歯科治療のなかには、入院し大がかりな施術を受けるケースがあります。インプラント治療でも、患者さんによっては入院が必要となるかもしれません。
自分またはご家族がインプラント治療を受ける際に入院が必要か、どのくらい入院期間が必要か前もって知っておくなら治療に備えられるでしょう。
そこでこの記事ではインプラント治療の入院期間を中心に、入院が必要な手術のケースおよび内容ごとにかかる治療期間の目安を解説します。
インプラント治療の入院期間はどのくらい?
インプラント治療では基本的に入院は不要です。外科手術で歯肉の切開・骨の切削が伴う治療であるものの、手術箇所のみの局所麻酔で治療が行えるためです。
よって大半の患者さんは日帰り手術(半日入院)となり、患者さんの体調がよければ手術が終わってからすぐか、2〜3時間程度の休憩で帰宅できます。
しかし、場合によっては1泊以上の入院が必要になるケースもあります。主な入院期間は1泊2日〜2泊3日程度と、術後の短期入院が見込まれるでしょう。
とはいえ治療を受ける歯科医院もしくは患者さんの状態により、さらに入院が必要となる可能性もあります。治療に入る前に歯科医院でよく確認してください。
なおインプラント治療の費用相場は1本につき30万円〜60万円(税込)で、基本的に自由診療のため全額自費負担となります。
入院が必要になった場合は、諸費用に加え約33,000円(税込)の入院費が加算されます。費用負担が心配な方は高額療養費制度の利用を検討しましょう。
インプラント治療で入院が必要な手術のケース
インプラント治療で入院が必要になるかどうかは、患者さんの状態に合わせた手術内容に左右されます。そのため、患者さん自身は決定できません。
ここからは入院が必要となる4つのケースを取りあげます。ご自身またはご家族に入院が必要となるか確認するうえで参考にしてみてください。
患部が多量に出血しやすい傾向にある
インプラント治療では歯肉の切開が必要で、出血が生じます。患部の出血が多量になると予想される患者さんは、出血への処置のために入院が必要です。
出血が多量になる要因の1つに肝機能障害があります。肝臓で作られる血液の凝固因子と呼ばれるタンパク質が減少し、出血傾向となるためです。
また、血栓を予防するために抗血栓療法を受けている患者さんは血液がサラサラになっており、出血量が増える危険性があります。
なかには術後出血が起こる患者さんもおり、大事を取って入院を考慮する場合もあるでしょう。出血は感染リスクも高めるため、十分な検討が欠かせません。
重度の全身疾患がある
全身疾患がある患者さんは、インプラント手術の危険度を高めるとともに骨結合を妨げるリスクを有しています。代表的な全身疾患は以下のとおりです。
- 糖尿病
- 骨粗しょう症
- 貧血
- 高血圧症
これらの全身疾患があってもインプラント治療を受けられる可能性が高いものの、重度の場合は入院してより綿密な術後管理を行う必要が生じるでしょう。
ただし、疾患の種類ならびに程度によってはインプラント治療が行えないケースもあります。治療前に主治医・歯科医師へ相談してください。
全身麻酔が適応された
前述したように、インプラント治療の大半は局所麻酔下で行います。しかし、全身疾患または障害があるなどの場合は全身麻酔が適応されます。
これは体位・開口状態が維持できなかったり、患者さんとの意思疎通が取れなかったりして手術中のマネージメントが難しくなる問題があるためです。
そこでスムーズな治療のために全身麻酔で行動抑制を行います。麻酔が切れるまでに時間がかかってしまうため、入院が必要になる場合があります。
なお、インプラント手術での全身麻酔は基本的に自費です。2時間の全身麻酔で66,000円(税込)程度かかるでしょう。
精神的な安静が必要となった
局所麻酔下でのインプラント手術は意識がある状態で受けます。骨を切削するドリルの音・振動、また歯科医師の会話も患者さんに聞こえてしまいます。
さらに手術の痛みへの不安などの要素も加わり、心的ストレスを感じる患者さんは少なくありません。自律神経が乱れ、ショック症状を起こす場合もあります。
麻酔投与前から極度に緊張している方や統合失調症・うつ病などの自律神経に関わる疾患がある方、ならびに痛みに弱い方は術後の精神的な安静が必要です。
このようなケースでは大抵全身麻酔が行われますが、麻酔が切れた後も精神状態が不安定であれば入院し経過観察が必要となるでしょう。
インプラント手術の種類・特徴
インプラント治療とは、簡単にいえば歯肉を切開してインプラント体を埋入し上部構造を装着する手術ですが、選択する手術によって手順が異なります。
手術の種類は、1回法もしくは2回法と呼ばれる2種類から選択されます。それぞれの特徴ならびにメリット・デメリットをチェックしておきましょう。
1回法
1回法は歯肉を1回のみ切開する手術法です。一度の手術でインプラント体の埋入が完了する特徴があります。
メリットは手術が1回で済むため、身体的な負担が軽減できる点です。全体的な治療期間・コストを抑えられ、長期の治療に伴うストレスが生じにくいです。
デメリットは症例によって適用外となるケースがある点です。例えば歯槽骨が薄いか弱い場合、または歯肉が少ない場合には選択できない可能性があります。
さらに、歯槽骨の形態によりインプラント軸方向が左右されてしまうため、人工歯冠の修復処置が咬合額的に困難になりやすい点も注意が必要です。
2回法
2回法は従来の人工歯根治療で主流とされてきたもので、治療中に手術を2回行い各手術で歯肉を切開する手術法です。
一次手術では歯肉を切開し骨に穴を開け、フィクスチャーを挿入して縫合します。そして二次手術で再び歯肉を切開し、異常がなければ人工歯冠を装着します。
メリットはほとんどの症例で選択できる点です。骨造成が必要となる程骨が薄かったり歯肉が少なかったりする場合でも、治療できるでしょう。
デメリットは手術を2回受けるため、身体面でも費用面でも負担が大きくなりやすい点です。侵襲性が高まり、炎症症状に長く悩むかもしれません。
また一次手術〜二次手術までは一定期間空けなければならず、その分治療期間も伸びます。インプラント治療完了までのストレスが生じやすいでしょう。
インプラント治療の流れとそれぞれの治療期間
満足のいくインプラント治療を受けるには、入院のみならず手術を受ける前から受けた後まで十分な期間を設けて段階的に治療を進めるのが大切です。
ここでは治療内容を大きく4つのステップに分け、治療の流れならびにそれぞれの治療にかかる期間を解説します。治療を受ける際の参考にしてみてください。
精密検査・治療計画の検討
インプラント治療を成功に導く鍵は、治療の初期段階で行う精密検査にあります。全身的および局所的なリスクファクターを明確にし、適切に処置するためです。
まず患者さんのX線写真をもとに治療相談を行った後にX線CT検査を行い、顎の神経・血管ならびに歯槽骨の骨量・骨質などを詳しく調べます。
その後に血液検査・尿検査・歯周病細菌検査などを追加で行い、全身状態を確認したうえで治療の適否が判断されるでしょう。
そして、精密検査の結果を受けて患者さん個々の治療計画が検討されます。全体にかかる期間は2日〜2週間程度で、2〜3回の通院が必要です。
事前治療
口腔内の状態に問題がなければ治療計画後にインプラント手術を行いますが、治療の妨げとなる要因がある場合には事前治療が行われます。
特によくある症例に、歯周病を発症している場合が挙げられます。重度で歯槽骨が減少しているなら、骨造成治療または人工骨埋入手術が必要でしょう。
状態が改善されるまではインプラント手術が行えないため、患者さんによって治療期間は大きく変動します。状態が悪い程治療期間は長引きます。
例えば骨造成治療では移植骨の定着に4〜6ヵ月かかる見込みです。費用も200,000〜400,000円(税込)程度余分にかかるでしょう。
手術
インプラント体を埋入する手術の所要時間は約1〜2時間です。この段階の手術は、1回法の手術ならびに2回法の一次手術を指します。
手術部位の歯肉を切開し骨を露出させ、ドリルで穴を開けインプラント体を埋入します。2回法では、埋入後に穴にカバーを付け歯肉を縫合するのが一般的です。
2回法で定着期間を空けてから行われる二次手術は、30分程度の短い手術です。縫合した歯肉を切開してカバーを除去し、仮のアバットメントを連結します。
インプラント定着期間
手術後、インプラント体・骨が結合するための定着期間が必要です。しっかりと骨結合が行われなければ、インプラントの動揺・脱落につながります。
定着期間は下顎の場合は約3ヵ月、上顎の場合は約5ヵ月かかるでしょう。個人差があるため、さらに期間が延長される可能性もあります。
1回法・2回法のどちらの場合も、インプラントの土台が安定し傷口が治ってから人工歯冠をセットする処置が行われます。その間の期間は約1〜6週間です。
インプラント治療の入院期間外でも注意したい術後の過ごし方
インプラントはしっかり定着するまで時間がかかるため、その間のトラブルを防ぐには退院後または入院しない場合でも術後の過ごし方に注意が必要です。
ここからは、入院期間外の生活面で特に気を付けておくべき3つのポイントを解説します。リスク回避のために以下の点に留意しておきましょう。
食事は刺激物を避ける
インプラントが直接関わる食事面では、刺激物を避けるのが大切です。香辛料をふんだんに使用した料理は血流を促進するため、出血する恐れがあります。
また、酸っぱい食べ物あるいは甘い食べ物も傷口への刺激となるでしょう。熱い食べ物ではやけどしてしまい、弱った粘膜が荒れるかもしれません。
加えて、極端に硬い食品はインプラントのみならず天然歯さえも割れる可能性があります。食事はなるべく刺激が少なく消化しやすいものを選んでください。
高タンパク質な豆腐、傷の回復に効果的なビタミン類を積極的に摂るのがおすすめです。食べやすさならびに栄養価を考慮した食事を心がけましょう。
術後すぐの入浴・運動は控える
通常の外科手術では傷口が水分に触れたり擦ったりする恐れから入浴を控えます。一方インプラント手術の場合は、血流の点から入浴が問題となります。
インプラント手術の直後は手術部位が侵襲して身体の免疫機構が働き、炎症反応が起きやすい状態です。腫れ・痛みを感じる方もいるでしょう。
入浴で身体が温まり血流がさらに促進されると炎症反応が過剰に起こり、腫れ・痛みを増強させる可能性があります。刺激物を避けるのも同じ理由です。
また運動は血流を促進させるとともに歯を食いしばって力を入れる機会が多くなり、インプラントおよびその手術部位への負担がかかりやすくなります。
これらの理由から術後すぐの入浴・運動は避け、軽いシャワーのみで安静に過ごしましょう。歯科医師の指示に従い、徐々に元の生活習慣へ戻してください。
飲酒・喫煙はしない
飲酒は血流促進および身体の脱水を引き起こし、痛みを増強します。傷の回復に使われるエネルギーがアルコール分解に使われ、傷の治りが遅くなるでしょう。
さらにアルコールは利尿作用があるため、骨および筋肉を修復するカルシウムの排出を促進します。痛み止め・抗生物質も効きづらくなりやすいです。
また、喫煙はインプラント治療のリスクファクターです。ニコチンが歯肉の血行を悪くし、インプラントの定着を妨げるとともに傷の治りを遅くしてしまいます。
さらにインプラント体そのものの寿命を縮めるほか、歯周病またはインプラント周囲炎を発症・悪化させる点でも喫煙は悪影響をもたらします。
簡単にいえば、飲酒・喫煙はともに免疫力を低下させる要因です。少なくとも手術前後の1週間はやめておき、リスクを軽減させましょう。
インプラント治療で必要な術後の通院期間
インプラント手術を行った後の通院期間に決まりはありません。施術内容ならびに傷口の回復状況が患者さんによって異なるためです。
とはいえ、通常は人工歯冠の装着から1ヵ月後・3ヵ月後の2回の通院が求められます。そのため、術後3ヵ月程度は通院期間とみましょう。
また、インプラントを長持ちさせるには術後の長期的なメンテナンスも重要です。3ヵ月〜半年に1回程度は定期検診を行うよう心がけてください。
定期検診ではインプラント体・周囲の骨の状態を確認し、噛み合わせの異常がないかをチェックします。さらに歯のクリーニングも合わせて行われます。
メンテナンスを怠ると、トラブルへの対応が遅れて除去が必要になるかもしれません。不要な処置を避ける点でも疎かにしないように注意してください。
まとめ
この記事ではインプラント治療の入院期間ならびに入院が必要なケースを中心に、治療開始〜終了までの流れ・期間を解説しました。
大半の患者さんで入院は不要ですが、外科手術による身体的ならびに精神的な負担に対処するために入院が必要になる場合があります。
幅広い患者さんが選択している治療とはいえ、すべての患者さんに適しているわけではありません。自分にとってよりよい治療かを検討するべきです。
そして、入院の有無に関わらず歯科医師とよくコミュニケーションを取り段階的に治療を進めるなら、インプラント治療のメリットを十分に感じられるでしょう。
参考文献
- 歯科麻酔疼痛管理科|東北大学病院
- 歯科治療Q&A|北海道大学病院
- 歯科における保険外併用療養費について
- 保険診療
- 肝臓の働きについて|新潟大学歯科総合病院
- インプラント治療と臨床検査
- 歯科インプラント治療指針
- 歯科診療が全身に与える影響
- 昭和病院歯科における全身麻酔下での集中歯科治療
- インプラント|日本歯科医師会
- 歯槽骨外傷後のデンタルインプラント術後成績
- インプラント歯科|昭和大学歯科病院
- 全身麻酔下日帰りインプラント手術周術期管理の検討
- 育児で知っておきたい栄養のはなし 〜子供の成長に必要な栄養について〜
- 自由診療に関わる治療リスクと副作用について|神奈川歯科大学附属病院
- インプラント周囲炎に関連する全身的リスクファクター
- 手術を受けられる患者様への大切な情報提供です
- インプラント|富山大学附属病院