むし歯・歯周病・事故など前歯を失う原因はさまざまですが、インプラント治療により失った前歯を補う方法もあります。
ただし、前歯のインプラントは難易度が高いといわれており、治療を後悔する方もいます。
前歯は歯の中でも目立ちやすい場所にあることや、顎の骨が薄いことなどが治療を難しくしている原因です。
本記事では、前歯のインプラントで後悔しないためにはどうすれば良いかを解説します。
また、治療の失敗例・注意点などもご紹介しますので、前歯のインプラントを検討している方はぜひ参考にしてください。
前歯のインプラントで後悔しないためには?
前歯のインプラントで後悔しないためには、次の3つのポイントに注意する必要があります。
- 信頼できる歯科医院で治療を受ける
- 事前に疑問点を質問しておく
- メンテナンスや定期検診をしっかり受ける
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
信頼できる歯科医院で治療を受ける
一つ目のポイントは、前歯だけに限りませんが、信頼できる歯科医院でインプラントの治療を受けることです。
インプラントの治療は高額なだけでなく、長期間にわたるもので、健康に大きな影響を与えます。信頼できる歯科医院なら治療についての疑問や不安を相談したり、安心して治療を受けたりできるでしょう。
具体的には、治療についての説明をしっかりしてくれる・インプラント以外の選択肢も提示してくれる・患者の話をしっかり聞いたうえで希望に合わせた治療を提案してくれるなどの歯科医院がおすすめです。
ほかにも、インプラントの専門医・認定医であること・治療実績が豊富である・骨移植や骨造成などの難症例にも対応しているかといったことも確認しておきましょう。
事前に疑問点を質問しておく
後悔しないための二つ目のポイントは、事前に疑問点を質問しておくことです。もし、しっかり質問しておかないと、疑問点を残したまま不安を抱えて手術を受けることになるでしょう。
インプラント治療は高度な技術が必要とされるため、治療に不安や疑問を感じることがあるものです。そのような場合は、カウンセリングの際に医師に質問してください。
もし、答えが分かりにくかったり、曖昧だったりする場合はその歯科医院で治療を受けるかどうかを再検討した方が良いでしょう。
丁寧に説明してくれ、不安や疑問に親身に寄り添ってくれる医師による治療を受けることが大切です。
メンテナンスや定期検診をしっかり受ける
前歯のインプラントで後悔しないためには、術後のメンテナンスや定期検診をしっかり受けることも重要なポイントです。
インプラントは手術が終わればそれで終了というわけではありません。手術した後にインプラントを長持ちさせるためには、メンテナンスや定期検診が必要です。
糖尿病・喫煙・歯ぎしり・口呼吸などが原因で、インプラント周囲炎やインプラントの寿命が短くなるケースがあります。
自分ではケアができているつもりでも、実際には十分なケアができていない場合もあるでしょう。
メンテナンスや定期健診で医師のチェックを受けることにより、しっかりしたケアを受けられます。
インプラントの失敗例
前歯のインプラントで失敗する例にはどのようなものがあるでしょうか。具体的には、次のようなケースが考えられます。
- インプラントが壊れてしまった
- 埋め込んだインプラントが骨と結合しない
- インプラントの埋め込み位置が不適切だった
- インプラント周囲炎になってしまった
それぞれのケースについて詳しく解説します。
インプラントが壊れてしまった
失敗例の一つは、インプラントが壊れてしまった場合です。使用しているうちに上部構造の部分が外れたり、破損してしまったりするケースがあります。
原因としては、噛み合わせの調整が適切ではなかったことが考えられるでしょう。噛み合わせの調節が適切でないと、特定の歯に負担がかかり、上部構造の破損につながります。
また、別の原因としては、インプラント体と上部構造の間をつなぐアバットメントの締め付けが不十分なケースもあるでしょう。
しっかりアバットメントが締め付けられていないと、上部構造が緩んだり、外れたりする可能性があります。
埋め込んだインプラントが骨と結合しない
別の失敗例としては、埋め込んだインプラントが骨と結合しないことも考えられます。
骨と結合しなければ、しっかり噛むことができず、インプラントが脱落する可能性もあるでしょう。
骨と結合しない原因としては、埋め込む深さや位置など適切にインプラントが埋入していないケースがあります。
別の原因としては、ドリルによるオーバーヒートと呼ばれるものもあります。
骨が硬すぎる場合にドリルで穴を開ける際にダメージがあり、骨とインプラントが結合しなくなる状態です。
インプラントの埋め込み位置が不適切だった
そのほかの失敗例には、インプラントの埋め込み位置が不適切だったことが挙げられます。
埋め込み位置が不適切だと、噛んだときの力がインプラントにうまく伝わらず、上部構造などが壊れることもあります。
埋め込み位置が不適切になる原因は、事前のCT検査などが十分ではなかったケースが考えられます。
医師の技術や経験不足が原因の場合も多いため、技術や経験豊富な医師に治療をお願いすることが大切です。
インプラント周囲炎になってしまった
最後の失敗例としては、インプラント周囲炎になってしまったというものがあります。インプラント周囲炎は、インプラント周囲が細菌に感染するものです。
インプラント周囲炎に感染すると、インプラントが脱落してしまう可能性もあります。原因としては、歯科医院によるものがあります。
たとえば、歯周病治療が不十分な状態でインプラントの手術を行うと、インプラントが細菌に感染しやすくなるでしょう。
ただし、インプラント周囲炎の原因としては、メンテナンスが十分ではない場合も多いです。衛生管理がしっかりしている歯科医院を選ぶとともに、歯磨きや歯科医院でのメンテナンスを忘れないようにしましょう。
インプラントについての注意点
インプラントの失敗例についてみてきましたが、ほかにもいくつか注意点があります。たとえば、糖尿病の方が治療を受ける場合です。
高血糖の方は傷が治りにくいため、インプラントの手術ができない場合があります。また、糖尿病の方は免疫の働きも低下しているため、歯周病菌に感染するリスクが高いのも問題です。
ただ、血糖値が安定すれば治療は可能なので、かかりつけ医と連携して血糖値をコントロールすることにより治療が可能なケースもあります。
ほかには、手術を受けたあとの注意点もあります。手術した部位が気になりますが、舌や指で患部を触らないようにしましょう。
激しくうがいをしたり、患部を歯磨きしたりしないようにも注意が必要です。患部が腫れている術直後は、とくに気を付けましょう。
また、前歯の顎の骨は痩せやすいため、歯茎が下がってインプラントの一部が透けて見える場合があります。毎日、歯磨きの際に歯茎をマッサージするなどケアをして、歯茎下がりを防ぐようにしましょう。
前歯のインプラントのメリット
前歯のインプラントにはさまざまなメリットがあります。具体的には、次のようなメリットが挙げられるでしょう。
- 健康な歯に影響を与えない
- しっかり噛める
- 審美性が高く見た目が自然
- ほかの治療法よりも長持ちする
- 会話がしやすい
メリットを一つずつ詳しく解説します。
健康な歯に影響を与えない
一つ目のメリットは、健康な歯に影響を与えないことです。歯を失ってブリッジや入れ歯を選択した場合は、残っている歯を削る必要があります。
削った歯を元に戻すことはありませんし、歯の寿命を縮めてしまうことになるでしょう。そのため、健康な歯に負担をかけてしまうことがデメリットです。
インプラントは顎の骨に穴を開けて上部構造を埋め込む治療のため、独立していてほかの歯に負担をかけることはありません。
しっかり噛める
別のメリットとしては、しっかり噛めることが挙げられるでしょう。入れ歯の場合は取り外し式で安定感がなく、噛むときに違和感があります。
また、食べ物が入れ歯に挟まる場合もあるでしょう。インプラントは顎の骨に直接埋め込むため、天然の歯と同じように自分の歯でしっかり噛めるようになります。
前歯は奥歯に比べると嚙むときにあまり関係がないように思える方もいるでしょう。前歯には物を噛み切る役割があり、硬い肉を食べるときにちょうど良い大きさにしてくれます。
もし前歯で噛みにくいといつも奥歯を使うことになり、奥歯の負担が大きくなってしまうでしょう。
審美性が高く見た目が自然
ほかには、審美性が高く見た目が自然であるというメリットもあります。保険適用になるブリッジなどの場合、歯科用プラスチックの素材が時間の経過とともに黄ばんでしまう場合があるでしょう。
また、入れ歯の場合は口を開けたときに金具が見えてしまうケースもあり、見た目が気になる場合もあります。とくに前歯の場合は、一番目立つ場所にあるため、見た目が気になる方が多いでしょう。
インプラントの上部構造には、色味が自然で美しいセラミックやジルコニアなどの素材が使われるケースが多いです。天然歯と変わらない美しい歯になれることもメリットといえます。
ほかの治療法よりも長持ちする
別のメリットには、ほかの治療よりも長持ちすることも挙げられます。
インプラントの寿命は個人差がありますが、たいていの場合は10年以上問題なく使えます。
インプラントの材料はチタンが多く使われていますが、チタンは骨と結合しやすく、劣化しにくいことが性質の一つです。そのため、骨にしっかり固定され、強い力がかかっても耐久力があります。
きちんとメンテナンスを行えば、天然歯と同様に長く使用することが可能です。
そのため、インプラントはほかの治療法と比べると費用はかかりますが、コストパフォーマンスが良い治療方法といえるでしょう。
会話がしやすい
ほかにも、インプラントには会話がしやすいメリットもあります。入れ歯の場合は会話中にずれたり、外れたりする場合があるでしょう。
入れ歯の厚みが邪魔で話しにくくなったり、入れ歯の金具が見えるのが気になってあまり人前で口を開けたくなくなったりすることもあります。
インプラントなら話すときに邪魔になることはないため、天然歯と同じように会話が楽しめるでしょう。また、金具が見える心配もないので、気にせずに会話ができます。
前歯は会話できれいに発音するのを助ける役割があり、前歯がないと空気が漏れて発音しにくくなるでしょう。
前歯のインプラントのデメリット
メリットの多い前歯のインプラントですが、デメリットもいくつかあります。具体的には、次のようなデメリットがあるでしょう。
- 治療期間が比較的長い
- 費用が高い
デメリットについても詳しく解説します。
治療期間が比較的長い
最初のデメリットは、治療期間がほかの治療方法に比べると長いことです。ブリッジや入れ歯の場合は、治療が長くても2~3か月程度で終了します。
しかしながら、インプラントの場合は個人差がありますが、2~6か月はかかるでしょう。これは、インプラントと骨が結合するまでに時間がかかるからです。
また、顎の骨が足りず骨を増やす処置をした場合は、さらに時間がかかります。前歯の場合は顎の骨が少ない場合が多いため、骨を増やす必要がある場合が多いでしょう。
そのため、治療期間が長くなるケースがあります。
費用が高い
別のデメリットとして、治療のための費用が高いことも挙げられるでしょう。入れ歯やブリッジの場合は保険適用となるため、比較的安価で済むことがメリットです。
ブリッジの場合であれば、保険適用なら1本あたり1~2万円程度で済むでしょう。一方、インプラントは保険適用がされず、全額自己負担となります。
歯科医院やインプラントの種類にもよりますが、1本で30~50万円程度と高額です。また、前歯は顎の骨が薄い場所のため、骨再生療法などをしなければならない場合があります。
その場合、さらに10~30万円の費用がかかるでしょう。
まとめ
本記事では、前歯のインプラントで後悔しないためにはどうすれば良いかを解説してきました。
信頼できる歯科医院で治療を受けるとともに、事前に疑問点を質問しておくことも重要です。また、メンテナンスや定期検診をしっかり受けるようにしましょう。
本記事では、治療の失敗例・注意点などもご紹介しました。インプラントが壊れてしまったり、インプラント周囲炎になったりするなどさまざまな例があります。
ただし、信頼できる歯科医院で治療を受けたり、定期的なメンテナンスを行ったりすれば失敗を防ぐことができるでしょう。
記事の内容を参考にして、前歯のインプラントを成功させてください。
参考文献
- より安全な口腔インプラント手術|慶應義塾大学病院
- インプラントのメリット・デメリット|公益社団法人 日本口腔インプラント学会
- インプラントをしたい|公益社団法人 日本口腔外科学会
- インプラントのお手入れ|公益社団法人 日本口腔インプラント学会
- 治療中・術後のトラブル対策|公益社団法人 日本口腔インプラント学会
- よくあるご質問|公益社団法人 日本口腔インプラント学会
- 専門医の選び方とは?|公益社団法人 日本口腔インプラント学会
- あなたの歯科インプラントは大丈夫ですか-なくならない歯科インプラントにかかわる相談-
- 歯科インプラント治療のためのQ&A
- 入れ歯の寿命について|岩手医科大学歯学部
- 歯科インプラント治療|東京女子医科大学 歯科口腔外科
- インプラント歯科|昭和大学歯科病院