何らかの理由で前歯を失った場合は、インプラントを検討する人が多いです。なぜなら、前歯は高い審美性が求められる部位であり、インプラントは天然の歯に近い自然な見た目に近づけることができるからです。
とはいえインプラントは従来法と比較すると費用が高く、経済的な負担が大きいことから、なかなか一歩踏み出せないのが現実です。ここでは、そんなインプラントを前歯に入れる場合の費用や使えるローンなどについて詳しく解説します。
インプラントを前歯に入れる際の費用はどれくらい?
まずは、インプラントを前歯に入れる場合の費用相場について説明します。
インプラントを前歯に入れる際の治療費
インプラント治療では、検査・診断、外科手術、上部構造の製作で費用が発生します。インプラントを前歯に入れる場合は、人工歯根(インプラント体)と手術の費用で20万~30万円、上部構造とアバットメントの費用で10万~20万円という相場感です。
つまり、インプラント1本あたりの費用は30万~50万円ほどになります。上部構造に関しては、使用する素材によっても費用が変わります。。 前歯の顎の骨は痩せやすく、手術をする段階でインプラント治療には適さない場合があります。
そうしたケースでは、前歯の骨を厚くする骨造成や歯肉移植術などが施されることがあります。また、上部構造にジルコニアボンドなどのより審美的な材料が使用されることもあり、それらの場合には奥歯のインプラント治療に比べて5万~10万円ほど費用が高くなることがありますが、不要な場合も多いです。
インプラントを奥歯に入れる際の治療費
奥歯のインプラント治療も費用は前歯と同じです。インプラント1本あたりに、人工歯根(インプラント体)と手術で20万~30万円、上部構造とアバットメントで10万~20万円がかかります。
インプラントをすべての歯に入れる際の治療費
インプラントはすべての歯を失ったケースにも適応することができます。しかし、永久歯は親知らずを除くと全部で28本あるため、それらをすべてインプラントで補うとなると高額な費用がかかってしまいます。また、患者さんの身体的な負担も大きくなるでしょう。
そこで考案されたのが「All-on-4(オールオンフォー)」と呼ばれるインプラント治療です。オールオンフォーとは、4本のインプラントを顎の骨に埋め込んで、総入れ歯のような形をした上部構造を支える治療法です。インプラントを埋め込むのは4本だけなので、患者さんの経済的・身体的・精神的負担を抑えられます。 すべての歯を失ったケースにオールオンフォーを適応すると、検査・診断料で2万~5万円程度、外科手術で120万~180万円程度、上部構造の製作には100万~180万円程度かかり、オールオンフォーの総額としては220万~300万円程度が相場となっています。
インプラントを前歯に入れる以外の治療法
前歯を失った場合の治療法としては、インプラント以外に入れ歯とブリッジという選択肢が挙げられます。それぞれのメリットとデメリットについて説明します。
入れ歯
入れ歯を前歯に適応する場合は、部分入れ歯を作ることになります。部分入れ歯は、人工歯と歯茎を覆う義歯床(ぎししょう)、残った歯にひっかける金属製のクラスプから構成されています。自由に取り外せる装置で、治療には保険が適用されます。
【入れ歯のメリット】
・保険が適用される
入れ歯には保険が適用されるため、前歯の治療にかかる費用を安く抑えられます。
・歯を削るなどの処置が不要
入れ歯治療では、残った歯を大きく削ったり、顎の骨に人工歯根を埋め込んだりする処置が不要です。心身への負担が少ない点も、入れ歯の大きなメリットのひとつといえます。
・故障した時の修理がしやすい
入れ歯は、人工歯が外れたり、義歯床が割れたりするなどのトラブルが起こりやすいです。その反面、故障した際の修理がしやすいというメリットがあります。
【入れ歯のデメリット】
・見た目が良くない
部分入れ歯は、床・人工歯・クラスプ・レスト・連結子などの部品で構成されています。その内のクラスプという、支台歯に引っ掛けることで義歯を安定させるための部品は金属でできており、前歯に部分入れ歯を装着するとそれが目立ってしまい、口元の見た目を損なうことがあります。
・ズレる・外れる
部分入れ歯は、残った歯にクラスプを引っ掛けることでお口の中に固定できます。その他の装置よりも安定性が低く、食事や会話の際に入れ歯がズレたり、外れたりすることは珍しくありません。そのため硬い食べ物や弾力性のある食べ物を避けるようになったり、人と会話するのが苦痛になったりするケースも珍しくないのです。
・顎の骨が痩せやすい
部分入れ歯には人工歯根がないので、顎の骨に噛んだ時の力は加わりません。歯を失った部分の骨は刺激を受けないため、インプラントを行った場合と比べて顎の骨が瘦せやすいです。
・壊れやすい
保険診療の入れ歯は、人工歯も義歯床もプラスチックで作られています。設計上も耐久性が低く、壊れやすいというデメリットを伴います。 ・違和感・異物感が大きい 部分入れ歯は、複雑な形をしているだけでなく、着けたり外したりする装置なので、装着時の違和感・異物感は、その他の治療法より大きいです。
ブリッジ
ブリッジは、歯を1~2本失ったケースに適応される治療法です。欠損部の両隣の歯を大きく削って支えとします。橋(ブリッジ)における橋台の部分に両隣の歯があたるわけです。ブリッジは基本的にクラウンとボンティックという部品で構成されており、固定式の装置で、保険が適用されます。
【ブリッジのメリット】
・保険が適用される
入れ歯と同じように保険が適用されます。前歯の治療費を安く抑えたい方にはおすすめです。
・入れ歯よりも見た目が自然
ブリッジは、基本的に人工歯のみで構成されているため、入れ歯よりも見た目が自然です。高い審美性が求められる前歯の治療法として適していますが、人工歯根から回復できるインプラントには及びません。
・入れ歯よりもしっかり噛める
固定式の装置であるブリッジは、着脱式の入れ歯よりもしっかり噛むことができます。食事や会話の際に装置が外れることもありません。
【ブリッジのデメリット】
・残った歯が犠牲になる
ブリッジの最大のデメリットは、健康な歯を大きく削らなければならない点です。前歯1本をブリッジで治療する場合は、最低でもその両サイドに位置する前歯2本を犠牲にすることになります。歯を一度削ると元には戻せないため、支えとなる2本の歯の寿命は縮まります。
・故障した時の修理が難しい
ブリッジは固定式の装置であり、故障した時の修理は入れ歯ほど容易ではありません。ブリッジが欠けたり、折れたりした場合は、再び作り直さなければならなくなることが多いです。
インプラントのメリットは大きい
このように、入れ歯やブリッジには「保険が適用される」「外科手術が不要」といったメリットがありますが、見た目や耐久性、噛み心地などはインプラントに劣ります。装置の生存率もインプラントは長いため、インプラントのメリットは大きいといえるでしょう。
インプラントを前歯に入れる費用はなぜ高額になるの?
ここからは、インプラントを前歯に入れる場合の費用が入れ歯・ブリッジよりも高くなる理由についての解説です。
治療設備が高額だから
前歯のインプラント治療を行うためには、歯科用CTや衛生管理が徹底された診療室など、相応の治療設備が必須となります。そうした設備への投資は極めて高額なコストがかかることから、前歯のインプラント治療費も高くなるのです。
インプラントそのものが高額だから
インプラント治療で顎の骨に埋め込む人工歯根は、純チタンもしくはチタン合金で作られています。特別なコーティングなどを付与された人工歯根も多く、原材料および製作費も自ずと高額になります。それもまた前歯のインプラント治療が高くなる理由のひとつといえるでしょう。
さまざまな検査が必要となるから
前歯のインプラント治療を実施する上では、さまざまな検査が必要となります。その中でも歯科用CTによる精密検査や専用のソフトを使ったデジタルシミュレーションには、高い費用がかかります。
インプラントを前歯に入れる治療で費用を抑える方法はある?
さて、前歯のインプラント治療には比較的高い費用がかかる理由についてはご理解いただけたかと思います。インプラントには特別な理由がない限り保険が適用されないため、前歯1本あたりで30万~50万円程度の出費は避けられません。自費診療なので、医院ごとに価格差がある点もポイントです。 そんな前歯のインプラント治療でも費用を抑える方法はいくつか存在しています。とくにデンタルローンを利用したり、医療費控除を受けたりすることは、ほぼすべての方が可能となっているため、正しい知識を学んでおいた方が良いでしょう。
デンタルローン
デンタルローンは、歯科治療の費用をサポートするための特別なローンです。このローンは、インプラントや矯正などの高額な治療を受ける際に非常に役立ちます。デンタルローンの導入によって、多くの人々が必要な治療を受けることができ、健康な笑顔を手に入れることが可能となります。
デンタルローンの特徴は、金利が低いことや審査が迅速であることなどが挙げられます。多くの金融機関ではオンラインでの申し込みも可能で、利便性が高いため、急な治療にも対応できるようになっています。患者のニーズに合わせて返済プランを選ぶことができるため、経済的な負担も少なくなります。
医療費控除
医療費控除は、個人が支払った医療費の一部を税金から差し引くための制度です。この控除の利用によって、健康のための支出を軽減し、家計の負担を減らすことが可能となります。前歯のインプラント治療も医療費控除の対象となりますので、皆さんも積極的に利用していきましょう。
ただし、医療費控除を利用するには、一定の要件を満たす必要があります。まず、一定の医療費を超えた額が控除対象となり、その上限額も定められています。控除対象となる医療費としては、検査・診断、外科手術、上部構造の製作にかかった費用です。
治療期間中に使用した薬剤の費用や通院のための交通費も医療費控除の際に申請できます。 医療費控除の申請方法は、確定申告時に必要な書類とともに提出します。医療費の領収書や診断書など、支払いの証拠となる書類を整理しておくことが重要です。最近では、オンラインでの申請も可能になっており、手続きがより簡単になっています。
保険適用になる条件は厳しい
上述したように、前歯のインプラント治療でも例外的に保険が適用される場合があります。けれどもその条件は極めて厳しいことから、自費診療を前提として検討を進めた方が賢明です。
ちなみに、前歯のインプラント治療に保険が適用されるのは「生まれつき顎の骨が3分の1以上欠損している」場合や「病気や第三者行為の事故で顎骨の大部分を失った」場合などです。そうした症状に当てはまった上でさらに、条件が整った施設で治療を受ける必要があります。ですから、一般的な前歯のインプラント治療を検討中の場合は、保険診療という選択肢を始めから除外しても良いといえます。
まとめ
このように、失った前歯の治療法としては、インプラント・入れ歯・ブリッジの3つが挙げられます。その中でも前歯のインプラント治療は、1本あたり30万円~50万円円の費用がかかるため、経済的負担が大きい治療法といえるでしょう。その反面、装置の寿命が長い、見た目が自然で美しい、顎の骨が痩せにくい、硬いものでもしっかり噛める、装置がずれることがないなどのメリットが得られます。
前歯の欠損部分は人目に触れやすいため、できるだけ審美性にもこだわった治療を受けたいと考える方も多いでしょう。自分に合った治療方法を検討するために、本記事の、インプラントにかかる費用相場やメリット・デメリット、ブリッジや入れ歯との比較などの内容がお役に立ったら幸いです。
参考文献