれば問題ありません。
運動・入浴に限らず、サウナも抜糸前は控えましょう。サウナには血流を良くする効果があるためです。
また立ち仕事や重い物を持ち運ぶ仕事も、傷口に負担をかける危険性があります。仕事場へ事前に相談し、抜糸までの期間は休みを取るか仕事を調整するなどの対応を行いましょう。
抜糸の痛みへの対処法は?
縫合に使う糸は細く、抜糸中は強い痛みではなくチクチクとした細かい痛みを生じる場合があります。不安な場合は部分麻酔を希望しましょう。
どうしても抜糸を行いたくない場合は、フラップレス術式と呼ばれる切開を行わない治療法も存在するため、切開を伴わない治療法を選択することも有効な手段です。
縫合を行わないことをアピールしている歯科医院も多く存在します。ホームページで希望する治療法・糸による施術が受けられるかどうか事前に確認し、どの歯科医院で治療を行うか決定しましょう。
抜糸後の注意点
抜糸後すぐにこれまで通りの生活が行えるわけではありません。歯茎同士がくっついて治癒はしていますが、他の健康な歯茎と比べればまだ傷つきやすい上に人工歯根が骨と完全に結合していないためです。
インプラントにアバットメントを取り付けるまでは、抜糸前と比べて制限は緩くなります。しかし抜糸前に制限されていたことが全て行えるようになるわけではありません。
人工歯根との結合や口内環境の悪化を防ぐため、いくつか注意点を守る必要があります。抜糸が終わったからと油断せず、インプラント治療に影響を与えないようにしましょう。>
専用の歯ブラシを使って優しくケアする
抜糸後は切開箇所の歯磨きが可能となります。しかし強く擦ると出血や傷の治りに悪影響を与えてしまうため、専用の歯ブラシを使い優しく磨きましょう。
また使用できる歯磨き粉は特に制限がありません。普段使っている歯磨きに戻して、口内の細菌を取り除きましょう。
うがい薬や歯間ブラシなどを用いて、歯ブラシだけでは取り除けない汚れを取り除くのも有効な手段です。切開箇所に負担を掛けないよう口内ケアを行い、細菌の繁殖を防ぎましょう。
激しい運動はなるべく控える
軽い有酸素運動のような負担の少ない運動は、これまで通り行えるようになります。しかし運動量の多いバスケットボールや水泳といった、激しい運動はなるべく控えましょう。
仕事に関しても外回り・立ち仕事などは可能となりますが、重い物を頻繁に持ち上げるような仕事は控える必要があります。力を入れた際、意識せず歯を食いしばってしまう危険性があるためです。
激しい運動の定義は、頻度や口内への影響などが関わってきます。どの程度の運動まで可能か、治療を行った歯科医院に相談しましょう。
手術部位を刺激しない
硬い物や熱い・冷たい飲食が可能となります。その際手術部位を刺激しないよう、反対側で硬い物を噛むなどの対処が必要です。
刺激物に関しては取りすぎないように注意しましょう。
飲酒・喫煙は歯科医師と相談し、徐々に解禁していくのがオススメです。特に喫煙は煙草に含まれるさまざまな物質が口内に悪影響を与えるため、禁煙か以前より本数を減らす必要があります。
手術部位の治癒や人工歯根の結合にも影響を与えるため、飲酒・喫煙はなるべく避けましょう。
途中で糸が切れそうになったらどうすればいい?
抜糸前の歯磨きや飲食で縫合に使用した糸に負担が掛かり、糸が切れそうになる場合があります。そうなった場合、気になって口を大きく開けて確認しないことが重要です。
口を無理に動かすと手術箇所に負担が掛かり、更に糸にも負担が掛かってしまいます。負担を掛けないよう、手術箇所の反対側で食事を行うなどの対応を行いましょう。
また指・舌で確認する行為も糸に負担をかけるため、行ってはいけません。絹・ナイロン糸の場合、通常の口内ケアや食事中の負担では糸が切れないようになっています。
不用意な確認を行うことで、糸が切れやすくなる危険性を高めるという認識を持ちましょう。
ここからは抜糸前に糸が切れそうになった場合、どうすればいいかを解説します。糸が切れた場合の危険性についても解説します。
糸が切れると手術部位が開く危険がある
抜糸前は歯茎の治癒が行われていないため、手術部位が開く危険性があります。手術部位が開いてしまった場合、出血・細菌感染だけでなく人工歯根の結合にも悪影響を与えてしまいます。
自宅で状況を確認するために口を大きく開いたり、舌・指で触るとその行為で糸が切れたりする可能性があるため避けましょう。
糸が切れそうだと感じた場合は、セルフチェックなどを行わず治療を受けた歯科医師にその旨を相談しましょう。
自己判断せず必ず歯科医師に診てもらう
糸が切れ手術部位が開いてしまうと、細菌感染のリスクが高まるだけでなく人工歯根の結合にも悪影響を及ぼします。そのため違和感を覚えた場合や、口内から糸を吐き出してしまった場合はまず歯科医師に相談しましょう。
検査により原因が判明すれば、何故糸が切れたかについてや再発防止策を検討してもらえます。糸が切れたことを報告せず、自己判断で放置するのは危険です。
抜糸後も傷口が開いたり膿が出てきたりする場合、速やかに歯科医師に相談を行いましょう。自己判断は治療が長引くだけでなく、心臓疾患や細菌に関係した病気を発症する原因に繋がります。
まとめ
今回はインプラント治療の抜糸について解説してきました。縫合を行わない術式や、溶ける糸による縫合で、抜糸が不要な術式も存在します。
ナイロン・絹を使った糸による縫合を行う治療法のメリットは、細菌感染のリスクを下げながら歯茎の治癒が行える点です。そのため多くの歯科医院でこの治療法が採用されています。
インプラント治療の術式は歯科医院によって異なり、自分の好みに合った治療方針を歯科医師と相談して決定できます。治療を受ける際はどのような治療を得意としているか、公式ホームページやカウンセリングで確認を行いましょう。
参考文献