顎の骨量が不足している場合は、インプラント治療の適応が難しくなります。インプラント治療では、顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込む必要があるため、顎骨の高さや幅を十分に確保しなければならないからです。人工骨を使った骨造成を行えば、そうしたケースでもインプラント治療が可能となりますが、手術に伴う痛みや腫れ、出血などを不安に感じている方も少なくないようです。ここではそんなインプラント治療で用いられる人工骨の種類や術後の注意点などを詳しく解説します。
インプラントで用いられる人工骨とは
はじめに、インプラント治療の骨造成で使用する人工骨の基本事項を確認しておきましょう。
- インプラントの人工骨とは何ですか?
- インプラント治療で用いられる人工骨とは、文字どおり人工的に作られた骨です。厳密には骨ではなく、時間をかけて骨へと置換していく医療用の材料です。骨が欠損している部分に詰めて、患者さん自身の骨に置き換わっていくのを待ちます。ちなみに、患者さん自身の骨を自家骨(じかこつ)と呼び、人工骨と併せて骨造成に用いられることもあります。
- どのようなケースで人工骨を使うのでしょうか?
- インプラントの人工骨は、加齢や歯周病、外傷などで骨に欠損がある場合に用いられます。基本的には、直径3~5mm程度、長さが10mm前後のインプラント体を安全に埋め込める環境を整える目的で、人工骨の移植を行います。ひとことで人工骨といってもいくつかの種類に分けられ、骨の欠損の程度や部位によって、適切なものを使い分ける必要があります。
- インプラントで使用する人工骨はどのような種類がありますか?
- インプラント治療の骨造成で用いられる人工骨は、β三リン酸カルシウム(β‐TCP)とハイドロキシアパタイト系(HA)の2種類に大きく分けられます。
【種類1】β三リン酸カルシウム(β‐TCP)
β三リン酸カルシウムは、リン酸と石灰から作られるカルシウム塩で、ヒトの骨組織と一体化する性質を備えています。インプラント治療における骨造成以外にも、骨腫瘍摘出や骨折などで生じた骨欠損を補填する材料としても広く使用されており、生体安全性が高いことも知られています。β三リン酸カルシウムは、患者さん自身の骨に置換されることから、現状はインプラント治療における骨造成の主な材料として活用されています。
【種類2】ハイドロキシアパタイト系(HA)
ハイドロキシアパタイトは、私の歯のエナメル質を構成する主な成分です。リン酸カルシウムからなり、骨の形成に必要な血管の誘導能力ことから、骨造成の材料として適しています。
- 人工骨を使う場合の治療期間を教えてください
- 人工骨を使った骨造成にかかる期間は、骨欠損の重症度によって大きく変わります。軽度の症例に適応されるソケットリフトは、3〜6ヵ月程度で治療が完了します。それよりも重症度が高い症例に適応されるサイナスリフトは、6〜12ヵ月程度の期間を要します。GBR(骨誘導再生法)も重症度に応じて、6〜10ヵ月程度の期間がかかります。いずれにしても人工骨を使った治療は、数ヵ月に及ぶことを知っておきましょう。
インプラントで人工骨を用いる場合の痛みについて
続いては、インプラント治療で人工骨を使った場合の痛みや対処法について解説します。
- インプラントで人工骨を使用すると痛みを感じやすいですか?
- 骨が健全な症例と比較すると、人工骨を使った治療法の方が痛みを感じやすくなる場合もあります。というのも、人工骨を使った骨造成が必要なケースでは、標準的なケースよりも行う処置が多くなるからです。その分だけ、顎の骨にかかる負担も増えて、術後の痛みや腫れも大きくなります。ただし、インプラント治療で人工骨を使った骨造成を行うと、標準的なケースとは比較にならないほど強い痛みが生じるというわけではありませんので、その点はご安心ください。もちろん、それは人工骨を使った骨造成が適切に行われた場合に限ります。
- インプラント治療後の痛みはどのくらい続きますか?
- インプラント治療の痛みは、3〜10日くらいは持続するものと考えましょう。インプラント体を埋め込む手術は、歯茎をメスで大きく切開して、顎の骨にドリルで穴を開けるため、歯科治療のなかでは侵襲性の高い治療といえます。それでも痛みが2週間、3週間と続くことは稀です。選択した術式や歯科医師の技術によっては、インプラント治療後の痛みが1〜2日程度で軽くなっていくこともあります。
- 痛みが強い場合、どのように対処をすればよいか教えてください
- インプラント治療後の痛みが強い場合は、歯科医師から処方された鎮痛剤を服用しましょう。多くのケースでは、インプラント治療後の痛みを鎮痛剤で抑えることができます。患部を冷やすこともインプラント治療後の痛みを軽減するうえで有効です。保冷材などを顎に当てて、患部を間接的に冷やします。インプラント治療から3日程度は、強い痛みが生じやすくなっているため、適切に対処して乗り切ることが大切です。インプラント治療後の痛みによって睡眠や食事、仕事などに支障をきたす場合は、主治医に相談するのもよいでしょう。
人工骨を使ったインプラント治療の術後の注意点
ここでは、人工骨を使ったインプラント治療の手術後に、注意すべき点を解説します。
- 術後に気をつけるべき生活習慣や食事はありますか?
- 人工骨を使ったインプラント手術では、通常のケースよりも顎に負担がかかりやすくなるため、以下の点に注意した生活を送る必要があります。
【注意点1】口腔衛生状態を良好に保つ
人工骨を使った手術直後は、痛みや腫れがあり、出血のおそれもあることから、口腔ケアを怠りがちです。それでも丁寧にケアをして、口腔衛生状態を良好に保つことができれば、術後の感染リスクを低く抑えられます。
【注意点2】喫煙は絶対にNG
タバコの煙には、歯周組織の血流を悪くする成分が含まれているため、人工骨を使った手術直後の喫煙するのはNGです。傷口が落ち着いてからも禁煙が基本となることを知っておきましょう。
【注意点3】飲酒を控える
アルコールは、全身の血流をよくする作用があり、傷口が開くリスクを高めます。再び出血すると、傷の治りが遅れ、予後も悪くなることから、手術から1週間程度は飲酒を控えるようにしてください。
【注意点4】激しい運動はしない
ランニングやウェイトトレーニングなどは、血圧を上昇させて出血を促し、痛みや腫れを増加させる可能性があることから、手術後1週間程度は控えるようにしましょう。熱い湯船に浸かるのも手術当日はもちろん、手術から1〜2日程度は控えたいところです。
- 術後に腫れや出血が続いた場合は、診察を受けるべきですか?
- 手術後の腫れや痛みが3〜4日経っても治まる気配がない、もしくは症状が強くなってきている場合は、まず主治医に連絡してください。何らかの異常が起こっている可能性が高いです。診察を受けるべきかどうかは、主治医に判断してもらいます。手術後しばらくしても出血が続いている場合は、より迅速な対応が求められるため、早期に主治医へ連絡してください。
- インプラント治療後の口腔ケアで気をつけるべきことを教えてください
- インプラント体を埋め込んだ部分は、外傷を負っている状態と同じなので、口腔ケアの際に刺激しないよう注意しましょう。だからといって、患部の周りのケアを疎かにするのはよくありません。やわらかい歯ブラシで丁寧に磨いて、衛生状態は良好に保つよう努めてください。手術直後に繰り返しうがいをすると、傷の治りが遅くなることがあるため、その点は様子を見ながら自分で調整していくことが大切です。
編集部まとめ
今回は、インプラント治療における骨造成で用いる人工骨の種類や術後の痛み、注意点などを解説しました。顎の骨量が足りないことでインプラント治療が適応できない場合は、人工骨を用いた骨造成が検討されます。骨が欠損している部分に人工骨を埋め込むことで、インプラント体を安全に埋め込める環境を作り出せることから、難症例にもインプラントが可能となる優れた治療法です。そんな人工骨を用いたインプラント治療では、手術後にいくつか注意すべき点がありますので、骨造成を検討中の方は本文の内容を参考にしてください。
参考文献