奥歯は食べ物を噛むときに重要な役割を果たす歯です。
また力を入れるときに食いしばる役割も持ち、その力に耐えるだけの大きさもあります。では、奥歯がなくなった場合にはどのような影響があるのでしょうか。
この記事では奥歯がなくなった際の問題や治療方法と併せて、それぞれの特徴を解説します。
また費用相場についても説明しますので、どの治療法がご自身に合うかを検討する際の参考になれば幸いです。
奥歯がないまま放置した場合の問題
奥歯がないまま放置した場合にはいろいろな問題が起こります。噛む力が弱くなり力が入り辛くなったり、歯並びが悪くなったりとその影響はさまざまです。
歯並びが悪くなるとほかの歯にも悪影響があるだけでなく、お顔全体のバランスも悪くなります。ここでは奥歯がないとどのようなデメリットがあるかを解説します。
噛む力が弱くなる
一般的に奥歯と呼ばれる歯は、一番後ろの歯から三番目までの第一から第三臼歯です。この三本の歯は接触面積が大きく、噛む力が強いとされています。
特に第一臼歯がしっかりと噛み合うと咀嚼力は大きく向上します。
健康な20歳成人男性を対象に調査したデータによると、噛みしめた際に第一臼歯にかかる力は平均66.9kgでした。これは前歯の15.66kg、犬歯の27.74kgと比べてとても強い力です。
そのため奥歯がないまま放置した場合、物を噛む力は弱くなってしまいます。
物を強く噛めないと顎の骨が弱くなったり、お顔の筋肉が衰えてたるみにつながったりとよいことはありません。
また固い物が噛めなくなると大きな固形物が胃に送られることになり、消化不良にもつながります。
なお、上記の数値は歯を食いしばった際のもので、咀嚼の際に使う力は半分から四分の一程度とされています。
歯並びに悪影響を与える
歯が抜けると歯と歯の間に隙間ができます。歯には隙間があるとそちらに移動してしまう特徴があり、放置すると歯並びに悪影響を与えてしまいます。
歯並びが悪くなると以下のような影響があるため、注意が必要です。
- 噛み合わせが悪くなる
- 見た目が悪くなる
- 食べ物が詰まる
- 顎の関節症状や、筋肉に痛みが出る
- 肩こり、不定愁訴などの原因になる場合がある
- 治療が難しくなる
元々正しい位置にあった歯が隙間に移動するため、上下の歯の位置がずれ噛み合わせが悪くなります。
また歯が斜めになりガタガタした見た目になるので見栄えもよくありません。隙間ができることで歯の間に食べ物が詰まりやすくなり、むし歯や歯周病の原因にもなります。
このほかにも左右バランスよく負担がかかっていた顎の関節や筋肉にもズレが生じるため、関節症状や筋肉に痛みが出る可能性があります。
放置すると使用する筋肉のバランスの悪さから、お顔全体のバランスも悪くなる点に注意が必要です。
さらに、治療の際にずれた歯を元の位置に戻す必要があるため、歯列矯正が必要になり治療が難しく時間もより必要になってしまいます。
奥歯がない場合の治療法は?
奥歯がない場合の治療法は3つにわかれます。入れ歯とブリッジ、インプラントです。
それぞれによい点も悪い点もあるので、どの方法が有効かは患者さんによって変わります。ここではそれぞれの治療法にどのような特徴があるのかを解説します。
入れ歯
入れ歯とはむし歯や歯槽膿漏などによって失われた歯や歯肉の形態と機能を回復するための取り外しできる装置です。部分入れ歯と総入れ歯があり、一部の歯を失ったケースでは部分入れ歯を用います。
部分入れ歯は会話や食事の際に外れてしまわないように、残っている歯にかけるバネと人工の歯、粘膜の上に乗るピンク色の義歯床からできています。
取り外しが可能なため、お手入れがしやすく壊れた際の修理が容易なのも特徴です。また保険治療の効く安価なものから審美性が高く異物感の少ない高価なものまで種類が豊富です。
ブリッジ
ブリッジは1本から数本の並んだ歯を失った際に有効な治療法です。
失った歯の両隣の歯を削って土台にし、橋をかけるように真ん中の歯を支えて機能を回復します。なくなった部分には人工の歯が入るため、自分の歯に近い感覚を取り戻すことが可能です。
また固定式のため異物感が少なく、噛む力も均等に分散されます。そのため固い物でも噛みやすい点が特徴です。
ただし、前後最低2本の天然歯がないと作れません。つないだ間は噛む力が骨に伝わりませんから下の骨が徐々に下がってブリッジの間に隙間が出る可能性があります。
インプラント
インプラントはインプラント体と呼ばれる土台を顎に埋め込み、その上に人工歯を装着する治療法です。
人工歯をインプラント体をつなげるアバットメントを含めて三つのパーツから構成されており、インプラント体には金属アレルギーの少ないチタンやチタン合金が主に使用されています。
噛んだときの負荷が顎に直接加わるため、元の歯と変わらない使い心地を再現できる点が特徴です。
また審美性にも優れ、見ただけでは元の歯との違いもほとんどわかりません。入れ歯やブリッジと違い、歯茎を切ったり骨を削ったりする外科手術が必要な点も特徴です。
奥歯がない場合の治療方法の費用相場
奥歯の治療の費用は、どの治療を選択するかで相場が大きく変わります。入れ歯やブリッジは保険治療のものと保険適用外のものがあり、どちらを選ぶかで費用が大きく変わります。
またインプラントは保険適用外のため、基本的に高額です。
保険適用の効く入れ歯の場合、5,000~10,000円程度になります。一方で保険適用外の入れ歯になると88,000~220,000円(税込)程度の費用が必要です。
ブリッジも保険適用の場合は13,000~15,000円と安価です。ただし奥歯に対するブリッジの保険適用は条件が厳しく、力を分散するために削る歯を増やす場合もあります。
保険適用外の場合は使用する詰め物によって費用はさまざまです。素材にジルコニアを使用したものやオールセラミックになるとそれぞれ高額になります。
インプラントの場合、すべてのケースで保険適用外となり、インプラントと人工歯とで1本あたり440,000円(税込)程度です。(使用するインプラントや人工歯の種類により変動)
入れ歯のメリットとデメリット
入れ歯治療は3つの治療法の中でも費用面や手軽さがメリットです。
一方で使い勝手の悪さを感じるケースもあり、顎の骨にも悪い影響を与えやすい特徴があります。
ここでは入れ歯治療を選択した際にどのようなメリットやデメリットがあるかを解説します。
メリット:保険治療で費用を抑えられる
バネ以外がプラスチック素材で作られている入れ歯をレジン床義歯といいます。レジン床義歯は保険治療が可能なため、費用負担が抑えられる点が特徴です。
ただし保険適用内の入れ歯は一度作成すると6ヶ月以内に再作成することができない点に注意が必要です。
これは医療費の適正化のために定められた厳格なルールのため、紛失してしまったなどの場合にも再作成はできません。
ただし噛みにくい、外れやすいなどの再調整は問題ありません。
メリット:大きな手術が不要
入れ歯は抜けた歯の隙間にはめ込むだけのものなので、外科手術を必要としません。数回の検査を行い、お口の形に合わせた入れ歯を作成するだけになります。
一方でブリッジの場合は両隣の歯を削る手術が必要になり、インプラントの場合は顎の骨にインプラント体を埋め込む外科手術が必要になります。
そのため入れ歯の場合は、手術によるリスクが不要である点が特徴です。
デメリット:会話や食事がしにくい可能性
入れ歯はその形状や厚みが原因で、異物感を覚えることも少なくありません。
特に保険適用のレジン床義歯は厚みがあるため、慣れるのに時間がかかります。それが原因で会話や食事の際に外れてしまうケースもあります。
ある程度の期間装着していれば異物感は薄れてきますが、あまりにも続くようなら入れ歯の再調整が必要です。
また食事の際に歯茎と床部分の間に食べ物が入り込み痛みを感じるケースもあります。
そのため固い物が食べ辛くなることも少なくありません。このほかにも噛んだ感触が歯茎に伝わりにくく、顎の骨の吸収が始まり歯茎が痩せるなどのデメリットもあります。
ブリッジのメリットとデメリット
ブリッジ治療は入れ歯と比べた際に使用感がよいケースが多く、メンテナンスも天然歯と同様に行うことが可能です。
しかしブリッジを装着するために歯を削る必要があり、一部の健康な天然歯を犠牲にしなければいけない治療法です。
ここではブリッジ治療のメリットとデメリットを詳しく解説します。
メリット:固定式のため取り外す必要がない
ブリッジは削った歯を土台にして歯に被せて固定します。
そのため取り外す必要がなく、入れ歯のように自然に外れてしまうこともありません。取り外す必要がないため、普段の歯磨きの際に歯ブラシやフロスなどで天然歯と一緒にお手入れができるのがメリットです。
人工の歯と歯茎の間に汚れが溜まる場合もありますが、ブリッジ用のフロスや歯間ブラシなどの補助用具もあるのでケアは十分可能です。
メリット:入れ歯より違和感が小さい
ブリッジは入れ歯のような床を使用しないため、違和感をあまり感じません。食べ物を食べる際にも熱さや寒さが伝わるので、食事の際の違和感も少なくなります。
また自分の歯の根を使うので自分の歯を使う感覚に近く、入れ歯と比べて噛む力も伝わりやすくなります。
そのため固い物を食べても問題は少なく、歯茎に刺激も伝わるので歯茎が痩せるようなデメリットも少なく抑えることが可能です。
デメリット:健康な歯を削る必要がある
入れ歯とブリッジを比べた場合にブリッジのほうが使い勝手がよい感じがしますが、ブリッジにもデメリットはあります。
ブリッジの大きなデメリットは健康な天然歯を削る必要がある点です。
歯の代用品として入れ歯やブリッジ、インプラントとさまざまな種類があるものの、理想的なのは天然歯がそのまま残ることです。
一度失った天然歯は二度ともとに戻りません。しかしブリッジの場合、その天然歯を少なくとも2本削る必要があります。
また歯を削ることによって、適切なメンテナンスを行わなければ削った歯も悪くなる可能性があります。ブリッジ治療を行う際には、その周辺の歯の健康維持に今まで以上に注意しましょう。
インプラントのメリットとデメリット
インプラント治療は入れ歯治療やブリッジ治療と比べて、天然歯に近い機能や審美性が回復できる点が特徴です。
1965年に現在のインプラント治療に近い症例が発表され、第3の治療法として注目されるようになりました。
審美性や機能性に優れる一方で、治療に必要な骨量の確保や費用面などまだまだ課題は残っています。ここではインプラント治療のメリットとデメリットを解説します。
メリット:噛んだときに違和感を持ちにくい
インプラントは土台となるインプラント体を顎に埋め込むため、天然歯を使用するときとほとんど変わらない使用感があります。
また入れ歯のようにお口の中にバネが入ることもないので、異物感をほとんど覚えません。そのため話すときの発音もしやすく、違和感を持ちにくいのが特徴です。
メリット:顎の骨が痩せるのを防ぐ効果がある
歯が抜けた状態を放置すると、その部分の顎の骨に刺激が与えられず骨が吸収されてしまう現象が起きます。骨が吸収されてしまうと歯茎を支えている歯槽骨もなくなり、歯周病の原因にもなります。
これは入れ歯のように歯茎に刺激が伝わらない場合も同様です。インプラントの場合、土台となるインプラント体を顎に埋め込むため物を噛んだ際に顎に十分な刺激が伝わります。
そのため顎の骨が痩せるのを防ぐ効果があります。逆に、インプラント体を埋め込むだけの十分な骨量がないとインプラント治療が行えない点にも注意が必要です。
その場合にはインプラント治療を行う前に骨造成手術を行い十分な骨量を確保する必要があります。
デメリット:健康保険の適用外なので費用がかかる
失った歯の代用品としてとても効果の高いインプラントですが、そのデメリットは高額な費用です。
インプラントは審美性の確保や高価な材料を使う点から健康保険の適用外となっています。
まずインプラントには1本あたり440,000円(税込)程度の費用がかかります。あくまで1本あたりなので、埋め込むインプラントが増えればそれに比例して費用が増えるのも当然です。
またインプラント体を埋め込む際に顎の骨が足りない場合、骨造成手術が必要です。この場合別途50,000~250,000円(税込)が必要になります。
入れ歯やブリッジも審美性の高いものは保険の適用外となりますが、入れ歯やブリッジは1つで複数の歯のカバーが可能です。
それに対しインプラントは1本ごとに費用がかさむので、本数が増えたときの費用は入れ歯やブリッジの比ではありません。
ただし、保険適用外の治療は医療費控除の対象になります。治療を行った年の1月1日から12月31日までに支払った医療費から100,000円を引いた額を、所得から控除することが可能です。これはローンで支払った場合でも適用されるので、積極的に活用しましょう。
まとめ
ここまで奥歯がなくなった際の影響や治療法について解説しました。
奥歯に限らず、失った歯をそのままにしておくことは残っている歯に悪影響を及ぼすだけでなく、健康にも悪い影響を与えます。
どの治療法を選択するにしても、すみやかに歯科医師に相談をして適切な方法を取ることが重要です。
ほかの歯の健康寿命を損なわないためにも、日々のメンテナンスに気を付けるとともに相談できる歯科医師を見つけておきましょう。
参考文献
- 第2章 歯・口の健康づくりの理論と基礎知識
- スポーツと歯科|日本歯科医師会
- なぜ歯が抜けたら治療しなければいけないのでしょうか?そのままではだめなのでしょうか?|岩手医科大学歯学部 歯科補綴学講座 有床義歯補綴学分野
- 入れ歯|日本歯科医師会
- インプラント治療を受ける前に知っておきたい基礎知識
- インプラント|日本歯科医師会
- 有床義歯の取扱いについて|厚生労働省
- 入れ歯とブリッジどちらがよいのでしょうか?|岩手医科大学歯学部 歯科補綴学講座 有床義歯補綴学分野
- 審美領域インプラントの埋入時期の考察
- No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
- No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例|国税庁