自由診療のため費用は高額になりますが、審美性や機能性の高さからインプラントを検討する方は少なくありません。
しかし、費用が高額なため、心配や不安をもつ方もいます。そのなかのひとつに、歯ぎしりが挙げられます。
歯ぎしり癖があるとインプラントが失敗すると聞いたことがある方もいるでしょう。
本記事では、インプラントは歯ぎしり癖で失敗するのか、歯ぎしりが及ぼすリスクや対処法と併せて解説します。
歯ぎしり癖がありインプラント治療に悩まれている方は、ぜひ最後までお付き合いいただけますと幸いです。
インプラントは歯ぎしり癖で失敗する?
歯ぎしり癖があると、インプラントに失敗する可能性があります。
歯ぎしりは無意識に歯を強くこすり合わせる癖のことで、上下の歯を横にギリギリとすり合わるグライディングと、カチカチと上下の歯を縦に噛み合わせるタッピング、ギューと噛み締めるクレンチングの3種類があります。
歯はとても硬いため、歯ぎしり癖があると歯は大きくダメージを受け、ひどい場合は歯が欠けたり割れたりすることもあるのです。
人工歯であっても同じで、歯ぎしり癖があると被せ物が破損するリスクがあります。ほかにも、インプラント体と上部構造をつなげているネジが緩んでしまうこともあるでしょう。
歯ぎしりがインプラントに及ぼすリスク
歯ぎしりはインプラントにどのようなリスクを与えるのでしょうか。
- インプラントの脱落
- 被せ物の破損
- アバットメントの緩み
- インプラント周囲炎の発症
主に考えられるリスクはこれらの4つです。それぞれのリスクを詳しく見ていきましょう。
インプラントの脱落
歯ぎしり癖があると、インプラントが脱落するリスクがあります。歯ぎしりによってインプラントが揺らされるため、インプラント体と顎の骨の結合が緩んでしまうことがあるためです。
インプラントは歯根の代わりにインプラント体を埋め込みます。インプラント体と顎の骨が結合することで、天然の歯とほぼ同じ機能を得ることができます。
結合が緩んでしまうとインプラントを支えられなくなるため、脱落してしまうのです。はじめはグラグラする程度ですが、そのまま放置すると脱落につながります。
早めに歯科医院に相談しましょう。
被せ物の破損
歯ぎしりによって、被せ物が破損することもあるでしょう。インプラントの被せ物によく使われているのはセラミックです。
セラミックは審美性に優れる素材で、耐久性も高いです。しかし、衝撃には弱いという性質があります。
そのため、歯ぎしりのように強い力が加わると被せ物がすり減ったり割れたりなど、破損するリスクがあるのです。
インプラント治療を受けたばかりなのに被せ物が欠けた、噛み合わせが合わない気がするなど、何かしらのトラブルがある場合は歯ぎしりが原因かもしれません。
アバットメントの緩み
アバットメントが緩んでしまうリスクもあります。アバットメントは、インプラント体と被せ物をつなぐパーツです。ネジのように締めることで、インプラント体と被せ物を固定しています。
歯ぎしりがあるとインプラントが揺らされるため、アバットメントが緩んでしまうこともあります。
アバットメントが緩むと被せ物がグラグラし、場合によっては脱落してしまうでしょう。
インプラント周囲炎の発症
歯ぎしりが及ぼすリスクはインプラントの破損や脱落だけではありません。インプラント周囲炎を増悪させることもあります。
インプラントは人工物のため、むし歯になることはありません。しかし、インプラント周囲炎という炎症を起こす可能性はあります。
インプラント周囲炎は歯周病と似た症状が出る病気で、インプラントの脱落につながります。症状が重くなると顎の骨を破壊するためです。
インプラント周囲炎は自覚症状が少なく、症状を自覚したときには重症化している場合もあるでしょう。
歯ぎしりがインプラント周囲炎の直接的な原因に必ずしもなるというわけではありません。
しかし、歯ぎしりはインプラントや顎の骨に強い負荷をかけるため、その負荷によってをインプラント周囲炎をより悪化させるリスクとなることがあります。
インプラントの破損や脱落なら再治療が可能ですが、インプラント周囲炎になってインプラントが脱落すると再治療が難しい場合もあるでしょう。
そのため、インプラント周囲炎は特に注意が必要です。
歯ぎしりが引き起こすトラブル
歯ぎしりがインプラントに及ぼすリスクを見ていきましたが、歯ぎしりによってどのようなトラブルが起こるのでしょうか。歯ぎしりによって起こるトラブルとして、主に次の4つが挙げられます。
- 顎関節症
- 知覚過敏
- 歯・歯根の破損
- 頭痛・肩こり・腰痛
それぞれの症状について解説します。
顎関節症
お口を大きく開けづらい、顎を動かすと音が鳴るなどの症状がある場合、それは顎関節症かもしれません。顎関節症の原因はさまざまですが、歯ぎしりも原因の1つです。
リスクの部分でもお伝えしたように、歯ぎしりは顎の骨に負担をかけます。そのため、顎関節症の発症のリスクがあるのです。
顎関節症は自然と改善することもあります。しかし、放置すると症状が悪化する場合もあるので、気になる症状がある方は歯科医院で相談しましょう。
知覚過敏
歯ぎしりと知覚過敏が結びつかない方もいるでしょう。知覚過敏が起こる原因は象牙質です。知覚過敏は象牙質が露出することで発生するために、歯ぎしりが原因となる場合があると言われています。
象牙質は本来、エナメル質という部分に覆われています。しかし歯ぎしりによって歯が削れると、その象牙質が露出するようになります。
象牙質は痛みを神経に伝えやすい性質があるため、少しの刺激であっても痛みを感じたり、しみたりする知覚過敏が起こることがあるのです。
歯ぎしりをそのままにしておくと、知覚過敏の症状が悪化することがあります。
歯・歯根の破損
歯ぎしりがあるとインプラントの破損につながると解説しましたが、自然の歯であっても同じです。歯や歯根の破損につながるリスクがあります。
歯根にひびが入ると、健康な歯であっても抜歯が必要となることもあるでしょう。
特に神経を抜いた歯(失活歯)では、神経を抜いていない歯と比べると割れやすいことがあるため、歯ぎしりによって歯が折れてしまうこともあります。
頭痛・肩こり・腰痛
歯ぎしりによって頭痛・肩こり・腰痛を引き起こす場合もあるでしょう。食べ物を噛むとき、下顎とつながっている顔の筋肉が働いています。
この筋肉は首・肩・腰・背中などのほかの部位にもつながっています。そのため、歯ぎしりによる過剰な力が加わるとほかの部位にも影響が出るのです。
頭痛・肩こり・腰痛が悪化すると慢性化してしまうリスクもあります。頭痛や首・肩・背中などが張っているなと感じた場合、それは歯ぎしりが原因かもしれません。
歯ぎしりが起こすトラブルを4つ紹介しましたがこのほかにも、歯並びが悪くなるというトラブルもあります。歯が揺れることにより歯並びが変化してしまうのです。
噛む機能が低下したりむし歯や歯周病のリスクが上がったりするため、歯並びにも注意が必要です。歯ぎしりは無意識に行っていることが多いため、歯ぎしりをしている自覚がなくても気になる症状やトラブルがある場合は早めに歯科医院で受診することをおすすめします。
インプラントが歯ぎしりの影響を受けやすい理由
インプラントには歯根膜がありません。そのため、歯ぎしりの影響を受けやすいのです。
歯根と歯を支える顎の骨の間には薄い膜があり、これを歯根膜と呼びます。歯根膜の役割は、顎の骨にかかる力をやわらげることです。歯根膜があることで噛んだときに歯が上下左右に動き、力を分散させることができます。
歯根膜は歯根にくっついているため、歯を抜くと歯根膜もなくなります。なので、インプラントには歯根膜がないのです。
歯や歯根の代わりはできますが、歯根膜の代わりとなるものはありません。そのため、インプラントでは噛む力が直接、顎の骨に伝わります。自然の歯よりも大きなダメージが加わりやすいので、インプラントは歯ぎしりの影響を受けやすいのです。
歯ぎしりのチェック方法
歯ぎしりをしていると自覚のある方は少ないでしょう。就寝時や無意識のときにやっていることが少なくないため、なかなか気付きにくいでしょう。
そのような歯ぎしりですが、セルフチェックする方法があります。
歯ぎしりをしているとカチカチ、ギリギリなど音がするため、家族や周りの方は気付く可能性があります。家族や周りの方から、「歯ぎしりをしているよ」と指摘された場合、注意が必要です。
被せ物や歯が欠損している、歯にひびが入っている、詰め物が外れたなどの症状も歯ぎしりの影響が考えられます。
- 朝起きたときにお口周りや顎にだるさや疲れた感じなどの違和感がある
- 噛むと痛い
- 頬の内側や舌に噛んだ痕跡がある
- 勉強や仕事など何かに集中すると無意識に歯を噛みしめている
これらの症状がある場合も歯ぎしりをしている可能性があります。1つでも当てはまる症状がある場合は、歯科医院で相談してください。
歯ぎしり癖があってもインプラント治療を受けるための対処法
歯ぎしり癖があってもインプラント治療を受けるためには、どうしたらいいのでしょうか。最後に、歯ぎしり癖があってもインプラント治療を受けるための対処法を紹介します。
ナイトガードを使用する
1つめは、ナイトガードを使用する方法です。ナイトガードはマウスピースの1種で、就寝時に使います。歯ぎしりによるダメージを軽減させ、歯や歯茎を守ります。
ただし、いくつか注意が必要です。歯に装着するので慣れるまでは違和感を覚えることがあり、お口の中が乾燥する場合もあるでしょう。
また、ナイトガードは永久に使えるものではなく、汚れたり経年劣化したりします。定期的なメンテナンスが欠かせず、古くなってしまった場合には新たに作り直すことになります。
生活習慣を改善する
歯ぎしりの原因が生活習慣にある場合は、生活習慣を見直してみましょう。歯ぎしりを誘発するような姿勢をとっている方や、飲酒や喫煙の習慣がある方はそれらの習慣が原因で歯ぎしりが起こっている場合があります。
飲酒や喫煙により睡眠が浅い方は特に注意しましょう。
ストレスを解消したり適度な運動をしたりするとリラックスできるので、歯ぎしりを抑えられることがあります。
現在の医学では、歯ぎしりの原因と生活習慣が必ずしも関連しているとはいえません。しかし、過度な飲酒や喫煙を避け、質の高い睡眠を取ることは、健康を保つための基本的な事柄であることには変わりません。
歯科医師と相談する
歯ぎしりの原因はさまざまなので、歯科医師と相談することも大事です。インプラント治療を受ける前に、担当の歯科医師に歯ぎしり癖があることを伝えましょう。
歯ぎしりに対してどのようにしたらいいのか、インプラント治療はどうすればいいのかなど、適切なアドバイスを受けられます。
まとめ
本記事では、歯ぎしりがあってもインプラント治療を受けられるのかを解説してきました。
歯ぎしりがあってもインプラント治療は受けられます。しかし、さまざまなトラブルが起こるリスクがあります。
歯ぎしり癖がある場合は、歯ぎしりの対策をとってからインプラント治療を受けるようにしましょう。
インプラントは治療が終わったら終わりではありません。長く使うためには適切なメンテナンスが欠かせません。
定期的な通院も大事です。インプラント治療後に歯ぎしりをするようになった場合も、定期的な通院をしていればすぐに気付くことができ、適切な対処をしてもらえるでしょう。
本記事が皆様の参考になると幸いです。
参考文献